アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

文字の大きさ
37 / 69
アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナが、マリア院長を守る。

しおりを挟む
 「何があった!」

 呼びかけるマリア院長のところに、職員が慌てふためき駆けよってきて、報告した。

 「たいへんです、院長! たった今、絶望の湖が崩落しました!」
 「なんだって?!」

 ――わたしたちの目の前には、おどろくべき光景が広がっていた。
 半径五キラメイグはある、ガラス化した大地を、まっぷたつに横切るように、大きな亀裂がはいり、その半分の平面が砕けて、地下に崩れ落ちていた。
 どうも地下には大きな空洞があるようだった。
 崩落せずに残った半分にも、亀裂はいくつか見られ、こちらも、いつ崩れるかもわからない。

 「先発隊はどうなっている? 無事か?」

 マリア院長が詰問する。

 「わかりません……まだ、中にいると思われます。わたしたちが、先発隊の帰りをまっていたら、突然、地鳴りがしたかとおもうと、このありさまです!」
 「あの連中がなにかやったんじゃないの?」

 とジーナ。

 「まあ、のっぺりはどうなろうと、どうでもいいけど、冒険者の仲間たちが心配」
 「そうだね。これは、ぼくらがいくしかないな」

 ユウがそういうと、

 「わたしも、連れていってください」

 マリア院長が、決然とした顔で言う。

 「わたしは責任者として、状況を確認しなければなりません!」
 「わかりました。マリアさん、あなたは、ぼくらから決して離れないで。ジーナ、君はなにかあったらマリアさんを守るんだ」
 「はぃっ!」
 「じゃ、飛ぶからね。マリアさんは、はじめてだから、ぼくと手をつないで」
 「? なんですか?」

 マリア院長は、なにが起こるかよくわからないようだったが、それでも言われたとおり、ユウの手を握る。
 そして、わたしたちはふわりと浮かび上がった。

 「きゃっ?!」

 マリアさんが驚いた声をあげる。
 わたしたちは、そのまま飛行して、絶望の湖の崩落個所から、内部に飛びこんでいく。

 「ええーっ? 院長ぉー!」

 驚いた職員が大声をあげた。

 「なんだ、あれ! 飛行魔法なんて、聞いたことある?」
 「おい、あいつらって、『雷の女帝のしもべ』じゃないのか?」
 「いつのまに加わってたんだよ!」

 わたしたちの飛行を目撃した冒険者たちが騒いでいる。
 もう、わたしたちのことは、これでバレバレだ。
 でもそんなことを言っている場合では、もはやないだろう。


 とびこんだ絶望の湖の地下には、広大な空間があった。
 それは一種の格納庫なのだろうか、落ちてきたがれきが埋め尽くしている場所をのぞけば、用途のわからない様々なもの、道具、機械のようなものなどが、整然と配置され、ずらりと並んでいる。
 天井と壁から、オレンジ色の光が発せられており、わたしたちには特別な明かりは必要なかった。

 「これは……」

 マリア院長が絶句した。

 「これまでに発見された中でも、最大規模の遺跡です」

 あたりをみまわす。

 「これほどたくさんの遺物が、そのまま残っているなんて……あっ、あそこに!」

 マリアさんが指さす。
 すきまなく物が並ぶ中、そこだけが広く空いており、その広い場所のなかに、大きな構造物がみっつだけ置かれている。その三つは、釣り鐘を上からおしつぶしたような形をした、幅が二十メイグぐらいある巨大なもので、側面には丸く、窓のようなものが並んでいる。
 その外見から連想するのは

 「乗り物?」
 「あれです、あれが――」
 「星の船か! なんと、型だよ」

 ユウがまたよくわからないことを言う。
 わたしたちが近づいていくと

 「「「「これはこれは」」」」

 物陰からすべるように現れて、星の船の前に立つ、四つの影。
 全員が小脇に、黒いかばんを抱えている。
 その声は、まったく同時に四つの口から発せられる。

 「「「「マリア院長、そしてアンバランサー、ようこそ」」」」
 「あなたたち!」

 マリア院長がうめく。

 「なるほど、禍つ神は、宇宙船に、用があったわけだね」

 ユウがいつもの口調で

 「それで、いったい、なにをするつもりなのかな……」

 四人は同時ににやりと笑った。

 「「「「まあ、楽しみにしていたまえ」」」」

 そして、マリア院長に視線をむけると

 「「「「マリア、こちらに来なさい、お前はまだ役に立つ」」」」

 だが、彼らの意に反して、マリア院長はあとずさった。
 ジーナが、イリニスティスを構えて、その前に立つ。

 「「「「おや?」」」」

 四人の男が、マリア院長のその様子に、いぶかしげな顔をする。

 「きみたちの、マリアさんにかけた結界は、ぼくが乗っ取った。眷属も、ライラが消してしまったし、もうマリアさんは操れないよ」
 「「「「それなら、もうこの女、必要はないな」」」」

 男たちがそう言った瞬間、四つのかばんから赤い光がきらめいた。

 光線だ!

 マリア団長と、わたしたちを狙ったその光は、しかし、わたしたちの前に出現した光の壁にはじかれる。
 はじかれた四つの光のうち二つが、角度をかえて、格納庫の中の遺物につきあたり、すぱりと金属製の遺物を切断した。けたたましい音を立てて、切断された機械が、床に落ちてころがる。
 残る二つの光は、逆転してかばんを直撃する。
 光の直撃を受けた、ふたつのかばんが爆発した。
 その爆発で、二人は、かばんを持つ腕が吹き飛んだが、腕がなくなっても、なんの動揺も、そののっぺりした顔にはあらわれない。苦痛すら読み取れない。

 「「「「なるほど、これがアンバランサーの力か」」」」
 「降伏するかい? まあ、そんなわけないとおもうけど」

 そういって、ユウが一歩前に出る。

 「「「「アンバランサー、それ以上近づかない方がよかろう」」」」

 四人の男が言い、とたんに、外から人々のわめく声が聞こえ、そして、まだ無事だった天井がみしみしと音を立てて、亀裂が広がった。亀裂から、外部の強烈な陽光が射す。

 「危ない!」

 わたしたちは、後ろに下がる。

 「「「「クックックックッ…」」」」

 男たちの笑い声がひびく。
 台地が、激しく揺れた。
 次の瞬間、崩落が一気にひろがり、キラキラ光る大量の土砂とがれきととともに、巨大な黒いものが落下してきた。

 「なっ! あれは、砂虫サンドワーム!」

 一匹の砂虫が、絶望の湖に突入、もろくなった天井をつきやぶり、わたしたちの目の間に、のたうちながら落下してきたのだ!

 百メイグはある砂虫の巨体が、地響きを立てて床に激突、いくつもの遺物が押しつぶされ、吹き飛んだ。
 まるで爆発のように、突風が吹き荒れる。

 「そんな……」

 マリア院長があぜんとした声を出した

 「砂虫は、どんなことがあってもここには近づかないはずなのに……」
 「おそらく、連中が強引に操っている。あのかばんだな」

 ユウが言い、力を働かせて、かばんの一つがまた、爆発した。
 あと一つ。
 しかし、そのとき

 「「「「アンバランサー、君は、あれを放っておいていいのかな?」」」」

 男たちが言う。

 「ああっ、みんなが!」

 ジーナが叫んだ。
 傾き、今まさに倒壊しかかる壁のすぐ近くに、先発隊のメンバーが倒れていた。
 遺跡院の職員もいれば、冒険者たちもいる。
 みな、意識がないようで、この状況でもぴくりとも動かない。
 このままでは全員、下敷きだ。

 「むっ!」

 ユウの力が働き、崩れ落ちる壁が、斜めになったまま、凍りついたように途中でとまった。

 「みんな、今、助けるよ!」

 その間に、わたしたちは駆け寄り、倒れている先発隊員を移動させる。
 さいわい、大きな怪我をしている様子はない。
 救助に集中するわたしたちの後ろで、爆発音、そして何かが崩れる音がした。
 振り返ったジーナが

 「あっ、あいつら、逃げた!!」

 格納庫の反対側の壁に、黒々と大きな穴が開いており、そして、三隻あったはずの星の船が、今は二つしか残っていない。
 四人は砂虫を使って、一隻の星の船を強奪、壁を破って消えていったのだった。
 その穴からは、今、大量の砂が噴き出している。
 砂虫が遠ざかっている証拠だ。

 「まあ、あれはしかたがない。みんなを助けるのが先だ」

 ユウが言い、わたしたちは救助を再開する。

 「これで、全員ですね?」
 「はい、一人も欠けていません」
 「それは良かった……」

 全員を移動させ終わると、ユウが力をぬき、そして一気に壁はくずれおちた。
 土埃がもうもうとあたりを覆う。あの下にいたら、ひとたまりもない。

 「やれやれ……これで、一息つけるかな」

 ユウがそういったとたん

 「たすけてー」
 「なんでこうなるの?!」
 「落ちるー」
 「もうだめー」

 頭上で、悲痛な声がした。
 見上げると、はい、予想通り、「暁の刃」の面々でした。
 彼らは、崩落した天井の端っこに、かろうじてひっかかって、ぶらぶら揺れていた。
 例によって、タイミング悪くまきこまれたようだ。

 「まただよ……」

 ジーナがつぶやいた。

 「すごいね、あいつらの引きは……」
 「お知り合いですか?」

 何も知らないマリア院長が聞く。

 「その、腐れ縁というか……」

 わたしは答え、そしてユウが、彼らを安全な場所まで飛ばすのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人
ファンタジー
「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...