アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナが弾丸を跳ね返す。

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 今回雇われた冒険者パーティから選りすぐられた、精強な冒険者たちを護衛に付け、調査隊は地下通路に入っていく。
 例の四人もそのなかに混じっているが、あきらかに異質な気配をもっている。
 そんな必要はどこにもないのに、四人の足並みまでそろっているのが、異常だ。
 調査隊の姿が、完全に見えなくなると、見送っていたマリア院長はきびすをかえし、本部にもどっていった。

 「よし、ぼくたちも行こう」

 ユウが言い、わたしたちはマリア院長のあとを追う。

 マリア院長は、本部テントに待機する職員に、ひとこと、ふたこと言葉をかけると、本部テントには入らず、歩き出した。どうやら、自分の居住テントにもどるようだ。この強い日差しのもとで、ずっと発掘の指揮をとっていたのだ。休憩をとろうというのだろう。無理もない。

 「ははあ、なるほどね」

 と、マリア院長のテントをひと目見て、ユウがうなずいた。

 「えっ?」

 一見、他の隊員たちのものとなんの違いもない、マリア院長のテントは、一つだけぽつりと離れた場所に張ってある。
 そのマリア院長のテントを中心にして、四つのテントが正方形をつくるように張られていた。

 「これも、結界だ。あの四つのテントから結界が発生しているね。まず、あの四つのテントの内側には、気づかれることなく侵入できないようになっている。そして、さらに、マリアさんのテントに、もっと強力なものが張られている。だから、あの四人は、マリアさんを置いて、地下にもぐっていけるわけだ」
 「でも、魔法じゃないんでしょう? なにでできているの?」

 ユウは、じっとテントを見つめて、いった。

 「不思議なんだけど、ふたつの力を感じるね……ひとつは、神の力に属するものだと思う。そして、もう一つは、科学文明に属するものだ」
 「どういうこと? 神って、例の禍つ神のことかな……」

 ジーナが言い、

 「科学文明っていうのが、古代兵器のほう?」

 わたしも言った。

 「よくわからない。まあ、マリアさんに直接、聞いてみようか」
 「ええっ? いきなり?」
 「うん、事態は切迫している気がするし、マリアさんとあの四人が一緒にいる状況では、なにをするのも難しいから」
 「結界はどうするの?」
 「前にも言ったでしょ。この世界に、ぼくに通れない結界はない。ぼくが結界を抜けても、結界は反応しないよ。さあ、二人とも、ぼくにくっついて」

 そうだった。

 最初の時も、そして、エルフの里でも、ユウにとって結界は意味をもたなかった。
 わたしと、ジーナはユウの手を左右から握った。
 ユウの温かい手が、わたしたちの手を包む。

 「さあ、結界を越えるよ」

 ユウが言い、わたしたちが、四つのテントがつくる正方形の辺を通りすぎるとき、いっしゅん、なにかピリッとするような感覚を皮膚に感じた。
 しかし、それだけだった。
 それ以上、なにも特別なことは起こらない。
 ユウの力なのだ。通常なら、内側に侵入することはできないし、おそらく、結界に触れた瞬間、術者に警報が鳴り響く。

 「それでは、念のため」

 ユウが言った。

 「今から、この結界を乗っ取る」
 「のっとる?」
 「うん、結界を書き換えて、外見は元どおりだけど、深いところでは、ぼくの指示に従うようにしておく」
 「そうすると、どうなるの」
 「うまくいけば、奴らには気付かれないまま、奴らがマリアさんに与えようとする影響は無効にできる。この中で起こることを、奴らに遮断することもできる。よし、すんだ」
 「えっ、もう出来ちゃったの?!」
 「まあね」

 こともなげにいう、ユウ。
 あいかわらず、アンバランサーはとんでもない。
 対策も終わり、わたしたちは、マリア院長のテントに近づく。
 わたしたちが砂をふむ、ザク、ザクという音が響く。

 「マリアさん」

 ユウが、テントの入り口で立ち止まり、静かな声で呼びかける。

 「マリアさん、ちょっと、お話したいことがあるんですが……」

 返事はない。
 物音もせず、テントは静まりかえっている。
 しかし、テントの中で、何かの気配が動くのを感じた。
 ユウが、ジーナに目配せをし、ジーナが、左手はユウの手を握ったまま、右手でイリニスティスを構えた。

 「おじゃましますよ」

 そういって、ユウが一歩ふみだしたとたん、

  バシュッ! バシュッ! バシュッ!

 テントの布を突き破り、なにかが、わたしたちめがけて矢のように飛んでくる!

  ギン! ギン! ギン!

 すべてをイリニスティスが打ち払う。
 はじかれ、砂の上におちたそれは、先のとがった金属製の小さな塊だった。
 それが、テントの中からわたしたちめがけて、猛烈な速さで打ち出されたのだ。
 これをあやまたず払いのけたジーナの反射神経は、さすがだ。
 しかし、息つく間もなかった。
 テントの入り口の布が揺れて、のそり、と姿を現したものがある。

 「うえっ!」

 ジーナがうめいた。
 無理もない。
 現れたのは、テント一つ分はある巨大な男の顔である。
 そんな大きなものが、どうやってテントの中にいたのか。
 無表情な男の顔が、死んだ目でわたしたちを見る。

 「のっぺりの親玉が出た!」

 なるほど、まさにそんな感じだ。ジーナのいうことは冴えている。
 そして、その巨大な顔には、身体はない。
 そのかわり、もぞもぞうごめく触手のようなものが顎の下からたくさん生えていて、それでずるずる前進してくる。
 両耳の位置からは、左右にそれぞれ二本ずつ、節のある腕が生えていて、その先は鋭いハサミになっていた。
 不気味と言うほかない。
 巨大な顔は、ハサミをかちゃかちゃ打ち合わせ、赤黒い舌をひらひらさせながら、声をしぼりだした。
 まるで、どこか遠くから聞こえてくるような声だった。

 「アンバランサー、余のじゃまをするな……」

 ユウはいつものように、答える。

 「そうもいかないんでね、頼まれたんで」

 顔は、口元をぐにゃりとゆがめた。
 笑ったのだ。

 「ミネーヴァにか? それとも、あの姉妹か?」

 そして、続けた。

 「余の計画にしたがえば、ミネーヴァにも悪いようにはならないのだがな……。もっとも」

 また無表情にもどり

 「今の、この世界は、なくなるかもしれないが……」
 「うーん、それはだめでしょう」
 「意見の相違があるようだな、アンバランサー」

 そういって、ユウめがけ、鋭いハサミを突き出す。
 それを避けながら、ユウが

 「ライラ、魔法を使って!」
 「はいっ!」

 わたしが、

 「火と水と風の精霊が渦をなし天降りきたる、」

 と、雷魔法の詠唱をはじめると、

 「ちがう、それじゃなくて、治癒の雷でいって」
 「え? 回復魔法? それじゃあ」
 「いいから」

 意味はわからなかったが、ユウを信じて。
 わたしは雷魔法の詠唱を中断、あらためて

 「光と水と火と土と風、すべての精霊の力と叡智が、命の泉を沸き立たせる、治癒の雷!」

 最上級の回復魔法を詠唱する。
 砂漠の日差しにも負けない、まばゆい光が結界の中に満ちる。
 すべての傷を癒やす、治癒の光が、巨大な顔を包みこむ。
 すると……

 「グェエエエエエエ!」

 顔がその死んだような目を、かっと見開くと、苦痛の表情を浮かべ、そして、どろどろと溶け始めた。

 「効いちゃった…なんでかわからないけど」

 顔は地の底から響いてくるような声で、

 「アンバランサー、無駄なことだぞ。計画は動いている。……まあ、せいぜい……」

 ぐしゃりと崩れながら、言葉を続けた。

 「あがいてみるがいい……」

 そして、完全に溶け去った。
 顔があった場所には、もつれた、黒い糸くずの塊のようなものが、うねうね動きながら残っていたが、それもやがて消えた。

 「禍つ神だよね、あれって。やっつけたの?」

 ジーナがきく。

 「いや……あの顔は、ただの眷属。前に、地下でライラに張り付いていた類いのものだね」
 「あれか! ということは」
 「マリアさんに憑いていたんじゃないかなあ」
 「禍つ神の眷属に、マリア院長は支配されてたってこと?」
 「たぶんね。禍つ神は、その性質上、治癒の雷みたいな、正の方向の魔法は苦手だよ」

 そうか。そういうことか!

 「さあ、急いで、マリアさんを助けにいこう」

 わたしたちがテントに入ると、マリア院長は、床に気を失って倒れていた。
 髪はみだれて広がり、目は閉じられ、口はかすかに開いて白い歯がのぞいていた。
 しかし、怪我はなく、呼吸はしっかりしている。
 投げ出された、その右手には、取っ手の付いた金属の筒のような何かをにぎったままだ。
 おそらく、これが、わたしたちを襲った古代武器だ。
 ユウは、マリア院長の手から古代武器を外して、ことりと脇に置いた。

 「かなり、渦がゆがめられているな……このままではまずいことになるところだったな」

 マリア院長のよこに膝をつくと、背中に手を当てて、上半身をおこし、

 「渦を調整しなくては……」

 目を閉じて、力を使った。
 マリア院長の身体が、ぴくりと動く。

 「あぁ…うふぅ…」

 マリア院長は、ひとつ吐息をつくと、その瞼がゆっくりと開いていった。
 はじめ、ぼんやりとしていたその目が、はっと気がついたように動き、わたしたちを見る。

 「気がつかれましたか、マリアさん」

 ユウが呼びかける。

 「カテリナさんと、アーダさんに頼まれて、助けに来ました」
 「あ! ああああ!」

 マリア院長が、叫び、腕を伸ばして、ユウにしがみつく。

 「わたしは!」

 ユウはおだやかに告げる。

 「安心して下さい。禍つ神の眷属は、ライラの魔法で消えました。男たちの結界は、ぼくが書き換えて無効にしています。あなたに及ぼされた、禍つ神の影響も、ぼくが消しておきましたよ」

 それをきいたマリア院長は、ふうっと大きく息をついた。
 身体を起こすと、すっと姿勢をただし、わたしたちに頭を下げた。

 「ありがとう、みなさん、そしてあなたは」

 ユウを見て

 「アンバランサーなのですね」

 ユウはうなずく。

 「わかりますか」
 「わかります、その超絶の力。そして、頭上のアンバランサーの徴」
 「みえるんですね、マリアさんにも」
 「ええ。アーダの能力は、親譲りなんです。だから、危険でした」
 「なにがあったのか、話してもらえますか」
 「はい。あなたは、禍つ神の影響を消してくださったとおっしゃったけれども、ある意味、それはわたしから消えることはないのです」

 そうして、マリア院長は、自分が禍つ神の影響下にはいってしまったいきさつを、語りはじめたのだった。

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