アンバランサー・ユウと世界の均衡 

かつエッグ

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第一部 「エルフの禁呪」編

その人は、わたしとジーナを心配する。

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 「さあ、ここだよ」

 そういって、ダミニさんがわたしたちを案内したのは、森の奥にあるくぼ地だった。
 よく見ると、森がその部分で、半径三百メイグくらいのほぼ円形に陥没しており、その中心部に、人一人がようやく通れるくらいの、ひび割れができていた。陥没はだいぶ前のことらしく、木や草が生い茂り、倒木があったりして、注意深く見なければ、その地形には気づかないだろう。

 「えっ? これ?」
 「そうそう、この中に入るんだ」
 「また、地下に潜るの……?」

 ジーナが言う。
 そう、たしかにわたしたちは最近、地下に潜ってばかりで、しかも、そこではろくなことがないのだった。

 「ついてきな」

 ダミニさんが言う。
 ダミニさんの魔犬が、先に、ぴょんと割れ目に飛び込んでいく。
 続いて、ダミニさん。
 そのあとに私たちが続く。
 戦士たちは、いちばん最後をついてくる。

 「足元に気を付けるんだよ、すべるから」

 ダミニさんが親切に言ってくれる。
 あたりを照らすのは、ダミニさんが呼び出した魔法の灯である。
 このわれめは、人工物ではなくて、自然にできたもののようだ。
 階段などがあるわけではなく、確かに歩きにくい。

 「おばあさん、これのどこが、技術なの?」

 ジーナが聞く。

 「まだそれは先だよ」

 ダミニさんが答える。

 「うーん、この様子だと、そらはなさそうだな……」

 ユウがつぶやく。
 魔犬の爪が地面をける、チャッチャッという音が、かすかに前の方から聞こえてきていた。

 「さあ、着いた」

 とダミニさんがいったとき、わたしたちは割れ目の行き止まりにきていた。
 それまで歩いてきたわれめは、そこで、ちょっとした広い空洞になっていたが、目の前には垂直な白い壁が行く手をふさいでいた。
 わたしたちは、その壁の前に全員たどりつく。

 「行き止まりじゃん……」
 「あそこ……」

 ユウが指さす。

 「なんか、書いてあるね」

 行き止まりの壁の、わたしたちの背よりずいぶん高いところに、材質のよくわからない、つるつるした、看板のような大きな板があり、そこには文字らしいものが書かれていた。

 「あれは、超古代文字だ」
 「なんて書いてるか、おばあさんわかるの?」
 「エルランディア……」

 ダミニさんはそう言った。

 「エルランディア?」
 「そう、この場所の、古い古い時代の呼び名だと思う。そのあとに、もう一文字あるけど、それはどういう意味か、わたしにもわからないよ」
 「たぶん、その文字は」

 じっと文字をながめていた、ユウがいった。

 「という意味だな。なるほど、そういうことか」

 と、ユウが言った。

 「つまり、ここは……かつての」

 ダミニさんが、ガネーシャ様の護りを手にし、それを壁にかざす。

  うぃーーーん

 低い音がして、

 「あっ、壁が」

 それまで一面の壁だったところが、静かに左右二つにわかれ、内側の空間への入り口となった。

 「わーっ、なにこれ? 広いし、明るいし……」

 そう、壁の向こう側は、広大な空間で、さらに深いところに続いている。
 降り口は、金属の板をたくさん並べたような階段で、その階段が手すりで分けられて、何本も何本もあるのだった。
 空間は、天井の壁自体が明るく輝くことで照らされていた。
 その光は、青白く、冷たく、太陽の光とも魔法の光ともちがっていた。

 「今から、この階段に乗るんだが、乗ったらすぐに手すりをつかんでたちどまりなさい」
 「「?」」
 「こんなふうにやるんだよ」

 ダミニさんが階段に一歩踏み出す。
 そのとたん、

  ぐおおおおんん

 低い音とともに、階段自体が下に向かって動き始めた!

 「うひゃあ!」
 「が設置してあるか。こりゃあますます、この場所は……」

 ユウが、また例によって意味不明のことをいい、ひょいと階段にのった。
 その動きは手馴れていて、これまでにもなんども同じものを使ったことがありそうだった。

 「ライラ、ジーナ、ぼくの真似をして、足を下すんだよ」

 そういってくれるユウが、移動する階段に運ばれて、だんだん遠ざかる。

 「あ、待ってよー」

 わたしたちは、おっかなびっくり、あわてて階段にとびのった。
 階段はうなりながらも、一定の速度でわたしたちの体を運んでいく。

 「これって、動く階段なんだ……」

 ジーナが、あたりをきょろきょろみまわしながら、感心した声を出す。

 「これ、魔法なの?」
 「いや、技術だ」

 ユウが言う。

 「この世界の古代文明が残したものかな? しかし、驚くべきものだね。その耐久性がすごい。ライラたちが全く知らないのだから、おそらく、これが作られたのは、何千年、ひょっとしたら万単位の昔かもしれない。それがまだこうやって稼働しているとはね……」

 ユウも感心している。

 「実は、そうでもないんだよ」

 とダミニさん。

 「ぜんぶがぜんぶ、稼働しているわけでもない。なんとか使えるのは、たぶん、全体のほんの一部だよ」
 「それでも、すごいな。動力はどうしているんだろう……」

 ユウはあたりを見回し、

 「なるほど、あっちの通路の方は崩落しているね。照明のも、たしかにあちこち切れているし……さすがに、ここは、かろうじて生き残っている部分なのか」

 わたしたちは、その、ユウの言うところの「えすかれえたあ」なるものを乗り継いで、さらに深いところにおりていった。

 「到着だ」

 とうとう、ダミニさんが言った。
 そこは、どういったらいいのか……わたしたちの見たことのあるもので、少しでもこれに近いものといったら……桟橋?
 細長く広い、たいらな台のような空間があって。
 その台の向こう側に、銀色をした、大きな岩ほどの大きさの、蛇の卵をながくひきのばしたような形のもの置かれている。
 わたしたちが今いる台のような場所の両端には、黒い大きな穴がみえていて、その穴の大きさは、銀色の蛇の卵みたいなものがちょうど入るくらいの直径をもっていそうだ。
 わたしが、これをみて、連想したのは、まずは、桟橋と、そこに停泊した船である。
 もしわたしの連想が正しいとなると、わたしたちは……。

 「ひょっとして……」

 わたしは不安になりながら聞いてみた。

 「この、前にある銀色のものって、乗り物ですか……?」
 「おっ、ライラ、あんたいい勘しているね」
 「ひょっとして、ひょっとして、わたしたちがこれに乗って……?」

 ダミニさんがうなずく。

 「うん、うん、その通り」
 「あの、暗い穴の中に……」
 「すばらしい。ライラ、あんたは賢いなあ……」

 賢くなくてもいいよ。
 なんだか嫌な予感しかしないんだけど。
 だいたい穴はもうたくさん。
 わたしたちは、ルシア先生とユウのおかげで、ダンジョンの穴の中をびゅんびゅん飛び回らされて、たいへんな目にあっている。
 なんか、今のこの状況は、あれに非常に近いものを感じずにはいられない。

 「ジーナ……」

 わたしはジーナに

 「あんた、感じない? これって、なんか、まずくない……?」
 「うん、ライラ……、ひょっとして、また、あれ?」

 ジーナも予感があるのか、なんとなくその目がおびえている。
 ダミニさんは、そんなわたしたちの気も知らず

 「すごいんだから。これに乗って、と、あっという間に着けるんだよ」

 自慢げに言った。

 ああ、やっぱり、突っ走るんですね。
 だいたい、普通に旅して何カ月もかかるような南の国まで、数日で着いちゃうっていうんだから、その速さって言ったら、めちゃくちゃなことは十分予想がつく。
 めちゃくちゃな速さで移動すると、どういう目にあうかは、わたしたちはさんざん思い知っているのだ。

 「出た! 超古代文明の遺産、だ!! これはまだ、ぼくの世界でもなかったなあ。この形状、やはり、で走るのかな?」

 ユウは、いつものように、なにかわけのわからないことを言いながら、大喜びだ。
 こまったものである。

 「う……」

 そのとき、ジーナがもじもじしはじめた。
 その様子に気づいたダミニさんが、

 「なんだ? 用足しか? あそこの絵が描いてある場所がそうだよ。
  わかるかい、●の下に▲がかいてあるのが、女性用だ。
  まちがえないように。●の下に▼は殿方だよ。
  さ、出発の前に、いってきな」
 「はい!」

 ジーナは駆け足で急ぐ。
 ユウをはじめとして、この場には男性がいるのに、ダミニさん無神経と思ったが、わたしも

 「あ、やっぱり、わたしもいってきます」
 「そうだね、それがいいよ。次に停まるまでしばらくあるからね」

 ダミニさんの不安をかき立てる言葉を聞きながら、ジーナの後を追う。

 「だいじょうぶかな……もし、あそこにあるのが、だったとしたら、ライラとジーナに、つかいかた、わかるかなあ……。でも、まさか、、ぼくが教えるわけにもいかないだろうなあ……」

 と、わたしの後ろでユウがぶつぶつつぶやいていたが、あいかわらず何を言っているのかさっぱりわからないので、無視することにして、わたしはジーナの後について、●▲の部屋にはいっていったのだ。

 そして、しばらくの後……

「うひゃああああ!!」
「なにこれーっ!!」

 ユウの予想通り、ジーナとわたしの叫びが、エルランディア・ステーションに響き渡ったのだった。

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