アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ルシア先生が、箱をうけとる。

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 さんざんルシア先生の宇宙遊泳につきあわされはしたものの、ぶじ地球に帰還したわたしたちは、孤児院ホームに帰るまでの毎日を、とても忙しく過ごした。

 もちろん、大聖堂のミネーヴァさまの庭にも、お邪魔したのだ。
 わたしたちが、大聖堂を訪れると、

 「「みんな、待ってたわよー」」

 そういって、女の子が二人、かけよってきた。
 もちろん、ミネーヴァさまとアーテミスさまである。
 月で、アーテミスさまがおっしゃった通りだ。アーテミスさまは、月と地球との同時存在となられたのだ。

 「「行こう、行こう!」」

 ユウは、ふたりに両手をとられ、ひっぱられていく。
 遠くから、大司教が深々と頭を下げていた。

 「さあ、待ちかねたわ、ユウ。はやく聞かせて!」

 秘密の庭で、ミネーヴァさまが言い、ふたりの女神は、楽しそうにわたしたちの話を聞くのだった。

 「月人国のほうは、今、どうなっていますか?」

 わたしは、アーテミスさまに聞いてみた。

 「すごいわよ、月の民たちは、また知性のレベルがあがったみたい。星の船を中心にして、都市を建設し始めたわ。わたしの、大きな神像を建てようとしたので、それはもちろん神の権限を持って、きびしく禁止したけど」

 と、アーテミスさまは答えた。(それを聞いて、ミネーヴァさまが「ああ……わたしもそうしておけばよかったわ……そうしたら、あんな神像を……」と、残念そうに言った)

 「みんな、遊びに来てね。月人国をあげて、歓迎するから」
 「はいっ!」

 ジーナが即答したのだった。



 「ねえ、ユウ」

 と、王都での用事をほぼ終えたある日、ルシア先生が真剣な顔でいった。

 「わたし、王都を去る前に、どうしてもいきたいところがあるの」

 ユウが、ルシア先生をみて、やさしく言う。

 「……そこは、ルシアさんにとって、とても大事な場所なんですね」

 ルシア先生はうなずく。

 「そう……そして、そこには、ユウ、あなたと、ライラ、ジーナ、みんなに一緒に来てほしいのよ」

 静かな王都の午後、わたしたちはルシア先生に連れられて、迎賓館を出たのだった。
 フードで顔を隠して歩く、ルシア先生の顔は、こころなしか憂いをふくんでいた。
 言葉数も少なく、そんなルシア先生の気持ちを慮って、わたしたちも黙ってついて行く。
 城門をぬけて、草原を歩く。
 すると、そこには、膝くらいまでの高さの、低い石造りの壁で囲まれた、広い場所があった。
 囲いの中には、芝生が植えられて、さまざまな意匠の石碑が建っている。
 静謐な場所だった。
 そこは、王都の墓地だったのだ。
 ルシア先生は、墓地の門をくぐり、中に歩みいる。
 おそらく王都を離れてから、一度も訪れていない、その場所。
 ルシア先生の足取りは、迷うことなく、まっすぐに、墓地の一角に向かう。
 そして、ルシア先生は、足を止めた。
 そこには、三つの大きな墓石と、ふたつの小さな墓石があった。
 墓石は、ほとんど手を加えられていない、ふぞろいの自然石で、それぞれに、一文字ずつ、魔法文字が彫られているのみである。
 ルシア先生は、その墓石を前に、瞑目した。
 再び、目をあけると、静かに言った。

 「百五十年前、わたしとともに戦った仲間……わたしは生き残ったけれども、かれらは……」
 「百五十年……では、魔獣との戦いで?」

 ルシア先生はうなずいた。

 「わたしは、あの戦いで多くのものを失い、そしてこの地を離れたけれど……」

 墓石に向き直り

 「今、力を取り戻し、そしてなにより、かけがえのない人たちと巡り会うことができた。……そのことを、報告したかった……みんなに、届いてるかしら?」
 「ルシア先生……」

 ジーナが泣いていた。わたしの目からも、涙がこぼれた。
 おだやかな風が、やさしく吹き渡り、ルシア先生の髪がなびいた。
 ルシア先生は、涙をぬぐって、

 「……ありがとう。帰りましょうか……」

 ユウが、そんなルシア先生の肩を、優しく抱いたのだ。
 ちなみにこのとき、どこか遠くの、複数の場所から「泣かせるねえ……」「良い場面だわ」「また放映しなくていいかな」「あたしも泣いちゃった……」などの声が聞こえたような気がしますが、気のせいじゃないかと思います。

 わたしたちが、墓地をでると、その門のところに跪く、小さな人影があった。

 「ルシアさま」

 その人影は、ルシア先生に呼びかけた。

 「ゴッセン……!」

 ルシア先生が、驚いた声をだす。
 ルシア先生の知り合いのようだ。
 ヒト族ではない。その容貌は、わたしの知っているどの種族のものでもなかった。

 「これを……」

 と、ゴッセンと呼ばれた小柄な人物は、抱えていたものを両手で差し出した。
 複雑な彫刻がほどこされた、黒檀の箱だった。
 縁は金属で補強されている。
 強力な魔法による、きわめて厳重な封印がされているのが、見ただけで分かる。

 「わたしに? どうして?」
 「ルシアさまが、ここを訪れたときに、お渡しするようにと、みなさまから言いつかっております」
 「みんなから、わたしに?」
 「お待ち申し上げておりました、ルシアさま。お受け取り下さい」

 ゴッセンは、箱を差し出して、深く頭をさげる。
 ルシア先生は、おずおずと両手をのばし、その箱をうけとった。
 どうっと強い風が吹いた。

 次の瞬間、ゴッセンの姿はもうどこにもなかった。

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