総務部人事課慰労係

たみやえる

文字の大きさ
46 / 75

12-3

しおりを挟む
「心配してくれたんですね。ありがとうございます」


 うわ、発声まで凛々しい。なんか別人じゃん! って、若干興奮気味に

「カチョー、なんかいつもと違う」

と言うと、「へ?」と課長が私を見た。



——だからぁ!


「カッコイイです」


 そう言った直後、

「イズっちゃん、俺は?」

って、ほっぺた両手で挟まれて私、強制的に先輩の方に顔を上向かされた。


 先輩の顔は膨れっ面を通り越し、〈ガァーン!〉って感じで青ざめてる。


 何これ? ヤキモチ?


 まさかね。だって、さぁ……。


「先輩、私のこと疑ってたんじゃないのかよ」


 私の目の奥にプレイバックされるのは前日、会社社長室。先輩が私に「なんで夜、研究棟にいたんだ?」って詰問した光景。


 なんと言っても先輩に疑われたことがショックで会社を飛び出して……たまたま出会った煤影サンに助けてもらって、ここにいる。濡れ衣を晴らしたくて。その先は……考えてないけどさっ。


 とにかく色々大変な想いさせられたのは先輩が原因だと思うんだよねっ。だから、

「まさか!」

と、大袈裟に首を横に振る先輩のこと、恨みがましく見ても許されると思わない!?


 頬を挟まれたままだから、そっぽを向くことすらできないんだもん。


 私は目に張った涙の幕がしずくになって落ちないように、見開いた目をキープする。


「……怖かった」


 なんのこと? 訳がわからない、と目を剥く先輩にイラついて、ヒールで床を蹴る。


「あの時の先輩、怖かった!」


 怒鳴るつもりで発したのに、つぶやきになってしまった私の悲しみ。


 そしたら先輩の腕が背中にまわされて……私、抱きしめられている……? (突き放してやろうかしら)なんて考えがチラリと頭をよぎったけれど、先輩の胸に頬をくっつけて目を閉じたらどうでも良くなった。


「……カッコ悪ぅ」

とつぶやいた私の耳元で、

「ごめん。あの後、防犯カメラの映像を見てわかったんだ。データを盗んだ本当の犯人」

と先輩が言うから、私はびっくりして顔を跳ね上げてしまった。


 そしたら、目からおひし様が飛び出るってこういう事なんだってくらい痛くて、私は頭頂部に手を当ててとっさに声も出ない。


「……痛ぁっ」


 ようやくそれだけ声に出して目線を上げると、

「! アホかっ。いい雰囲気になってるとこで頭突き食らわすか? フツー」

涙目の先輩が顎を押さえながら後ろに飛びのいた。


「あっ、先輩……」


 いつの間にか先輩の後ろによろよろ近づいてきたドレス姿の女性。注意しようと私が声をあげるのと、先輩が女性にぶつかるのと、ほぼ同時だった。


「氷雨……あんたもいたのね。この……疫病神が」


「お、叔母さん……っ?」


 首をひねって女性の顔を確認した氷雨先輩が彼女に手を伸ばす。バランスを崩した二人はもつれるように床に崩れ落ちた。


「専務っ、なんてことを……っ」


 声を荒げて課長が駆け寄りドレスの女性を先輩の体から引き剥がす。


 私、課長が専務って呼ぶまで全然わからなかった。


 だって、ふわふわだったピンクのドレスは肉料理のソースか何かがべったりくっついてペシャンコ、ひしゃげて残念なシルエットになってしまってる。そして髪はボサボサ、顔にも汚れがついて、会社で会った時の専務のデキる女の面影はすっかり失われてたんだもん。


「……兄さんがあんたを連れてきてから私の運も立場も駄々下がりっ。兄も兄で許せない。札付きのワルで就職先は決まらない、高校卒業したら養護施設から出なきゃいけない、そんな、行き先のなかったあんたを息子にして、まさか会社を継がせるなんて」


「……」


 顔を顰めて先輩が身体をひねり背中に手を回そうとする。それで私にも見えた。


 先輩の背中に、ナイフが。それも普通のサイズじゃない。パーティ会場でシェフが抱き枕サイズのローストビーフを切り分けるのに使っていた刀みたいに長いやつ。それが先輩の背中に突き立っている……。


「私なら会社をもっと大きくできるのよ。ニケ&メティスの傘下に入ればもっと! マイケル社長は北条工業の名を残してくれるって約束した。その上、私にニケメティ日本支部のトップを任せると」


「そんなの口約束だ」


 私も先輩に駆け寄ると、肘をつき上身体を起こしている先輩の頭を抱えて横向きに膝に乗せた。背中のナイフが痛々しくて抜こうと手を伸ばしたら、課長が、

「ダメです。抜けば出血する。その方が危ない」

って、言うから震え上がって、ただただ先輩の体を支えることしかできない。先輩は荒い息を吐きながら専務を睨みつけた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...