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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナが、不満げな顔をする。

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 日が昇り、遺跡の調査が始まった。
 砂漠の強い日ざしが、結晶化した大地に降り注ぐ。
 真っ平らな大地はギラギラ光り、そのまぶしさは直視できないほどだ。
 調査員が向かったのは、やはり、昨日ユウが「かんせいとう」ではないかと指摘した場所だった。
 崩れた小山のまわりに、調査員たちが集まっている。
 その中には、マリア院長もいれば、例の、のっぺり顔の四人もいる。
 わたしたち護衛の冒険者は、現時点ではとりたてて必要とされないため、当番で配置された見張り以外は自由行動だが、こんな場所ではなにをすることもなく、みな手持ち無沙汰だ。
 珍しがって、あたりを歩き回る冒険者もいるが、単調な場所で、すぐに飽きてしまう。
 さっさとテントに入って寝てしまうものもいる。
 車座になって、ばか話に興じているものたちもいる。
 わたしたちは、離れた位置から、マリア院長の様子をうかがっていた。

 「今回の発掘、かならず何かが起こる」

 昨日のユウの言葉が頭に浮かぶ。
 調査隊員は、みるところ、苦戦しているようだ。
 何人かは、小山にのぼり、つるはしを振るっている。
 カーン、カーンという鋭い音がひびくが、小山はびくともしない。
 小山のふもとで、土台を掘り起こそうとしている隊員たちもいるが、こちらも、まったく刃が立たない。
 汗だくになっての奮闘がつづく。
 とうとう、マリア院長がなにか叫んで、隊員たちは作業をやめた。
 いったん、その場から撤退する。

 「どうするつもりかな……」

 続いて、前に出てきたのは、遺跡院の制服を着ているが、杖をもっており、これは魔法使いと思われる者たちだ。
 案の定、詠唱が始まり、炎球ファイアボールが発生、土台に次々に打ち当てられる。
 すかさず次の詠唱。今度は、氷の槍アイスジャベリンが作られて、同じ場所に打ち当たる。

 「なるほど、高熱と冷気を交互にぶつけて、壁を脆くさせようというわけだな」

 ユウがつぶやく。
 ユウの言葉通り、なんどか火球と氷の槍をくりかえしたのち、マリア院長が叫び、ふたたび、つるはしとショベルでの作業が始まる。
 作業員が、大声でなにかをマリア院長に報告した。
 マリア院長がうなずくのが見える。
 みこみがありそうだ、ということだろう。
 魔法使いの隊員が魔法を使い、作業員がつるはしとショベルをふるう、ということが繰り返されること数度。
 マリア院長は、さすがにつらそうではあるが、強烈な日差しに耐え、じっと作業を見つめている。
 その後ろでは、四人の男たちが微動だにせず、控えている。汗一つかいている様子もない。
 突然、作業員がつるはしをふるったその場から、砂埃がふきあがった。

 「あいたぞ!」

 大きな叫び声があがった。
 作業員のつるはしが、ついに土台の岩にくいこみ、穴をうがったようだ。
 マリア院長が、その場に歩みより、膝をついた。
 手をあてて、調べている。
 その後ろで、四人の男が、そののっぺりとした顔に、笑みをうかべた。
 まったく同じように表情がかわるのが、不気味と言うほかない。
 マリア院長が立ち上がり、テキパキと指示をだした。
 作業員が、とっかかりの穴の周りにならび、猛然と作業を再開した。

 しばらくして、護衛の冒険者たちに知らせがきた。

 おそらく古代遺跡につながる、地下通路を発見した。
 冒険者も斥候として加わり、経路の安全を確認してもらうことになる、と。

 それぞれの船から、数人ずつの冒険者が選抜される。
 わたしたちにも、リベルタスさんから誘いがあった。
 しかし、辞退した。
 マリア院長は、先発隊には加わらず、後方で安全確認を待ち、あののっぺり顔の不気味な四人が、斥候の冒険者とともに最初に通路に入っていくことが、リベルタスさんからの情報で、分かったからだ。

 「これは、あいつらに気づかれずマリアさんに接近する、めったにないチャンスだ。これを逃す手はない」

 と、リベルタスさんから話を聞いたユウが、わたしとジーナに言った。

 「それにしても……マリアさんから離れてまで、先発隊に加わるとは……よほど、やつらの欲しいものが、地下にあるのかも知れない」
 「なんか、とんでもない古代兵器があるのかな?」

 とジーナ。

 「そちらも心配だけど。あっ、そうだ、ユウさん」

 わたしは思いついて、提案した。

 「ユウさんがこっちに残って、先発隊にはわたしとジーナが参加するのはどう? それであの四人を見張るの」
 「あっ、それいいね! それで、あいつらが何かへんなことをはじめたら、イリニスティスでズバッと」

 ジーナは乗り気だ。

 「うーん……」

 ユウはちょっと考えこんだが、

 「やっぱり、やめておこう。あの四人は、あまりに危険だ」

 却下されて、ジーナは不服そうだったが、ユウは、いつにない真剣な顔で

 「ぼくは、きみたちをそんな危険にさらしたくない。きみたちを守れないような、そんな状況は、絶対にごめんだ」

 と、いうのだった。
 わたしは、どんなことがあってもわたしたちを守ろうという、ユウの言葉に胸が熱くなったけど、

 (そんなに、あののっぺり顔、危ないんだ……)

 あらためて、事態の深刻さを感じるのだった。
 そして、先発隊が、「かんせいとう」の残骸に開けられた穴の前に集合する。

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