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ずっと昔、子供の頃は信じていたかもしれない。今はもう、すっかり分かってる。神様は平等じゃない。
私からすると、人間は二通りに分けられる。運の良い人間と、運の悪い人間。私? 私は、もちろん運の悪い方。
え? もっと辛い境遇の人だっているんだから考えすぎって? うん、そうだね。私、不幸じゃない。両親は健在だし、大学卒業して就職もできた。決して不幸じゃない。
でも、運は悪い。
半年前、歩道を歩いていただけの私にバイクが突っ込んできた。車もバイクもひどい有り様だったのに、全治一ヶ月の重傷は飛んできたバイクに吹っ飛ばされた私だけ。運転手は……車側も、バイクの人も奇跡的にかすり傷ひとつなかったって……何それ。
その前、学生時代。付き合っていた男に勧められるまま、よく知りもしない画家の絵にバイト代だけじゃ足りなくて借金までしてお金を注ぎ込んでいたバカな私。就職活動期に入って男に会えずに数ヶ月。就職活動だってお金かかるんだよね。スーツに履歴書に貼る写真。ひとつ一つは大した出費じゃなくても元々要りもしない絵画にお金吸い取られてたから……貯金が底をついて。カードローンも貸し出し上限額まで使い切って。もう、私のこと逆さまに振っても何も出ないよっていう状態になった時、気づけば男は消えていた。付き合っていると思っていたのは私だけ。男は画廊の販売員だったんだ。いわゆるデート商法ってやつ。クーリングオフもとっくに過ぎていて……結局泣き寝入り。
両親には言えないよ。こんなこと……。だから、このことはいまだに秘密。
高校時代はスキー合宿で雪崩が発生して、みんなより遅れていた私だけ雪に埋もれて……助かったのは奇跡だって言われた。
中学生の時には家族で行った海水浴で離岸流に流されて危うく太平洋の藻屑になりかけて。
小学校では遠足で行った山で遭難して泣きながら一晩体育座り。翌朝何とか下山したら、怒られるし転んだり滑ったりで体のあちこち痛くて、さらに泣いた。その前は、その前は……。
私の運の悪さの始まり、どこからだったんだろ……。
ディナーの時間だから店内の照明はかなり絞られていてまるで夜の海の中みたいな雰囲気。各テーブルに置かれたランプが席に着く私たちの顔をぼんやり照らしていた。見渡すところカップルが八割の店内を黒いベストにエプロン姿の給仕が尾びれを揺らす熱帯魚さながら優雅にテーブルの間を移動していく。
ロマンチックで、大人で、おしゃれな空気に満ち溢れていて。呼吸するのもちょっと遠慮しがちになってる、私。
こういうとこ、恋人ときたら最高だろうなぁ……。
えっと。その場合恋人(きゃっ♡)は、なかなかの高給取りで、めっちゃ、スパダリで、甘やかしてくれて。食事も終わりに差し掛かった頃……プロポーズされちゃうんだ。ケーキの上に指輪がのせてあって。ぎゃーっ! 最高すぎない? マジやばい。私の答えはもちろんイエス。ああ、そんなことになったら! すぐさま仕事なんて辞めてやるのに……。
あーあ。スパダリ、どこかに落っこちてないかな。スパダリだらけの国があったら一人ぐらい私に分けて欲しい。ぐすん。
だって、現実は残念。
一緒にいるのは職場の上司たち。恋人同士が目立つ店内で、男二人に女ひとりのフォーメーションは珍しいよね。店内が暗いから場違い感隠せてるかな?
「にしても、イズっちゃん、ハードル高めで攻めてくるねえ」
「案件対象と親しくなるためとは言っても、急にこんな高級レストランに呼び出すのは逆効果ではありませんか?」
……って、口々に言われて私はムッと口を尖らせせた。だって、仕事なら経費で落ちるもん。職場の昼休み、雑誌で見つけた時ココだって思ったの!
「警戒されるなよ? まあリーダーのお手並み拝見ってとこかな?」
含み笑いしつつ、そう言ってきたのは隣に座る氷雨先輩。この一年私の指導役をしてくれていた人。(意地悪!)私は先輩を無視して、正面に座る課長に恨みがましい視線を当てた。
「課長、自慢じゃないですけど私配属されて一年、たいした仕事してないですよ。そんな私に案件のリーダー任せます?」
星付きレストランの真っ白なテーブルクロス、人差し指でいじいじとにじっている私にむかって、課長が「そんなこと言わないでください」と薄い眉毛をハの字に下げて見せた。(こっちこそ、そんなこと言わないで、だわよ)って、相手は上司なのについ膨れっ面になってしまった。ウチの課長、私みたいなペーペーにもデスマス調で話してくれるからつい甘えがでちゃう。は! って、両手で頬を押さえたけどもう遅かった。
「ガキだなぁ、イズっちゃん」
ほら、隣からすぐ先輩のツッコミが来た。
「俺らしがないサラリーマンよ? フられた仕事を淡々とこなすのが俺らの役目。キミ、慰労係に入る時誓約書書いたでしょ?」
私からすると、人間は二通りに分けられる。運の良い人間と、運の悪い人間。私? 私は、もちろん運の悪い方。
え? もっと辛い境遇の人だっているんだから考えすぎって? うん、そうだね。私、不幸じゃない。両親は健在だし、大学卒業して就職もできた。決して不幸じゃない。
でも、運は悪い。
半年前、歩道を歩いていただけの私にバイクが突っ込んできた。車もバイクもひどい有り様だったのに、全治一ヶ月の重傷は飛んできたバイクに吹っ飛ばされた私だけ。運転手は……車側も、バイクの人も奇跡的にかすり傷ひとつなかったって……何それ。
その前、学生時代。付き合っていた男に勧められるまま、よく知りもしない画家の絵にバイト代だけじゃ足りなくて借金までしてお金を注ぎ込んでいたバカな私。就職活動期に入って男に会えずに数ヶ月。就職活動だってお金かかるんだよね。スーツに履歴書に貼る写真。ひとつ一つは大した出費じゃなくても元々要りもしない絵画にお金吸い取られてたから……貯金が底をついて。カードローンも貸し出し上限額まで使い切って。もう、私のこと逆さまに振っても何も出ないよっていう状態になった時、気づけば男は消えていた。付き合っていると思っていたのは私だけ。男は画廊の販売員だったんだ。いわゆるデート商法ってやつ。クーリングオフもとっくに過ぎていて……結局泣き寝入り。
両親には言えないよ。こんなこと……。だから、このことはいまだに秘密。
高校時代はスキー合宿で雪崩が発生して、みんなより遅れていた私だけ雪に埋もれて……助かったのは奇跡だって言われた。
中学生の時には家族で行った海水浴で離岸流に流されて危うく太平洋の藻屑になりかけて。
小学校では遠足で行った山で遭難して泣きながら一晩体育座り。翌朝何とか下山したら、怒られるし転んだり滑ったりで体のあちこち痛くて、さらに泣いた。その前は、その前は……。
私の運の悪さの始まり、どこからだったんだろ……。
ディナーの時間だから店内の照明はかなり絞られていてまるで夜の海の中みたいな雰囲気。各テーブルに置かれたランプが席に着く私たちの顔をぼんやり照らしていた。見渡すところカップルが八割の店内を黒いベストにエプロン姿の給仕が尾びれを揺らす熱帯魚さながら優雅にテーブルの間を移動していく。
ロマンチックで、大人で、おしゃれな空気に満ち溢れていて。呼吸するのもちょっと遠慮しがちになってる、私。
こういうとこ、恋人ときたら最高だろうなぁ……。
えっと。その場合恋人(きゃっ♡)は、なかなかの高給取りで、めっちゃ、スパダリで、甘やかしてくれて。食事も終わりに差し掛かった頃……プロポーズされちゃうんだ。ケーキの上に指輪がのせてあって。ぎゃーっ! 最高すぎない? マジやばい。私の答えはもちろんイエス。ああ、そんなことになったら! すぐさま仕事なんて辞めてやるのに……。
あーあ。スパダリ、どこかに落っこちてないかな。スパダリだらけの国があったら一人ぐらい私に分けて欲しい。ぐすん。
だって、現実は残念。
一緒にいるのは職場の上司たち。恋人同士が目立つ店内で、男二人に女ひとりのフォーメーションは珍しいよね。店内が暗いから場違い感隠せてるかな?
「にしても、イズっちゃん、ハードル高めで攻めてくるねえ」
「案件対象と親しくなるためとは言っても、急にこんな高級レストランに呼び出すのは逆効果ではありませんか?」
……って、口々に言われて私はムッと口を尖らせせた。だって、仕事なら経費で落ちるもん。職場の昼休み、雑誌で見つけた時ココだって思ったの!
「警戒されるなよ? まあリーダーのお手並み拝見ってとこかな?」
含み笑いしつつ、そう言ってきたのは隣に座る氷雨先輩。この一年私の指導役をしてくれていた人。(意地悪!)私は先輩を無視して、正面に座る課長に恨みがましい視線を当てた。
「課長、自慢じゃないですけど私配属されて一年、たいした仕事してないですよ。そんな私に案件のリーダー任せます?」
星付きレストランの真っ白なテーブルクロス、人差し指でいじいじとにじっている私にむかって、課長が「そんなこと言わないでください」と薄い眉毛をハの字に下げて見せた。(こっちこそ、そんなこと言わないで、だわよ)って、相手は上司なのについ膨れっ面になってしまった。ウチの課長、私みたいなペーペーにもデスマス調で話してくれるからつい甘えがでちゃう。は! って、両手で頬を押さえたけどもう遅かった。
「ガキだなぁ、イズっちゃん」
ほら、隣からすぐ先輩のツッコミが来た。
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