アンバランサー・ユウと世界の均衡 

かつエッグ

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第一部 「エルフの禁呪」編

その人は、変な歌を歌った。

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 ギルドで、盗賊の報奨金をもらったら、けっこうなお金になった。
 なにしろ、あの悪名高い盗賊団「牙」を、あっさりと壊滅させたわけだから。

 「ありがとうございました、アリシアさん、助かりました」

 ユウは、さっそく、その中から5000ギルダを、アリシアさんに返していた。

 「ずっと、このままいつまでも借りていてくれたら、それがいいのに……」

 お金を返されたアリシアさんは、なぜか、残念そうだった。
 その5000ギルダを引いても、あとには相当な額が残り、わたしたち(要するに、わたしとジーナ。ユウは大金を目にしてもなにも変わらず)は、意気揚々と、町の市場に向かったのだ。

 「まず、大事なのは服だよね」
 「うん、そうだよね」

 わたしとジーナの意見は一致し、なによりも最初に、ユウの服を仕入れることになった。
 例によって決めるのはわたしとジーナである。

 「これがいいかな?」
 「少し、大きすぎない?」
 「これ、いいけど、色がねー」
 「うーん、これはツギがうまく当たってないね」
 「ここのところが、もう綻ほころんでいるし」
 「げっ、これ、洗ってあるけど、どうみても血の痕じゃん、店のおじさん、これはないよ?!」

 などと、店に並べてある服を、ひとつひとつ吟味して選んでいくのはとても楽しい。

 「なるほど、この世界では、基本、古着をつかいまわすわけだな…」

 ユウは最初こそ興味深そうにみていたが、すぐに、あきらかに退屈しはじめた。
 わたしたちの、念入りな品定めを見ながら、

 「どこの世界でも、お店に行くとこうなるのは同じか…」

 などとつぶやく。
 その顔には、

 (着れれば、なんでもいいんじゃないのか?)

 という表情が、ありありと浮かんでいる。
 それは許されない。
 けっして許されないのだ。
 けっきょく、わたしとジーナの意見が最終的に一致し、これがいいだろうという品物が決まった時には、ユウは完全に興味をうしなって、きょろきょろと市場のいろいろな方向をながめていた。

 「ん? あれは……」

 そういって、ユウがずんずん歩き出した。

 「え? なにか見つけたの?」

 ついていくと、それは行商の露店だった。
 鮮やかな何色もの原色の巻頭衣をきて、小さな木の椅子にすわっている見慣れないおばあさん。
 そのおばあさんの前に広げられた布には、乾燥した、枯れ草色の小さな種のようなもの、茶色の木の皮をはいだようなもの、これも乾燥して、しわしわになった、先の赤く尖った小さななにかの実、鮮やかな黄色の粉、木の葉の上に盛られた、なにか黄土色のどろっとしたもの、などが並べられていた。
 それぞれの品物から、あまりかぎなれない、独特の香りがしている。
 わたしたちにはなじみのないもので、客はだれもいなかった。
 ちらっと横目で見て、すどおりしていく状態だ。

 「おお、これは、ひょっとして!」

 ユウの目は、かがやいていた。

 「おばあさん、ちょっと味見してみていいですか?」

 ユウは、おばあさんの許可をとると、その種を指先でつまみ、匂いを嗅ぐと、口に放り込んだ。
 そして、なんどか噛みしめて、

 「うん、これはだ」

 その黄土色のどろっとしたものを指先につけ、匂いを嗅ぎ、そしてぺろっとなめてみた。

 「うーん、まちがいない、こちらはだな」

 にこりとして、

 「おばあさん、これ、いくら?」
 「ほう、それを買いなさるかね」
 「うん、なつかしいものを見つけて、うれしいよ」

 おばあさんは、ユウの顔をおどろいたようにみて、

 「お前さん、南の出かい? そうは見えないが…」
 「ちがうけど、ぼくのいたところでは、よく食べたんだ」
 「そうか…ここらの人にはなじみがないようで、店を広げてはみたけれど、全然売れなくてねえ…もう店じまいして、帰ろうかと思ってたところだよ」
 「間に合って、よかったよ」
 「それで、どれだけ欲しいんだい?」
 「ぜんぶ」
 「「えっ?」」

 といったのは、おばあさんだけじゃなくて、わたしもジーナもだ。
 ユウは、こともなげに

 「おばあさんさえ良ければ、ここにあるやつ、ひとつのこらず、ぜんぶちょうだい」
 「「ええーっ?」」

 まあ、けっきょく、そんなにとんでもない金額じゃなかった。
 でも、ふつうそんなふうには買わないと思うんだ。
 おばあさんは、すごく嬉しそうな顔をして

 「ありがとう、あんた。あんたの名前は?」
 「ぼくは、ユウっていうんだ。アンバランサーだよ」

 おばあさんは、それを聞いて、目を見開き、きゅうに真剣な顔つきになった。
 ユウの目をのぞきこみ、すっと手を伸ばして、その日焼けした指でユウの額にふれ、

 「ユウ、あなたに、様の御加護がありますように…」

 と、敬虔な口調で、言ったのだ。

 (がねーしゃさまって、いったい、だれ?)

 そう思ったけど。
 ユウは、いつものように、にこりとして、

 「ありがとう」

 と答え、両方の掌を胸の前であわせた。
 そのしぐさは、通じたようだった。
 おばあさんも、同じ仕草を返したのだった。



 「ねえ、ユウさん」

 服をみていたときとはうってかわって、急にイキイキしだしたユウに

 「それって、食べ物だよね? なにかのスパイスなの?」

 聞いてみた。

 「そうだよ、ライラ! これがあると、なんとが作れるんだよ!」
 「かれえ?」
 「うん、とっても美味しい料理だよ」
 「そうなんだ! おいしいんだ! すごいぞ!」

 ジーナが、興奮してさけんだ。

 「ジーナ、あんた、そんなに興奮してるけどさあ、そのってやつ、いったいどんな料理かわかってるの?」
 「わからないけど……、」

 こぶしをぎゅっと握って、言った。

 「ゼッタイ、おいしいんだよ! なにしろ、かれえだよ!」

 その確信はどこからくるのかと、ジーナ、わたしはあなたに聞きたい。
 わたしたちは、そのあと、これも露店で野菜を何種類か仕入れた。

 「にんじん、たまねぎ、じゃがいも~」

 店先で野菜を物色するユウは、へんな歌をうたっている。
 そう、あれはたぶん、歌なんだとおもう。メロディーもあるし。
 でも、なんだか笑ってしまった。
 そのへんな歌をうたいながら、ユウが買っていった野菜は、ジンジン、サマネギ、ザザ芋などだった。
 うたをおぼえてしまったジーナが、ユウにあわせて、元気よく

 「ジンジン、サマネギ、ザザ芋~」

 と歌った。
 ユウのものと、語呂が妙に合っているのがおかしい。
 あんまり楽しそうなので、わたしも、小さな声で、こっそり歌ってみた。
 だって、ちょっと恥ずかしいでしょう、これ。

 ほかにもいろいろ、必要なものを買い揃えて、孤児院に帰る。
 最終的に、荷物はけっこうな量になった。
 でも、ユウがこっそり重力操作を行うので、どんなにたくさん物を買っても、じつは軽々と運べてしまって、すごく楽だった。

 「さあ、今日の晩ご飯は、ぼくが作るよー」

 ユウがはりきって、宣言した。

 「なにか、手伝うことがあるかしら?」

 ルシア先生がいい、

 「お願いしてもいいですか? では、まず、サマネギの皮をとって、薄く輪切りにしてください」

 ユウが指示して、料理が始まる。
 わたしたちも、ザザ芋とジンジンの皮を剥いて、ごろっとした感じに刻んでいった。
 ユウは、鍋の底を使って、と、輪切りにしたサマネギを炒めはじめた。
 サマネギが甘い香りを放つ。
 ユウは、サマネギが茶色くなり、ほとんど形がなくなるまで、念入りに炒めていった。

 「これがコツなんだ」

 そうとう真剣である。
 そこに、昨日の草豚の肉を刻んで入れて、さらに炒めていく。
 肉の脂がじゅわっと広がる。
 わたしたちが刻んだ、ザザ芋とジンジンも投入。
 少し炒めたら、水を入れて蓋をして、時々様子をみながら煮込んでいった。

 「そろそろかな」

 おばあさんのところで買った、その他のスパイスらしいものも足していく。
 そのたび、妙に食欲をそそる、刺激的な香りがくわわっていく。
 その匂いが台所を超えて、孤児院中に広がっていった。

 「さいごにこれだよ」

 あの黄土色のとかいうものを加え、なじませて

 「できたー!」

 完成したものは、シチューに似ているけど、色は黄色くて、美味しそうな香りがする。
 これが「かれー」なんだ。
 食堂に集まり、みんなで、ユウのつくってくれたカレーを、パンにつけてたべた。

 「なにこれ!」
 「うーん、このにおい」
 「おいしいよ!」
 「いくらでも食べれるよ!」
 「ちょっとからいけど」

 最初は、はじめての食べ物にためらっていたみんなも、一口たべたら大好評だ。
 われさきに食べていく。

 「か、があるともっといいけど、それは今後の課題だな…。あとは、そうそう、だな」

 ユウは、例によって、よくわからないことをつぶやいていた。

 「よくこのスパイスが手に入りましたね、ユウさん」

 ルシア先生が、かれーを口に運びながら、いった。
 さすがにルシア先生は、知識と経験が豊富だ。「かれー」のことを、知っていたようだ。

 「幸運でした。たまたま、露店のおばあさんが売ってたんですよ」
 「そうなの……」

 ルシア先生は、ちょっと首をかしげた。

 「これらのものは、遠い南の国が産地で、なかなかこの地方まで辿りつくことはないの。
  その露天商の方が持ちこんだとしたら、どうして、その方、わざわざこんなところまで?」

 腑に落ちないようだった。

 確かに、あの露天商のおばあさんには、大きな事情があったのだ。
 そして、わたしたちは、後日、思いもかけない場所でおばあさんと再会することになる。



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