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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編
ジーナが、踊るように戦う。
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調査隊は、王都への帰還の途についた。
四匹の砂虫船が砂漠を進む。そのうちの二匹は、橇にのせた星の船を曳いている。
しかし、いくらも進まないうちに、前方をじっと見ていたユウが、リベルタスさんに言った。
「リベルタスさん、隊列をかえた方がいいかもしれません」
「何かあるのか?」
「たぶん……」
ユウが答えた。
「この先で、待ち伏せがあるようです。護りやすい体制をとったほうがいいでしょう」
「盗賊団か? それとも禍つ神の?」
「とりあえず、禍つ神の気配はないですね……ただ、向こうには、それなりの数がいるようです。砂丘の影にかくれて、散開して待機しています。このまま進むと、縦列は、かっこうの的になるかと思います」
「わかった。すぐに指示を出す。まずは、いったんここで停船だ」
旗による信号が送られ、ただちに砂虫は停止した。
それぞれの船の、冒険者リーダーと、マリア院長ら発掘隊の首脳陣が集まり、対応策をねる。
「敵は、どのくらい離れている?」
リベルタスさんが聞く。
「ここから、三キラメイグほど先ですね。約百六十人ほどいるようです」
ユウが答える。
「かなりの大集団だな……このあたりの、ならず者どもをかき集めたのかもしれん」
「お宝のにおいでもしたか?」
「ふうむ……この先、砂丘がつづく以外、盾にできるような地形はないな……回避もむずかしい」
「こちらは星の船を運んでいるので、そんなに速度は出せないぞ。突破しても、振り切るのもむずかしそうだ」
「戦闘にならざるをえないな、これは……」
「遺跡院の職員の大半は、荒事は無理ですよ」
「まあ、百六十人ていどなら、おれたち冒険者が、ひとり三人も倒せばいい」
と、リベルタスさんが言って、不敵に笑った。
「まあ、それくらいなら、軽くいけるだろうよ」
それを後ろの方できいていた、「暁の刃」が、
「やっぱり、おれたち、人数にはいってるんだよな?」
「前の時より、一人当たりが増えてるじゃないかよ……」
「大丈夫かなあ……」
「ひいいい」
などとささやいている。
かわらないねえ、この人たち。やる気はあるけど度胸はない。
「心配なのは、向こうが、万一なにかおかしな兵器をつかってきたときだが……」
リベルタスさんは、ユウをみて
「まあ、それは、あんたがなんとかしてくれるだろう」
そう言って笑った。
「よし、せっかくここまで来たが、いったん戻ろう」
「えっ?」
「まもるなら、あっちの方がやりやすい。少なくとも背後はとられないですむ」
リベルタスさんは決然とした顔で言った。
「遺跡までもどって、防御を固めるぞ!」
せっかく王都に向かったのだが、また逆戻りである。
遺跡まで戻る途中で、
「あ、やつら、いっせいに前進してきますね。ぼくらを追ってきてます」
ユウが報告する。
「うむ、計画通りだ。待ち伏せがバレたとわかったから、たぶん一気に来るだろう。腕が鳴るな」
リベルタスさんは、うれしそうだ。やはり、サバンさんの友だちなだけに戦闘狂だ。
遺跡を背に、部隊を配置する。
非戦闘員と貴重な遺物を守るように、その外側に戦力を置く。
星の船もいったん砂虫から切り離し、砂虫のうごきを妨げないように準備。
「よし、なんとか準備完了だ」
リベルタスさんが額の汗をぬぐったとき、ぶうんと羽音を立てて、砂丘から事告げ鳥がやってきた。
「オ前タチハ、包囲サレテイル。武器ヲ捨テ、降伏セヨ」
その耳障りな声と同時に、周囲の砂丘の影から、わたしたちを取り囲んだ盗賊団が、どっと立ち上がり、武器を手に、戦力を誇示する。
ユウの報告通り、相当な人数だ。
「はっ、笑わせるぜ。きさまら、その程度でおれたちに勝てるつもりか」
リベルタスさんが言い、すかさず「月下の黒豹」の弓使いが矢を放つと、
「ギャッ!」
事告げ鳥を狙い過たず撃ち落とす。
事告げ鳥は、中空でこなごなに砕け散って、矢だけが地上にぽとりと落ちた。
それを合図に戦闘が始まる!
ヒュウン、ヒュウン、ヒュウン!
盗賊団が、立て続けに矢を放ってくる。
「はいよっ!」
ジーナが、それを、軽々とイリニスティスで切り払う。
ごうっと空気をふるわせて、
「魔法を使ってきたぞ!」
向こうの魔法使いが繰り出した、灼熱の炎球が次々に飛来する。
「水と土、風の混合により氷の季節来たる、氷柱の槍!」
味方の魔法使いが、氷の槍で迎撃する。
盗賊と冒険者では、当然のことながら、魔法使いはこちらの方が質量ともに優位だ。
火球は次々に撃ち落とされ、こちらまで届かない。
「火と水と風の精霊が渦をなし天降りきたる、激甚の災厄、雷の咆哮! 行けっ!」
わたしも、雷魔法を詠唱する。
空気を引き裂き、紫電が、盗賊団の真っただ中に突き立つ!
「ギャアアアア!」
雷の直撃をうけ、盗賊が、ばたばたと倒れた。
「よおーし、ひるんでるぞ、行けーっ!」
砂虫の背に乗って、戦士や剣士などの前衛が突撃する。
敵陣に乗りこむと、いっせいに砂虫からとびおりて、武器をふるう。
リベルタスさんが、その豪剣で、当たるを幸いと敵をなぎ倒している。
その横で、踊るようにイリニスティスをひらめかしているのはジーナだ。
目は黄金に輝き、瞳孔全開、動きにつれて髪がなびき、表情も楽しそうである。
戦闘狂ぶりは、リベルタスさんといい勝負だ。
あっというまに、盗賊団を追い詰めていく。
はしっこのほうで、へっぴり腰ながら
「えいっ! えいっ!」
剣をふるっているのは、「暁の刃」である。
「うわっ」
リーダーのアーネストが剣をかわされ、すきを突かれそうになるが、「あぶない!」盾使いのパルノフがその盾で攻撃をふせぎ、そして槍術士のヌーナンが、「とうっ!」横から槍を突き出して、みごと盗賊をたおした。
「ひぃい危なかったあ」
アーネストが青い顔をしている。
でも、彼らも、それなりによくやっているではないですか。実は成長していたのだ。
「あっ、まずいな」
ユウが声を上げた。
追い詰められた盗賊のボスと思われる男が、懐から取り出した何かを、空中に投げ上げた。
黒い金属の箱が、三つ、中空に浮かぶと、そこで、ぱたぱたと展開するようにひろがって、
「あれは、ギルドで使われたあの! 危ないっ、みんな、逃げて!」
わたしは、あの時のように、宇宙空間にみんなが吸い込まれてしまうのを恐れて、大声をだした。
しかし、
「あっ?!」
不気味なとどろきが聞こえ、
ドドドドウ!
今回は逆だった
その金属の箱が空間に開けた窓から、怒涛の勢いであふれ出してきたのは、水だった!
みっつの箱から、まるで洪水のように水があふれだす。
砂漠の砂があっというまに、泥沼にかわる。
ブォオオオオオオ!!!
砂虫が咆哮した。いや、悲鳴を上げた。
砂虫は水に弱い。溺死してしまうのだ。
本能的に水を忌避するため、パニック状態となり、もはや、制御ができなくなった。
「うわああ!」
砂虫は暴れまわり、少しでも水から離れようとする。
百メイグの巨体が、四匹、のたうちまわるのだ。
しかし情け容赦なく、水はどんどん流れ込んでくる。
この水は、いったいどこから来るのか。
わたしの目の前を魚が横切っていく。
この窓はどことつながっているのか。
無尽蔵とも思える量の水が、砂漠を満たし始める!
「うわーっ、たすけてくれーっ!」
流されて、くるくる回りながら叫んでいるのは、盗賊団である。
のたうちまわる砂虫にはじきとばされる盗賊もいる。
かれらも、まさか、こんなことになるとは想像もつかなかったようだ。
そもそも何の道具かも知らなかったのかもしれない。
「まずい! また、強引に空間に穴をあけてる」
ユウが力を加え、三つの箱を、再度、畳み込んで閉じていく。
もとの形にもどった箱は、墜落し、ばちゃん、ばちゃんと水に沈む。
しかし、この間にほとばしり出た大量の水の中で、砂虫は溺死寸前だ。
わたしたちも、泳ぎ続けないと沈んでしまうほどの水位だ。
「たすけてー、おれ、泳げないんだよー」
「おれもだー」
「いやあああ」
「暁の刃」が叫んでいる。
さすが、彼らは期待を裏切らない。
星の船も、ぷかり、ぷかりと水に浮いて漂う。その船体に、しがみついてる隊員もいる。
あふれた水は、その一部が、遺跡の地下へと流れ込み始めた。
いっしょに流されてしまわないように、みんな必死だ。
砂虫の動きが、しだいに弱くなって、
ブォオオオオ…
悲しげな叫びを上げる。
「ユウさん、砂虫を助けてあげて! このままだと死んじゃうよ!」
ジーナが叫んだ。
「うん、なんとかする」
ユウが答え、その力を全開に、
「えぃっ!」
「えええーっ?」
わたしは目を疑った。
一瞬のうちに、すべての水が、地上から分離し、わたしたちの頭上にかたまりとなってただよった。頭の上に、まるで雲のように厚く広く、透明な水が浮かんで、ぷるぷると揺れている。その水の中を魚が泳いでいるのもみえた。
そしてわたしたちは、さっきまで水に浸っていたのに、まったく濡れもせず、砂漠の上に立っていたのだ。
「この水を、こうして、こっちに、と」
ユウが腕をふり、水はふわふわと静かに移動すると、
ドオオオオッ!!
滝のように、遺跡の穴に流れ込んだ。
みるみる遺跡が水で満たされていく。
大量の水のすべてが注ぎこまれた結果、遺跡は水を満々とたたえた、大きな湖となった。
いったん消滅した「絶望の湖」が、今や文字通りの湖となって復活した。(ちなみに、この場所は、この後、砂漠のオアシスとして、「希望の湖」と呼ばれるようになりました。まあ、「アンバランサーの湖」っていう別名もついたんだけどね)
ここに至り、盗賊団はもはや戦う意思もなくし、簡単に制圧された。
ボスを尋問したところ、発掘が行われるという情報を得て、襲撃に加わるならず者を集めていたら、役に立つぞと、例の武器を売り込んできたものがいたのだそうだ。なにか人間離れした感じの四人の男たちで、うさん臭いものを感じたが、法外な値段をふっかけられたわけでもなく、というより、驚くほどのひどく安い値段を提示されたので、なにかのときに使えれば儲けものくらいのつもりで入手したが、まさかこんなとんでもないものとは知らなかったとぼやいた。
そして、砂虫は……
かろうじて溺死を免れ、今はおちついて砂の上によこたわる砂虫のそばに、わたしたちが近づくと、砂虫の大きな体が、ぶるっとふるえた。
パリ、パリ、パリ……
乾いた音がひびき、砂虫の体表にひびがはいる。
「これって、大丈夫なの?」
ジーナが心配する。
砂虫がもういちど、ぶるっと震えた。
皮膚が、はがれて、ぱらぱらと砂に落ちる。
「脱皮かな? あれっ? 動き出した?」
そう、はがれて砂の上に落ちた、砂虫の皮膚が、くるっと筒状に丸まると、それぞれが小さな、指くらいの大きさの砂虫となった。
小さな砂虫は、モゾモゾと体をくねらせて、砂に潜っていく。
「なんとまあ、砂虫って、こうやってふえるんだね!」
ジーナが感心していった。
「へえ、この世界では、砂虫はこうやって増えるのか……となると、ここではめらんじは生成されないな……その方がいいけど」
ユウがつぶやいたが、例によって、さっぱりなんのことかわかりません。
※ 砂虫とメランジについて詳しく知りたい方は、フランク・ハーバートの名作SF「DUNE 砂の惑星」をお読みください。なお、本作では砂虫の設定を一部変えてあります。悪しからず。
四匹の砂虫船が砂漠を進む。そのうちの二匹は、橇にのせた星の船を曳いている。
しかし、いくらも進まないうちに、前方をじっと見ていたユウが、リベルタスさんに言った。
「リベルタスさん、隊列をかえた方がいいかもしれません」
「何かあるのか?」
「たぶん……」
ユウが答えた。
「この先で、待ち伏せがあるようです。護りやすい体制をとったほうがいいでしょう」
「盗賊団か? それとも禍つ神の?」
「とりあえず、禍つ神の気配はないですね……ただ、向こうには、それなりの数がいるようです。砂丘の影にかくれて、散開して待機しています。このまま進むと、縦列は、かっこうの的になるかと思います」
「わかった。すぐに指示を出す。まずは、いったんここで停船だ」
旗による信号が送られ、ただちに砂虫は停止した。
それぞれの船の、冒険者リーダーと、マリア院長ら発掘隊の首脳陣が集まり、対応策をねる。
「敵は、どのくらい離れている?」
リベルタスさんが聞く。
「ここから、三キラメイグほど先ですね。約百六十人ほどいるようです」
ユウが答える。
「かなりの大集団だな……このあたりの、ならず者どもをかき集めたのかもしれん」
「お宝のにおいでもしたか?」
「ふうむ……この先、砂丘がつづく以外、盾にできるような地形はないな……回避もむずかしい」
「こちらは星の船を運んでいるので、そんなに速度は出せないぞ。突破しても、振り切るのもむずかしそうだ」
「戦闘にならざるをえないな、これは……」
「遺跡院の職員の大半は、荒事は無理ですよ」
「まあ、百六十人ていどなら、おれたち冒険者が、ひとり三人も倒せばいい」
と、リベルタスさんが言って、不敵に笑った。
「まあ、それくらいなら、軽くいけるだろうよ」
それを後ろの方できいていた、「暁の刃」が、
「やっぱり、おれたち、人数にはいってるんだよな?」
「前の時より、一人当たりが増えてるじゃないかよ……」
「大丈夫かなあ……」
「ひいいい」
などとささやいている。
かわらないねえ、この人たち。やる気はあるけど度胸はない。
「心配なのは、向こうが、万一なにかおかしな兵器をつかってきたときだが……」
リベルタスさんは、ユウをみて
「まあ、それは、あんたがなんとかしてくれるだろう」
そう言って笑った。
「よし、せっかくここまで来たが、いったん戻ろう」
「えっ?」
「まもるなら、あっちの方がやりやすい。少なくとも背後はとられないですむ」
リベルタスさんは決然とした顔で言った。
「遺跡までもどって、防御を固めるぞ!」
せっかく王都に向かったのだが、また逆戻りである。
遺跡まで戻る途中で、
「あ、やつら、いっせいに前進してきますね。ぼくらを追ってきてます」
ユウが報告する。
「うむ、計画通りだ。待ち伏せがバレたとわかったから、たぶん一気に来るだろう。腕が鳴るな」
リベルタスさんは、うれしそうだ。やはり、サバンさんの友だちなだけに戦闘狂だ。
遺跡を背に、部隊を配置する。
非戦闘員と貴重な遺物を守るように、その外側に戦力を置く。
星の船もいったん砂虫から切り離し、砂虫のうごきを妨げないように準備。
「よし、なんとか準備完了だ」
リベルタスさんが額の汗をぬぐったとき、ぶうんと羽音を立てて、砂丘から事告げ鳥がやってきた。
「オ前タチハ、包囲サレテイル。武器ヲ捨テ、降伏セヨ」
その耳障りな声と同時に、周囲の砂丘の影から、わたしたちを取り囲んだ盗賊団が、どっと立ち上がり、武器を手に、戦力を誇示する。
ユウの報告通り、相当な人数だ。
「はっ、笑わせるぜ。きさまら、その程度でおれたちに勝てるつもりか」
リベルタスさんが言い、すかさず「月下の黒豹」の弓使いが矢を放つと、
「ギャッ!」
事告げ鳥を狙い過たず撃ち落とす。
事告げ鳥は、中空でこなごなに砕け散って、矢だけが地上にぽとりと落ちた。
それを合図に戦闘が始まる!
ヒュウン、ヒュウン、ヒュウン!
盗賊団が、立て続けに矢を放ってくる。
「はいよっ!」
ジーナが、それを、軽々とイリニスティスで切り払う。
ごうっと空気をふるわせて、
「魔法を使ってきたぞ!」
向こうの魔法使いが繰り出した、灼熱の炎球が次々に飛来する。
「水と土、風の混合により氷の季節来たる、氷柱の槍!」
味方の魔法使いが、氷の槍で迎撃する。
盗賊と冒険者では、当然のことながら、魔法使いはこちらの方が質量ともに優位だ。
火球は次々に撃ち落とされ、こちらまで届かない。
「火と水と風の精霊が渦をなし天降りきたる、激甚の災厄、雷の咆哮! 行けっ!」
わたしも、雷魔法を詠唱する。
空気を引き裂き、紫電が、盗賊団の真っただ中に突き立つ!
「ギャアアアア!」
雷の直撃をうけ、盗賊が、ばたばたと倒れた。
「よおーし、ひるんでるぞ、行けーっ!」
砂虫の背に乗って、戦士や剣士などの前衛が突撃する。
敵陣に乗りこむと、いっせいに砂虫からとびおりて、武器をふるう。
リベルタスさんが、その豪剣で、当たるを幸いと敵をなぎ倒している。
その横で、踊るようにイリニスティスをひらめかしているのはジーナだ。
目は黄金に輝き、瞳孔全開、動きにつれて髪がなびき、表情も楽しそうである。
戦闘狂ぶりは、リベルタスさんといい勝負だ。
あっというまに、盗賊団を追い詰めていく。
はしっこのほうで、へっぴり腰ながら
「えいっ! えいっ!」
剣をふるっているのは、「暁の刃」である。
「うわっ」
リーダーのアーネストが剣をかわされ、すきを突かれそうになるが、「あぶない!」盾使いのパルノフがその盾で攻撃をふせぎ、そして槍術士のヌーナンが、「とうっ!」横から槍を突き出して、みごと盗賊をたおした。
「ひぃい危なかったあ」
アーネストが青い顔をしている。
でも、彼らも、それなりによくやっているではないですか。実は成長していたのだ。
「あっ、まずいな」
ユウが声を上げた。
追い詰められた盗賊のボスと思われる男が、懐から取り出した何かを、空中に投げ上げた。
黒い金属の箱が、三つ、中空に浮かぶと、そこで、ぱたぱたと展開するようにひろがって、
「あれは、ギルドで使われたあの! 危ないっ、みんな、逃げて!」
わたしは、あの時のように、宇宙空間にみんなが吸い込まれてしまうのを恐れて、大声をだした。
しかし、
「あっ?!」
不気味なとどろきが聞こえ、
ドドドドウ!
今回は逆だった
その金属の箱が空間に開けた窓から、怒涛の勢いであふれ出してきたのは、水だった!
みっつの箱から、まるで洪水のように水があふれだす。
砂漠の砂があっというまに、泥沼にかわる。
ブォオオオオオオ!!!
砂虫が咆哮した。いや、悲鳴を上げた。
砂虫は水に弱い。溺死してしまうのだ。
本能的に水を忌避するため、パニック状態となり、もはや、制御ができなくなった。
「うわああ!」
砂虫は暴れまわり、少しでも水から離れようとする。
百メイグの巨体が、四匹、のたうちまわるのだ。
しかし情け容赦なく、水はどんどん流れ込んでくる。
この水は、いったいどこから来るのか。
わたしの目の前を魚が横切っていく。
この窓はどことつながっているのか。
無尽蔵とも思える量の水が、砂漠を満たし始める!
「うわーっ、たすけてくれーっ!」
流されて、くるくる回りながら叫んでいるのは、盗賊団である。
のたうちまわる砂虫にはじきとばされる盗賊もいる。
かれらも、まさか、こんなことになるとは想像もつかなかったようだ。
そもそも何の道具かも知らなかったのかもしれない。
「まずい! また、強引に空間に穴をあけてる」
ユウが力を加え、三つの箱を、再度、畳み込んで閉じていく。
もとの形にもどった箱は、墜落し、ばちゃん、ばちゃんと水に沈む。
しかし、この間にほとばしり出た大量の水の中で、砂虫は溺死寸前だ。
わたしたちも、泳ぎ続けないと沈んでしまうほどの水位だ。
「たすけてー、おれ、泳げないんだよー」
「おれもだー」
「いやあああ」
「暁の刃」が叫んでいる。
さすが、彼らは期待を裏切らない。
星の船も、ぷかり、ぷかりと水に浮いて漂う。その船体に、しがみついてる隊員もいる。
あふれた水は、その一部が、遺跡の地下へと流れ込み始めた。
いっしょに流されてしまわないように、みんな必死だ。
砂虫の動きが、しだいに弱くなって、
ブォオオオオ…
悲しげな叫びを上げる。
「ユウさん、砂虫を助けてあげて! このままだと死んじゃうよ!」
ジーナが叫んだ。
「うん、なんとかする」
ユウが答え、その力を全開に、
「えぃっ!」
「えええーっ?」
わたしは目を疑った。
一瞬のうちに、すべての水が、地上から分離し、わたしたちの頭上にかたまりとなってただよった。頭の上に、まるで雲のように厚く広く、透明な水が浮かんで、ぷるぷると揺れている。その水の中を魚が泳いでいるのもみえた。
そしてわたしたちは、さっきまで水に浸っていたのに、まったく濡れもせず、砂漠の上に立っていたのだ。
「この水を、こうして、こっちに、と」
ユウが腕をふり、水はふわふわと静かに移動すると、
ドオオオオッ!!
滝のように、遺跡の穴に流れ込んだ。
みるみる遺跡が水で満たされていく。
大量の水のすべてが注ぎこまれた結果、遺跡は水を満々とたたえた、大きな湖となった。
いったん消滅した「絶望の湖」が、今や文字通りの湖となって復活した。(ちなみに、この場所は、この後、砂漠のオアシスとして、「希望の湖」と呼ばれるようになりました。まあ、「アンバランサーの湖」っていう別名もついたんだけどね)
ここに至り、盗賊団はもはや戦う意思もなくし、簡単に制圧された。
ボスを尋問したところ、発掘が行われるという情報を得て、襲撃に加わるならず者を集めていたら、役に立つぞと、例の武器を売り込んできたものがいたのだそうだ。なにか人間離れした感じの四人の男たちで、うさん臭いものを感じたが、法外な値段をふっかけられたわけでもなく、というより、驚くほどのひどく安い値段を提示されたので、なにかのときに使えれば儲けものくらいのつもりで入手したが、まさかこんなとんでもないものとは知らなかったとぼやいた。
そして、砂虫は……
かろうじて溺死を免れ、今はおちついて砂の上によこたわる砂虫のそばに、わたしたちが近づくと、砂虫の大きな体が、ぶるっとふるえた。
パリ、パリ、パリ……
乾いた音がひびき、砂虫の体表にひびがはいる。
「これって、大丈夫なの?」
ジーナが心配する。
砂虫がもういちど、ぶるっと震えた。
皮膚が、はがれて、ぱらぱらと砂に落ちる。
「脱皮かな? あれっ? 動き出した?」
そう、はがれて砂の上に落ちた、砂虫の皮膚が、くるっと筒状に丸まると、それぞれが小さな、指くらいの大きさの砂虫となった。
小さな砂虫は、モゾモゾと体をくねらせて、砂に潜っていく。
「なんとまあ、砂虫って、こうやってふえるんだね!」
ジーナが感心していった。
「へえ、この世界では、砂虫はこうやって増えるのか……となると、ここではめらんじは生成されないな……その方がいいけど」
ユウがつぶやいたが、例によって、さっぱりなんのことかわかりません。
※ 砂虫とメランジについて詳しく知りたい方は、フランク・ハーバートの名作SF「DUNE 砂の惑星」をお読みください。なお、本作では砂虫の設定を一部変えてあります。悪しからず。
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