総務部人事課慰労係

たみやえる

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 慰労課の業務内容って、そーゆーことしてたの? なんかまだるっこしいことしてない? って気がする。専門部署作ってわざわざやるかなー。

「今回の案件の彼は、スタンフォードを出た英才ですからね。退職されたら会社うちの損失は計り知れません。というか、今後一切これほどの人材は手に入らないでしょう」

 は? そんな凄い人、どうしてわざわざウチに入ったわけ? ……っていうか、面倒な案件、下っ端の私に押し付けようとしてませんっ?!

 そんな疑いを目に込めて課長のことジトッと見たら、

「腕が鳴るよな! イズっちゃん」

って、先輩が肩を抱いてきた。私の気を逸らすつもりの姑息なボディタッチとしか思えないんだけどな!

「……イズっちゃん、じゃなくて……伊豆川でいいです」

って、先輩を見たら、「えぇっ?!」と盛大に眉を顰められてしまった。

「俺初めからイズっちゃんって呼んでるじゃん。今更呼び方変えろとか言わないでよ」

「えー、でも」

 まぁそんな感じで先輩と言いあっていたら、

「それより伊豆川さん、わざわざ店で待ち合わせなくても一緒に来店すればよかったのでは?」

と、課長に話題を変えられた。

「……退社後一緒に帰るなんて、付き合っているわけでもないのにできません。それに、彼からも店で待ち合わせる方がいいって言われましたので」

「なんで? 俺とイズっちゃんよく一緒に帰るじゃん」

(……っ。せっかく話が元に戻ろうとしてるのに、この人は!)

 思わず睨んだのに、先輩はまったく動じず榛色の瞳で先輩がやけにしげしげと見つめてくる。(ドキドキしちゃうから、やめて!)そんなふうに見つめられると、私がもうダメなこと、まさかバレてる? 先輩の指が私の髪をすくい耳にかける。隣に座ったりするからただでさえ近いのに……課長の目の前なのに。

 ……先輩、距離感おかしいんじゃないですか? 社会人の行動じゃない。

「やめてくださ……ひゃんっ」

 途中で変な声がひときわ高く出てしまった。(……恥ずっ)私は慌てて身を縮め両手で口を押さえた。周囲の目が痛い。だけど仕方ない! 耳に息吹きかけないでほしい……。ウェイターの人にすんごい目で睨まれちゃったじゃないですかぁ!

「研究畑一筋退という彼のようなタイプは、女性と付き合った経験が乏しい方も多いですからね。恥ずかしかったのかな」

と課長が何事もなかったかのようにサラリといった。(氷雨先輩の行動を見事に見て見ぬふりしたわ、この人)信じられないって固まってたら、課長が、

「あ、来た」
と言った。

 課長の視線は私の肩口を通り越していた。私の背後、観葉植物の間から見える店の入り口に注がれていることに気づいて、胃がキュッと収縮するのを感じた。絶対バレたくないけど私、緊張してる。氷雨先輩まで椅子の上で腰を浮かして課長の見ている方へ体をひねった。

 私は慌てて課長達と座っていた席の、も一つ奥のテーブル(そこが本来私が予約した席だった)にこそこそと移動した。

(絶対手放したくない逸材かぁ……)課長の言葉が時間差でプレッシャーになってきた。考えてみれば私の初仕事だもん。

 胸に手を当て(落ち着け、私)って、こっそり深呼吸していると、

「ほー、女連れ」

と言う氷雨先輩の声が聞こえてきて。

(はぁっ!?)私、つい立ち上がっちゃったんだ。


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