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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編
<幕間> 野営の夜に (御者ウォリスの話)
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わたしの名は、ケント・ウォリス。
わたしは、御者を生業としてきました。
ちいさな子供のころから、馬を友として育ってきたので、馬の扱いにかけては、それなりのものと自負しています。
しかし、御者というのは、しがない雇われ商いで、身入りは少ないのです。
妻子にもいい生活をさせてやることは難しい、毎日の暮らしの費用をかせぐだけで、汲々としてきました。
そして、いまはこんなふうな、雇われの仕事をしているが、わたしだっていつかは、自分の馬と馬車をもち、自前で商いをしたいものだと、ずっと思っていました。
そんなわたしに、思いがけない幸運が訪れました。
辺境と王都を回る、キャラバン隊で、御者をやらないかという話でした。
ふつうなら、こんな話はわたしのところになんか来ない。
ところが、わたしの町までやってきたところで、そのキャラバン隊の御者が一人、落馬して大怪我を負ってしまったのだそうです。それで、きゅうきょ、御者の募集があると言うのです。
幌馬車六台と、人を乗せる馬車二台からなる、大規模なキャラバンでした。
キャラバンの主宰は、あのシュバルツ兄弟商会で、その副会頭のレオ・シュバルツ氏が、じきじきに隊を指揮しているとのこと。
「なるほど、あなたは、いつかは自前の馬と馬車で、と夢をお持ちなのですね!」
シュバルツ氏は、かっぷくのいい、人の良さそうな方でした。話しやすい雰囲気だったためか、面接でわたしが、自分の積年の願いを、ふともらしたところ、深くうなずき、
「わたしたちのシュバルツ兄弟商会も、はじまりのころは、それはね……」
と、遠い目をすると
「いいじゃないですか、ウォリスさん。その意気やよし! ぜひ、わたしたちと一緒に、来てもらえますか?」
と、採用を決めてくださったのです。
シュバルツ氏から提示されたのは、びっくりするような高い報酬で、この仕事をぶじこなせれば、長年の夢に手が届きそうです。
ただ、問題は、その期間でした。
最終目的地は王都ですが、王都にたどり着くまでに、最低でも一年半はかかると言うのです。
もちろん、それは行程が順調にすすんだ場合で、ひょっとしたら、もっとかかる可能性がある。
その間は、もちろん、家族にも会えない。
また、たくさんの貴重な商品を積んで、辺境を旅するわけだから、当然ながら、盗賊におそわれる危険もある。
それ以外にも、なんらかの事故に巻き込まれる可能性もある。
いい条件には、それなりの危険が伴うのは当然のことです。
わたしは、妻に、正直に状況を話しました。
止められるかな、そう思ったのですが、
「あなたのことは、とても心配だけど……ずっと考えていたことが実現する機会なんでしょう? がんばって」
妻はこころよく、わたしを送り出してくれました。
「お父さん、がんばれ」
幼い娘も、そう言って応援してくれたのです。
さいわい、キャラバンのメンバーは、いい人ばかりでした。
旅の危険は大きいので、当然ながら、シュバルツ氏は護衛を何人もやとっていました。
護衛のリーダーは、冒険者パーティ「月下の黒豹」の、リベルタスさんと言う大男で、顔にはすごい傷跡もあって、こわもての印象でしたが、わたしが恐る恐る挨拶すると、
「ああ、シュバルツさんから聞いてるよ。あんた、いい腕なんだってね。まあ、よろしく頼むわ。盗賊や魔物は、こちらが片づけるからな!」
と、きさくに握手をもとめてきました。
わたしは、毎日、キャラバンの一員として、馬車を走らせました。
長い旅の間には、それなりに、いろいろなことがあります。
まあ、なんとか無事に毎日をのりきってきました。
たしかに、一度、二度と、盗賊の襲撃もありましたが、凄腕の護衛たちが、あっというまに撃退し、被害はなくすみました。
そうして、あと少しで、王都にたどり着くところまできました。
わたしの契約が終わる日が近づいてきます。
ああ、いよいよ故郷に帰れる。
そうしたら、仕事の報酬を元手に、家族で新しい生活をはじめるんだ。
早く王都に、と、われしらず、気持ちが急いてきたそのときに、事件が起きたのです。
ある日、護衛のパーティの半数が、辞めざるを得なくなったときいてびっくりしました。
せっかく、みなさんとそれなりに親しくなってきたのに。あと、ちょっとなのに。
でも、それでもこの時点でぬけざるをえない、緊急の事情が生じたとのことでした。
このまま王都まで、残りの人員で行ってしまうという手もありましたが、シュバルツ氏は慎重でした。(あとから思えば、そのおかげで、みんなの命がたすかったわけですね)
シュバルツ氏は、すぐに、いちばん近くの冒険者ギルドに依頼をかけ、護衛を補充したのです。
「こいつらが、『雷の女帝のしもべ』です」
冒険者ギルドから推薦された、その冒険者パーティをみたとき、正直、わたしは、「これで、だいじょうぶなのか?」と思ってしまいました。
なにしろ、茫洋とした、とりたてて強そうでもない普通の少年と、小柄な獣人の少女、それから、これも同じくらいの歳の、魔法使いの少女。この見かけで、凶悪な盗賊たちの相手を? 心配するなというほうが、おかしいですよね。
なにかの間違いか、それともいやがらせか、そう思ってしまいます。
この三人がいかにすごいか、ギルドの副マスターという人が力説してましたが、どうにも信じられず、聞き流してしまいました。
シュバルツ氏が連れてきた「暁の刃」というパーティの若い人たちも、なんだか頼りなく、わたしは前途に、暗雲漂うのを感じたのです。
でも、ほんとうに、人を見かけで判断してはいけませんね。
この三人、「雷の女帝のしもべ」は、とんでもない人たちでした。
そして、わたしの命の恩人です。
ユウというその少年の驚くべき知識と力。あれは魔法なんでしょうか、見たことも聞いたこともない、その能力が、盗賊団の恐ろしい武器を一撃で粉砕したのです。
そして、その武器に撃ち抜かれ、血を流し死にかけたわたしを、治癒の魔法で救ってくれたのが、魔法少女でした。
獣人少女についていえば、わたしにはけっして忘れられないことがあって。
それは、なにかって?
盗賊団を粉砕し、明日には王都にたどりつくという、野営の夜。
食事の準備をそろそろはじめようかというころ。
少年がいいました。
「みなさん、たいへんでしたね。おつかれさまです。今夜は、ぼくたちからみなさんに、ごちそうしたいものがあります」
少年はつづけて、
「すみません、調理につかう大鍋をもってきてもらえませんか」
馬車からひとつ、大鍋が運び出されてくると、
「足りないな、ぜんぶもってきてもらえますか?」
いったいなにをはじめるつもりなのか、みんなが不思議がっていると、少年は、ちいさな革袋をとりだし、
「さあ、ライラ、やって」
魔法少女にいいました。
「もう、ユウさん、みんなわたしにふるんだから!」
魔法少女はそういって、ほっぺたをふくらませると、
「火と水と……ごにょごにょ……出でよかれえ!」
なんだかよくわからない魔法を詠唱。
すると、驚いたことに、少年の持っている革袋から、なにかいい匂いのする、どろっとしたスープのようなものが、大鍋に注がれるではありませんか。
しかも、あんな小さな皮袋からどうしてそうなるのか、全く理解できませんが、どんどんどんどん溢れてきて、持ち出されたいくつもの大鍋がすべて、いっぱいになりました。
わたしのうしろで、四人組のパーティの人たちが
「すげぇ……どれだけ出てくるんだよ……やっぱり、規格外のハイレベル収納魔法だ……」
などと言っています。
さらに驚くべきことに、鍋に注がれたその美味しそうな匂いのする液体は、今、作ったばかりのように、ほかほかと、湯気を立てているのです。
「いや、収納魔法としても、あれは、ぜったいにありえない! なんでスープが熱いままなの……」
これはベテランそうな「月下の黒豹」の魔法使いが、愕然とした顔をしています。
「これは、かれえといって、南の国の食べ物です。パンにつけて食べると、とても美味しいですよ。さあ、えんりょなく、召し上がってください」
わたしたちは、歓声をあげて、そのかれえなるものをいただきました。
異国の香りがして、食欲をそそる辛みがなんともいえず、とてもとても美味しかった。
アーダと言う、途中から加わった神官見習いの少女が、魔法少女に
「あれって、静止空間に配置してあったんだよね? だから熱いままなんだよね?」
とささやいていましたが、なんのことかわかりません。
あ、獣人少女のことです。
みんなが、満腹して、ほっとしたころ、獣人少女が、みんなの前に、すっと立ちました。
びっくりしました。
どこから仕入れたのか、獣人少女は、いつもの冒険者の服ではなく、なにか清楚な長衣をきていました。
いつもは化粧気のまったくないその顔には、鮮やかな彩がほどこされ、高貴な雰囲気をたたえています。
その横では、少年が、みたこともないひょうたん型の何かを抱えています。
そして、
「みなさん、おなぐさみに、わたしの歌でも、聞いてください」
少女がいい、
少年が、かかえたひょうたんの上で指を動かすと、
ポロン ボロロン
弦の調べがながれました。
なるほど、あれは楽器らしい。
そして、獣人少女は、ひとつ息を吸い込むと、静かに歌い始めました。
日ごろの言動からは、ちょっと想像がつかない、美しくしみいるような声で。
あの歌でした!
少年が、「峠の我が家」といっていた、あの歌。
いつのまに、歌詞を覚えたのでしょうか。
なにか気高ささえ感じさせる、少女の歌は、切々とながれ、
あまりにこの状況にぴったりで。
「う、ううう……」
「うぉおおおん……」
「ぐぅうぅう……」
「おかあちゃん……」
気づけば、歌をきいたみんなが、号泣しているのでした。
おそらくいちばん涙もろいシュバルツ氏はもちろんのこと、あのいかついリベルタスさんでさえも。
わたしも涙がながれるのを止められません。
「ジーナ、あんた、これはやりすぎだよ……」
わたしのよこで、魔法少女が、呆れた顔でつぶやきました。
あれから歳月が流れ、わたしは今、自分の馬と馬車を持ち、かつて夢見た暮らしをしています。
最近、魔剣使いと魔法使いの二人組の、女性冒険者の活躍を、風の噂で聞きました。
魔法使いの方は、「麗しき雷の女帝」の後継者、「紅の蜘蛛と蛇の魔導師」と呼ばれ、魔剣使いの方は、なぜか「歌う嵐の獣人女王」と呼ばれているそうです。
その二つ名を耳にしたとき、笑ってしまった。
わたしは、あの人たちのことだと確信しています。
わたしは、御者を生業としてきました。
ちいさな子供のころから、馬を友として育ってきたので、馬の扱いにかけては、それなりのものと自負しています。
しかし、御者というのは、しがない雇われ商いで、身入りは少ないのです。
妻子にもいい生活をさせてやることは難しい、毎日の暮らしの費用をかせぐだけで、汲々としてきました。
そして、いまはこんなふうな、雇われの仕事をしているが、わたしだっていつかは、自分の馬と馬車をもち、自前で商いをしたいものだと、ずっと思っていました。
そんなわたしに、思いがけない幸運が訪れました。
辺境と王都を回る、キャラバン隊で、御者をやらないかという話でした。
ふつうなら、こんな話はわたしのところになんか来ない。
ところが、わたしの町までやってきたところで、そのキャラバン隊の御者が一人、落馬して大怪我を負ってしまったのだそうです。それで、きゅうきょ、御者の募集があると言うのです。
幌馬車六台と、人を乗せる馬車二台からなる、大規模なキャラバンでした。
キャラバンの主宰は、あのシュバルツ兄弟商会で、その副会頭のレオ・シュバルツ氏が、じきじきに隊を指揮しているとのこと。
「なるほど、あなたは、いつかは自前の馬と馬車で、と夢をお持ちなのですね!」
シュバルツ氏は、かっぷくのいい、人の良さそうな方でした。話しやすい雰囲気だったためか、面接でわたしが、自分の積年の願いを、ふともらしたところ、深くうなずき、
「わたしたちのシュバルツ兄弟商会も、はじまりのころは、それはね……」
と、遠い目をすると
「いいじゃないですか、ウォリスさん。その意気やよし! ぜひ、わたしたちと一緒に、来てもらえますか?」
と、採用を決めてくださったのです。
シュバルツ氏から提示されたのは、びっくりするような高い報酬で、この仕事をぶじこなせれば、長年の夢に手が届きそうです。
ただ、問題は、その期間でした。
最終目的地は王都ですが、王都にたどり着くまでに、最低でも一年半はかかると言うのです。
もちろん、それは行程が順調にすすんだ場合で、ひょっとしたら、もっとかかる可能性がある。
その間は、もちろん、家族にも会えない。
また、たくさんの貴重な商品を積んで、辺境を旅するわけだから、当然ながら、盗賊におそわれる危険もある。
それ以外にも、なんらかの事故に巻き込まれる可能性もある。
いい条件には、それなりの危険が伴うのは当然のことです。
わたしは、妻に、正直に状況を話しました。
止められるかな、そう思ったのですが、
「あなたのことは、とても心配だけど……ずっと考えていたことが実現する機会なんでしょう? がんばって」
妻はこころよく、わたしを送り出してくれました。
「お父さん、がんばれ」
幼い娘も、そう言って応援してくれたのです。
さいわい、キャラバンのメンバーは、いい人ばかりでした。
旅の危険は大きいので、当然ながら、シュバルツ氏は護衛を何人もやとっていました。
護衛のリーダーは、冒険者パーティ「月下の黒豹」の、リベルタスさんと言う大男で、顔にはすごい傷跡もあって、こわもての印象でしたが、わたしが恐る恐る挨拶すると、
「ああ、シュバルツさんから聞いてるよ。あんた、いい腕なんだってね。まあ、よろしく頼むわ。盗賊や魔物は、こちらが片づけるからな!」
と、きさくに握手をもとめてきました。
わたしは、毎日、キャラバンの一員として、馬車を走らせました。
長い旅の間には、それなりに、いろいろなことがあります。
まあ、なんとか無事に毎日をのりきってきました。
たしかに、一度、二度と、盗賊の襲撃もありましたが、凄腕の護衛たちが、あっというまに撃退し、被害はなくすみました。
そうして、あと少しで、王都にたどり着くところまできました。
わたしの契約が終わる日が近づいてきます。
ああ、いよいよ故郷に帰れる。
そうしたら、仕事の報酬を元手に、家族で新しい生活をはじめるんだ。
早く王都に、と、われしらず、気持ちが急いてきたそのときに、事件が起きたのです。
ある日、護衛のパーティの半数が、辞めざるを得なくなったときいてびっくりしました。
せっかく、みなさんとそれなりに親しくなってきたのに。あと、ちょっとなのに。
でも、それでもこの時点でぬけざるをえない、緊急の事情が生じたとのことでした。
このまま王都まで、残りの人員で行ってしまうという手もありましたが、シュバルツ氏は慎重でした。(あとから思えば、そのおかげで、みんなの命がたすかったわけですね)
シュバルツ氏は、すぐに、いちばん近くの冒険者ギルドに依頼をかけ、護衛を補充したのです。
「こいつらが、『雷の女帝のしもべ』です」
冒険者ギルドから推薦された、その冒険者パーティをみたとき、正直、わたしは、「これで、だいじょうぶなのか?」と思ってしまいました。
なにしろ、茫洋とした、とりたてて強そうでもない普通の少年と、小柄な獣人の少女、それから、これも同じくらいの歳の、魔法使いの少女。この見かけで、凶悪な盗賊たちの相手を? 心配するなというほうが、おかしいですよね。
なにかの間違いか、それともいやがらせか、そう思ってしまいます。
この三人がいかにすごいか、ギルドの副マスターという人が力説してましたが、どうにも信じられず、聞き流してしまいました。
シュバルツ氏が連れてきた「暁の刃」というパーティの若い人たちも、なんだか頼りなく、わたしは前途に、暗雲漂うのを感じたのです。
でも、ほんとうに、人を見かけで判断してはいけませんね。
この三人、「雷の女帝のしもべ」は、とんでもない人たちでした。
そして、わたしの命の恩人です。
ユウというその少年の驚くべき知識と力。あれは魔法なんでしょうか、見たことも聞いたこともない、その能力が、盗賊団の恐ろしい武器を一撃で粉砕したのです。
そして、その武器に撃ち抜かれ、血を流し死にかけたわたしを、治癒の魔法で救ってくれたのが、魔法少女でした。
獣人少女についていえば、わたしにはけっして忘れられないことがあって。
それは、なにかって?
盗賊団を粉砕し、明日には王都にたどりつくという、野営の夜。
食事の準備をそろそろはじめようかというころ。
少年がいいました。
「みなさん、たいへんでしたね。おつかれさまです。今夜は、ぼくたちからみなさんに、ごちそうしたいものがあります」
少年はつづけて、
「すみません、調理につかう大鍋をもってきてもらえませんか」
馬車からひとつ、大鍋が運び出されてくると、
「足りないな、ぜんぶもってきてもらえますか?」
いったいなにをはじめるつもりなのか、みんなが不思議がっていると、少年は、ちいさな革袋をとりだし、
「さあ、ライラ、やって」
魔法少女にいいました。
「もう、ユウさん、みんなわたしにふるんだから!」
魔法少女はそういって、ほっぺたをふくらませると、
「火と水と……ごにょごにょ……出でよかれえ!」
なんだかよくわからない魔法を詠唱。
すると、驚いたことに、少年の持っている革袋から、なにかいい匂いのする、どろっとしたスープのようなものが、大鍋に注がれるではありませんか。
しかも、あんな小さな皮袋からどうしてそうなるのか、全く理解できませんが、どんどんどんどん溢れてきて、持ち出されたいくつもの大鍋がすべて、いっぱいになりました。
わたしのうしろで、四人組のパーティの人たちが
「すげぇ……どれだけ出てくるんだよ……やっぱり、規格外のハイレベル収納魔法だ……」
などと言っています。
さらに驚くべきことに、鍋に注がれたその美味しそうな匂いのする液体は、今、作ったばかりのように、ほかほかと、湯気を立てているのです。
「いや、収納魔法としても、あれは、ぜったいにありえない! なんでスープが熱いままなの……」
これはベテランそうな「月下の黒豹」の魔法使いが、愕然とした顔をしています。
「これは、かれえといって、南の国の食べ物です。パンにつけて食べると、とても美味しいですよ。さあ、えんりょなく、召し上がってください」
わたしたちは、歓声をあげて、そのかれえなるものをいただきました。
異国の香りがして、食欲をそそる辛みがなんともいえず、とてもとても美味しかった。
アーダと言う、途中から加わった神官見習いの少女が、魔法少女に
「あれって、静止空間に配置してあったんだよね? だから熱いままなんだよね?」
とささやいていましたが、なんのことかわかりません。
あ、獣人少女のことです。
みんなが、満腹して、ほっとしたころ、獣人少女が、みんなの前に、すっと立ちました。
びっくりしました。
どこから仕入れたのか、獣人少女は、いつもの冒険者の服ではなく、なにか清楚な長衣をきていました。
いつもは化粧気のまったくないその顔には、鮮やかな彩がほどこされ、高貴な雰囲気をたたえています。
その横では、少年が、みたこともないひょうたん型の何かを抱えています。
そして、
「みなさん、おなぐさみに、わたしの歌でも、聞いてください」
少女がいい、
少年が、かかえたひょうたんの上で指を動かすと、
ポロン ボロロン
弦の調べがながれました。
なるほど、あれは楽器らしい。
そして、獣人少女は、ひとつ息を吸い込むと、静かに歌い始めました。
日ごろの言動からは、ちょっと想像がつかない、美しくしみいるような声で。
あの歌でした!
少年が、「峠の我が家」といっていた、あの歌。
いつのまに、歌詞を覚えたのでしょうか。
なにか気高ささえ感じさせる、少女の歌は、切々とながれ、
あまりにこの状況にぴったりで。
「う、ううう……」
「うぉおおおん……」
「ぐぅうぅう……」
「おかあちゃん……」
気づけば、歌をきいたみんなが、号泣しているのでした。
おそらくいちばん涙もろいシュバルツ氏はもちろんのこと、あのいかついリベルタスさんでさえも。
わたしも涙がながれるのを止められません。
「ジーナ、あんた、これはやりすぎだよ……」
わたしのよこで、魔法少女が、呆れた顔でつぶやきました。
あれから歳月が流れ、わたしは今、自分の馬と馬車を持ち、かつて夢見た暮らしをしています。
最近、魔剣使いと魔法使いの二人組の、女性冒険者の活躍を、風の噂で聞きました。
魔法使いの方は、「麗しき雷の女帝」の後継者、「紅の蜘蛛と蛇の魔導師」と呼ばれ、魔剣使いの方は、なぜか「歌う嵐の獣人女王」と呼ばれているそうです。
その二つ名を耳にしたとき、笑ってしまった。
わたしは、あの人たちのことだと確信しています。
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