アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナが、妙案を出す。

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 盗賊の襲撃を撃退したわたしたちは、四匹の砂虫船で、タマルカンの街まで無事到着した。

  ブォオオオオ!
    ブォオオオオ!
      ブォオオオオ!
        ブォオオオオ!
 
 砂虫船は、波止場に荷を下ろし、それぞれが一声吠えると、砂漠の奥に帰っていく。
 遺跡から運び出した遺物たちを、ここから先は陸路で運んでいくことになる。
 しかし、問題は、星の船であった。
 さすがにこれほどの大きさのものを輸送することは、調査隊も想定していなかった。
 星の船は、あまりに大きく、重すぎる。
 途中、道とは言えないようなところも通らなければならない。
 とうてい馬車でも曳いていくことはできそうにない。
 どうすべきか。
 砂漠を移動している間に、調査隊と冒険者のリーダーで、きゅうきょ会議が行われた。
 いったん星の船だけは、このタマルカンの街に残して、当面ここで管理するか。
 その場合は、警護をかなり厳重にしなければならないだろう。また、いつ狙われないとも限らない。
 そして、どっちみちいつかは、王都の遺跡院まで動かさなければならない。
 必要とされる費用と手間を考えると、あまりいい手ではない。
 他に、可能な方法としては――
 ユウの力(重力操作)を使い、星の船の重さを減らして、馬車でも移動可能な状態にして運ぶか。

 「えっ? そんなことができるのですか?」

 マリア院長が驚いて聞く。

 「できますよ」

 ユウが答える。

 「まあ、たしかに、これを馬車で運ぶならそれしかないでしょうね……」
 「そうだな……確かに、このままでは、とうてい移動は無理だろう」
 「なにしろ、でかすぎる」
 「あのさあ」

 と、そこでジーナが口を出した。

 「ん?」

 みんながジーナを見る。

 「ユウさん、星の船飛ばせるんだよね」
 「うん、多分」
 「じゃあさあ、馬車で運ぶなんて、面倒なことしないで、星の船で王都まで飛んでけばいいじゃん」
 「なんだって? 飛んでいく?」

 参加者が声を上げた。ジーナに言われるまで、思いつきもしなかった。
 無理もない。飛行魔法すら、わたしたちは知らないのだから。

 「でも、王都までなんて……かなり遠いですが、できるんですか?」

 マリア院長が尋ねる。

 「まあ、できないことはないです」
 「「「「おおっ!」」」」

 みんながどよめく。

 「でも、こいつが、まともに王都まで飛んで行ったら、多分大騒ぎになりますよ」

 と、ユウが心配した。
 そりゃそうだ。
 こんなものが、いきなり白昼の王都上空に出現したら、みんな大パニックだ。

 「うーん……なら、夜中に、こっそり飛んじゃうとか?」

 と、ジーナ。

 「なるほど」

 と、ユウ。

 「それならいいかも……うん、それでいく? 闇夜にまぎれて飛んで、王都の近くに降りる。そこで隠しておいて、遺跡院から回収に来てもらうか……」
 「確かに、これだけのものを王都まで、陸路で運ぶよりは安全ですが……」

 マリア院長が、申し訳なさそうにいう。

 「いいのですか、ユウさん。お手を煩わせることになってしまいますが」
 「目立たなければ、かまいませんよ。時間をかけて、とちゅうで、また、へんな連中にちょっかいを出されるのも心配だし」

 というわけで、ジーナの案が採用され、星の船は、深夜の空を、王都まで飛んでいくことになったのだった。

 出発の夜。
 おりよく、その日は三日月で、月は夕方に少しだけ見えて沈んだ。
 月光に照らされながら飛ぶことは避けられそうだ。

 (月の光を受けながら飛ぶ、星の船、それはまたすてきな気もするのだけれど、今はそんなことをいっている場合ではない)

 わたしたちが、波止場から少しはなれた、砂漠の中の、星の船が隠されている場所に集合したとき、空には満天の星が輝いていた。
 砂漠の中、黒々と、砂丘と見まごうような、大きな二つのかたまりが見える。
 星の船だ。
 布をかぶせて、外からは何かわからないようにして、タマルカン到着以来ここに置かれていたのだ。

 「これまでのところ、異常ありません!」

 と、警戒していた警備担当者が報告した。

 「それでは、はじめましょうか」

 マリア院長が言う。

 「はっ!」

 職員たちが、覆いの布を剥ぎ取る。
 星明かりをかすかに反射して光る、星の船の、ドーム型の巨体が現れる。
 職員は、テキパキと作業を進め、星の船を固定していたロープもすべて外した。

 「ユウさん、お願いします」

 マリア院長が、ユウに声をかけた。

 「はい」

 ユウが返事をし、アンバランサーの力を、星の船に動力として送り込む。

   ウィイイイイン……

 星の船がうなり始め、そして、船体に並んだ円い窓が、いっせいに、ぱっと明るくなった。

 「おおっ」

 すべての窓からは、今や、煌々と明るい光がもれているが、窓だけでなく、星の船自体が、青白く鈍い光を放ち始める。
 星の船の巨体が、静かにうなり、光を放つさまは、誰も見たことのない荘厳な光景だ。
 その場にいる者たちは、みな息を呑んでいる。

 「では、乗り込みましょうか」

 ユウが言い、一台の星の船に向かって、歩き出す。
 わたしたちはユウに続いて、星の船の下部に近づいた。
 ユウが、指をたてると、

  キュルキュルキュル

 船体下部にある、丸い切れ込み部分が左右にわかれて、ゆっくり開いた。
 開いたところから、さあっと光の束が放たれ、地上をまぶしく、丸く照らす。
 砂漠の砂に光が反射して、キラキラと光った。

 「さあ、みんな、ここに来て」

 その、光の下に、わたしたちは立った。
 ユウ、わたし、ジーナ、そしてマリア院長と、部下の、遺跡院の職員ひとりの計五人である。

 「みなさん、それでは、出発します。王都で、お会いしましょう」

 ユウが言い、

 「あとは、任せた。よろしく頼むぞ。安全第一で、戻ってくるように」

 マリア院長が、部下たちに指示をだす。
 マリア院長は、次に、冒険者にも言葉をかけた。

 「冒険者のみなさん、職員と荷物の護衛をよろしくお願いします」
 「おう、任せてくれ。みんな、無事に送り届けてみせるさ」

 そういって、胸をたたいたのは、リベルタスさんである。

 「では……」

 光の中、わたしたちのからだが、ふわりと浮かび上がった。
 船体内部に吸いこまれる。
 そして、わたしたちが船内に入ると同時に、足下で切れ込みが閉じた。
 その上からさらに、横滑りしてきた底面がおおい、二重に床が閉じられる。

 「ふむ、だね」

 と、ユウがつぶやく。
 わたしたちは、船内の通路をあるいて、奥に進んでいった。
 通路の両側にはいくつも扉らしいものがあり、その向こうにも部屋があるのだろう。
 途中、ユウのいうところの中央「」なるものを使い、最後に扉がひらいて、わたしたちがたどりついたのは、

 「ここが、操縦室だよ」

 その部屋には、あの真空弾丸列車にあったような座席が、六つしつらえてあった。
 最前列の座席二つの前には、車輪を半分に切った形の棒状のものがつきだしていた。
 壁には、よくわからない、針のついた目盛りや、ピカピカ光る丸い明かりがたくさんついている。
 ユウが、最前列の座席の一つに座る。
 マリア院長が、その横に座る。
 わたしたちは、後ろの座席にそれぞれ、腰を下ろした。
 腰を下ろしたとたんに、座席が、ぐにゃっと柔らかくなり、わたしたちを優しく包みこむ。
 これはわかる。真空弾丸列車にもあった、「しょっくあぶそーばー」だ。

 「さて、と」

 ユウが、両手で、目の前につきだしている半円を握る。

 「にするよ」

 そう告げると、

 「うわっ!」
 「きゃっ!」
 「ひゃっ!」

 おもわず、わたしたちは声をあげた。
 壁や、床がぜんぶ、いっきに透明になったのだ。
 目盛りや明かりは、その透明な壁に、浮かび上がっている。
 そして、透明な壁を通して、砂漠が見えた。
 星の船を遠巻きにしている、リベルタスさんや、遺跡院の職員たちの姿が、はっきり見えた。
 見上げれば、頭上には、星々が輝いているのも見える。

 「向こうからも、わたしたちがみえるのかな」

 ジーナが聞く。

 「いや、見えないね。これは、外の映像を、投影しているだけだから」
 「あっ、あのヴリトラさまのあれだね」
 「そういうこと」

 ユウが、顔を引き締めると

 「よし、出発だ。星の船、浮上します!」

 と宣言し、

  ウィイイイインンンン!

 うなりが高まり(リベルタスさんたちに、あとから聞いたところでは、このとき、星の船は急速に回転をはじめたという。窓の明かりも、それにつれて砂漠を照らしながら動き、見ているものたちの目はチカチカしてきたとのことだ。もっとも、なかにいるわたしたちは、回転など、なにも感じなかったけど)
 そして、

  ひゅん!!

 星の船は、いっしゅんにして、弾かれたように、上空に飛び上がった。

 「うひゃあ!」

 みるみるうちに、リベルタスさんたちが小さくなる。
 みえる景色がどんどん広がっていく。
 それなりに広いタマルカンの町が、一望のもとに眺め下ろせるほどの高さに、わたしたちは上昇していた。眼下にまちの明かりが、ちらちらと瞬いて見える。
 視線を砂漠にむければ、遠くにぽつり、ぽつりと見えるのは、砂漠の民のテントの明かりだろう。
 そして、わたしたちは、なんの揺れも傾きも感じない。

 「こ、これが星の船……」

 マリア院長も呆然としている。

 「でも、まだ、だからね。この船の本領は、に出てからだよ。まあ、今回はそこまでは行かなくて、大気圏内を飛行するだけだから、そんなに速度はでないな」

 ユウがまた、よくわからないことをさらりと言う。

 「それで、この船は、王都まで、いったい何日かかるのですか?」

 職員が、おずおずと、ユウに聞いた。

 「えっ、何日?」

 ユウは、あっけらかんと答えた。

 「いやー、王都までだったら、ゆっくり行っても、たぶん、半刻(註:二十分)かな……」
 「「「「半刻?!」」」」

 わたしたち全員が、言葉を失ったのは言うまでもない。
 馬車で十日以上かかる距離が、たったの半刻……。
 信じられないよ。シンドゥーに行った、あの弾丸列車が問題にならないくらい速いじゃん。
 なんなの、この乗り物。

 「さあ、いくよー!」

 ユウが言い、とたんに景色がすごい勢いで流れ始めた!
 その中で、輝く星空だけが動かない。

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