アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

わたしたちは、極上の眠りを。

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 ユウがそっと扉をあけると……。

  カン……チン……カン……

 こちらに背を向けたひとりのドワーフが、木の椅子に腰掛け、炉の前の鉄敷にハンマーをふるっているのだが、ハンマーを持ち上げる腕に力はなかった。

 「わからん……うう……なぜだ……うう……」

 ドワーフの、悲痛にうめく声が聞こえてくる。

 「でっ、でた! マクスウェルさんの亡霊が……」

 ジーナが声を上げる。
 その声に気づいたのか、ハンマーをふりあげる手を途中で止め、ドワーフはゆっくりこちらをふりかえった。
 髭面のその顔は、目は血走り、憔悴しきっており、たしかに幽鬼のようではある。
 ドワーフは、わたしたちをみて、吠えるように言った。

 「なんじゃ、お前らは。ひとの仕事場に、かってにはいりおって!」
 「あ、マクスウェルさんですね。ぼくたち、お仕事をお願いしに来たんですよ」

 まったく普通の口調で答えるユウ。どんなときも平常運転だ。

 「ああ?! 仕事だあ?!」

 ドワーフは激昂する。

 「勝手に入ってきて、何を言っておる! 出ていけ! お前らの仕事など受けん!!」
 「生きてるよ、このひと……」

 と、ほっとした声でジーナが言った。

 「なあんだ、生きてるなら、こっちのもんだ」

 いや、なにがこっちのもんだか、さっぱりわからないよジーナ。

 「とにかく、さっさと出て行け!」

 そう怒鳴って、背を向けるマクスウェルさん。

 「せっかく結界を張ったのに、いったいどうやって入ってきたのやら……」

 そこに、

 「マクスウェルの親方、お前、そのざまはいったいどうしたことだ?」

 と太い声が。声はジーナから出ていて、

 「なんだと?」

 くるっと、振り返ったマクスウェルさんに

 「鍛冶師マクスウェル、自分の鍛えた剣も忘れたのか?」
 「なにっ?」

 ジーナの構える魔剣をじっとみて、はっとしたように

 「まさか……お前、イリニスティスか?」
 「そうとも。三百年ぶりだな、マクスウェルの親方」
 「なんと……イリニスティスか……これは驚いた!」

 急に、口調がやさしくなり

 「そうかあ……どうだ、イリニスティス、調子はどうだ、刃こぼれなどはしてないか?」
 「むろんだ。名工マクスウェルが鍛えた我だぞ。どんな魔物だろうと、刃こぼれ一つせずに、真っ二つだ。三百年まえと切れ味はかわっておらぬ」
 「そうか、それは良かった……」
 「いまは、この獣人の娘とともに、あたりに血の雨をふらせておるわ」
 「うれしいぞ、イリニスティスよ。その切れ味、ぞんぶんに発揮してくれ」

 なんと、イリニスティスは、マクスウェルさんの手掛けた刀だったんだ。
 三百年ぶりの再会に、ふたりは和気藹々である。
 ただ、なんかぶっそうな会話になっちゃってるんですが。

 「そっかー、会えてよかったね、おふたりさん」

 とジーナが言う。

 「そういうことだから、マクスウェルさん、あたしらの仕事お願いします」

 なにがそういうことだか、わからないけど。

 「この、ユウのために、エルフのクリスを仕立ててほしいんです」
 「おお、エルフのクリスか! これは大仕事だな」

 職人魂を刺激されて、マクスウェルさんの目に力がこもる。
 しかし、すぐに

 「いや……だめだ、今のわしには……」

 弱気な声になってしまった。

 「大きな仕事をする自信がない……」
 「どうした、マクスウェルの親方、怪我でもしたのか?」

 イリニスティスが心配そうな声で聞く。

 「いや、そうじゃない。体はぴんぴんしとるが、心が……」
 「こころ? どういうことだ」
 「お恥ずかしい話なのだが、じつは……」

 マクスウェルさんは事情を話し始めた。

 わしは、鍛冶にかけては、王都一の腕前と自負しておる。
 わしのことを偏屈だとか、融通が効かないとかいうものもおるが、持てる技巧の限りをつくして、妥協を許さず、すこしでもいいものをつくる、それが職人の誇りというものではないか。
 まあ、わしもときどき、熱くなってやりすぎることが、マレにはあるがな。ごくマレにな。
 とにかく、わしの評判をききつけて、お得意様も多い。
 巨人族も、そうだ。
 知っての通り、巨人族の得意とする武器は、ハンマーだからな。
 あの巨体が、力任せに振り回し、それでも曲がったり壊れたりしないハンマーを作るのは、なかなか難しいものだ。
 わしのハンマーは評判が良くて、ハンマーはマクスウェルの銀のハンマーにかぎる、そんなふうにいってもらえておる。
 そんな巨人族から、また、ハンマーの依頼があった。
 依頼をもってきたのは、ゲイルという名の、女ながらに美丈夫といいたくなるような、巨人族の娘でなあ。見上げるような大きな体、歩くと地面に足跡がめり込むようなどっしりとした重さ、躍動する筋肉、長い金髪、するどい眼差し、気が短そうな物言い、いやー、ほれぼれしたぞ。
 そのゲイルが、ハンマーを作ってくれと言う。それも、太陽王サン・キングとの二つ名をもつ、族長の息子のために、特別なハンマーがほしいというのだ。
 わしは張り切ってなあ、寝食を忘れて、腕をふるったよ。
 とうとう、できあがった。
 われながら、いいできだと思った。
 約束の日に、自信満々に、ゲイルにハンマーを手渡した。
 ゲイルは喜んで、ハンマーをかついで帰って行った。
 なんでも、族長の息子の、正式な後継者としての襲名式が、新しいハンマーのお披露目になるんだそうで、わしも誇らしかったよ。

 ところが——
 それから何日かして、わしが夜なべをしていると、

 「マクスウェル!」

 ゲイルが、猛烈に怒ってやってきたんだ。
 びっくりしてわしが出ていくと

 「みそこなったぞ、マクスウェル! このハンマーは一体なんだ!! いやがらせか?!」

 弁解もできず、というより、なにが問題なのかさっぱりわからない。

 「いや、わしは力の限り、やったぞ」

 かろうじてそう言い返したが、

 「力の限りでこれか! 太陽王に恥をかかせたな! これは返す、もう二度と、わが巨人族はお前には頼まん!!」

 そういうと、ゲイルは、わしの作ったハンマーを扉にたたきつけ、そして去ってしまった。
 なにしろ、巨人族が力任せにハンマーを叩きつけたんだ。
 その衝撃で、我が工房は半壊したよ。
 わしは呆然とした。
 工房などどうでもいいが、あれだけがんばってつくり、名品ができたと思ったのに、このざまだ。
 どう考えてもわからない。
 わしの技に、何かサムシングが足りないのか?
 すっかり自信をなくして、わしは結界をはって閉じこもり、いったいなにがいけなかったのか、自問自答する毎日だったのだよ。

 「悪いが、自分になっとくいく答えがでるまでは、もう仕事はできん……」

 肩をおとすマクスウェルさん。
 マクスウェルさんの前には、今できたばかりの、子供がつかうような小さなハンマーがいくつか。
 わたしたちがそれを見ているのに気づいて、

 「ははは……手遊てすさびだ。悩みながらも、物を作る手は動いてしまうのじゃ。職人のさがじゃな……」

 寂しげにわらうマクスウェルさんであった。

 「おかしいですね、今まではとくに問題なかったんでしょう?」

 わたしはマクスウェルさんに聞いた。

 「うむ、評判はよかったんだがのう」
 「なにか、特別なことをしたとか?」
 「いや……そんなつもりはない。いつもより気合いをいれてやったのは確かだが……」

 ジーナが、マクスウェルさんの目の前にある小さなハンマーを手にして

 「あの、カンチン言う音はこれを……」

 と納得したように言う。

 「ふうん、手遊びとはいえ、これはこれで」

 といって、ユウもそのハンマーを手に取る。

 「うん、バランスもいいし……」

 と、二三度ふってみたが、

 「まてよ……?」
 「どうしたの、ユウ」
 「このハンマーに、こうして」

 ユウは手にしたハンマーに力を働かせて

 「マクスウェルさん、これを持ってみてもらえますか?」
 「ん? それがどうかしたか?」

 マクスウェルさんは、ハンマーを手にして

 「おや?」

 いぶかしげな顔になり

 「あんた、なにかしたのか?」
 「ええ、ちょっと細工を」

 マクスウェルさんは、ハンマーをふったり、指の上でバランスをとったりしていたが

 「これは……あっ!」

 なにか、思いついた顔になった。

 「わしとしたことが、まさか……?」
 「その可能性は高いですよ、マクスウェルさん」
 「「?」」

 わたしとジーナは、置いてけぼりになっている。

 「巨人族の人に、そこを確認したほうがいいですよ」
 「そうだな、そうするよ」
 「あのハンマーをなおせますか?」
 「うむ、できそうだ」

 マクスウェルさんは、希望が湧いてきたようだ。目が輝いている。

 「じゃあ、扉からなかに運んでおきますよ」

 マクスウェルさんは、

 「おお、すまんな」

 と言ってから、不審そうな顔になり

 「おい、運びますって、だれが運ぶのかね。ありゃあ、力持ちのドワーフでも一人ではむずかしいぞ」
 「大丈夫ですよ」

 そういって、ユウが、(重力操作を使い)重さがないかのように(実際、重さはなくなっている)軽々とハンマーを運び入れるのを見て、マクスウェルさんは腰を抜かしそうに驚いていたのだった。

 「ありがとう、ありがとう」

 工房の前でなんども頭を下げるマクスウェルさんと別れ、わたしたちはお宿にもどった。
 そして、豪華なベッドでぐっすり眠るゴールデンスランバーのだった。
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