アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナは、これが飛ぶのかと疑う。

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 絶望の湖は完全に消滅した。
 絶望の湖を構成していたガラス化した大地は、そのほとんどが崩落して、もはや、砂漠にぽっかりあいた大穴となってしまった。
 そして、遺跡内部も、惨憺たるありさまとなっている。
 なにしろ、上部が崩落して、多くの遺物がそのがれきの下敷きになって押しつぶされたところへ、さらに全長百メイグはあろうかという砂虫の巨体までがとびこんで、のたうち、大暴れしたのだ。
 原形をとどめないまでに破壊されてしまったものも多い。
 調査隊は、マリア院長の指示を受け、気を取り直して、無事であったもの、まだ復元可能であるものを分類し、回収する作業を開始した。

 「ああ、貴重な古代の遺物が、こんなことに……ぺちゃんこだ……これはもうどうにもならないな」
 「これは、はたして、なんだったのか……あああ……もとのかたちすらわからない……」

 作業をしながら、遺跡院の職員たちが、嘆いている。
 その様子を見ながら、

 「ここだけの話だけど……」

 と、ユウが、わたしとジーナにこっそり言った。

 「この格納庫にしまわれていたものは、みたところ、危険な武器が多かった。武器庫も兼ねていたんだろう。その大半が、崩落した場所にあって、あの騒ぎで破壊されてしまったのは、ぎゃくに良かったよ……」

 そして、続けた。

 「実は、破壊を免れた武器で、あまりに危険なやつは、さっきぼくが密かに壊しといた。もうけっして使えないようにね」

 ユウは、苦笑いを浮かべ、自嘲するように言った。

 「本当は、ぼくにそんなことをする権利なんか、ないのかもしれないけど……」

 「ああ、これもだめだ……なんてことだ……うーん、こいつもバラバラで、手の施しようがない……もったいない……」

 職員の嘆きは続く。


 意識をとりもどした先発隊からも、話をきいた。
 穴から入って、少し行った先に、金属の扉があったのです。
 あの四人の男たちが、みんなをおしのけて、その前に立つと、扉が、うなりながら左右にすべるように開きました。
 扉の中は、窓も何もない、真っ白い四角い空間になっていて、全員がそこに入ると、扉が手も触れないのに閉まってしまいました。
 そして、足元ががくんと揺れ、しばらくの間、体が浮くような、なんともいえないおかしな感覚があったかと思うと、また、がくんと床が揺れ、そして、さっきのように扉が開きました。
 すると、驚くことに、同じ扉が開いたはずなのに、扉の外は、さっき自分たちが乗り込んだ場所とはちがっていました。いつのまに移動したのでしょうか。

 「#えれべーたー__・__#だな。まだ動いたんだ」

 とユウが、例によってわからないことをつぶやく。

 その先はまた、長い廊下がつづいていました。
 そして、その先には、さらに大きな、頑丈そうな扉が、行く手をはばんでいました。
 四人の男たちは、まるで、この場所を前から知っているかのように、何のためらいもみせず、すたすたと、その頑丈な扉に近づいていきました。
 すると、そのとたんに、扉の横で丸い黄色い光がまたたきはじめ、ウォンウォンと獣が叫ぶような大きな音がなりひびくと、どこからから、白い煙がもくもくと噴き出して、あたりに充満したのです。
 変な臭いのするその煙を吸ったら、頭がくらくらして、わけがわからなくなってしまって。
 気が遠くなる中、男たちの手元から赤い光が扉に放たれ、その赤い光を受けた扉が、まるで柔らかいもののように、ずたずたに削れて切り取られていくのを見たと思います。
 なにかが爆発するような音も聞こえました。
 そこで記憶がとぎれて。
 そのあとは、みなさんに助けられるまで、もう、なにもわかりません……。

 「なるほど……防御機構が作動して、侵入者を無力化するためにガスを噴射したわけだ……まあ、やつらにはまったく効き目がなかったんだけど。やはり、あの連中、人間ではないね」

 ユウがさらりと言う。

 「ユウさん、またなんか、怖いこと言っているよ……」

 ジーナがつぶやく。

 「やつらと、格納庫の防御機構との戦いの結果が、この惨状だな……。しかし、ずいぶん強引にやったね。やつらは、が作動しないように無効化する手間さえ、かけなかったんだ……」

 わたしたちは、足の踏み場もないほどちらばった瓦礫の間を歩いて、「星の船」に近づく。
 そうしている間にも、そこかしこで、砕かれたかけらが、音を立てて崩れ落ちている。

 「宇宙船も、まんまと一台強奪されちゃったし……残りはこの二台か……」

 「星の船」の間近で、その威容を見上げた。
 それは、わたしたちの知らない銀色の金属でできた、ドーム型の構造物で、側面には丸い窓が並び、その窓には透明ななにかがはめこまれていた。

 「あの窓は、だね」

 とユウが言うが、なんのことかはわからない。
 ドームの下部には、それが脚なのだろうか、半球状のものが三つついており、それによって本体は地上から持ち上がっている。
 底面の中心には、出入り口なのだろうか、円形の切れ込みが見えた。

 「これが、『星の船』……?」
 「こんなのが、空を飛ぶってこと? まさかねえ」

 ジーナが不思議そうにいう。
 ごもっともだ。
 こんな、羽根もなにもない、巨大な金属の塊が、どうやって飛ぶというのか。とても信じられない。

 「動力があれば、これでじゅうぶん飛ぶはずだよ」

 ユウが答える。

 「ただ、これには肝心の動力部がない……未完成なのかな。それとも、試作品なのか」

 ユウも首をひねった。

 「内部の機構は無事だ。もちゃんと機能するようだ。ただ、動力が……なにを動力として飛ぶのか……」

 考えこんでいる。

 「ねえ、ユウさん。ユウさんには、これ飛ばせるの?」

 ジーナが聞いた。

 「え?」

 考えにふけっていたユウは、不意をつかれたように

 「ぼくに飛ばせるかって? あ、ああ、できると思う。ぼくの力を働かせれば……」

 そして、何かを思いついたように、

 「うーん、まさかそういうことなのか? でも、それだと……」

 また考えこむ。

 「ユウさん、何かひとりでボソボソ言っているねえ。まあ、聞いたってあたしには、さっぱりわからないと思うけどね」

 ジーナが笑った。

 遺物の一覧作成がようやく終わり、次に調査隊は、搬出の準備にとりかかった。
 格納庫のなかみを、をこのままここに置いていくのは、あまりに危険すぎる。
 こんな人気のない砂漠の真ん中に放置していったら、盗んでくれといわんばかりだ。
 この状態では、内部を閉鎖封印するのは、とうてい無理だ。
 そして、王立遺跡院の立ち入り禁止の札など、盗賊には何の効力もない。
 となると、少なくともきちんと見張りができるところまで運ぶしかない。最低でも、タマルカンの街までは運ばざるを得ないだろう。
 調査隊は、最初から、それをみこして計画を立ててあった。
 砂虫船だ。
 砂虫を使って、運べるものを全て、一気に運んでしまうのだ。
 そのために、当初から、砂虫の積載可能量には余裕をみてあった。
 もっとも、一匹の砂虫は、あの四人の男に操られていなくなってしまったため、今すぐに使える砂虫は四匹しかないが、破壊されてしまった遺物が多いため、それでなんとかなりそうだ。
 砂漠の民に連絡が行き、砂虫船が呼び戻される。
 砂虫は、はじめの時とは違って、嫌がることもなく、もと「絶望の湖」の外縁までやってきた。砂虫は、過去の経験から遺跡の防御機構を恐れていたのかもしれない。それとも、遺跡の中にある、なにか別のものを恐れていたのか。砂虫の本能と記憶が、彼らを遺跡から遠ざけていたのだ。
 砂虫とともに戻ってきた砂漠の民が、彼らの待機中にあったことを報告してくれた。

 ――砂虫が近づけるぎりぎりの場所で、調査隊から帰還の呼び出しがあるのを待機していたところ、突然、一匹の砂虫が暴れ出した。乗り手と艤装を振り落とし、下敷きにすると、咆哮をあげながら、とりつかれたように猛然と、「絶望の湖」の方角に突進していったのだと。そして、それは、往路で進路を外れそうになった、あの四号艇の砂虫であるとのことだった。

 「うーん、あの時点からもう、何か砂虫に仕込まれていたようだね」

 とユウが感想を述べた。

 「それにしても、『星の船』を使って、なにをするつもりなんだろうか。それに、そもそも、やつらにあれを飛ばせるのかなあ……」

 また、考え込んでいる。

 「これはやっぱり、ミネーヴァさまには、もういちど会う必要があるだろうな……」
 「あっ! 神酒茶ネクターティー!」

 ユウのつぶやきをきいて、ジーナがうれしそうな顔をした。
 ずいぶん、あのお茶が気に入ったようだ。

 運ばなければならない遺物のうち、最大のものは「星の船」である。
 星の船は、さすがに砂虫の上には載せられず、橇にのせて引いていくことになる。用意周到なマリア院長は、橇を組むための機材もちゃんと用意してあった。
 問題は、どうやって地下の格納庫にある星の船を、地上の橇の上まで運びあげるかだったが……

 「ああ、ぼくがやりますよ」

 あっさり、ユウがそういった。
 地上に組みあげられた、ふたつの頑丈な橇の横に、ユウが立って

 「それでは、やりますね」

 力を働かせると、

 「おおっ!」

 地下の格納庫に収められていた『星の船』の一台が、ふわりと浮き上がる。
 『星の船』はそのまま、音もなく浮上して、地下からその姿を現した。

 「こ、これは……」

 みなが一様にどよめいた。
 それはそうだ。
 釣り鐘型の、二〇メイグはある巨大な乗り物が、こうして、なんの支えもなく、静かに中空に浮かんでいるすがたは、わたしたちの誰もがはじめて見る、驚きの光景である。
 浮かび上がった星の船は、すうっと並行に移動して、橇の上に着地する。
 その重みに、がんじょうなはずの橇がたわみ、きしんだ。
 隊員が、急いで、ロープで固定する。
 同様にもう一台。
 『星の船』は無事、それぞれ橇の上に固定され、出発を待つばかりとなった。

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