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施設ははっきり言ってクソだった。
交通事故で俺らの親はあっという間に死んじまって、駆け落ち同然の二人の子供を、しかも双子なんて金食い虫な生き物を喜んで引き取ろうっていう親類はいなかった。
俺たちは二卵性で顔は全然似ていない。
弟の方はお人形さんみたいに小綺麗な顔の作り。昔から変な大人に目をつけられやすいところがあったから、俺は弟に張り付いていつもキャンキャン周囲を威嚇していた気がする。
施設の職員の、姉ちゃんや兄ちゃん達は優しかった。けど、施設長には嫌な噂がくっついていた。
曰く、ショタ好き変態野郎。
曰く、月イチ、男の子を部屋に呼んで添い寝させるとか。
曰く、半年に一回行われるレクリエーションで山にキャンプに行ったとき誰それが一人連れて行かれてそのまま帰ってこなかっただとか……。
流石に犯罪臭が強すぎて、本気にはしてなかったけどさ。
それより気をつけなきゃいけないのが他にもいたからな。というか、俺はこっちの方に、いつも背中の毛ぇ逆立ててた。
相手は同じ子供同士。
大人の目には見えてないことってのがある。
風呂場が俺たちにとって生理的嫌悪の場だった。
ガキンチョ共にもマウントの取り合いはもちろんある。小学校ではオブラートに包まれていたそれは、施設に変えれば特に大人の目が行き届かない時、リーダー格も不在だったりするとどうしようもなく剥き出しになる。
そこで学んだ。セックスは支配の手段だ。
施設に入って初日の風呂場でそういう場面を目にしてかなりショックを受けた。そういうの、目にするのも耳にするのも嫌で。まして弟をそんな目に合わせるなんて絶対に嫌だった。
だからみんなが面倒がる風呂掃除をいつも買って出た。もちろん弟も一緒に。他の奴らが夕飯食ってる時間に湯を抜いて、洗面台とか洗い場を磨いてタイルをブラシでこする。その合間に交代で冷めてほとんど水になった残り湯をかぶるんだ。ボイラーの火はとっくに切られてる。沸かし直しなんかできない。垢混じりの湯に吐き気がして、水しか出ないシャワーを浴びることの方が多かったかも。
そのせい、かな。今でも、致すことに対して俺は消極的なところがある。前の嫁には、それで愛想を尽かされた。いわばお互いの会社同士のための政略結婚的な意味合いが強かった婚約中、嫁は俺が彼女に手を出さないことに好感を抱いていたらしい。真面目だとか、誠実だとかね。しかし、新居を構えて始まった結婚生活。同じベッドに隣り合わせで寝ていても一向に手を出そうとしない俺に焦れて……いや、女としてのプライドを傷つけられた彼女は「アンタなんて見掛け倒しよ!」と吐き捨てわずか三ヶ月、呆気なく離婚に至った。
あー……イズっちゃんには結婚してたことは言ってない。
別に秘密にしたい訳じゃなくて。言うタイミングがなかっただけ……。
脱線した。話を戻そう。
そうやって神経を尖らせる毎日。施設に入って半年で俺はもうクタクタ。逃げ出したいって言葉が全身をはい回っているような毎日を過ごしていた。
環境はともかく、寝食は保証されているっていう余裕がどこかにあったのかもしれない。そうでなきゃ、後先考えずに逃げ出そうなんてしなかっただろうと、大人になった今だから思う。
俺たちは十二歳。
それはまさに噂のサマーキャンプでの出来事だった。
みんなしてテントを張り終えた後の自由時間。他の奴らが、そこら辺を散策しにいったり川辺に行ったりして俺らの周りに人がいなくなったその時、施設長が近づいてきた。
背が高い割にガリガリで分厚いメガネかけてる陰気なおっさんだ。しかも右目のガラスにはヒビが入ってやんの。直す金ねーのかよ、ってか。
「二人とも、来て」
押し殺した声で手招きされて、ドキッとした。ガリのくせにやけに眼光鋭くてその強さにガキンチョだった俺の足は簡単にすくんじまったんだ。
腕を掴まれたわけでもないのに抵抗する気力を奪われてついていくと黒いセダンが停まっていた。
ガリの背中を睨みながら砂利を爪先で蹴飛ばすように近づいていくとガチャリと車のドアの開く音がした。
その音で俺は我に帰った。
今まで信じてなかった噂話が急に真に迫ってきて胸が苦しくなる。
……連れて行かれて、帰ってこなかった子供はどうなった?
「……んだよ。俺たちのことどうするつもりだっ」
俺は叫ぶのと同時に施設長の膝裏を背後から蹴り飛ばした。足をすくわれた格好のガリが尻餅ついてすっ転ぶ。その横を、弟の腕を引っ張って走った。車から誰かが降りてくる前に逃げたい。
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