アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

わたしたちは、手加減する。

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 マクスウェル親方から、「ハンマーを直したので、見にきてもらえないか」と連絡がきたのは、三日後の夜おそくのことだった。
 なにも、こんな夜も更けてから呼び出さなくても、とも思うが、たぶん、あれから不眠不休でとりかかって、できあがったのを一刻もはやく見せたいのだろう。噂通りの、いっこくな職人ぶりである。
 マクスウェル親方の気持ちもわかるので、わたしたちは手早く身支度をして、迎賓館を出た。

 「くれぐれも、御用心を」

 セバスチャン執事が、心配そうにわたしたちを見送る。
 王都とはいえ、夜も更ければ、人通りのない道もある。
 良からぬ目的で闇にまぎれて活動しているものたちも、もちろんいるからだ。
 ジーナは、しかし嬉しそうだ。イリニスティスに手をそえて、

 「うふふ、良からぬやつ、出るといいな!/そうとも! 我のサビにしてくれる」

 などとつぶやいている。
 産みの親の、マクスウェル親方と再開したので、イリニスティスのテンションも高い。
 ちなみに、親方にイリニスティスの名前の由来をきいたところ、古い言葉で「」というような意味らしい。

 「どうだ、ぴったりだろう/いい名をつけてもらった/うははは/うははは」

 と豪快にわらう親方とイリニスティス。わたしにはそのセンスがわからないよ。


 「おっ、出たぞー」

 と、ジーナが鼻をうごめかせた。

 「たしかに、あれはそうだな」

 ユウも静かに言った。
 わたしも気づいた。
 わたしたちの行手、路地が交差している地点で、道の両側、建物の影に隠れるように、強い敵意の気配があった。
 わたしたちを待ち構えている。
 わたしたちは、そしらぬふりで、歩いていく。
 ジーナが、イリニスティスを握り直す。
 ふらりと、角から男が姿を現す。

 「こんな夜更に、ちょっとばかり無用心じゃありやせんかねぇ?」

 月明かりに照らされたその顔は、下卑て、にやにや笑っている。

 「兄さん、そんな可愛いお嬢さんを二人も連れて、さぞやお楽しみで」
 「うん、あたしたちが、かなり可愛いのは確かだけど」

 とジーナが言う。

 その声に、おびえの色がまったくないことに気づき、男はちょっとたじろいだが、

 「ほう、これは元気なお嬢さんだ。なかなか、楽しませてもらえそうだ。
  お兄さん、このわたしにも、ちょっと貸してもらえませんかね?」

 そう男が話している間にも、もうひとり、小柄な男が、闇に紛れてじわりと角から姿をみせた。

 「ふうん……」

 ユウが、これもまた、まったく普通の口調で

 「それはできないな…、なにより、人間はモノじゃないからねえ」
 「はっ、これはまたご立派なことを。獣人は、人間ですかね? 抵抗すると、大怪我をしますよ」

 「ふざけんな!」

 ジーナがイリニスティスを振り上げる。
 その瞬間、

 「いけっ!」

 もうひとりの男が命令を発し、男の足元から、細長い黒い影がいくつも、わたしたちに飛びかかる。

 「むっ!」

 自分にとびかかってきたそれを、ジーナがイリニスティスで打ち払う。
 ユウは、無造作に手で掴む。
 黒い影が、ユウの手首にまきつく。

 「ばかめ、それは毒蛇だ。男には死んでもらう。きれいなお嬢さんは、いただくぜ」

 男たちは勝ち誇る。
 しかし、すぐにその顔は驚きに歪んだ。
 飛びかかってきた蛇たちが、わたしの直前でくるりと向きを変え、逆に、自分たちのほうに、鎌首を持ち上げて、ずるずるとせまってきたからだ。

 「なぜだ! わしの命令は絶対服従の蛇たちが?!」
 「ばかねえ」

 と、ジーナ。

 「この子は、蛇神ヴリトラ様のお気に入り、『紅の蜘蛛と蛇の魔道士』よ。この世の蛇が、なにがあったって、この子に手を出すわけないじゃないの……」
 「そ、そんな……」

 いや、ジーナ、わたし、そんな二つ名ないし。
 あんた、いま作ったでしょ。

 (結果的に、遠い将来、わたしはそう呼ばれることになるのだが。ジーナの直感おそるべし)

 「だが、そっちの若造の方は……」

 そういった蛇使いは、さらに驚愕することになる。
 ユウが、なにごともなく、毒蛇を、ぽいっと放り出したから。

 「悪いね、ぼくには、この世界の毒はいっさい効かないよ。ぼくらのこと、なにも聞いてないのかい、あんたたちの雇い主から」
 「ぐぅっ」

 男たちは、言葉に詰まる。
 ユウは、最初の男に目をやり、淡々と続ける。

 「あんたのさっきのセリフ……獣人が人ではない? くだらない、あの言葉は、どうしても許しがたいな……」
 「ひぃっ」

 ユウの力が発動し、男たちは、

 「ぐわっ!」

 潰されるように、地面に崩れ落ちた。

 「くっ、苦しい…… 」

 じたばたもがこうとするが、強い重力に体を支えることもできない。

 「たっ、たすけて……」

 べきっと音がして、どこかの骨が砕けた。

 「ぎゃあっ!」
 「ユウさん、かなり、怒ってるなあ……」

 ジーナが言う。

 「ジーナ、あんたのためにだよ」
 「うん……」

 「さて」

 と、ユウが男に

 「あんたたちの、雇い主のことを教えてもらおうかな、いや」

 振り返り、

 「教えてもらうまでもなさそうだ」

 この騒ぎのあいだに、十人ほどの、体格の良い黒装束の集団が、路地から現れて、わたしたちを包囲しているのだった。
 顔がわからないように、頭巾で隠しているが、その目は、わたしたちにたいする敵意に燃えている。なんとなく、見覚えのある目をしていた。

 「あなたたちは、ぼくたちのことを、ほんとうによく知らないんですねえ」

 ユウが、そういって立ち上がる。
 黒装束の男たちは、無言で、すっと剣を構える。
 男たちのその動きは揃っており、これは集団でかなり訓練されたものだ。

 「ジーナ、致命傷はだめだよ。手足が取れたり、回復不能もだめ」

 ユウが注意し、

 「ええー? あたし、それじゃ欲求不満なんだけどな」

 ジーナが不平を言う。

 「ライラも、殺さないていどにね」
 「はいっ」

 この会話に、男たちの間に、さらに怒りが膨れ上がるのがわかった。
 そりゃそうだ。
 わたしたちから、あからさまに手加減すると言われているのだから。
 男たちが、いっせいに、一歩踏み出そうとする、その機先を制するように、

 「行くわよイリニスティス!/おう!」

 瞳を黄金に光らせ、瞳孔を全開にしたジーナが、男たちに突進する。

 「神々の怒りよ(ちょっと)天降り来れ、地獄の(ちょっと)雷撃サンダーボルト!」

 わたしも、少し加減した地獄の雷撃を詠唱する。

 「ぐわーっ!」
 「ぎゃあっ!」

 数瞬のあと。
 あっという間に、方がついた。
 路上には、動けなくなった男たちが、呻き声をあげて転がっている。
 この間、ユウはなにもしていない。
 ああ、わたしたちも、強くなったもんだ。

 (「ライラ、慢心はだめ!」どこか遠くから、ぴしりと、そう言う声が聞こえてきたような気がするのですが、たぶん気のせいだと思います)

 「もう、こういうことはやめてくださいね。あなたたちの、に、ぼくらのことをよく聞いておいた方がいいですよ」

 ユウはそう言うと、

 「さ、マクスウェルさんが待ちくたびれてるから、はやく行こうか」

 歩き出した。

 「うん、いこういこう/どうも、血が足りぬなあ。物足りないのう…」
 「イリニスティス、テンション高いなあ」

 わたしたちは、もう、ふりかえりもせずに、マクスウェル工房に向かったのだった。
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