総務部人事課慰労係

たみやえる

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 午後からは帳票類からボールペンまで在庫の確認と発注が必要なもののリストアップの作業で備品管理庫にこもりきりになってしまった。


 居並ぶ無機質なスチール棚を蛍光灯が哀しげに青白く照らしている。まだここ、LEDに変えてないだ。未使用の帳票なんだから種類ごとに置かれていると思いきや、これあっちにもあったな、っていうのがいたるところに混じっていること度々……はー疲れる。ウチの会社はペーパーレス化しないのっ。ていうか、やれよ!


 ……今日中にやれとは言われてないけどさ、この仕事量、一人でやらせるかなー。


 くさくさと未開封の段ボールに腰掛けて片肘つきながらリストに残数を書き込んでいると、ガチャリと、棚を挟んで私から死角になっているこの部屋のドアが開く音がした。


「……いったい何の用なのですか」

と、これは男のひと。


「ごめんなさい……こうでもしないと二人きりになれないじゃないですか、真中さん」


 切羽詰まった熱さをはらんだささやきは拒絶を許さない強さが感じられる。


 こ、これって!?


——うわー!? なんか、はぁはぁ言ってるんですけどっ!


 どうしよう。変なところに居合わせてしまった。いや勝手にこの人たちが入ってきただけで、私がこの部屋に居ることなんか知らずに……知っていれば、勤務中にこんないかがわしいレディースコミック(←いかがわしくないのだってあるかもだけど)みたいな展開やらかさないと思うから。


「……や、止めっ……」


「ま、真中さんっ」


 息を潜めて固まっている私の目の前にはスチール棚に積まれた帳票類が壁となり、その向こうで何が起こっているのかさっぱり見えないから、余計想像力だけたくましくさせられる。


——あぁっ、気になる。この向こう側、一体どうなっちゃってるのぉ?!

と、私が心の中でしょーもない悲鳴を上げた時。

 ガサガサ、バタバタっ。


 目の前で壁になっていた帳票類の山が崩れた。ポッカリと開いた向こうに、女性に馬乗りになられているスーツ姿の男性が見えた……この人、今、なんて呼ばれた?


「ま、なかさん? え? 男の方の?」


 お昼休みに話したばかりのカワイイ真中さん(百八十センチ、女性)の顔しか頭に浮かばない。日本中にどれくらいの真中さんが生息してるか知らないけど、私が知っている真中さんて、彼女だけ……いや、もう一人いるか。真中さんの旦那様が。


 まさか。


「げぇっ」

と、変な声が出てしまったことは仕方ないって思う。


 だってまさか、他人ん家の旦那様の浮気現場を見てしまうなんて。


 まぁ。とにかく、こっちから見えるようになったってことはあちらからも私が見えることになったわけで。


 棚の間から顔を覗かせた私を見るなり、男の人に乗っかっていた女性は「キャァ」と声を上げ部屋を飛び出て行ってしまった。


 後に、備品管理室には女の生首の霊が現れるという怪談話が実しやかに広まったとか……。


 とにかく、乱れたスーツを整えながら立ち上がったその男の人は私のところまでくると、


「いや、不味いところを見られましたが、助かりました。あなた、もしかして伊豆川さん? 妻から聞いています。裏表なく一生懸命やってくれるので助かっていると」


 褒め言葉ってさ、直接言われるより他の誰かから間接的に言われると信憑性が上がるっていうか、素直に喜べるよね!


 生来素直な性質の私はつい状況を忘れて、

「え、マジ!」

って、喜んでしまった。


 我にかえり、思わず自分にツッコミを入れる。


——いや、違う。喜んでるばやいじゃないっつーの!


 気を取り直して、

「っていうか、あんたが新婚そうそう浮気するような男だなんて、真中さんが知ったら!」

と、目の前の男性に詰め寄った。


「ちょ、ちょっと、何言うんですか。俺の方が襲われていたのは命名白々です……っ」


「うろたえちゃって」


「君は誤解している」


「腕掴まないでよ。このエッチ」


 男性が私の腕を掴んでくるから、その手をしっしっとはらいのける。なのに、しつこい。今度は手首を掴まれた。
「困るこまる。妻に間違ったことを言われてはっ」


って、至近距離で目を合わせる彼の眉間には深—いシワが。


 自分は潔白ですとでも言いたげにしかめ面してくる真中さんの旦那様に、私はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いてやった。


「困ればいいじゃん。仕事中なのに女引っ張り込んでヤラシイことしてたくせに」


「していないっ。君の認識は間違っているっ」


 ……なんて言い合ってたら、またドアが開いた。


「伊豆川さんひとりでやらせちゃってごめんね……あれ、尚くん?」



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