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「下着をつけていないな。ヤル気のある女は嫌いじゃあない」
——だぁーっ! 下着つけてないのは私の意思じゃあないから! ドレスを着た後メイクと髪を整えてくれた女の人に、「下着のラインが出ちゃうじゃない。ダメよ、カッコ悪いから」って言われたの! 決してそういう意味じゃない!
「その方は私の連れです。手を出さないでいただきたい」
と目を怒らせた煤影さんが抗議してくれたらあっさり解放された。というか、突き飛ばされた。
煤影サンが抱き止めてくれなかったら、そのまま床に顔から倒れていたかもしれない。怒りからか恐怖からなのか膝から下の力が入らなくて床にへたり込みながら、
「あ、ありがとう」
……煤影サンって続けて言おうと顔を上げた瞬間、煤影サンが後ろに吹っ飛んだ。
血の気が引くってこういうことなんだって実感してたら、
「何をするっ」
と、飛び出てきてくれたのは驚いたことにモジャ髪社長だった。
……ここから先は英語だったから、私にはそれぞれの顔つきでその場の会話を想像するほかなかった。私の想像、そう外れてもいないって自負してるけどっ、想像ゆえにちょーいい加減なのも自覚してマス。
だからここから先は、後から「あの時こう言ってたんだ」って、聞いたことなんだ……。
私を突き飛ばしたのは、氷雨先輩やレンたちと社長室で見たあの、千賀氏の研究を自分たちの手柄だってとんでもない会見してくれた金髪碧眼の方の人物だった。つまり、私のお尻を勝手に触ってきた変態ゲス野郎(おほほ。ごめん遊ばせッ)が、まさに私たちが探していたニケメティの社長マイケル・メティス氏だったってことで。
私は彼を見るなり、(いったい何歳なんだろ?)と心の中で首を傾げた。テレビ画面では感じなかった違和感。人種が違うと見た目で都市を判断し難いものなのかな。スッキリと整った顔なのに瞳の中の表情はまるで老人。なのに、頬や額には張りがあって若々しくも見える。若いの? 年寄りなの? どっち? って、感じ。
まぁ、くそゲス野郎ってことだけは確定してるけどねっ。
マイケルの目が、らん、と光った。
「リチャードか。自分の飼い犬をどう扱おうと飼い主の勝手だろう?」
さっきまでのいやらしい余裕は消えている。マイケルのもじゃ髪社長への敵外心がどす黒い蒸気となって吹きつけてきた。まさに瘴気。体が呼吸してはいけないと言わんばかりに私の意思が反射する前に顔を背けさせる。向けた顔の先、私たちのやりとりを息を呑んで見ていたはずの招待客たちも顔をこわばらせ同じように視線をそらし、または背を向け変に巻き添えを食わないよう距離を取ろうとしているのが明らかだった。
「お前は何故そう傲慢であろうとする」
「俺が支配する側の人間だからだ」
二人の声が近い。床を這うように視線を移動させるとリチャード氏とマイケルの靴先がくっつきそうになっている。
「支配する側? 馬鹿馬鹿しい」
リチャード氏は動じない。
この場に流れる緊張のせいで、こっちは心臓が飛び出るかってくらいドキドキしてるのにさ。
だから私、感情を押し殺した声を発したリチャード氏のこと、マジで尊敬しちゃった。だから、っていうか、やっぱり怖いもの見たさで顔を上げた。
そしたら一拍置いて目を剥いたマイケルが、リチャード氏の左頬にペッ、て唾を吐きかけてきたんだ!
(うわぁ……)バッチリ見たけど、見てないフリ、速攻で視線を逸らした。なんか助けてもらった手前、申し訳ないっ。でも、目をつけられたくはないっ。
マイケルがリチャード氏に向ける憎しみは普通じゃあない。過去にリチャード氏と何があったのかなかったのか知らないけど、私ならあんなふうに敵意を向けられたら背中を向けてとっとと逃げ出すよ。
「リチャードよ、貴様が俺に指図できたのは貴様がパブリックスクールで寮長をしていたはるか昔。いや、グダグダ言うのはやめよう。俺は空気が読める男だ。旧友よ、今日は俺の誕生日を祝いに来てくれたのだろう?」
マイケルは見せつけるみたいにゆったりとした動作でポケットチーフを抜くと、ぐい、とリチャードの頬をぬぐった。見てるこっちが(ぐぬぬ……)と怒りで胃が捩れるくらい憎らしい。これにはリチャード氏も流石にむかつきを堪えきれなかったんだろう。冷静から一転、
マイケルの手をパシリとはたき落とすと、
「招待状をもらったから来てやったのだ。娘をどこやった」
と、声を荒げた。
「ハッ、捨てた娘と聞いていたが、立派に餌となってくれたかよ」
満足そうに唇の端を釣り上げるマイケル。その時彼の背後から明らかに手下感満載の人がスッと近づきマイケルの耳元になにやら囁いてきた。それに対して、
「あぁ、うるさい。なんなのだ……」
イライラと蚊を追い払う仕草をしたマイケルだったんだけど……。なおも食い下がる手下君の耳打ちに、ん? と顔を顰め彼の動きが止まった。
「株が何者かに買い集められている? 今は時間外だろうがっ」
「PTSです。それも一人じゃない……」
——だぁーっ! 下着つけてないのは私の意思じゃあないから! ドレスを着た後メイクと髪を整えてくれた女の人に、「下着のラインが出ちゃうじゃない。ダメよ、カッコ悪いから」って言われたの! 決してそういう意味じゃない!
「その方は私の連れです。手を出さないでいただきたい」
と目を怒らせた煤影さんが抗議してくれたらあっさり解放された。というか、突き飛ばされた。
煤影サンが抱き止めてくれなかったら、そのまま床に顔から倒れていたかもしれない。怒りからか恐怖からなのか膝から下の力が入らなくて床にへたり込みながら、
「あ、ありがとう」
……煤影サンって続けて言おうと顔を上げた瞬間、煤影サンが後ろに吹っ飛んだ。
血の気が引くってこういうことなんだって実感してたら、
「何をするっ」
と、飛び出てきてくれたのは驚いたことにモジャ髪社長だった。
……ここから先は英語だったから、私にはそれぞれの顔つきでその場の会話を想像するほかなかった。私の想像、そう外れてもいないって自負してるけどっ、想像ゆえにちょーいい加減なのも自覚してマス。
だからここから先は、後から「あの時こう言ってたんだ」って、聞いたことなんだ……。
私を突き飛ばしたのは、氷雨先輩やレンたちと社長室で見たあの、千賀氏の研究を自分たちの手柄だってとんでもない会見してくれた金髪碧眼の方の人物だった。つまり、私のお尻を勝手に触ってきた変態ゲス野郎(おほほ。ごめん遊ばせッ)が、まさに私たちが探していたニケメティの社長マイケル・メティス氏だったってことで。
私は彼を見るなり、(いったい何歳なんだろ?)と心の中で首を傾げた。テレビ画面では感じなかった違和感。人種が違うと見た目で都市を判断し難いものなのかな。スッキリと整った顔なのに瞳の中の表情はまるで老人。なのに、頬や額には張りがあって若々しくも見える。若いの? 年寄りなの? どっち? って、感じ。
まぁ、くそゲス野郎ってことだけは確定してるけどねっ。
マイケルの目が、らん、と光った。
「リチャードか。自分の飼い犬をどう扱おうと飼い主の勝手だろう?」
さっきまでのいやらしい余裕は消えている。マイケルのもじゃ髪社長への敵外心がどす黒い蒸気となって吹きつけてきた。まさに瘴気。体が呼吸してはいけないと言わんばかりに私の意思が反射する前に顔を背けさせる。向けた顔の先、私たちのやりとりを息を呑んで見ていたはずの招待客たちも顔をこわばらせ同じように視線をそらし、または背を向け変に巻き添えを食わないよう距離を取ろうとしているのが明らかだった。
「お前は何故そう傲慢であろうとする」
「俺が支配する側の人間だからだ」
二人の声が近い。床を這うように視線を移動させるとリチャード氏とマイケルの靴先がくっつきそうになっている。
「支配する側? 馬鹿馬鹿しい」
リチャード氏は動じない。
この場に流れる緊張のせいで、こっちは心臓が飛び出るかってくらいドキドキしてるのにさ。
だから私、感情を押し殺した声を発したリチャード氏のこと、マジで尊敬しちゃった。だから、っていうか、やっぱり怖いもの見たさで顔を上げた。
そしたら一拍置いて目を剥いたマイケルが、リチャード氏の左頬にペッ、て唾を吐きかけてきたんだ!
(うわぁ……)バッチリ見たけど、見てないフリ、速攻で視線を逸らした。なんか助けてもらった手前、申し訳ないっ。でも、目をつけられたくはないっ。
マイケルがリチャード氏に向ける憎しみは普通じゃあない。過去にリチャード氏と何があったのかなかったのか知らないけど、私ならあんなふうに敵意を向けられたら背中を向けてとっとと逃げ出すよ。
「リチャードよ、貴様が俺に指図できたのは貴様がパブリックスクールで寮長をしていたはるか昔。いや、グダグダ言うのはやめよう。俺は空気が読める男だ。旧友よ、今日は俺の誕生日を祝いに来てくれたのだろう?」
マイケルは見せつけるみたいにゆったりとした動作でポケットチーフを抜くと、ぐい、とリチャードの頬をぬぐった。見てるこっちが(ぐぬぬ……)と怒りで胃が捩れるくらい憎らしい。これにはリチャード氏も流石にむかつきを堪えきれなかったんだろう。冷静から一転、
マイケルの手をパシリとはたき落とすと、
「招待状をもらったから来てやったのだ。娘をどこやった」
と、声を荒げた。
「ハッ、捨てた娘と聞いていたが、立派に餌となってくれたかよ」
満足そうに唇の端を釣り上げるマイケル。その時彼の背後から明らかに手下感満載の人がスッと近づきマイケルの耳元になにやら囁いてきた。それに対して、
「あぁ、うるさい。なんなのだ……」
イライラと蚊を追い払う仕草をしたマイケルだったんだけど……。なおも食い下がる手下君の耳打ちに、ん? と顔を顰め彼の動きが止まった。
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