アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

文字の大きさ
33 / 69
アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

月光のもと、ジーナの歌声がひびく。

しおりを挟む
 望月が、煌々と夜の砂漠を照らしている。
 見渡す限り広がる砂。
 月光が、砂丘に鮮やかな影を作る。
 砂虫は、今、体のほとんどを砂に潜らせ、休息している。
 夜は更けて、乗員はみな眠りについている。
 おそらく、この時刻に二号艇で起きているのは、わたしたちだけだろう。
 わたしたち『獣人女王の歌声』は、船体上部にある見張り塔にて、当直の任務に当たっているのだった。
 砂漠地帯の夜は冷える。日に照らされる昼間との温度差が激しい。
 わたしは、毛布をからだにまきつけて寒さをしのいでいる。
 ジーナは、いつもどおり。獣人族の体質なのか、寒さには強い。
 ユウも、あまり寒さを感じているそぶりはない。
 手すりに両手をのせ、景色をたのしんでいるようすだ。
 月は、中天に、静かに輝いている。
 月と言えば、ミネーヴァ様の妹、アーテミス様が月に行ったという話だったけど。
 いったい、どんなところなんだろうか。
 アーテミス様は、まだ月にいらっしゃるのだろうか。
 わたしは、毛布にくるまって、そんなことを、ぼんやり考えた。

 (このときは、まさか、その月にわたしたちが行くことになるなんて、思いもしなかったのだけれど)

  んんんー んんんんー

 ユウが、鼻歌をうたった。

 「あっ、その歌知っている!」

 とジーナが言う。

 「えっ?」

 ユウが驚いた。

 「ジーナ、知ってるの?」
 「うん、獣人族では有名な歌だよ」

 どこかでいちど聞いたような会話だ。

 「えーっ? どうなってるのかなあ、獣人族って。なんで、ぼくの世界の歌が、いつも獣人族に……、それで、この歌は、獣人族ではどんな歌なの?」
 「こどもが生まれたときに、みんなでお祝いする歌だよ」

 そして、ジーナは歌った。

 「よろこべ おどれ 同胞よ われらの仲間がこの世界に
  幾多の苦難あれども この世は 生きる価値あり……」

 「うーん、いい歌詞だ。獣人族すごいなあ、尊敬するなあ」

 ユウが感心している。

 「それで、ユウさんの世界ではこの歌はどうなってるの?」
 「月の沙漠って歌なんだ」
 「月のさばく? 月にさばくがあるの?」
 「うーん、月にある砂漠ってことじゃなくて、月にてらされた砂漠ってことだね、こんな歌詞だよ」

 そして、ユウは「月の沙漠」を歌った。

 「ふうん、なんかきれいで切ないね。獣人族の歌詞とはちがうけど。よし、これも覚えよう!」

 ジーナは、さっそくユウから歌詞を教わり、月明かりのタマルカン=ロウランド砂漠に、切々と「月の沙漠」を歌う、ジーナの歌声が流れて、夜は更けていくのだった。

 (ちなみに、他の艇の見張りをつとめていた冒険者が、ジーナの歌声を聞いていたようで、冒険者の間で、「謎の歌声をきいたぞ! 砂漠の魔物か?」と噂になったようである)


 砂虫は順調に砂漠を進んだ。
 盗賊らの襲撃もない。
 まあ、よく考えればそれも当然で、どうせ襲撃するなら、発掘が行われ、古代遺跡の宝が地下からとりだされてからの方が、効率が良いに決まっている。
 襲撃があるとすれば、復路であろう。
 なにごとも起こらず、砂漠を進むこと三日。

 「あれだ!」

 前方、砂漠の中に、そこだけ水で満たされたかのようにキラキラと光る一角。
「絶望の湖」である。
 たしかに、遠目からは湖にしか見えない。
 砂虫は、絶望の湖からだいぶ離れた地点で停止した。

 「どうしてこんな遠くで止まるんだ?」

 冒険者の一人がいぶかしげに言った。

 「砂虫は、これ以上は、どうやってもあそこに近づこうとしないんだ。無理に近づけようとすると、恐慌状態になって暴れ、手が付けられなくなるらしいぞ」

 リベルタスさんが答えている。

 「だから、ここからは、降りて歩いていくしかないんだ」
 「砂漠のなかを、荷物を抱えて、三キラメイグも歩くのか……」

 さっきの冒険者が、げんなりした声で言った。

 乗員と荷物を下ろしおわると、砂虫は、そそくさと離れていく。
 よほど「絶望の湖」に近づきたくないのだろう。
 砂漠の民としては、それでも荷物を運ぶ苦労を考えて、限界まで砂虫を近づけてくれたようだ。用がすんだら、砂虫が落ち着く距離まで離れていくが、ほとんどその巨体がみえなくなるほど遠ざかってしまった。
 わたしたちは、照りつける陽ざしのなかを、荷物を運びながら、絶望の湖に接近する。
 ユウの力なら、わたしたちの荷物はおろか、調査隊の荷物をすべて運ぶことなど、かんたんなことなのだろうが、それをしたら一発でわたしたちの存在がばれる。
 わたしたちも、みんなに交じって、荷物を背負い歩いていく。
 ただ、特に重たい荷物はにしまい、背負う袋には、さらにユウが重力操作をしているので、わたしたち三人の負担は、実はそうない。
 汗だくになって、ふうふういっている周りのひとたちに、なんだか、もうしわけない気持ちになるのだけれど。
 ジーナは、あまりに軽々と歩き、ぴょんぴょんはねるものだから

 「おお? 獣人族の体力すげえな」

 などと感心されている。
 だから、目立ったらだめだっていってるのに!


 絶望の湖にたどりついた。
 つるつるの、陽ざしをギラギラ反射するまっ平らな土地である。
 地面は、溶けて固まったようで、一枚の板のように一体となっている。

 「うーん、? が、ここで発着でもしたのかな?」

 ユウが例によってわけのわからないことをつぶやく。

 「となると、どこかに、管制塔があったかもしれないな……」

 あたりをみまわしている。

 「おっ、あれか?」

 ユウの視線を追うと、まっ平らな土地の外れに、なにかが崩れて積み重なったような小山がみえた。それも、いちど溶けたかのように、ぐにゃりと歪んでいた。

 「ここに、設営する」

 指揮官から指示が下る。
 絶望の湖のわきの砂漠に、調査団の設営が始まる。
 絶望の湖の内部には、日中の暑さを考えたら設営は無理である。
 設営は、中心に調査団の施設が位置し、それを守るように、円を描いて冒険者パーティが配置されている。
 指令部、荷物置き場、糧食部、テントを連ねた居住区などが、団員と人足によって、てきぱきと組み立てられていく。
 冒険者たちも、自分たちのテントをそれぞれが自前で張っていく。
 ようやく設営がおわったころには、もう日が暮れかかっていた。

 「みんな、ごくろう。発掘は明日からだ。今日は休んでくれ。ただし、警戒は怠るな」

 と伝令がやってきた。

 その夜。
 わたしが、夜中にふと目が覚めると、ユウがハンモックにいなかった。
 ジーナは爆睡中だ。
 そっとハンモックをおり、外に出てみる。
 ユウがテントの前に立っている。

 「ユウさん?」

 近づいて、声をかける。

 「しっ、あれをみてごらん」

 ユウが指さす。
 はるか、向こう。
 砂丘の上で、なにかがきらりと赤く光った。

 「ライラにも、もっとよく見えるようにするよ」

 ユウがわたしの肩に触れ

 「あっ、光の筋が……」

 ユウがその力をわたしに及ぼし、わたしの視覚が変化した結果、わたしにも、それが見えた。
 はるか砂丘の向こうから、赤い光が筋となって直進し、わたしたちの頭上、とても高いところに向かい、そこにある何かから反射して、設営地の中心付近に向かって伸びていた。

 「攻撃ですか? 調査団に……」

 わたしは緊張してささやいた。

 「たぶん、ちがう」

 ユウは首を振った。

 「あれは、なにかの通信だ。連絡を取っているんだろう」
 「えっ、ということは……」
 「そう、調査団の中に、外部と連絡をとっているものがいる。しかも、あれはおそらく、を使った通信だ。古代文明の遺物を使っているんだ」
 「それって」
 「うん、油断はならないね。やはり、何かのたくらみがある。それもかなり大掛かりな……」

 赤い光は、やがて消えた。

 「気を付けよう、今回の発掘、かならず何かが起こる」

 わたしは、ぶるっと震えたが、それは砂漠の夜の寒さのせいだけではなかった。
 わたしたちは、そっとテントに戻った。
 ジーナはあいかわらず爆睡中で

 「てやぁあああああ……」

 なにごとか寝言を言っていた。
 夢の中で、悪者をなぎ倒しているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...