57 / 69
アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編
<幕間> ある日の四人(4) ユウと、アンバランサーの幻
しおりを挟む
ユウは、どこに行くというあてもなく、ぶらぶらと街を歩いていたのだ。
今日は、「雷の女帝のしもべ」は自由行動の日となっている。
だから、ライラも、ジーナもいない。
ユウは、ひとりだった。
王都の雑踏の中を、ユウはのんびりと歩いて行った。
たくさんの人々とすれ違う。
ヒト族、エルフ族、獣人、ドワーフ族、竜人、巨人族、などなど。種族もさまざまだ。
一人のものもいれば、恋人なのか友人なのか、手を繋いで歩く二人。数人が集団で、何ごとか大声で笑いあいながら歩く若者たち。小さな子どもを間にして歩く、夫婦もの。ゆっくり散策する老人。走っていく子どもの集団。
仕事中のものもいる。汗だくになって、大きな荷物を運んでいる。
道端で、店をひろげ、客を呼び込んでいる旅の商人もいる。
列をつくって行進する騎士もいる。
大きな剣を背負い、かたをそびやかして歩く剣士もいる。
杖を手にした魔法使いもいる。
静かに歩く神官もいる。
農民もいる。職人もいる。
どうも得体の知れないものもいる。
大人もいれば、子どももいる(もっとも、子どもの見かけをしたものが、本当に子どもかどうか、それはわからない)。老人もいる。
男もいれば、女もいる。両性具有もいる。性別のないものもいる。
この世のものが多いが、この世のものならぬものも、確かに混ざっている。
それらのさまざまなものたちが、思いのままに、この町を闊歩している。
ユウは、それが好きだ。
この、多様な世界が好きだ。
そうしたさまざまなものたちの中を、ユウも、その中の一人として歩いていった。
スフィンクスがいったように、これが大海の中の一粒ということなのだろう。
「おや、あれは?」
すっと、視界の縁をよぎったその人物に、ユウは驚いた。
その人物は、黒いコートを羽織り、そして頭には黒い山高帽をかぶっていた。
やや猫背気味で、うつむいて歩いていく。
その姿に、この世界にとって異質の雰囲気を、ユウは感じたのだ。
その服装は、この世界のものでない。ユウの馴染みのある世界に属するものであった。
その人物は、雑踏の中を歩いていく。
だが――
ユウは気がついた。
誰も彼を見ていない。
誰も彼に気づかない。
そして、歩いていく彼と、向こうからやってきた、真ん中に子どもを挟んだ夫婦づれがすれ違う時。
どちらも避けず、そして、その黒衣の人物は、真ん中の子どもをすり抜けて歩き去った。
子どもも、夫婦も気づかない。笑いながら、歩きすぎる。
「あれは、幻。過去の残像だ……」
ユウは気がつく。
その人は、今、ここにあるものではない。
かつて、それはどのくらい前かわからないが、この地を歩いていった、その人物の残像を、自分は見ているのだ、と。
そして、それができるのは、自分がアンバランサーであるから。
あのコートの人物もまた、アンバランサーに違いない。
過去に、この世界を訪れたアンバランサーの残像を、今、ぼくは見ているんだ……。
あの人は、どこに行くんだろう?
そしてユウは、彼の後をついて歩く。
見失わないように、注意しながら。
コートの人の歩き振りは、特に目的のある人のそれではなく、気の向くまま、ぶらぶらと散策している様子である。さっきまでの、ユウのように。
ときおり、たちどまって、じっと何かを眺めている。
ユウには、おそらく、その視線の先にはかつて、露店がでていたのではないかという気がした。まるで、ぼくが、シンドゥーの町でそうだったように、目に入るものがものめずらしく、目を輝かせながら、この世界を歩いていたのだ。
そんなふうに、町を散歩していたコートの人は、やがて、城門を通り抜け、町の外に出て行く。
ユウも、そのまま、後をついていった。
わかっている。
あれは、過去の幻だから、話しかけても返事はない。
ぼくと、彼の間に、疎通はできない。
それでも、ユウは、コートの人と話がしてみたかった。彼がどんな人で、何を感じ、どんなことを考えながら、この世界で生きたのかを、知りたかった。
その間も、コートの人は、ぶらぶらと歩いていく。
草原を歩く。
彼が歩いて行っても、草は少しも揺れない。
ふと、空を見上げる。
そのとき、そこには、おそらく、鳥が飛んでいたのだろう。
そして、また歩き出す。
どこまであるいたのだろうか。
日はいつの間にか傾いている。
草原はとぎれ、荒れ野に出た。
荒れ野には、大きな岩がいくつも散在していた。
コートの人は、その岩の一つまで歩いて行くと、岩に背中をもたれかけて、こちらをふりかえる。
ようやく、顔がみえた。
温和そうな、しかし、孤独を感じるその顔。
視線がユウに。
しかし、その人にユウが見えるはずもなく、彼の視線はユウを素通りしていく。
ユウを通りこして、その向こうに何かをみて。
その人が、やさしく笑った。
そして、ふっと、その人は消えた。
ユウは、その人が消えた場所まで歩いていった。
その人と同じように、岩にもたれた。
草原と、そのはるか向こうにみえる王都の城壁。
くれかかる空を、鳥が飛んでいく。
ああ、ぼくも、そろそろ、戻らないといけないな。
そうおもって、最後に、その岩を見たユウは、まるで雷に打たれたように動きをとめた。
その岩に。
文字がきざんであったのだ。まぎれもなく、日本のことばで。
その文字にはこうあった。
「わたしに続く、アンバランサーの君に。
この世界は、美しい
不合理や理不尽は数多あれども、
この地には生きる価値あり
わたしは希う、君の思いがわたしと同一であることを。
K.M」
ユウは、その文字を長いことながめていた。
これを書いた人の、人となりが伝わる、その筆跡。
やがて、ユウは、顔を上げると、きびすをかえし、この地で出会った大切な人たちのもとに、戻っていったのだ。
今日は、「雷の女帝のしもべ」は自由行動の日となっている。
だから、ライラも、ジーナもいない。
ユウは、ひとりだった。
王都の雑踏の中を、ユウはのんびりと歩いて行った。
たくさんの人々とすれ違う。
ヒト族、エルフ族、獣人、ドワーフ族、竜人、巨人族、などなど。種族もさまざまだ。
一人のものもいれば、恋人なのか友人なのか、手を繋いで歩く二人。数人が集団で、何ごとか大声で笑いあいながら歩く若者たち。小さな子どもを間にして歩く、夫婦もの。ゆっくり散策する老人。走っていく子どもの集団。
仕事中のものもいる。汗だくになって、大きな荷物を運んでいる。
道端で、店をひろげ、客を呼び込んでいる旅の商人もいる。
列をつくって行進する騎士もいる。
大きな剣を背負い、かたをそびやかして歩く剣士もいる。
杖を手にした魔法使いもいる。
静かに歩く神官もいる。
農民もいる。職人もいる。
どうも得体の知れないものもいる。
大人もいれば、子どももいる(もっとも、子どもの見かけをしたものが、本当に子どもかどうか、それはわからない)。老人もいる。
男もいれば、女もいる。両性具有もいる。性別のないものもいる。
この世のものが多いが、この世のものならぬものも、確かに混ざっている。
それらのさまざまなものたちが、思いのままに、この町を闊歩している。
ユウは、それが好きだ。
この、多様な世界が好きだ。
そうしたさまざまなものたちの中を、ユウも、その中の一人として歩いていった。
スフィンクスがいったように、これが大海の中の一粒ということなのだろう。
「おや、あれは?」
すっと、視界の縁をよぎったその人物に、ユウは驚いた。
その人物は、黒いコートを羽織り、そして頭には黒い山高帽をかぶっていた。
やや猫背気味で、うつむいて歩いていく。
その姿に、この世界にとって異質の雰囲気を、ユウは感じたのだ。
その服装は、この世界のものでない。ユウの馴染みのある世界に属するものであった。
その人物は、雑踏の中を歩いていく。
だが――
ユウは気がついた。
誰も彼を見ていない。
誰も彼に気づかない。
そして、歩いていく彼と、向こうからやってきた、真ん中に子どもを挟んだ夫婦づれがすれ違う時。
どちらも避けず、そして、その黒衣の人物は、真ん中の子どもをすり抜けて歩き去った。
子どもも、夫婦も気づかない。笑いながら、歩きすぎる。
「あれは、幻。過去の残像だ……」
ユウは気がつく。
その人は、今、ここにあるものではない。
かつて、それはどのくらい前かわからないが、この地を歩いていった、その人物の残像を、自分は見ているのだ、と。
そして、それができるのは、自分がアンバランサーであるから。
あのコートの人物もまた、アンバランサーに違いない。
過去に、この世界を訪れたアンバランサーの残像を、今、ぼくは見ているんだ……。
あの人は、どこに行くんだろう?
そしてユウは、彼の後をついて歩く。
見失わないように、注意しながら。
コートの人の歩き振りは、特に目的のある人のそれではなく、気の向くまま、ぶらぶらと散策している様子である。さっきまでの、ユウのように。
ときおり、たちどまって、じっと何かを眺めている。
ユウには、おそらく、その視線の先にはかつて、露店がでていたのではないかという気がした。まるで、ぼくが、シンドゥーの町でそうだったように、目に入るものがものめずらしく、目を輝かせながら、この世界を歩いていたのだ。
そんなふうに、町を散歩していたコートの人は、やがて、城門を通り抜け、町の外に出て行く。
ユウも、そのまま、後をついていった。
わかっている。
あれは、過去の幻だから、話しかけても返事はない。
ぼくと、彼の間に、疎通はできない。
それでも、ユウは、コートの人と話がしてみたかった。彼がどんな人で、何を感じ、どんなことを考えながら、この世界で生きたのかを、知りたかった。
その間も、コートの人は、ぶらぶらと歩いていく。
草原を歩く。
彼が歩いて行っても、草は少しも揺れない。
ふと、空を見上げる。
そのとき、そこには、おそらく、鳥が飛んでいたのだろう。
そして、また歩き出す。
どこまであるいたのだろうか。
日はいつの間にか傾いている。
草原はとぎれ、荒れ野に出た。
荒れ野には、大きな岩がいくつも散在していた。
コートの人は、その岩の一つまで歩いて行くと、岩に背中をもたれかけて、こちらをふりかえる。
ようやく、顔がみえた。
温和そうな、しかし、孤独を感じるその顔。
視線がユウに。
しかし、その人にユウが見えるはずもなく、彼の視線はユウを素通りしていく。
ユウを通りこして、その向こうに何かをみて。
その人が、やさしく笑った。
そして、ふっと、その人は消えた。
ユウは、その人が消えた場所まで歩いていった。
その人と同じように、岩にもたれた。
草原と、そのはるか向こうにみえる王都の城壁。
くれかかる空を、鳥が飛んでいく。
ああ、ぼくも、そろそろ、戻らないといけないな。
そうおもって、最後に、その岩を見たユウは、まるで雷に打たれたように動きをとめた。
その岩に。
文字がきざんであったのだ。まぎれもなく、日本のことばで。
その文字にはこうあった。
「わたしに続く、アンバランサーの君に。
この世界は、美しい
不合理や理不尽は数多あれども、
この地には生きる価値あり
わたしは希う、君の思いがわたしと同一であることを。
K.M」
ユウは、その文字を長いことながめていた。
これを書いた人の、人となりが伝わる、その筆跡。
やがて、ユウは、顔を上げると、きびすをかえし、この地で出会った大切な人たちのもとに、戻っていったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う
黒崎隼人
ファンタジー
「え、俺なんかしました?」
ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。
彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。
カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。
「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!?
無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。
これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる