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「心配してくれたんですね。ありがとうございます」
うわ、発声まで凛々しい。なんか別人じゃん! って、若干興奮気味に
「カチョー、なんかいつもと違う」
と言うと、「へ?」と課長が私を見た。
——だからぁ!
「カッコイイです」
そう言った直後、
「イズっちゃん、俺は?」
って、ほっぺた両手で挟まれて私、強制的に先輩の方に顔を上向かされた。
先輩の顔は膨れっ面を通り越し、〈ガァーン!〉って感じで青ざめてる。
何これ? ヤキモチ?
まさかね。だって、さぁ……。
「先輩、私のこと疑ってたんじゃないのかよ」
私の目の奥にプレイバックされるのは前日、会社社長室。先輩が私に「なんで夜、研究棟にいたんだ?」って詰問した光景。
なんと言っても先輩に疑われたことがショックで会社を飛び出して……たまたま出会った煤影サンに助けてもらって、ここにいる。濡れ衣を晴らしたくて。その先は……考えてないけどさっ。
とにかく色々大変な想いさせられたのは先輩が原因だと思うんだよねっ。だから、
「まさか!」
と、大袈裟に首を横に振る先輩のこと、恨みがましく見ても許されると思わない!?
頬を挟まれたままだから、そっぽを向くことすらできないんだもん。
私は目に張った涙の幕がしずくになって落ちないように、見開いた目をキープする。
「……怖かった」
なんのこと? 訳がわからない、と目を剥く先輩にイラついて、ヒールで床を蹴る。
「あの時の先輩、怖かった!」
怒鳴るつもりで発したのに、つぶやきになってしまった私の悲しみ。
そしたら先輩の腕が背中にまわされて……私、抱きしめられている……? (突き放してやろうかしら)なんて考えがチラリと頭をよぎったけれど、先輩の胸に頬をくっつけて目を閉じたらどうでも良くなった。
「……カッコ悪ぅ」
とつぶやいた私の耳元で、
「ごめん。あの後、防犯カメラの映像を見てわかったんだ。データを盗んだ本当の犯人」
と先輩が言うから、私はびっくりして顔を跳ね上げてしまった。
そしたら、目からおひし様が飛び出るってこういう事なんだってくらい痛くて、私は頭頂部に手を当ててとっさに声も出ない。
「……痛ぁっ」
ようやくそれだけ声に出して目線を上げると、
「! アホかっ。いい雰囲気になってるとこで頭突き食らわすか? フツー」
涙目の先輩が顎を押さえながら後ろに飛びのいた。
「あっ、先輩……」
いつの間にか先輩の後ろによろよろ近づいてきたドレス姿の女性。注意しようと私が声をあげるのと、先輩が女性にぶつかるのと、ほぼ同時だった。
「氷雨……あんたもいたのね。この……疫病神が」
「お、叔母さん……っ?」
首をひねって女性の顔を確認した氷雨先輩が彼女に手を伸ばす。バランスを崩した二人はもつれるように床に崩れ落ちた。
「専務っ、なんてことを……っ」
声を荒げて課長が駆け寄りドレスの女性を先輩の体から引き剥がす。
私、課長が専務って呼ぶまで全然わからなかった。
だって、ふわふわだったピンクのドレスは肉料理のソースか何かがべったりくっついてペシャンコ、ひしゃげて残念なシルエットになってしまってる。そして髪はボサボサ、顔にも汚れがついて、会社で会った時の専務のデキる女の面影はすっかり失われてたんだもん。
「……兄さんがあんたを連れてきてから私の運も立場も駄々下がりっ。兄も兄で許せない。札付きのワルで就職先は決まらない、高校卒業したら養護施設から出なきゃいけない、そんな、行き先のなかったあんたを息子にして、まさか会社を継がせるなんて」
「……」
顔を顰めて先輩が身体をひねり背中に手を回そうとする。それで私にも見えた。
先輩の背中に、ナイフが。それも普通のサイズじゃない。パーティ会場でシェフが抱き枕サイズのローストビーフを切り分けるのに使っていた刀みたいに長いやつ。それが先輩の背中に突き立っている……。
「私なら会社をもっと大きくできるのよ。ニケ&メティスの傘下に入ればもっと! マイケル社長は北条工業の名を残してくれるって約束した。その上、私にニケメティ日本支部のトップを任せると」
「そんなの口約束だ」
私も先輩に駆け寄ると、肘をつき上身体を起こしている先輩の頭を抱えて横向きに膝に乗せた。背中のナイフが痛々しくて抜こうと手を伸ばしたら、課長が、
「ダメです。抜けば出血する。その方が危ない」
って、言うから震え上がって、ただただ先輩の体を支えることしかできない。先輩は荒い息を吐きながら専務を睨みつけた。
うわ、発声まで凛々しい。なんか別人じゃん! って、若干興奮気味に
「カチョー、なんかいつもと違う」
と言うと、「へ?」と課長が私を見た。
——だからぁ!
「カッコイイです」
そう言った直後、
「イズっちゃん、俺は?」
って、ほっぺた両手で挟まれて私、強制的に先輩の方に顔を上向かされた。
先輩の顔は膨れっ面を通り越し、〈ガァーン!〉って感じで青ざめてる。
何これ? ヤキモチ?
まさかね。だって、さぁ……。
「先輩、私のこと疑ってたんじゃないのかよ」
私の目の奥にプレイバックされるのは前日、会社社長室。先輩が私に「なんで夜、研究棟にいたんだ?」って詰問した光景。
なんと言っても先輩に疑われたことがショックで会社を飛び出して……たまたま出会った煤影サンに助けてもらって、ここにいる。濡れ衣を晴らしたくて。その先は……考えてないけどさっ。
とにかく色々大変な想いさせられたのは先輩が原因だと思うんだよねっ。だから、
「まさか!」
と、大袈裟に首を横に振る先輩のこと、恨みがましく見ても許されると思わない!?
頬を挟まれたままだから、そっぽを向くことすらできないんだもん。
私は目に張った涙の幕がしずくになって落ちないように、見開いた目をキープする。
「……怖かった」
なんのこと? 訳がわからない、と目を剥く先輩にイラついて、ヒールで床を蹴る。
「あの時の先輩、怖かった!」
怒鳴るつもりで発したのに、つぶやきになってしまった私の悲しみ。
そしたら先輩の腕が背中にまわされて……私、抱きしめられている……? (突き放してやろうかしら)なんて考えがチラリと頭をよぎったけれど、先輩の胸に頬をくっつけて目を閉じたらどうでも良くなった。
「……カッコ悪ぅ」
とつぶやいた私の耳元で、
「ごめん。あの後、防犯カメラの映像を見てわかったんだ。データを盗んだ本当の犯人」
と先輩が言うから、私はびっくりして顔を跳ね上げてしまった。
そしたら、目からおひし様が飛び出るってこういう事なんだってくらい痛くて、私は頭頂部に手を当ててとっさに声も出ない。
「……痛ぁっ」
ようやくそれだけ声に出して目線を上げると、
「! アホかっ。いい雰囲気になってるとこで頭突き食らわすか? フツー」
涙目の先輩が顎を押さえながら後ろに飛びのいた。
「あっ、先輩……」
いつの間にか先輩の後ろによろよろ近づいてきたドレス姿の女性。注意しようと私が声をあげるのと、先輩が女性にぶつかるのと、ほぼ同時だった。
「氷雨……あんたもいたのね。この……疫病神が」
「お、叔母さん……っ?」
首をひねって女性の顔を確認した氷雨先輩が彼女に手を伸ばす。バランスを崩した二人はもつれるように床に崩れ落ちた。
「専務っ、なんてことを……っ」
声を荒げて課長が駆け寄りドレスの女性を先輩の体から引き剥がす。
私、課長が専務って呼ぶまで全然わからなかった。
だって、ふわふわだったピンクのドレスは肉料理のソースか何かがべったりくっついてペシャンコ、ひしゃげて残念なシルエットになってしまってる。そして髪はボサボサ、顔にも汚れがついて、会社で会った時の専務のデキる女の面影はすっかり失われてたんだもん。
「……兄さんがあんたを連れてきてから私の運も立場も駄々下がりっ。兄も兄で許せない。札付きのワルで就職先は決まらない、高校卒業したら養護施設から出なきゃいけない、そんな、行き先のなかったあんたを息子にして、まさか会社を継がせるなんて」
「……」
顔を顰めて先輩が身体をひねり背中に手を回そうとする。それで私にも見えた。
先輩の背中に、ナイフが。それも普通のサイズじゃない。パーティ会場でシェフが抱き枕サイズのローストビーフを切り分けるのに使っていた刀みたいに長いやつ。それが先輩の背中に突き立っている……。
「私なら会社をもっと大きくできるのよ。ニケ&メティスの傘下に入ればもっと! マイケル社長は北条工業の名を残してくれるって約束した。その上、私にニケメティ日本支部のトップを任せると」
「そんなの口約束だ」
私も先輩に駆け寄ると、肘をつき上身体を起こしている先輩の頭を抱えて横向きに膝に乗せた。背中のナイフが痛々しくて抜こうと手を伸ばしたら、課長が、
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って、言うから震え上がって、ただただ先輩の体を支えることしかできない。先輩は荒い息を吐きながら専務を睨みつけた。
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