歳上同居人のさよなら

たみやえる

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新堂洸夜の誕生会

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 真っ黒な瞳に悲しみの色が広がるのが見えた気がした。胸に後悔の太い棘がグサッと刺さったような錯覚を覚える。ほんとうなら冬木の頭を掻き抱いて今すぐにでも「ごめん、キツイ言い方した」と謝って仲直りしたい。

 でも謝るくらいなら言ったりしないのだ。

 オレの方こそ傷ついている。この二ヶ月近く……。(そう、オレはすごく我慢してたんだ)



「なぁ……一緒に暮らすと決めた時、話し合ったはずだろ?」


「家で食べるメニューはカレー、ベッドを探すのが面倒だから布団にする、寝巻きも簡単に羽織るだけで済む浴衣にしようってことでしょ。ちゃんと覚えてます」


「……そうだよ。お互いの負担を減らすためって決めたじゃん」



「でも、心配なんです。やっぱりちゃんと食べないと。仕事だって忙しいみたいだし、栄養不足で倒れたりしたら」


「ないない。今まで大丈夫だったんだから絶対にない」


「でも……」


 思うところに着地しない会話にイライラが増す。

 なんでだよ。どうしてこんなことで言い合ってるんだオレ達。



 いい加減この話題を終わらせたいオレが、


「でもでもって、しつこいな」


と、不機嫌な声色を隠さず言い放つと、


「これからは分からないだろ」


と、冬木の目が細められた。



 (言い過ぎたか)と思うのと同時にガタリと音を立てて椅子から立った冬木がテーブルを回ってオレの椅子の横に来た。



「……洸夜、話が」



 オレのつむじを突き刺すように発せられた冬木の声にゾッとした。


ーー何その声。
 なんでそんな声、今ここで言わなきゃみたいな感じの声出すんだよ、お前。



「そっ、そういえば、オレ宛に手紙が来ていたんだよな」


 咄嗟にオレは話題を変えた。冬木と顔を合わせないようにその横をすりぬけて、ソファに置きっぱなしにしていた封筒を取り上げる。


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