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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編
わたしの首は、落ちるところだった。
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「虹の向こう」の冒険者に、いくつかアドバイスをしてあげて、ちょっと休憩をとったあと(ジーナは「ええー、あたし別に休まなくてもいいけど」などと言っていたが、これをどうぞ、といって渡された飲み物を「あっ、甘くて美味しいね。これなんていう飲み物?」よろこんでごくごく飲んでいた)、次の審査に入る。
「では、次のパーティ『薔薇の嘆き』どうぞ」
ギルド長がいい、闘技場に入場した冒険者をみて
「あっ、あいつら!」
「……あの連中だね」
軽薄そうな剣士と、初老の魔法使い。
ギルドの門前で、わたしたちをバカにしたあの二人だった。
それからあと三人、剣士の腰巾着っぽい感じの男たちが「薔薇の嘆き」の構成員だった。この連中も刀をさしているから、剣士なのかも知れない。剣士四人に魔法使い一人と、あまりバランスのいいパーティではない。
軽薄そうな剣士が、わたしたちの前にくると、いんぎんな礼をしていった。
「ご高名な、『雷の女帝のしもべ』の方々にご指導いただけるとは、たいへん光栄であります。
なにとぞ、お手柔らかにお願いしますね」
白い歯を光らせ、さわやかに笑う。
その声には、うしろめたさのかけらもなく、どちらかというと目を輝かせている。
「あれ?」
とジーナが小声で、わたしにささやく。
「こいつ、あたしらのこと、気づいてないの?」
「それはそうだよ、これは完璧な変装だからね」
ユウが言い、
「そっか、そうだよねー」
ジーナは納得してしまった。
いや、そんなすごい変装とは思えません。
わたしにいたっては、ほぼ変装じゃないですし。
たんに、こいつらが、他人に関心がないだけなのでは……。
「よし、目にもの見せてやるか!」
「ジーナ、腹が立ったからといって、あんまりいじめちゃだめだよ」
「ええー?」
「だって、わたしたちのこと、わかってないわけだし」
そんなことを、わたしたちが、こそこそ話をしていると、
「いやー、女帝の後継者さまの魔法をみせていただけるなんて」
「ほんとうに、わたくしどもは果報者だ」
「なにしろ、『麗しき雷の女帝』直伝の魔法ですからね」
「そうそう、そのあたりのへぼ魔術師の指導とはちがう」
腰巾着三人も、わたしたちにおべっかを使い出した。
ん?
こ、この声……。
聞き覚えがあるぞ!
こいつか、ホールで、ルシア先生のことを田舎のへぼ魔術師って言ったヤツは!!
たちまち闘技場上空に、雷雲がもくもく発生し始めて
「ジーナ……」
「どうしたの、ライラ?」
「手加減、無用。情け容赦、無用」
「えっ? えっ?」
「こいつら、たたきのめすわよ!」
「ライラ、なんかさっきと話が違ってるんだけど?」
「それでは、はじめ!」
というギルド長の言葉と同時に、
「神々の怒りよ天降り来たれ、地獄の雷撃っ!」
わたしの手加減なしの雷魔法が炸裂し、
「「「「「うっぎゃあああ!」」」」」
「地獄の雷撃! 雷撃! サンダーボルトぉーっ!!」
「それまで! それまで! ライラさん! それまでです!」
ギルドの回復魔術師が緊急出動する事態となってしまったのだった。
「さすが、女帝直伝の雷魔法、ではありますが」
ギルド長が、恨みがましい目でわたしを見ながら
「もう少し、相手のレベルをみて、手加減していただけるとありがたいですなあ」
「すみません……つい……かっとなって」
「ライラ、やっぱり君はなんだか……」
ユウが、呆れた顔で言う。
「そんなこと、ありませんよ!」
「ええと、次のパーティは」
ギルド長が手元の羊皮紙に目をやり
「なになに、『狂気山脈』、なんだこりゃ……。まったく聞き覚えがない名前だな。新人なんだろうか……」
と、つぶやいた。
「では、『狂気山脈』のみなさん、どうぞご入場ください」
闘技場に入場してくるパーティ『狂気山脈』をひと目見て、ユウが、
「ライラ、ジーナ、わかるね?」
「「はいっ」」
「ジーナ、その仮面とマント、もう、とっちゃっていいよ。まんいち、じゃまになるといけないから」
そういいながら、ユウもさんぐらすを外した。
わたしは、フレイルを、ぎゅっと握り直す。
『狂気山脈』の構成員だが、まず、巨人族の血でも入っているのか、背の高さがニメイグ以上の巨漢二人、二人とも顔を銀色の仮面で覆っており、表情はうかがいしれない。一人はハンマー、一人は大剣を握っている。
そして巨漢とは対照的に、かなり小柄な二人、フードで顔を隠し、袖の長い服をきて手先を隠しているこの二人からは、暗殺者の臭いがぷんぷんする。
そして、最後の一人。若い男で、ごく普通の体格をしており、とくに手にしている武器もない。属性がつかめない、のっぺりした顔のこの人物が、いちばん危険な予感がする。
じっさい、『狂気山脈』のリーダーはこの若い男のようだ。
「おやまあ、ギルドがどれくらいのものか見物にきてみれば、これはこれは。ま、わたしはこんな青二才なので、あまりひどいことはしないでいただきたいものですな……」
などと言っているが、そのうらで、激しい敵意、いや、これは敵意などではない、突き刺すようなあからさまな「殺意」が、嵐のようにふきつけてくるのだ。
「狂気山脈」。
ここにいる、他の冒険者たちとは明らかに異質。
この連中は、最初から、まともに実技審査など受けるつもりはなさそうだ。
あるのは、ただ、殺戮と破壊の意思のみ。
かたときも、油断できないのは明らかだ。
その危険な雰囲気を感じたのだろう。
会場もしんと静まりかえってしまった。
(やりますか? やめますか?)
ギルド長も、「狂気山脈」に異常を感じたのだろう、視線でわたしたちに、続行するか確認してくる。
(やりますよ)
と、ユウがうなずき、ギルド長はひといき、息をつくと、
「それでは、実技審査、はじめ!」
と開始の言葉を発した。
その瞬間。
ユウの力に動かされ、わたしのフレイルが、ぐいっと位置を変え、
ガイン!!
フレイルに激しい衝撃が来た!
フレイルに今、食い込んで止まったのは、円周上に鋭い刃をもつ、輪の形をしたチャクラムという武器だった。チャクラムの食いこんだ位置は、まさに、わたしの首のま後ろで、フレイルで防がなければ、わたしの首は、確実に落ちていた。
この連中は、最初から、躊躇なく、わたしたちの命を狙ってきているのだ。
投げたのは、小柄な二人。
やはり、この二人は暗殺者だ。
それも、そうとうな手練れだ。
袖に隠していたチャクラムを、開始と同時に、死角から当たるように投擲したのだ。
チャクラムは、ユウにも投げられたが、
「なるほど、そういうつもりか」
ユウはこともなげに、そのチャクラムを人差し指でとらえ、そのままくるくるまわして、相手に投げ返した。
「!」
暗殺者がぱっとそれをよける。しかし、かわしきれず、革の鎧の脇腹部分が、ざくりと裂けた。
鮮血がしたたるが、暗殺者は気にしたそぶりもない。
次の攻撃に入ろうとする。
「あなたたち、ちょっと待ちなさい!!」
ギルド長が制止の声をあげるが、「狂気山脈」には、従うつもりなどまったくない。
「「うおおおおおお!」」
巨漢のふたりが雄叫びを上げて突進し、ジーナに襲いかかる。
ハンマーがうなりを立てて、ジーナを叩き潰そうと振り下ろされる。
「おっと」
ジーナが横っ飛びによける。
しかし、動きは読まれていて、避けた場所に、もう一人の大剣がするどく突き出される。
危ない!
その瞬間、ユウの力が、ぐいっとジーナを引き寄せ、大剣の切っ先はすんでのところで、ジーナの鼻先を通過する。
「ありがとう、ユウさん!」
ジーナの目が黄金色に光り、瞳孔が全開になり
「ゆくぞイリニスティス!/おう、獣人族の力を見よ!」
ジーナとイリニスティスが、とぶように二人の巨漢の間に走り込むと、
ズバッ! ズバッ! ズバッ!
イリニスティスの刃が閃光のように、なんども巨漢を切り裂く!
「来る!」
その間に、地を這うように影に隠れて接近してきた暗殺者二人が、シカ(暗殺剣)をすくい上げるように振るいながら、わたしとユウに襲いかかる。
だが、その瞬間に発生した、闘技場を隙間なく覆い尽くすほどの、紫色の壮絶な雷撃が、
ズドドドゥン!
飛びかかる二人を、容赦なく地上にたたき落とした!
「ぐぇえっ!」
バチバチとはじける音、ものの焦げる匂いが充満する。
わたしの放った雷魔法、究極の雷嵐、かつ無詠唱である。
「なっ、最上級雷魔法の雷嵐を、無詠唱?」
信じられないものをみた、と観客の魔法使いは腰をぬかす。
いや、ここは無詠唱でないと間に合いませんから。
雷嵐にたたき落とされた暗殺者は、白目をむき、ひくひくと痙攣して倒れている。
ジーナの前では、足の腱と腕の腱を切断された巨漢が、武器も持てず、膝をついて呆然としている。
「ほほう、さすがは『雷の女帝のしもべ』だ。
わたしの配下が、あっさりやられましたか……。
しかし、これならどうでしょうね」
残された男は、懐から黒い小さなものをとりだすと、
「アンバランサー、なんとかしてみなさい、できるものならね」
にやりとわらい、わたしたちの前に、放り出した。
それは、三角形をたくさん組み合わせて作られた立体であったが、飛んできて、わたしたちの目の前にうかぶと、その三角の外面が、パタリ、パタリと開いていく。
単純にそのものだけが開いていくのではなく、その奥では、なにかもっと別のものが開いていく感覚があり、
「むっ、古代兵器か?」
ユウがつぶやく。
「いけない、ライラ、ジーナ、ぼくにつかまれ!」
ユウが声をあげ、わたしたちはユウにしがみつく。
立体が開ききったそこには、暗黒の空間が見えた。
その暗黒の中には、キラリ、キラリと星のように輝くものがある。
「うわっ、これって、エルフの禁呪のあれ?」
ジーナが声をあげる。
「いや、あれとは違う。これは、ただのうちゅうくうかんだと思う、だけど」
ユウがわたしとジーナを、しっかりと抱きよせ、
「気をつけるんだ、真空に向かって吸いこまれる」
暗黒に向かって、ごうっと風が吹いた。
闘技場の土が、浮かび上がり、竜巻に巻かれたように吸いこまれていく。
倒れていた暗殺者二人も、ごろごろ転がりながら吸いこまれていった。
「うぉおお!」
巨漢の二人も、あらがっていたが、とうとう暗黒にひきこまれ、ぐるぐる回転しながら遠ざかる。
闘技場はもはや大混乱だ。
「うわぁああ!」
「なんだこれは?」
「助けてくれ!」
冒険者たちは、あるものは必死で逃げ、あるものは手すりや、椅子にしがみついて耐える。
「はははは、なんとかしないと、ここにあるものは、すべてなくなってしまいますよ」
「待てっ!」
ユウが叫ぶが、男は、笑い声をのこし、その混乱の中を走り去る。
わたしの髪が、暗黒に向けてなびいている。
なんだか、だんだん息苦しくなってきた。
ジーナも苦しそうな顔をしている。
「空気が吸いこまれて、薄くなっているんだ。はやく塞がないと!」
ユウが、力を集中する!
「むうっ!」
ユウの力が、空間にみちて、暗黒を包みこみ、パタリ、パタリと、あのときのように、黒い面を閉じていった。
ボトリ…。
やがて完全に閉じて、元通りとなった黒い多面体は、斜めになって地面に落下、転がった。
風はやんだ。
闘技場の土はひきはがされ、そして、「狂気山脈」のものたちは、もはやだれもいない。
四人は暗黒に吸いこまれ、おそらく、もう生きてはいない。
のっぺり男は、混乱に乗じてまんまと逃げ去った。
「ふう……」
ユウは、その多面体を手に取った。
「やはり、これは、古代兵器だとおもうな……ということは、あの男は?」
「みなさーん、ごぶじですかぁー?」
ギルド長が、大声をだして駆けよってきた。
「では、次のパーティ『薔薇の嘆き』どうぞ」
ギルド長がいい、闘技場に入場した冒険者をみて
「あっ、あいつら!」
「……あの連中だね」
軽薄そうな剣士と、初老の魔法使い。
ギルドの門前で、わたしたちをバカにしたあの二人だった。
それからあと三人、剣士の腰巾着っぽい感じの男たちが「薔薇の嘆き」の構成員だった。この連中も刀をさしているから、剣士なのかも知れない。剣士四人に魔法使い一人と、あまりバランスのいいパーティではない。
軽薄そうな剣士が、わたしたちの前にくると、いんぎんな礼をしていった。
「ご高名な、『雷の女帝のしもべ』の方々にご指導いただけるとは、たいへん光栄であります。
なにとぞ、お手柔らかにお願いしますね」
白い歯を光らせ、さわやかに笑う。
その声には、うしろめたさのかけらもなく、どちらかというと目を輝かせている。
「あれ?」
とジーナが小声で、わたしにささやく。
「こいつ、あたしらのこと、気づいてないの?」
「それはそうだよ、これは完璧な変装だからね」
ユウが言い、
「そっか、そうだよねー」
ジーナは納得してしまった。
いや、そんなすごい変装とは思えません。
わたしにいたっては、ほぼ変装じゃないですし。
たんに、こいつらが、他人に関心がないだけなのでは……。
「よし、目にもの見せてやるか!」
「ジーナ、腹が立ったからといって、あんまりいじめちゃだめだよ」
「ええー?」
「だって、わたしたちのこと、わかってないわけだし」
そんなことを、わたしたちが、こそこそ話をしていると、
「いやー、女帝の後継者さまの魔法をみせていただけるなんて」
「ほんとうに、わたくしどもは果報者だ」
「なにしろ、『麗しき雷の女帝』直伝の魔法ですからね」
「そうそう、そのあたりのへぼ魔術師の指導とはちがう」
腰巾着三人も、わたしたちにおべっかを使い出した。
ん?
こ、この声……。
聞き覚えがあるぞ!
こいつか、ホールで、ルシア先生のことを田舎のへぼ魔術師って言ったヤツは!!
たちまち闘技場上空に、雷雲がもくもく発生し始めて
「ジーナ……」
「どうしたの、ライラ?」
「手加減、無用。情け容赦、無用」
「えっ? えっ?」
「こいつら、たたきのめすわよ!」
「ライラ、なんかさっきと話が違ってるんだけど?」
「それでは、はじめ!」
というギルド長の言葉と同時に、
「神々の怒りよ天降り来たれ、地獄の雷撃っ!」
わたしの手加減なしの雷魔法が炸裂し、
「「「「「うっぎゃあああ!」」」」」
「地獄の雷撃! 雷撃! サンダーボルトぉーっ!!」
「それまで! それまで! ライラさん! それまでです!」
ギルドの回復魔術師が緊急出動する事態となってしまったのだった。
「さすが、女帝直伝の雷魔法、ではありますが」
ギルド長が、恨みがましい目でわたしを見ながら
「もう少し、相手のレベルをみて、手加減していただけるとありがたいですなあ」
「すみません……つい……かっとなって」
「ライラ、やっぱり君はなんだか……」
ユウが、呆れた顔で言う。
「そんなこと、ありませんよ!」
「ええと、次のパーティは」
ギルド長が手元の羊皮紙に目をやり
「なになに、『狂気山脈』、なんだこりゃ……。まったく聞き覚えがない名前だな。新人なんだろうか……」
と、つぶやいた。
「では、『狂気山脈』のみなさん、どうぞご入場ください」
闘技場に入場してくるパーティ『狂気山脈』をひと目見て、ユウが、
「ライラ、ジーナ、わかるね?」
「「はいっ」」
「ジーナ、その仮面とマント、もう、とっちゃっていいよ。まんいち、じゃまになるといけないから」
そういいながら、ユウもさんぐらすを外した。
わたしは、フレイルを、ぎゅっと握り直す。
『狂気山脈』の構成員だが、まず、巨人族の血でも入っているのか、背の高さがニメイグ以上の巨漢二人、二人とも顔を銀色の仮面で覆っており、表情はうかがいしれない。一人はハンマー、一人は大剣を握っている。
そして巨漢とは対照的に、かなり小柄な二人、フードで顔を隠し、袖の長い服をきて手先を隠しているこの二人からは、暗殺者の臭いがぷんぷんする。
そして、最後の一人。若い男で、ごく普通の体格をしており、とくに手にしている武器もない。属性がつかめない、のっぺりした顔のこの人物が、いちばん危険な予感がする。
じっさい、『狂気山脈』のリーダーはこの若い男のようだ。
「おやまあ、ギルドがどれくらいのものか見物にきてみれば、これはこれは。ま、わたしはこんな青二才なので、あまりひどいことはしないでいただきたいものですな……」
などと言っているが、そのうらで、激しい敵意、いや、これは敵意などではない、突き刺すようなあからさまな「殺意」が、嵐のようにふきつけてくるのだ。
「狂気山脈」。
ここにいる、他の冒険者たちとは明らかに異質。
この連中は、最初から、まともに実技審査など受けるつもりはなさそうだ。
あるのは、ただ、殺戮と破壊の意思のみ。
かたときも、油断できないのは明らかだ。
その危険な雰囲気を感じたのだろう。
会場もしんと静まりかえってしまった。
(やりますか? やめますか?)
ギルド長も、「狂気山脈」に異常を感じたのだろう、視線でわたしたちに、続行するか確認してくる。
(やりますよ)
と、ユウがうなずき、ギルド長はひといき、息をつくと、
「それでは、実技審査、はじめ!」
と開始の言葉を発した。
その瞬間。
ユウの力に動かされ、わたしのフレイルが、ぐいっと位置を変え、
ガイン!!
フレイルに激しい衝撃が来た!
フレイルに今、食い込んで止まったのは、円周上に鋭い刃をもつ、輪の形をしたチャクラムという武器だった。チャクラムの食いこんだ位置は、まさに、わたしの首のま後ろで、フレイルで防がなければ、わたしの首は、確実に落ちていた。
この連中は、最初から、躊躇なく、わたしたちの命を狙ってきているのだ。
投げたのは、小柄な二人。
やはり、この二人は暗殺者だ。
それも、そうとうな手練れだ。
袖に隠していたチャクラムを、開始と同時に、死角から当たるように投擲したのだ。
チャクラムは、ユウにも投げられたが、
「なるほど、そういうつもりか」
ユウはこともなげに、そのチャクラムを人差し指でとらえ、そのままくるくるまわして、相手に投げ返した。
「!」
暗殺者がぱっとそれをよける。しかし、かわしきれず、革の鎧の脇腹部分が、ざくりと裂けた。
鮮血がしたたるが、暗殺者は気にしたそぶりもない。
次の攻撃に入ろうとする。
「あなたたち、ちょっと待ちなさい!!」
ギルド長が制止の声をあげるが、「狂気山脈」には、従うつもりなどまったくない。
「「うおおおおおお!」」
巨漢のふたりが雄叫びを上げて突進し、ジーナに襲いかかる。
ハンマーがうなりを立てて、ジーナを叩き潰そうと振り下ろされる。
「おっと」
ジーナが横っ飛びによける。
しかし、動きは読まれていて、避けた場所に、もう一人の大剣がするどく突き出される。
危ない!
その瞬間、ユウの力が、ぐいっとジーナを引き寄せ、大剣の切っ先はすんでのところで、ジーナの鼻先を通過する。
「ありがとう、ユウさん!」
ジーナの目が黄金色に光り、瞳孔が全開になり
「ゆくぞイリニスティス!/おう、獣人族の力を見よ!」
ジーナとイリニスティスが、とぶように二人の巨漢の間に走り込むと、
ズバッ! ズバッ! ズバッ!
イリニスティスの刃が閃光のように、なんども巨漢を切り裂く!
「来る!」
その間に、地を這うように影に隠れて接近してきた暗殺者二人が、シカ(暗殺剣)をすくい上げるように振るいながら、わたしとユウに襲いかかる。
だが、その瞬間に発生した、闘技場を隙間なく覆い尽くすほどの、紫色の壮絶な雷撃が、
ズドドドゥン!
飛びかかる二人を、容赦なく地上にたたき落とした!
「ぐぇえっ!」
バチバチとはじける音、ものの焦げる匂いが充満する。
わたしの放った雷魔法、究極の雷嵐、かつ無詠唱である。
「なっ、最上級雷魔法の雷嵐を、無詠唱?」
信じられないものをみた、と観客の魔法使いは腰をぬかす。
いや、ここは無詠唱でないと間に合いませんから。
雷嵐にたたき落とされた暗殺者は、白目をむき、ひくひくと痙攣して倒れている。
ジーナの前では、足の腱と腕の腱を切断された巨漢が、武器も持てず、膝をついて呆然としている。
「ほほう、さすがは『雷の女帝のしもべ』だ。
わたしの配下が、あっさりやられましたか……。
しかし、これならどうでしょうね」
残された男は、懐から黒い小さなものをとりだすと、
「アンバランサー、なんとかしてみなさい、できるものならね」
にやりとわらい、わたしたちの前に、放り出した。
それは、三角形をたくさん組み合わせて作られた立体であったが、飛んできて、わたしたちの目の前にうかぶと、その三角の外面が、パタリ、パタリと開いていく。
単純にそのものだけが開いていくのではなく、その奥では、なにかもっと別のものが開いていく感覚があり、
「むっ、古代兵器か?」
ユウがつぶやく。
「いけない、ライラ、ジーナ、ぼくにつかまれ!」
ユウが声をあげ、わたしたちはユウにしがみつく。
立体が開ききったそこには、暗黒の空間が見えた。
その暗黒の中には、キラリ、キラリと星のように輝くものがある。
「うわっ、これって、エルフの禁呪のあれ?」
ジーナが声をあげる。
「いや、あれとは違う。これは、ただのうちゅうくうかんだと思う、だけど」
ユウがわたしとジーナを、しっかりと抱きよせ、
「気をつけるんだ、真空に向かって吸いこまれる」
暗黒に向かって、ごうっと風が吹いた。
闘技場の土が、浮かび上がり、竜巻に巻かれたように吸いこまれていく。
倒れていた暗殺者二人も、ごろごろ転がりながら吸いこまれていった。
「うぉおお!」
巨漢の二人も、あらがっていたが、とうとう暗黒にひきこまれ、ぐるぐる回転しながら遠ざかる。
闘技場はもはや大混乱だ。
「うわぁああ!」
「なんだこれは?」
「助けてくれ!」
冒険者たちは、あるものは必死で逃げ、あるものは手すりや、椅子にしがみついて耐える。
「はははは、なんとかしないと、ここにあるものは、すべてなくなってしまいますよ」
「待てっ!」
ユウが叫ぶが、男は、笑い声をのこし、その混乱の中を走り去る。
わたしの髪が、暗黒に向けてなびいている。
なんだか、だんだん息苦しくなってきた。
ジーナも苦しそうな顔をしている。
「空気が吸いこまれて、薄くなっているんだ。はやく塞がないと!」
ユウが、力を集中する!
「むうっ!」
ユウの力が、空間にみちて、暗黒を包みこみ、パタリ、パタリと、あのときのように、黒い面を閉じていった。
ボトリ…。
やがて完全に閉じて、元通りとなった黒い多面体は、斜めになって地面に落下、転がった。
風はやんだ。
闘技場の土はひきはがされ、そして、「狂気山脈」のものたちは、もはやだれもいない。
四人は暗黒に吸いこまれ、おそらく、もう生きてはいない。
のっぺり男は、混乱に乗じてまんまと逃げ去った。
「ふう……」
ユウは、その多面体を手に取った。
「やはり、これは、古代兵器だとおもうな……ということは、あの男は?」
「みなさーん、ごぶじですかぁー?」
ギルド長が、大声をだして駆けよってきた。
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美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
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エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
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四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
聖女じゃない私の奇跡
あんど もあ
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田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。
だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。
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