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褒め言葉を催促するつもりじゃないけれど、チラッと氷雨先輩のこと見たら、顔が熱くほてきて、恥ずかしくて私慌ててうつむいた。
私だってオンナだもん。
オトコの人の称賛の眼差しくらいちゃんとわかる……。
「イズっちゃん。その服、どしたの」
サッと目の前に来て氷雨先輩が優しい声で聞いてきたから私は顔をあげた。
「実は……」
って、社食での粗相とレンに着替えを用意してもらったことを手短に説明する。先輩は、ぐるりと私の周りを一周すると、
「それにしてもピッタリだね。まるでイズっちゃんにあつらえたみたいだよ」
って、言った。
(あれ? スーツのこと?)課長と同じように、似合ってるねとかキレイだよ(って言ってもらえるって期待してたわけじゃないけど)とかじゃなくて。褒めてもらえるって期待してたの、先輩には見え見えだったかもしれない。恥ずかしい……急に心が冷えた。勇気を出して先輩を見上げる。ふっと笑った先輩に頭の上から髪の毛をわしゃわしゃってされた。
「ちょ……何すんですかっ」
思わず振り払ったら手首を掴んで引き寄せられて。(顔、近……っ)硬直してしまった。耳たぶに先輩の指が触れ、包まれる。さわさわとなでられると、身体の奥でよくわからない熱がブワって吹き出した。たまらず私がギュッ……って目をつむると、
「バーカ」
って、一言。背中をむけ、何事もなかったように課長と話し出すんだもん。
他人の目を気にしない先輩の行動はいつものことだけど。私のことガキ扱いするのもいつものことだけど……カチンときた。
だから構わず間に割って入ったんだ。
「人事データ見れるのって、部長以上だそうですね?」
二人が驚いた顔で再び振り返る。私は両手を腰に当てて彼らをにらんだ。
「二人の役職は……」
って、言いかけると部長が小さな目を見開いた。息を呑んでいる。氷雨先輩も同じ表情してるのが可笑しい。
「部長じゃない、ですよね!」
どうだ、ってキメ顔で言ったあとも二人は反論してこない。(いや、してこないんじゃなくてできないんだわ……)って私、ピカッと来ちゃった。もしかしてまさかの完全勝利利?! (もう一押ししなくっちゃ)って心の中で腕まくりした私は、半顔になって課長の顔をじーっと見据えた。
「……まさか。悪いコトしたんですか」
氷雨先輩にも疑いの視線を向ける。
「たとえば、社内データをハッキングしたとか?」
そしたら二人は、
「まさか」
「それ犯罪でしょ」
と、薄く笑って顔を見合わせた。表情が硬い。
「怪しいですね」
と私が顔を近づけた分、課長が椅子ごと後ずさろうとする。でも残念。課長の後ろは壁。逃げられない。
「課長? 家のローンあとどれだけでしたっけ。まだ二十年近く残ってんじゃないですか?」
課長がヒクッと肩を上下させた。今度は氷雨先輩の胸に人差し指を突きつける。
「犯罪まがいのことやったなら、やめさせられちゃいますよ? 先輩みたいにいーっつも、だらけてるようなヒト、ウチ以外に雇ってくれると思っているわけじゃないですよね?」
ポカンと見てくる氷雨先輩の瞳を捉え、私は精一杯悪そうな表情を作り、小首を傾げて微笑んだ。
「まあ? ……一年間一緒に仕事をしてきた仲ですから、まさかお二人が犯罪まがいの策で人事データを覗き見たって本気で思ってはいませんよ」
さも二人を信じていいか迷ってるように目線をさまよわせた私は、考えるフリしてすぼめた自分の唇をトントンしてから、
「でも、何か抜け道がなかったら見れないかなって思うんです」
と言って順番に二人の顔を見た。
まだ二人は無言を守っている。
(しぶといなー)と思いながら私、わざとらしく目を見開いて「まさか」とつぶやいた。
「……社内データをハッキングしたんですか? うそでしょ? やっぱり警察に相談するべき……?」
我慢できなくなったのか間髪入れずに
「いや、待ってください。それは!」
と声を上げたのは課長だった。すかさず私が、
「じゃあ、私を企画研究課に移動させてください。千賀氏に近づくためです」
と言うと、
「いや……慰労課に入る以上、移動は認められないと」
と反論された。でも。う、と言葉に詰まった私が苦し紛れで、
「潜入捜査ですよ」
と言った。すると、
「潜入捜査……」
課長の小さな瞳の奥がきらりと光ったのがわかった。
私だってオンナだもん。
オトコの人の称賛の眼差しくらいちゃんとわかる……。
「イズっちゃん。その服、どしたの」
サッと目の前に来て氷雨先輩が優しい声で聞いてきたから私は顔をあげた。
「実は……」
って、社食での粗相とレンに着替えを用意してもらったことを手短に説明する。先輩は、ぐるりと私の周りを一周すると、
「それにしてもピッタリだね。まるでイズっちゃんにあつらえたみたいだよ」
って、言った。
(あれ? スーツのこと?)課長と同じように、似合ってるねとかキレイだよ(って言ってもらえるって期待してたわけじゃないけど)とかじゃなくて。褒めてもらえるって期待してたの、先輩には見え見えだったかもしれない。恥ずかしい……急に心が冷えた。勇気を出して先輩を見上げる。ふっと笑った先輩に頭の上から髪の毛をわしゃわしゃってされた。
「ちょ……何すんですかっ」
思わず振り払ったら手首を掴んで引き寄せられて。(顔、近……っ)硬直してしまった。耳たぶに先輩の指が触れ、包まれる。さわさわとなでられると、身体の奥でよくわからない熱がブワって吹き出した。たまらず私がギュッ……って目をつむると、
「バーカ」
って、一言。背中をむけ、何事もなかったように課長と話し出すんだもん。
他人の目を気にしない先輩の行動はいつものことだけど。私のことガキ扱いするのもいつものことだけど……カチンときた。
だから構わず間に割って入ったんだ。
「人事データ見れるのって、部長以上だそうですね?」
二人が驚いた顔で再び振り返る。私は両手を腰に当てて彼らをにらんだ。
「二人の役職は……」
って、言いかけると部長が小さな目を見開いた。息を呑んでいる。氷雨先輩も同じ表情してるのが可笑しい。
「部長じゃない、ですよね!」
どうだ、ってキメ顔で言ったあとも二人は反論してこない。(いや、してこないんじゃなくてできないんだわ……)って私、ピカッと来ちゃった。もしかしてまさかの完全勝利利?! (もう一押ししなくっちゃ)って心の中で腕まくりした私は、半顔になって課長の顔をじーっと見据えた。
「……まさか。悪いコトしたんですか」
氷雨先輩にも疑いの視線を向ける。
「たとえば、社内データをハッキングしたとか?」
そしたら二人は、
「まさか」
「それ犯罪でしょ」
と、薄く笑って顔を見合わせた。表情が硬い。
「怪しいですね」
と私が顔を近づけた分、課長が椅子ごと後ずさろうとする。でも残念。課長の後ろは壁。逃げられない。
「課長? 家のローンあとどれだけでしたっけ。まだ二十年近く残ってんじゃないですか?」
課長がヒクッと肩を上下させた。今度は氷雨先輩の胸に人差し指を突きつける。
「犯罪まがいのことやったなら、やめさせられちゃいますよ? 先輩みたいにいーっつも、だらけてるようなヒト、ウチ以外に雇ってくれると思っているわけじゃないですよね?」
ポカンと見てくる氷雨先輩の瞳を捉え、私は精一杯悪そうな表情を作り、小首を傾げて微笑んだ。
「まあ? ……一年間一緒に仕事をしてきた仲ですから、まさかお二人が犯罪まがいの策で人事データを覗き見たって本気で思ってはいませんよ」
さも二人を信じていいか迷ってるように目線をさまよわせた私は、考えるフリしてすぼめた自分の唇をトントンしてから、
「でも、何か抜け道がなかったら見れないかなって思うんです」
と言って順番に二人の顔を見た。
まだ二人は無言を守っている。
(しぶといなー)と思いながら私、わざとらしく目を見開いて「まさか」とつぶやいた。
「……社内データをハッキングしたんですか? うそでしょ? やっぱり警察に相談するべき……?」
我慢できなくなったのか間髪入れずに
「いや、待ってください。それは!」
と声を上げたのは課長だった。すかさず私が、
「じゃあ、私を企画研究課に移動させてください。千賀氏に近づくためです」
と言うと、
「いや……慰労課に入る以上、移動は認められないと」
と反論された。でも。う、と言葉に詰まった私が苦し紛れで、
「潜入捜査ですよ」
と言った。すると、
「潜入捜査……」
課長の小さな瞳の奥がきらりと光ったのがわかった。
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