総務部人事課慰労係

たみやえる

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 私がリーダーにされた案件対象は、入社十二年目の三十五歳独身、研究企画課所属の千賀ただしという男性。ウチの会社で作っている商品(塗料)のその手前、素材研究をしてる人だとか。資料にはもっと色々書いてあったけど、よく覚えてない。だってさ、

(研究職の人たちって、なんていうか、オタク度高めで変人ばかりって、勝手にイメージしていたんだけど……)

 見せられた写真に思わず、

「やだ、結構イケてる」

って、私、口に出して言っちゃった。

 写真の中の千賀氏は出社途中をいかにも隠し撮りしたって感じ。隠し撮りされてるイケメンってだけで萌えるなー。頭の後ろに一房、寝癖がぴょんて跳ねてるのが可愛い。何より顔が整っている。ファッション誌に出てるメンズモデルに負けないくらい。でも私が惹かれたのは彼の容貌じゃなくって、表情。

 昔、家で飼っていたシロ(犬・オス)をそっくりなんだもん! (懐かしー)散歩に連れてくと私のペースなんてお構いなしでリードを引っ張って、同じく散歩中のお気に入りの雌犬(複数)を追いかけ回していたバカ犬。ある日の散歩中、急に走り出して私の手からリードがすっこ抜けて。そして目の前で車に轢かれて死んじゃった子。あのバカ犬と同じキラッキラしたしてるんだもん。三十代の男性見て抱く感想じゃないけどさ。

 とにかく私は、初見で千賀氏に親近感を抱いた。あと、正直に告白しちゃうと、下心も抱いた……。だって、研究職で歳上でしょ。当然私よりお給料もらってる。だから、もし。もしもよ? 千賀氏と結婚したら? かわいい奥様(仮設定・私)の借金くらい、あっさり払ってくれないかな~、なんて。

(あの女)
と私は心の中で呟いた。

 ……もしかしたら、私の汚れた魂胆を見透かした神様が、意地悪してきたのかもしれないけどさ。

 千賀氏と一緒にレストランに現れたあの女。千賀氏もなんでついて来させちゃうかなー。

 朱赤のワンピースに白の半袖ジャケット。白いエナメルのヒールが忌々しいくらい素敵だった……。




「私、専務付の秘書をしております。レンと申します。千賀さまがお食事に行かれると聞いてついてきたら、あんまり素敵なお店なのですもの。ビックリしちゃったワ」

 オホホ……とお上品な笑い声をあげて勝手に座るなり自己紹介を始めるから、私は呆気に取られてぽかんと口を開けたまま動けなかった。二人が先に座ってしまったので私も慌てて椅子に腰を下ろした。

 レンの隣では千賀氏がオドオドと申し訳なさそな瞳で私のことを見ていた。

 だから私、(ははあん)ってわかっちゃった。

 ライバル出現ってやつだ、これは。

 結局食事の間喋っていたのはレンと名乗ったあの女と私の二人ばかり。千賀氏は話を振られるたびに口をパクパクさせて頷くだけだった。

 千賀氏が来る前、男・男・女だったのが、テーブルを変えて、今度は女・女・男のフォーメーション。三人ってお互いの力関係がはっきり出るよね。互いにその気がなくてもそれぞれの人間関係の濃さで自動的にハブったり、ハブられたり。

「……で、うっかり者の私が社員証を落として困っていたときに声をかけてくれたのが千賀さんだったんです。それから仲良くさせていただいて……ね、千賀さん?」

 レンがねっとりと熱い視線を千賀氏に送る。

 しかし彼は目の前の魚料理(焼いた魚にオシャンティな……私には得体の知れない……緑色のソースがかかっていた)と格闘していて、話を振られことに全然気づいていなかった。

 それを見て(ふっふっふっ)と私は心の中でほくそ笑んだ。

 二人の関係はレンがアピールしたいほどには深くないと見た。多分レンの方が私より少しだけ出会いが早かっただけ……。

 ということは。まだ一応私の皮算用(千賀氏と結婚して借金とおさらば計画)は現実化の可能性が残ってるんじゃない?

 (でもなぁ……)振り返れば、あの場を支配していたのはやっぱりレンだった。こっちがため息出るくらい透き通った雪の肌。彼女の目は端がキュッてしていて猫みたいにチャーミングで瞳は黒く濡れ濡れと光って美しかった。ほっそりした手足にお手本みたいに綺麗な所作。何もかも完璧。ただでさえ自己肯定感低めの私の自尊心はヘロヘロだったんだよ。

 しかも! 店の前で別れ際、彼女がさりげなく千賀氏の腕に手を絡めたときに見せたドヤ顔! 直後、千賀氏はあたふたと彼女の手を振り解いたけれど満更でもないって表情かお……一瞬だけど……してた。そこにあのドヤ顔! 千賀氏の前じゃなかったら私、つかみかかっていたかもしれない。

 私がそんなふうに頭に血が上っちゃったのはさ、自分が惨めになっちゃったからだと思う。

 女としてのスペックが全然違う。

 充実した自信と溢れ出す魅力が彼女を包んで燦々さんさんと輝かせていた。加えて、彼女の、秘書っていう仕事自体、私には眩しすぎて。


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