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「えぇっ! ほんとに? 本物?」
興奮して前のめりになる私に、
「専務は、おめでたいくらいお嬢様育ちなんでしょうね。こう言う大事なものを柳課長に預けていた」
と、津々木弁護士は淡々としたもの。SDカードをしまいながら、
「乗船までは一緒にいたものの、隙をみて下船した柳課長は、空港へ向かっていたんです」
と言う。
「へ? 空港?」
予想外の話に素っ頓狂な声を出してしまい、また空咳がでた。
「研究データを第三国に売り払うためです。千賀氏の研究を欲しがる相手は何もニケメティだけじゃない。半導体不足は深刻ですからね。柳課長は金を手に入れたらモナコにでも移り住む気でいたらしい。小者のくせに」
(うわ、王子様が毒吐いたよ)と私は肩をすくめる。津々木弁護士が時折サラッと見せるこの物騒が感じ……怖いな。
「すんでのところで僕が捕まえまして」
僕がね、ともう一度彼が言った。まるで手柄を強調してるみたい……なんて指摘したりしないけど。
「ま、まさか殴って奪い取ったとか……?」
ビクビクしながら聞くと彼はボートのエンジンを止め私を振り返った。
「暴力? まさか。金の力です」
空にはまんまるにはちょっと足りない月が浮いていてその月明かりが冴え冴えと彼の美貌を輝かせている。綺麗な分だけ表情が読めない。まるで違う生き物みたい。近寄る彼に私の肩が上下に揺れた。
彼は私の怯えを飲むように抱きしめ、耳元に口を寄せる。
彼の纏う香水と汗の入り混じった匂いに絡めとられてしまいそう。ふわふわした心地で私は考えた。
——この人、確か、レンの婚約者なんだよね……私なんかとこんな風に密着して問題ないのかしらん。
「交渉して結構ディスカウントさせましたよ。一億で済みました」
「い、一億ぅ?」
語尾が妙な具合に上がってしまった。ええ、と頷かれて顎が落っこちそうになる。
「まぁ、結納金としては安いんじゃないですか」
しれっと発せられた言葉の意味をつかみかねて私は目をパチクリさせた。
——結納金? えっと、誰と誰かが結婚するってことなのかな? 話が見えないよ。王子様顔はいいけど中身はよくわからないんだよね……そっとしておこうかな……。
見つめられてもどう答えていいかわからない。私は黙っていた。するとその沈黙をどうとったのか、津々木弁護士は小首を傾げながら、
「あれ? まだプロポーズされていないんですか。一緒に住んでいるんだから肉体関係はありますよね? え? ない? 何やってるんだ、あの人……まぁ、それならさほどまだ差はつけられていないのか……いやでも……」
と、ぶつぶつ呟き始めた。
私の方は、人肌の温もりに包まれたせいか瞼が重たくなっていた。もうなんだかどうでもよくなって、
「あは、あはは。じゃ、千賀氏はもう悲しまなくて済むねー……寝る。着いたら起こして……」
と言ったら、王子様が大きな手で涙まみれの私の頬をぬぐってくれた。
もうほとんど瞼はくっついているから、今、彼がどんな顔で私のことを見ているかわからない。
怖いと感じながら身を委ねてしまう自分の不思議さに呆れながら私はその厚みのある胸にもたれた。
興奮して前のめりになる私に、
「専務は、おめでたいくらいお嬢様育ちなんでしょうね。こう言う大事なものを柳課長に預けていた」
と、津々木弁護士は淡々としたもの。SDカードをしまいながら、
「乗船までは一緒にいたものの、隙をみて下船した柳課長は、空港へ向かっていたんです」
と言う。
「へ? 空港?」
予想外の話に素っ頓狂な声を出してしまい、また空咳がでた。
「研究データを第三国に売り払うためです。千賀氏の研究を欲しがる相手は何もニケメティだけじゃない。半導体不足は深刻ですからね。柳課長は金を手に入れたらモナコにでも移り住む気でいたらしい。小者のくせに」
(うわ、王子様が毒吐いたよ)と私は肩をすくめる。津々木弁護士が時折サラッと見せるこの物騒が感じ……怖いな。
「すんでのところで僕が捕まえまして」
僕がね、ともう一度彼が言った。まるで手柄を強調してるみたい……なんて指摘したりしないけど。
「ま、まさか殴って奪い取ったとか……?」
ビクビクしながら聞くと彼はボートのエンジンを止め私を振り返った。
「暴力? まさか。金の力です」
空にはまんまるにはちょっと足りない月が浮いていてその月明かりが冴え冴えと彼の美貌を輝かせている。綺麗な分だけ表情が読めない。まるで違う生き物みたい。近寄る彼に私の肩が上下に揺れた。
彼は私の怯えを飲むように抱きしめ、耳元に口を寄せる。
彼の纏う香水と汗の入り混じった匂いに絡めとられてしまいそう。ふわふわした心地で私は考えた。
——この人、確か、レンの婚約者なんだよね……私なんかとこんな風に密着して問題ないのかしらん。
「交渉して結構ディスカウントさせましたよ。一億で済みました」
「い、一億ぅ?」
語尾が妙な具合に上がってしまった。ええ、と頷かれて顎が落っこちそうになる。
「まぁ、結納金としては安いんじゃないですか」
しれっと発せられた言葉の意味をつかみかねて私は目をパチクリさせた。
——結納金? えっと、誰と誰かが結婚するってことなのかな? 話が見えないよ。王子様顔はいいけど中身はよくわからないんだよね……そっとしておこうかな……。
見つめられてもどう答えていいかわからない。私は黙っていた。するとその沈黙をどうとったのか、津々木弁護士は小首を傾げながら、
「あれ? まだプロポーズされていないんですか。一緒に住んでいるんだから肉体関係はありますよね? え? ない? 何やってるんだ、あの人……まぁ、それならさほどまだ差はつけられていないのか……いやでも……」
と、ぶつぶつ呟き始めた。
私の方は、人肌の温もりに包まれたせいか瞼が重たくなっていた。もうなんだかどうでもよくなって、
「あは、あはは。じゃ、千賀氏はもう悲しまなくて済むねー……寝る。着いたら起こして……」
と言ったら、王子様が大きな手で涙まみれの私の頬をぬぐってくれた。
もうほとんど瞼はくっついているから、今、彼がどんな顔で私のことを見ているかわからない。
怖いと感じながら身を委ねてしまう自分の不思議さに呆れながら私はその厚みのある胸にもたれた。
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