アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナは、自業自得だと言った。

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 「わたしの夫、カテリナとアーダの父親は、近衛騎士団の騎士でした」

 と、マリア院長は話し始めた。

 技量、人格ともにすぐれ、将来を嘱望される騎士だったのです。
 しかし、亡くなりました。魔獣との戦いで、戦死したのです。包囲された戦場からの退却戦で、しんがりを務め、味方を逃がして、壮絶な死をとげたと聞かされました。
 それ以来、わたしは女手一つで、二人を育ててきたのです。
 わたしの専門は古代文明で、古代文明の残した驚異の技術、あれを分析・解明し、なんとかわたしたちの生活向上に役立てることができないか、そう考えて研究に励んできました。
 その結果、いつのまにか、古代遺跡院の院長なんて地位に就いてしまったのだけれど……。
 古代文明の遺したさまざまな技術は、ほんとうに驚くべきものです。
 今のわたしたちには、さっぱり原理がわからない、しかし今だに稼働してしまう遺物がある。
 そのなかには、小さな日常の役に立つものもある。例えば、最近発見されたのは、歯ブラシです。これも、どういう原理かわかっていませんが、小さな棒状のそれを、口に入れて咥えるだけで、あっというまに歯をきれいに磨いてくれて、しかも、虫歯まで治してしまうというものです。これなどは、可能なら、すぐにでも普及したい品物です。
 歯ブラシなどは、平和なものですが、たいへん危険な遺物もたくさん発見されています。
 いわゆる古代兵器と言われるもので、光の矢を放ち敵を貫く、レーザー兵器や、暗闇でも相手の動きをみることができる暗視装置など、とにかく武器の類は枚挙にいとまがありません。
 これから考えると、古代文明はかなり好戦的で、戦いにあけくれていたのでしょうか、ひょっとしたらそのために滅んだのではないかとさえ思えてきます。

 「あっ、そのってやつ? あたしら戦ったよ。ラマノスって奴が、それで、キャラバンを襲ってきた」

 そうなんですか。よくご無事で。レーザーは、光の速さで直進するから、よけられないし、当たったものをすべて、高熱で切り裂く恐ろしい武器なのですが……

 「ユウさんが、飛んできたそのれーざーってやつ、ねじ曲げちゃったよ。最後には、逆向きにとばして、ラマノスをやっつけちゃったんだ」

 えっ! そんなことが……可能なんですね。アンバランサーはやはり、たいへんな力をもっている。

 ……ラマノスですが、たしかに、わたしの部下でした。小心者ですが、お金や地位や女性や、いろいろな欲望にまみれていた。武器を調べては、よからぬことを妄想しているようで、この仕事に関わらせるのは、まずいなと思ってはいたのですが、とうとう、あんなことになってしまったのです。わたしの権限で、もっと早く、別の部署に動かしておけば良かった……。

 「しかし、ラマノスは、禍つ神とは関係がないですね?」

 そうです、あの男は、小物です。欲望の誘惑に負けた、ただの職員。しょせんは、いきあたりばったりの悪事にすぎません。真に危険なのは、禍つ神のたくらみです。
 おわかりかと思いますが、古代文明の遺産、とくに古代兵器に関しては、二つの考えがつねにしのぎを削っています。
 ひとつは、あまりに危険なものは封印し、わたしたちがその原理を理解して、正しく使えるようになるまで、けっして手を触れるべきではないという意見。これは、はるか以前に、賢王さまの定められた教えで、古代遺跡院の基本方針ともいえるものです。
 もうひとつは、これらの技術を積極的に活用すべしというものです。原理などわからなくてもいいではないか、使って役立つならどんどん使っていこう、使っているうちに原理もわかるだろう、というものです。こちらの意見に立てば、賢王さまの指示は、社会の進歩をおくらせる時代遅れの考えということになります。
 そして、権力のあるものや実際に軍事に関わるものたちからすれば、後者の意見はたいへん魅力的なものに思えるでしょう。一瞬にて敵を殲滅することができ、そして防御法もない、そんな武器があれば、どれだけのことができるか、その誘惑にかられるのは容易に想像がつきます。
 実際、もっと武器に関わる情報を提供せよという圧力も、わたしが古代遺跡院の院長に就任してからも、多々あります。
 しかし、これまでは、賢王さまの指示をまもって、わたしたちは抵抗してきました。

 「それなのに、なぜ、こんなことに?」

 ……わたしの弱さなのかもしれません。

 ある日、仕事を終え、わたしは帰宅の途についていました。
 その日は、しなければならないことが多く、時刻はもう日付がかわるくらいの深夜でした。
 ひとり、家路を急いでいたわたしは、明日のだんどりのことで頭がいっぱいで、行く手の物陰にひそむ、暴漢に気づくのが遅れてしまいました。
 わたしは殴り倒され、地面に倒れ伏していました。
 わたしを襲った、大柄な男は、わたしのお腹の上に片足を乗せ、ぐっと力をこめ、それだけでわたしは息が詰まり、身動きが取れなくなってしまいました。
 男は、逃れようとじたばたするわたしを見て、楽しんでいました。

 「今日は、ついているな。殺す前に、たっぷり楽しませてもらうぞ」

 わざわざ、そんなことを口にしながら、男が、わたしのからだに手を伸ばしてきたとき。
 わたしの手が、バッグの中のものに触れました。
 なぜそこに、そんなものが入っていたのか、わかりませんが、これも禍つ神のたくらみなのでしょう。
 古代武器のひとつです。
 わたしは、無我夢中でそれをにぎりしめ、暴漢に向けると、引き金を引きました。
 筒状になった武器の先端から、金属の弾が打ち出され、弾は男の胸を貫き、男は驚いた顔で、わたしの上にばったり倒れました。
 わたしは、倒れた男の下からはい出し、からだを起こすと、横たわる男を見下ろしました。
 男は、胸から血を流し、ただうめくだけで、もう何もできそうもない。
 しかし、わたしは怒りにかられ、男にむけて何度も引き金を引き続け、そしてはっとわれにかえり、家に向かってかけだしたのです……。

 「自業自得だね。そんなやつ、とうぜんの報いだ。あたしだって、細切れにしてやるよ」

 それはそうなのですが……。

 家に帰りつくと、わたしの様子をみて、アーダがとても心配してくれました。
 しかし、なんでもないと言って、部屋にこもり、そしてぼうぜんとしていました。
 恐ろしかった。
 そして、わたしは、正当防衛とはいえ、この手で人を殺してしまった……。
 無抵抗となった相手に、何度も銃弾を撃ちこみ……。
 そして、そんな混乱したわたしの前に、あの顔が現れたのです。
 顔は、わたしに言いました。

 「銃がなければ、お前は死んでいた……この武器があれば、お前の夫も死ななかったのではないか?」

 禍つ神の眷属でした。
 その日、眷属はそれだけを言って、消えてしまいました。
 しかし、わたしの心には重いものが残りました。
 そこから、わたしの混乱がはじまりました。
 今、冷静に考えれば、わたしが身を守ることと、古代兵器を活用することは必ずしも切り離せないことではない。しかし、わたしは、古代兵器も必要ではないのかという疑念が頭のどこかに住みつくようになり、そんなわたしを見透かすように、眷属はなんども現れ、とうとう頭の中に、直接、禍つ神の声が響くようになってしまいました。

 「ヴリトラさまの、あの蜘蛛みたいなことになったんだ……」
 「禍つ神は、あなたになにをさせようとしているのです?」

 詳しくはわかりません。
 古代技術が制限なく世の中にあふれて、混乱が世界を満たすことを望んでいるのかもしれせん。
 禍つ神は、混沌をただ面白がる、そんな神ですから。
 そして、ある日、あの四人の男たちが、職員として採用してほしいと言ってやってきました。
 わたしは、これは明らかに禍つ神の息のかかったものだと気づきましたが、頭がぼうっとして、わけがわからなくなり「採用します」という自分の声を遠くから聞いていました。
 男たちはあっという間に、遺跡院のなかで力を持ち、そして遺跡発掘計画を提示してきました。それが、この「絶望の湖」の発掘です。男たちは、政府にも顔が効くらしく、これまでだったらありえない、法外な予算が認可され、そして、今回の発掘になったのです。
 わたしは、あの四人が近くにいると、ほとんど何も考えることができず、ただ彼らの提案を了承するだけの状態になってしまって、ここまで来てしまいました。
 禍つ神はなにかを探しているようです。
 おそらく、その探しているものが、この遺跡にある可能性が高いのでしょう。

 「それは、いったい、何なのだろうか」

 わたしにもわかりません。でも、そのことを考えると、なんとなく頭の中になにかの映像が浮かんできます。まったく見たことのないものです。乗り物のようですが……そして、「星の船」という言葉も。

 「ほしのふね…ひょっとして、なのか?」

 「うちゅうせん」とは、なんなのですか?

 えっ、なんと、この地上から空に飛び出し、星の世界に行くための乗り物ですか! そんなものが、この地上にあるのでしょうか?

 「とにかく、わたしのこころは、分裂しています。古代技術に対する考えも、今は定まりません。アンバランサーのあなたが、禍つ神の影響を消し去ってくださったといっても、このことに関しては、わたしは何が正しいのか、確信が持てないのです」

 ……と、マリア院長は、つらそうな顔で告白した。話し終え、うつむくその目から、涙がこぼれた。

 「マリアさん」

 ユウが、やさしく言った。

 「あなたは、なにもまちがっていない」
 「えっ?」

 マリア院長が顔を上げる。

 「ひとりの人の中で、その、二つの考えがせめぎあうのは、当然のことだとぼくは思う。技術にかぎらず、この世のすべてのことには、光の面と闇の面がある。矛盾する世界のなかで、均衡バランスをどうとっていくのか、人はそれを、つねに考えて生きていかなければならないのです。だから、二つの考えのはざまに立ち、悩む、あなたの今のありようこそが、人間として正しいものだと、ぼくは思います」
 「アンバランサー……」

 マリア先生の目から、さらに涙が流れた。

 「ただ、自ら発見し獲得したものでない技術は、社会にそれをうけいれる用意ができていない。まだこの世界にあってはならない技術というものは、確かにあると思いますよ、例えば、

 そのとき、ユウの言葉をさえぎるように、とつぜん大地が大きく揺れた。
 そして、人々の叫び声が聞こえる。

 「遺跡で、なにかがあったようだ!」

 わたしたちは、テントから飛び出した。
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