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しおりを挟むその後。一人、立ち飲み屋でお酒ひっかけてから帰った私。腕時計を見たらもう十一時過ぎだった。
(やっば!)
十二時すぎると同居人が怒るから午前様は絶対しない。セーフだけど小言は確実じゃん。
就職してから家を出てルームシェアし始めたのは、両親にカード会社からの手紙を見られたくなかったから。
学生時代は時間に余裕があったからポストの郵便物とるのは私のシゴト! って、家族に言いはって都合の悪い手紙は全部私のとこでおさえてた。
でもさ。働き出すとそうもいかないじゃない? 昼間、家にいられないから。当たり前だけど。
もし、私がいない間に母に私宛の手紙開けられたら? って、気が気じゃなかった。
あのままだったら、両親に借金バレるの時間の問題だったと思う。
仕事に慣れなきゃいけないのに家に届く郵便物のことが気になって気になって……そんなメンタルだと当然仕事に身に入らない。気力も体力も消耗が激しくてもう限界だった……就職して半年になりかけてた頃。
だからかな?
事故に巻き込まれて足折って、入院した私の見舞いに来た先輩に、ポロッと言っちゃった。私のヒミツ。
何って、ズバリ借金のこと。男に騙されたこと。クローゼットの奥に押し込んでる、二度と日の目を見ないだろう絵画達のこと。
そしたら、「一緒に住む?」って、誘ってくれて……。
駅から徒歩二十分のタワーマンション。その最上階南側の角を占める一室。鍵を差し込みノブに手をかけドアを押す。氷雨先輩が二十代、独身、しかもうちの給料でどうやってこんな高価そうな分譲マンションを手に入れたのかは怖いから聞いてない。あんまり掘ると、貴金属で全身固めたパトロン熟女とか出てきたら恐ろしい。氷雨先輩というラベルのついた箱を開ける勇気は私にはない。
玄関でパンプスを脱いでいたら、
「おかえり。イズっちゃん」
と先輩が濡れた髪をバスタオルでわしゃわしゃしながら現れた。
下はスウェットの短パン、上は裸という格好。いきなりそんな、あられもない格好を見せられたこっちはたまらない。良い感じで仕上がってたほろ酔い気分が、どこかへすっ飛んでいってしまった。
適度に割れた腹筋とか、鎖骨についてきらめく水滴とか……、無駄にドキドキさせないでほしい。
「……ただいま」
「おう。風呂冷める前に入れよ」
「……あい」
数時間前のレストランでのことについては触れないでおいてくれたのは、先輩の優しさなのかな。割り当てられた私の部屋まで行く気力ない。ぼとぼとバッグやらジャケットやらをその辺に振り落としながらバスルームに向かった。脱衣所で服を全部脱いでしまってから、ふと気づいて私、ドアから首だけ出して、
「あざっす」
とお風呂の用意をしてくれた先輩にお礼を言った。そしたら、
「疲れたろ? ちゃんと湯船に浸かれよ」
って、言われた。優しい微笑み付きだった。会社では絶対見せないやつ。腰が抜けた。そこまで酔ってないはずなのに顔が熱い。泣けちゃうからやめてー。
頭と体を洗って湯船に浸かった。両手をあげて伸びしただけでゴキゴキっと鳴った。乙女が出す音じゃないなーと我ながら感心してしまう。
ため息。(……疲れた)
お湯の中両腕で膝を抱え込んだ。片手だけ出して握ったこぶしで自分を小突いたら、いやでも思考は数時間前に飛んでいくんだ……。
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