アンバランサー・ユウと世界の均衡 

かつエッグ

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第一部 「エルフの禁呪」編

その人は、うっかりダンジョンコアを破壊しそうになる。

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 ダンジョンコアの間では、今まさに、激しい戦いが繰り広げられていた。

 先ほどのドラゴンの間と同じくらいの広さの空間。
 その中央に、脈動するように赤、青、黄、緑の交互に光を放つ、直径五メイグほどの巨大な魔水晶石が、半分床に埋め込まれたかたちで置かれている。
 それが、ダンジョンのすべての力の源泉、ダンジョンコアである。
 そのダンジョンコアを、白い、三体の巨人が取り囲んでいた。
 巨人は、ただ、目の部分に赤く二箇所光るものがあるだけ、あとはのっぺらぼうで、耳も鼻も口もない。からだの各部分の大きさもいびつで、左右の手の長さも違うようだ。
 胸の部分には黒い呪文が書き込まれて、その文字はぐねぐね動いている。
「生命」もしくは「生きよ」、そんな意味を持つ、古代文字の呪文だ。
 これは土から生まれ、魔法によって駆動される人工生命体ゴーレムだ。
 伝説のハイクラス魔術である!
 ゴーレムを生み出し、駆使できる魔法使いは、現在、この世界に何人といないという。
 三体のゴーレムは、巨大なハンマーや、はさみのような道具を使い、なにかの資材をダンジョンコアの上に組み立てようとしていた。

  ガーン、ガーン、ガーン!

 ゴーレムのハンマーがたたきつけられる音が、ダンジョンコアの間にこだまする。

 巨人ゴーレムは、あと、二体いた。
 そして、その二体と今、戦っているのが、三人の黒人戦士。いや、一人はすでに、倒れ伏して、戦闘不能になっている。その間を走りながら、牙をむきだして、ゴーレムにうなり、隙あらば飛びかからんとする、巨体の黒犬。
 そして、

 「あっ、ぷりんのおばあさん!」

 ジーナが声をあげた。
 原色の衣装を身にまとい、ゴーレムたちの前に、敢然と立つあの老婆。

 「ガネーシャ様の護りを、こんな目的に使うことは許されぬぞ!」

 そのおばあさんが、するどく声を投げつけた相手は、二体のゴーレムの間に立つ、背の高い人影。
 純白のローブをまとい、頭にはフードを被っているが、そこから銀色の髪がちらりと見えている。
 手には魔石のついた魔導師の杖。
 この魔導師がゴーレムを使役しているとしたら、これは容易ならない相手だ。

 ゴーレム三体が作業をするダンジョンコアに、南から来た戦士たちが近づけないように、その魔導師と残りのゴーレム二体が立ち塞がっているという構図である。

「だあっ!」

 戦士の二人が槍をかまえて突進する。
 その槍先がゴーレムの胸に描かれた呪文に届こうとしたとき

 「火と水と風の精霊が渦をなし天降りきたる、激甚の災厄、雷の咆哮ローリングサンダー!」

 ローブの魔導師が呪文を詠唱、

  ズガガガガン!!!

 雷の矢が戦士たちを弾き飛ばした。

 「ぐあっ」
 「ギャン!」

 戦士と黒犬は地面に叩きつけられ、動けなくなる。

 (えっ、今の魔法って、ひょっとして、ルシア先生のと同じ?!)

 「おのれ!」

 おばあさんが歯軋りをする。

 「無駄だ、抵抗は無用。もうこのダンジョンは……」

 魔導師が冷静な声で告げる。
 その声を、

 「水に光が注がれるとき生命の泉がその力をます、再生!」

 ルシア先生の、回復魔法の詠唱がさえぎる。
 傷ついた戦士と魔犬の体が、青い治癒の光に包まれる。

 「!」

 魔導師がルシア先生を見て、いっしゅん動きをとめた。
 そして、静かに言った。

 「ルシアか……わかっているはずだぞ、おまえはじゃまをしてはならない」

 魔導師のフードがはだけた。
 そこからあらわれたのは、銀色の髪、尖った耳、ルシア先生によく似た顔立ちの、かなり高齢のエルフの男性だった。

 「メイガス先生、あなたたちはまちがっています」

 ルシア先生は決然と言う。

 「「「せ、せんせいって?!」」」

 わたしたちは驚愕した。

 「ルシア、お前は自分のいっていることがわかっているのか? このままで、わたしたちエルフにどういうことがおきるのか、知らないはずがなかろう」
 「わかっています。でも……それでも、わたしは、こちらの側に立つのです」
 「そうか……それなら、もはや、しかたあるまいな。昔からお前は、そういう生徒こどもだった……」

 魔導師が、杖を振り上げた。

 「みんな、気をつけて! 来るわよ!」

 「水と炎、風と土、四柱の精霊がかたくその腕を結び、すべてが奈落の底におちる、究極の雷嵐サンダーストーム!」

  グァガラガラガラガラ!
  バリバリバリバリ!

 わたしたちの上空から、魔導師の魔法によって招来された、ほとんど全空間を埋め尽くすような怒涛の雷が降り注いだ。

 「うわーっ!」

 しかし、その恐るべき雷のほとんどが、わたしたちのからだに触れる直前で消滅する。
 ユウの力だ。
 その守る力は、南の戦士たち、おばあさん、黒犬にも及んでいた。

 ただ、一人を除いて。
 サバンさん。
 その瞬間に突撃しようとしたサバンさんだけが、わずかにユウの力の範囲から外れてしまい、直撃ではなかったが、雷撃の一部をくらってしまったのだ。
 サバンさんはきりきりまいをし、黒こげになって、倒れた。

 「サバン!」

 ルシア先生が叫ぶ。

 消滅してしまった雷撃に、目をむいた魔導師が

 「むっ、その異常な力……、おぬしひょっとして……?」

 ユウに言った。

 「そうだよ、ぼくは、アンバランサー」
 「アンバランサーが、ここに?
  アンバランサー、なぜ、我らのわざを妨げようとする?
  われわれの目的は、アンバランサーの使命とは矛盾しないはずだが?
  それとも……お主まさか……」

 魔導師は、ちらりと視線をルシア先生にむけて

 「ルシアにほだされたか?」

 ユウはにこりとして

 「どうだろうね、うーん、そうなのかな」

 いつもの調子で、答えた。

 「ばかな」

 と、魔道士がはきすてるように言った。

 「ユウさん、サバンさんが!」

 ジーナが叫ぶ。

 「大丈夫だよ、ジーナ」
 「えっ?」

 その通りだった。
 ぼろぼろになって倒れていたサバンさんが、むくりと起き上がった。
 その目が、赤くぎらぎらと光を放ち

  

 サバンさんの喉から、狂戦士の咆哮が迸った。
 これが狂戦士の狂戦士たるゆえんだ。
 窮地に陥ると、狂戦士は、理性を放棄し、防御も捨て、ただ闘うためだけのの存在となる。力に満ち溢れ、戦闘力が倍増し、自分が倒れ伏すか、敵がいなくなるまで闘い続ける。
 その状態こそが、つまり狂戦士バーサーカーなのだ。
 ここからが狂戦士の本領なのだった。

   おおおおおおおお!

 サバンさんはさきほどにも増した勢いで、戦斧をぶんぶんふりまわしながら、突進した。

 「ちっ!」

 おもわず避ける魔道士。
 サバンさんはその勢いのままゴーレムに襲いかかり、真っ向から斧を叩きつける!

 どすっ!

 重い音がして、ゴーレムの腕が落ちた。

 「あんたたち、頼む」

 と、近づいてきたおばあさんがいった。

 「わたしたちの南の神殿から盗まれた、ガネーシャ様の護りの力が、このダンジョンコアの魔力を、根こそぎ、エルフの里に転移させるために、使われそうなんだ。
  ダンジョンコアに、いま、ゴーレムたちが設置しているあの魔法機械には、ガネーシャ様の護りが取り付けられている。
  あれを取り返さないと、このダンジョンは……」
 「わかりました」

 ルシア先生が答えた。

 「ユウさん、ゴーレムとメイガス先生はわたしたちでひきうけるから、あなたはガネーシャ様の護りを!」
 「了解だ」

 ユウの体がふわりと浮き上がり、コアに向かう。


 「ううう……今こそ世界に見せるべし我ら獣人の武勲いさおし

 ジーナの目が黄金に輝き、瞳孔が全開になり、

 「イリニスティス、我と共に!」

 ジーナが、高く高く跳躍してゴーレムに襲いかかった!


 「ライラ、私の横に立って。わたしと一緒に詠唱を」
 「おのれ! しかし、もうアンバランサーはいないぞ?」

 怒りを漲らせたメイガス魔道士が、攻撃魔法を詠唱する。

 「水と炎、風と土、四柱の精霊がかたくその腕を結び、奈落の底におちる、究極の雷嵐サンダーストーム!」

 上空がまた、バリバリと不穏な雷をはらみ始める。

 「いくわよ、ライラ」

 ルシア先生がいい、魔法を詠唱する。わたしも同時に、声を合わせて詠唱を加える。

 「光と水、そして土、生命を育むこの世界の力が現前し理不尽な破壊に抗する、撃滅イクスティンクション!」
 「光と水、そして土、生命を育むこの世界の力が現前し理不尽な破壊に抗する、撃滅イクスティンクション!」

  バリバリバリバリ!!
  ザガガガガガガンン!!!

 メイガス魔道士の魔法と、わたしたちの魔法が激突し、空間をゆがめるほどの電光がはしり、

 「ぐわあっ!」

 わたしたちの魔法が勝った!
 メイガス魔道士はふきとばされた。
 壁に叩きつけられ、崩れ落ちて、呻く。

 「……なぜだ? 老いたりとはいえ、いまだ魔力は私の方が、お前よりはるかに大きいはず……」
 「レゾナンスです、せんせい」

 と、ルシア先生。

 「わたしと、このライラとの間には、存在のレゾナンスが成立しているのです。
  二人の魔力が共鳴すれば、せんせいの魔力には負けません」
 「……なんだって? ……レゾナンス? それはいったい? ……」

 メイガス魔道士は力尽き、がくりとこうべを垂れた。


 そして、ユウは——

 いっしゅんで宙を飛び、三体のゴーレムがダンジョンコアに設置している魔法機械の上に、スッと降り立っていた。
 ゴーレムが気づき、ユウのからだに腕を伸ばすが、ユウの視線を向けられただけで、ぴたりとうごきをとめる。
 胸の呪文が霧散する。
 ゴーレムの目の赤い光が、ふっと消えた。
 ゴーレムはぐずぐずと崩れて、大量の白い土の塊になる。
 ゴーレムを駆動している魔法が、ユウによって無効とされたためだ。

 「よし、これだな」

 ユウは、魔法機械の上部をさぐり、そこに手を入れると、なかにあったものを掴み出した。
 それは、エメラルド色の大きな宝石を中心に、赤いいくつもの宝石をつらねた鎖でとりまいた、異国風の首飾りだった。

 「おお! ガネーシャ様の護りが!」

 おばあさんが喜びの声を上げた。
 ところが、

  

 ユウの下で、ダンジョンコアが不気味な振動をはじめた。

  

 「あっ、まずいまずい」

 めずらしくユウが慌てた声をだした。
 そうなのだ、ダンジョンコアはつまり魔水晶石である。
 ギルドの部屋でのと同じことが、ユウが魔水晶石のそばにいると起きかねない。
 最悪、魔水晶石の消滅である。
 そうなったら、なんのためにがんばったのかわからない。

 「これはいけない」

 ユウは、ひと飛びでわたしたちのところに戻る。

  ぶぅーーん……

 ダンジョンコアが大人しくなったのをみて

 「はあ、よかった。弁償はごめんだよ」

 と、ユウがほっとした声をだす。

 残りの二体のゴーレムも、サバンさんとジーナが無力化し、土に戻っている。
 正気にかえったサバンさんと、ジーナ(というか、こちらはたぶん、まだイリニスティス?)が、がっちり握手している。
 うん、どう考えても、狂戦士と獣人族護りの魔剣は相性が良さそうだ。どちらも、まちがいなく戦闘狂バトルマニアだし。

 「ふぅ……とりあえず、ダンジョン崩壊だけは防げたようね……」

 ルシア先生が言った。

 「これから、解決しないといけないことは多いけど……」

 厳しい顔をしたが、ふっとその頬をゆるめ、ユウをみつめると、

 「うふふふ、ユウさんわたしに、ほだされちゃったのかなあ?」

 ちょっと、ルシア先生、それはなんの話ですか?
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