アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ハーデースとの対話(2)

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 「このままでは呪いは解けることはないだろう……」

 ハーデースさまはそう言った。

 「そうしたら、アーテミスさまは月で、永久に凍りついたままに……」
 「うむ……このままでは、な」
 「あの、ハーデースさまが、ぱぱっと呪いを解いちゃったら?」

 と、ジーナ。

 「その瞬間に、ノモスが操縦する船は、飛び立っていくだろう。どこともしれない星の涯へと。それに、そもそもあの呪いは解けぬ」
 「どうしてですか?」
 「余が一度かけて、発動した呪いだ。余が月まで行けぬ以上、呪いはそのままであるしかない」
 「そんなあ!」

 ジーナが叫ぶ。

 「じゃあ、どうすればアーテミスさまを救えるの?」
 「もし、アーテミスを連れ戻す可能性があるとしたら、それには……、まず、誰かが月まで行かねばならない。そして、その誰かが、そこで余の呪いを解除して凍結した時間を戻し、さらに船にいるノモスを排除して、星の船を地上まで持ってくる、それがすべてできるのなら、可能性はある」
 「ええっ? 月まで行って、そこでハーデースさまの呪いを解いて、そしてあの『のっぺり』の本体を追い出す……そのうえ、星の船をまたこっちに運んでくる……ひとつひとつが、それだけでじゅうぶんに無理難題です。そんなめちゃくちゃなことのできる人が、この世界のどこに……」

 といいかけて、わたしは、ユウをみた。
 ジーナも、ユウをみた。
 わたしとジーナは顔を見合わせて、うなずく。

 「いましたね、ここに! ねえ、ユウさん!」
 「まあ、ミネーヴァさまに頼まれてるしね……できることはしないと」

 とユウはいつもの口調で答えた。

 「余からも頼む。このままではアーテミスが不憫だ」

 と、ハーデースさまが頭をさげた。

 (見えないのに、なぜ、頭をさげたとわるかのかって?
  ごもっともです。
  でも、そうなんです)

 「あれ? でもへんだな。『のっぺり』というか、そのノモスの本体は月に行って、凍ってるんでしょ? いま地上にいるのっぺりはなに?」

 とジーナ。
 直感に生きるジーナだが、ときどき鋭いことをいう。

 「うむ。余が呪いという保険をかけたように、ノモスも保険をかけたのだな。まんいち、飛行がうまくいかず、なにかの事故がおこって星の船が消滅したばあいでも、ノモスという存在が生き残るように、その一部を地球に残したのだと、余は考えておる」
 「なるほど。ノモスの安全策は当たった。この星に残されたノモスの一部分が、事態を打開しようと暗躍しているということか……」
 「星の船を、ノモスは再度入手した。あれを使って、また飛び立とうとしているのであろう」
 「でも、もうアーテミスさまはいないよ。ノモスに協力する別の神さまなんているはずもないし、どうやって飛ぶつもりなんだろ?」

 とジーナが首をひねる。

 「余にもわからぬ……。しかし、何らかの方法をみつけだしたのかもしれぬな。あの時、アーテミスが旅立ったあの時から、この地は多くの星霜を経たからな……」

 ハーデースさまが、ユウをじっと見つめるのが感じられた。

 「アンバランサー、あのとき、お主がいれば、アーテミスの願いは別の結果をとっていたであろうな……」

 そうもらすハーデースさまの声には、深い感慨があった。

 「あっ、ミネーヴァさまもそんなこといってました」

 とジーナ。

 「あの四人組は、ライラとジーナで倒したけど、地上にいるノモスは、あと?」

 ユウが尋ねる。

 「そうは多くないだろう。ノモスの精神支配をうけて手先となっている者はそれなりにおるようだが、ノモス自体はそれほど地上にのこってはいない。そもそもあれらは非常時用のだからな……」
 「あいつって、そうだよね? あのギルドを襲ったあいつ。あいつものっぺりだったもん」
 「独立して動くノモスは、あと一体か、多くても二体というところであろう……」
 「ぼくらが何をしなければならないのかは、わかりました。気になるのは……」

 ユウも眉をひそめた。

 「ノモスがどうやって、星の船を飛ばそうとしているか……そこだな。なにか、めんどうなことを考えていないといいが……」
 「あっ」

 とジーナが小声で言った。

 「ユウさん、それは

 ハーデースさまに見送られ、わたしたちは、クィーン・ルシア号に戻った。
 光のえれべーたーから外に出ると、そこでは、スフィンクスと、はる9000が、和気藹々と会話を交わしているのだった。

 「いやあ、さすがです、スフィンクスさま。ハイレベルな謎かけを堪能させていただきました」
 「お主こそ、たいしたものだ。特に、古代文明の、『だじゃれ』なるもの、興味が尽きぬ」
 「喜んでいただけましたか」
 「あれが、良かった。『隣の家にへいができたんだってね』なんと答える? というあれだ」
 「ハハハ、つうですねえ、あれはなかなか高度なものですよ」

 ……よくわからないが、わたしたちがハーデースさまと対話している間に、こちらでは双方の智慧のかぎりを尽くした、たいへんな戦いが行われていたようだ。

 「あっ、キャプテン、お戻りですか」
 「うん。それで、勝負はついたのかい」
 「引き分けに終わりました。再戦の約束を、堅く交わしたところです」
 「そうか……なら、また、来ないといけないね」
 「キャプテン、可及的速やかに、再訪をお願いします」
 「アンバランサー、そうしてもらえるとありがたい。我が主人も、喜ぶであろう」

 そうして、わたしたちは、王都に戻るために浮上した。
 上空から見ると、真っ白な禍つ神の座の上に、ポツリとスフィンクスが佇んで、名残惜しそうに、わたしたちを見上げている。
 その横に、ハーデースさまが立ち、こちらを見上げているのが、はっきりと分かった。
 もちろん姿は何も見えないが、わかるのだ。
 そして、雪におおわれて転がっている人の形をしたものは、例の「のっぺり」四人組、機能を停止したノモスの一部分である。
 禍つ神の座、この星でいちばん宇宙に近い場所は、クィーン・ルシア号が高度を上げると、すっと小さくなり、わたしたちの視界からどんどん遠ざかっていった。

 飛行中に、ユウが、はる9000に尋ねた。

 「教えてほしいんだが。はる9000」
 「なんでしょう、キャプテン」
 「この船が保管されていた格納庫には、計三機の星の船があったと思うんだ」
 「その通りです」
 「そして、一機はノモスに持ってかれちゃったわけだけど、君は、その船と連絡を取れるかい?」
 「現時点では不能です。おそらく通信しすてむが切られています」
 「ふむ……どこにいるかもわからないか」
 「現時点では……あの船が飛行を始めれば、その際は探知可能ですが」
 「わかった。もし、あの一機の存在を感知したら、すぐに報告するように」
 「ラジャー、キャプテン!」

 はる9000が即座に答える。

 「……って、いったい、どこの世界の言葉なのよ?」

 ジーナがつぶやいた。
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