総務部人事課慰労係

たみやえる

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 皆様ごきげんよう。私は今日も真面目に働いております。

 ただし、いつもとは違うオフィスで。

 新人ッ、と私のこと呼んだのはここを実質取り仕切っている田中さんだった。駆け寄った私を彼女の猛禽類に似た視線が射抜いてくる。迫力がある。

「これ、郵便局に出してきて」
って、さほど大きさはないのにやけに重い紙筒みを渡された。表面に貼られた貴重品在中の赤いシールと水濡れ厳禁の青いシールが目に鮮やか。宛名はローマ字だった。多分だけど、イタリア宛。宛名は虫が身をくねらせているような線の構成物が描かれている。ここにきてから知った千賀氏の字だ。

「なんですか、これ」

「よその研究機関から借りていた資料」

 田中さんはもう話は終わったという風に私からデスクのパソコンの方へ体を反転させた。座面が回るタイプの事務椅子が、キヒと軋む。背中を丸めて画面に眼鏡のレンズがくっつきそうな前傾姿勢は彼女独特の集中しているときの癖みたい。キーボードを叩く音が、私に早く行けと催促している。私は薄手のカーディガンを羽織り、包みをよいこらしょと抱え直した。両手がふさがって日傘は使えないのがげんなりだった。今日の最高気温三十四度って朝テレビで言ってた気がする。

 ドアに向かって歩きかけた私は若干の恨めしさを込めてちらりと田中さんを見た。顔も体も肉付きよくどっしりしている。エレベーターの点検で階段しか使えなかった時、田中さんが手すりにすがりついて大変そうだった。ボンレスハムみたいな足で数段上がるだけでもふうふうしてたもの。

 ちょっとくらい運動したほうが良いじゃないのかしらん。

「あのー、田中さんずうっと座りっぱなしですから、散歩がてら郵便局に行かれたらどうですか」

……あくまでも真心。外が暑いから行きたくないわけじゃないから、って心の中で舌を出した。そしたら、
「あんたにこの書類の打ち込み頼みたくないから。この間、データの桁、間違って入力したでしょ」
って、すかさず撃沈された。

「……すみません……」

「一生懸命やっているんですけど、とでも言いたげな顔をしてるね」

 ぎし、と椅子の軋む音。田中さんが再び私を見た。

「あんたは、口ばっかり頭ばっかりだよ。もっと身体、動かしな」

「……」

 ギャフン。その上、はっとため息をつかれて、
「これだから大学出は」
……って、結構これがイタイ。反論できないから。

 しょんぼり廊下を歩いていると、
「伊豆川さん、私、行きましょうか?」
って、ちょうど私と同じに部屋を出て後ろから歩いてきた石井さんが私に声をかけてきた。彼女、入社は私と一緒だけど、高校出てすぐの就職だから私より歳が下。それで私のこと付けしてくれる。腰が低くて言葉遣いが丁寧。仕事中、田中さんがカリカリしてると、いつの間にか給湯室へ行ってサッとお茶をデスクに置いてくれる。これが文句なく美味しい。若いのに気が利くんだ。商業出だから入力も早いし正確だし。

 私とは大違いなんだよね。

 彼女の申し出に私は、

「いいの? いや、でも……」

と、ためらった。そしたら彼女、

「気にしないでください。同期の伊豆川さんが入ってくれて私うれしいんですから」

って、ニコっとした。私は曖昧な笑顔を顔に張り付かせ、

「ありがと。でも、私がいかないと余計怒られちゃう」

と断った。

 いい子だなって思う。それなのに、石井さんに対してモヤモヤっと言葉にできない嫌な気持ちが湧いてしまうんだ。

 私、性格悪いのかな。

 じゃあ、と小さく手を振った彼女に手を振りかえして会社を出た。

 そもそも。部署の移動ができないはずの私がなぜ研究企画課ここにいるかといえば……。

 食堂で丸山さんと話して、柳課長に粗相してしまった二週間前。レンのパシリのイケメンが持ってきてくれたブランド物のスーツに着替えて、一時ギリギリに課に戻った。

 二人は何か難しい顔で話していた様子だったけれど私に気づくと、思わず……って感じで腰を上げたんだ。二人して。

「いやあ、すごく似合ってますね」
って、課長。私はもじもじしながら小声でありがとうございますってお礼を言った。

 戻ってくる途中、ウチの男性社員たちがすれ違うたびはっとした顔で私の顔を見てくるから恥ずかしくて仕方なかった。パシリのイケメン……聞く暇も与えずレンが追い返してしまったから名前がわからないのだ……がくれたのはこれまできたことのないパンツスーツだったから似合っているかどうか心配だったんだ。紙袋を開けて取り出した時、「なんでこれ買ってくるのよ」って呆れ顔してたレンも私が着替えたら表情を緩めて「やだ、イイじゃない。馬子にも衣装だわね」って言ったけどさ。

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