総務部人事課慰労係

たみやえる

文字の大きさ
14 / 75

4-2

しおりを挟む
 褒め言葉を催促するつもりじゃないけれど、チラッと氷雨先輩のこと見たら、顔が熱くほてきて、恥ずかしくて私慌ててうつむいた。

 私だってオンナだもん。

オトコの人の称賛の眼差しくらいちゃんとわかる……。

「イズっちゃん。その服、どしたの」

 サッと目の前に来て氷雨先輩が優しい声で聞いてきたから私は顔をあげた。

「実は……」

って、社食での粗相とレンに着替えを用意してもらったことを手短に説明する。先輩は、ぐるりと私の周りを一周すると、

「それにしてもピッタリだね。まるでイズっちゃんにあつらえたみたいだよ」

って、言った。

(あれ? スーツのこと?)課長と同じように、似合ってるねとかキレイだよ(って言ってもらえるって期待してたわけじゃないけど)とかじゃなくて。褒めてもらえるって期待してたの、先輩には見え見えだったかもしれない。恥ずかしい……急に心が冷えた。勇気を出して先輩を見上げる。ふっと笑った先輩に頭の上から髪の毛をわしゃわしゃってされた。

「ちょ……何すんですかっ」

 思わず振り払ったら手首を掴んで引き寄せられて。(顔、近……っ)硬直してしまった。耳たぶに先輩の指が触れ、包まれる。さわさわとなでられると、身体の奥でよくわからない熱がブワって吹き出した。たまらず私がギュッ……って目をつむると、

「バーカ」

って、一言。背中をむけ、何事もなかったように課長と話し出すんだもん。

 他人の目を気にしない先輩の行動はいつものことだけど。私のことガキ扱いするのもいつものことだけど……カチンときた。

 だから構わず間に割って入ったんだ。

「人事データ見れるのって、部長以上だそうですね?」

 二人が驚いた顔で再び振り返る。私は両手を腰に当てて彼らをにらんだ。

「二人の役職は……」

って、言いかけると部長が小さな目を見開いた。息を呑んでいる。氷雨先輩も同じ表情かおしてるのが可笑しい。

「部長じゃない、ですよね!」

 どうだ、ってキメ顔で言ったあとも二人は反論してこない。(いや、してこないんじゃなくてできないんだわ……)って私、ピカッと来ちゃった。もしかしてまさかの完全勝利利?! (もう一押ししなくっちゃ)って心の中で腕まくりした私は、半顔になって課長の顔をじーっと見据えた。

「……まさか。悪いコトしたんですか」

 氷雨先輩にも疑いの視線を向ける。

「たとえば、社内データをハッキングしたとか?」

 そしたら二人は、
「まさか」
「それ犯罪でしょ」
と、薄く笑って顔を見合わせた。表情が硬い。

「怪しいですね」

と私が顔を近づけた分、課長が椅子ごと後ずさろうとする。でも残念。課長の後ろは壁。逃げられない。

「課長? 家のローンあとどれだけでしたっけ。まだ二十年近く残ってんじゃないですか?」

 課長がヒクッと肩を上下させた。今度は氷雨先輩の胸に人差し指を突きつける。

「犯罪まがいのことやったなら、やめさせられちゃいますよ? 先輩みたいにいーっつも、だらけてるようなヒト、ウチ以外に雇ってくれると思っているわけじゃないですよね?」

 ポカンと見てくる氷雨先輩の瞳を捉え、私は精一杯悪そうな表情を作り、小首を傾げて微笑んだ。

「まあ? ……一年間一緒に仕事をしてきた仲ですから、まさかお二人が犯罪まがいので人事データを覗き見たって本気で思ってはいませんよ」

 さも二人を信じていいか迷ってるように目線をさまよわせた私は、考えるフリしてすぼめた自分の唇をトントンしてから、

「でも、何か抜け道がなかったら見れないかなって思うんです」

と言って順番に二人の顔を見た。

 まだ二人は無言を守っている。

(しぶといなー)と思いながら私、わざとらしく目を見開いて「まさか」とつぶやいた。

「……社内データをハッキングしたんですか? うそでしょ? やっぱり警察に相談するべき……?」

 我慢できなくなったのか間髪入れずに

「いや、待ってください。それは!」

と声を上げたのは課長だった。すかさず私が、

「じゃあ、私を企画研究課に移動させてください。千賀氏に近づくためです」

と言うと、

「いや……慰労課に入る以上、移動は認められないと」

と反論された。でも。う、と言葉に詰まった私が苦し紛れで、

「潜入捜査ですよ」

と言った。すると、

「潜入捜査……」

課長の小さな瞳の奥がきらりと光ったのがわかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...