総務部人事課慰労係

たみやえる

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 二人は婆さんの祈祷の礼金で細々と暮らしていた。ハルカは子供なりにそのことを十分わかっていた。婆さんの祈祷の力が無くなれば生きていけない。だから集落の人間を頼ることもできなかったんだと。


 見つかった時、俺はてっきり警察が来ると思ってた。大騒ぎになるって。だって事件だろ? 人がひとり死んでるんだぜ?



 一緒にいる間、婆さんのことはハルカに黙っていた。だって、言えないだろ? ハルカは突然現れた俺たちのことを不思議とすんなり受け入れて聞き分けよくしていた。けど、婆さんは家族。心配になるし聞きたくなる。言葉にしなくても、ハルカの目つきで俺たちには痛いくらい通じる……実際聞かれた時は、適当な嘘をついて……出かけているとか寝ているとか……。俺たちはハルカの気持ちから目を逸らそうとしてた。それでも彼女が何か聞こうとすると、買ってきた菓子パンを食わせた。食べるのに夢中になって質問しなくなるから。その食欲はものすごくて、買ってきたパンもお菓子もジュースもあっと言う間に無くなった。


 俺たちが寝泊まりしたのは玄関から入ってすぐの部屋で、すり切れた畳はすっかり帰路になっていたけど、結構綺麗に整頓されていた。窓の反対に分厚いブラウン管テレビがあって、その前に正方形のコタツが置かれていた。布団のかかっていないそのコタツの下に潜り込んで彼女はうつらうつらとしていた。


 腹を満たして満足そうにまどろむハルカの寝顔を、俺たちは喉の渇きと空腹に耐えながら恨めしく眺めた。婆さんの亡骸をそのままにしている後ろめたさに耐えなきゃならないのも辛かった。


 だから、見つかって(ヤバい)と思うと同時に(助かった……)ってホッとしたんだ。


 もう、嘘をつかずに済むって。縋ってくるくせに打算も澱みも全くないハルカの瞳を受け止めるのが辛くなってきていた。


 それにハルカのことも、俺たちといるより頼りになる親戚か誰かにこれで助けてもらえるじゃないか。
 


 俺たち兄弟のこれからは不安だったけど……そんな自分の中の不安さえ邪魔だって思えるくらいハルカに入れ込んでた……思い返してみれば。


 部屋の隅で座り込んでいる俺たち三人の目の前で大人達が入れ替わり立ち替わり家に入ってきて、深刻そうな表情でこそこそ喋っている……。



——他所で土砂崩れが起こった時、此処だけ何も起こらなかったのは伊豆川の婆さんが福女を引き受けていたおかげっちゅうことは村の年寄りならみんな承知していることじゃ。


——次は誰がなる?


——……。


——福女は誰でも良いっちゅうわけじゃなかろう。


——自分が禍を引き受け周りに福を分け与える者じゃろ。わざわざ自分からやりたがる奴はおらん。


——貧乏くじだからな。自分ばかり嫌な目に遭う。予想外に怪我したり、病気が長引いたり。


——その代わり、村で伊豆川の婆さん達の面倒見てたろうもん。


——福女を看取った者が跡を継ぐのが良いんじゃねぇか?


——……。


——とすればこの場合、継いだのはこの三人と言うことか。


——三人だなんて聞いたことがないぞ。


——どうする?


——どうする?


 会話の断片を繋ぎ合わせると、どうやら俺たちは婆さんの役割を引き継いだと村人達に思われているらしかった。
 その後、子供だけで放っていくわけにも行かないだろうという話し合いがあり、俺たちは村長の家に連れて行かれた。


 恭しくってほどじゃあないが、良くしてもらったと思う。なにしろ、襲われる心配なしに風呂に入って夜ぐっすり眠れたのはありがたかった。


 することがないから、三人で遊んだ。ハルカの後をついて散歩したり、おままごとに付き合う程度だったけど。遊んでいるうちに俺たちに懐いて甘えてくるハルカが可愛くて、新しい家族ができたような嬉しさを俺は感じていた。


「ハルカちゃん、大きくなったら何になりたい?」


「何になるって、まだわからない……」


「氷雨兄はどう思う?」


「ハルカは女の子だからな。ありきたりなら、お嫁さんとかじゃん?」


「お嫁さん? 今?」


「違うよ、大人になってから」


「男の人と結婚して自分の家族を作るんだよ」


「和雨も家族欲しいの?」


 俺の弟の名前は和雨という。誰にでも優しく降り注ぐ雨、美しくてはにかみ屋で引っ込み思案の弟にぴったりなその優しい響きにほんの少しだけ嫉妬していた。


「うん。氷雨兄も同じ気持ちだと思うよ」


 弟の黒い瞳が俺を映す。俺は生まれつき瞳の色素が薄くてそれもコンプレックスだ。名前以外その瞳の色さえも羨みの対象だなんて兄貴失格だなと自己嫌悪を感じてしまうんだ。


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