16 / 98
16 ロジャーの話
しおりを挟む
私がオロオロしていると、彼は目ざとく私を見つけてハミルトンに尋ねた。
「その子が例の子かい?」
例の子って…
やはり私の存在は他の貴族の方々には周知の事実のようだ。
「ああ、紹介するよ。妹のジェシカだ。ジェシカ、彼はハリントン侯爵家の次期当主、ロジャーだ。正式な場じゃないから、普通に挨拶すればいい」
ハミルトンに懸念していた事を指摘されて私は少し面食らう。
てっきり私が貴族の挨拶が出来ない事をあげつらってロジャーと二人で笑い者にするのかと思っていたからだ。
だけど、世間に対して体裁を取り繕うつもりだろうから、そんな事はしないわよね。
私はハミルトンに言われた通りに普通に頭を下げてロジャーに挨拶をする。
「はじめまして、ジェシカと申します。よろしくお願いします」
ニコッと笑って軽くロジャーに向かって頭を下げる。
赤茶色の髪に緑の瞳のロジャーはちょっと目を見開いたが、すぐにニコリと笑い返してくる。
「はじめまして、ロジャーです。ハミルトンとは同級生でそれなりに仲が良いんだ。これからもよろしくね」
「挨拶も済んだしこれで失礼するよ」
さっさと歩き出そうとしたハミルトンを何故かロジャーが引き留める。
「ああ、ハミルトン。後で連絡しようと思っていたんだけど…」
そう言ってロジャーは周囲を気にするように辺りを見回した後で声を潜めてハミルトンに告げる。
「どうやら叔母がもう長くないらしい。君の家と無関係ではないから一応伝えておこうと思ってね」
ロジャーの叔母さんの話なのに公爵家とは無関係じゃないなんて、一体どういう関係なのかしら。
それに周囲を気にしていたのに私の耳に入っても大丈夫なのかしら。
二人から少し距離を取ろうかと思ったが、今更離れるわけにもいかず、私はひたすら無表情を決め込んだ。
「そうか。以前も思わしくないと言われていたし、ユージーンも覚悟は出来ているだろうな」
二人の会話を読み解くとどうやらユージーンと言う人がロジャーの叔母さんの息子のようだ。
少し重苦しくなった空気を振り払うかのようにロジャーがひときわ明るい声をあげる。
「それにしてもハミルトンが女性を伴って宝飾店から出てくるからとうとう婚約者が決まったのかと思ったのにな。お前が早く婚約者を決めないと他の奴らの婚約も決まらないんだけどな」
「自分は婚約しているからって随分と余裕な発言だな。僕よりも先に婚約者を決めないといけない奴がいるだろうが」
「ユージーンか。だが自分の母親があの状態では婚約者選びも何もないだろう。早く決めて安心させてやりたい気持ちもあるかもしれないが…」
せっかくロジャーが空気を変えようとしたのに、ハミルトンの発言で失敗した形になってしまっている。
それに気付いたロジャーがフッと軽く口元を緩める。
「会ったばかりのジェシカ嬢に変な話を聞かせてしまいましたね、申し訳ありません」
突然ロジャーに謝罪をされて、私は慌てて首を横に振る。
「とんでもありません。私の方こそ気を使っていただいて申し訳ございません」
すぐ近くに馬車があるのだから一声かけてそちらに走れば良かったのに、今更気付いても遅いよね。
そもそもハミルトンが「あっちへ行け」と言わないのに、勝手に離れていいのか迷ったのよ。
「それじゃ僕はこれで失礼するよ。ジェシカ嬢、またお会いしましょう」
「ああ、またな」
「失礼いたします」
ロジャーは軽く私達に手を振ると、今私達が出て来た宝飾店へと入って行った。
「ジェシカ、行くぞ」
ハミルトンが歩き出した後を追いかけて馬車に向かうと、私達に気付いた御者が馬車の扉を開けてくれた。
またもやハミルトンの手を借りて馬車に乗り込むと、向かいに座ったままハミルトンは窓の外を見つめたまま、じっと何かを考えているようだ。
…さっきのロジャーの話について考えているみたい。
公爵家にも関係があるって、一体どういう事なのかしら。
聞いても答えてくれるかどうかもわからないので、私はハミルトンとは反対側の窓の外に目をやった。
そうして出て来た時と同じく無言のまま、私達は公爵邸へと戻って行った。
「その子が例の子かい?」
例の子って…
やはり私の存在は他の貴族の方々には周知の事実のようだ。
「ああ、紹介するよ。妹のジェシカだ。ジェシカ、彼はハリントン侯爵家の次期当主、ロジャーだ。正式な場じゃないから、普通に挨拶すればいい」
ハミルトンに懸念していた事を指摘されて私は少し面食らう。
てっきり私が貴族の挨拶が出来ない事をあげつらってロジャーと二人で笑い者にするのかと思っていたからだ。
だけど、世間に対して体裁を取り繕うつもりだろうから、そんな事はしないわよね。
私はハミルトンに言われた通りに普通に頭を下げてロジャーに挨拶をする。
「はじめまして、ジェシカと申します。よろしくお願いします」
ニコッと笑って軽くロジャーに向かって頭を下げる。
赤茶色の髪に緑の瞳のロジャーはちょっと目を見開いたが、すぐにニコリと笑い返してくる。
「はじめまして、ロジャーです。ハミルトンとは同級生でそれなりに仲が良いんだ。これからもよろしくね」
「挨拶も済んだしこれで失礼するよ」
さっさと歩き出そうとしたハミルトンを何故かロジャーが引き留める。
「ああ、ハミルトン。後で連絡しようと思っていたんだけど…」
そう言ってロジャーは周囲を気にするように辺りを見回した後で声を潜めてハミルトンに告げる。
「どうやら叔母がもう長くないらしい。君の家と無関係ではないから一応伝えておこうと思ってね」
ロジャーの叔母さんの話なのに公爵家とは無関係じゃないなんて、一体どういう関係なのかしら。
それに周囲を気にしていたのに私の耳に入っても大丈夫なのかしら。
二人から少し距離を取ろうかと思ったが、今更離れるわけにもいかず、私はひたすら無表情を決め込んだ。
「そうか。以前も思わしくないと言われていたし、ユージーンも覚悟は出来ているだろうな」
二人の会話を読み解くとどうやらユージーンと言う人がロジャーの叔母さんの息子のようだ。
少し重苦しくなった空気を振り払うかのようにロジャーがひときわ明るい声をあげる。
「それにしてもハミルトンが女性を伴って宝飾店から出てくるからとうとう婚約者が決まったのかと思ったのにな。お前が早く婚約者を決めないと他の奴らの婚約も決まらないんだけどな」
「自分は婚約しているからって随分と余裕な発言だな。僕よりも先に婚約者を決めないといけない奴がいるだろうが」
「ユージーンか。だが自分の母親があの状態では婚約者選びも何もないだろう。早く決めて安心させてやりたい気持ちもあるかもしれないが…」
せっかくロジャーが空気を変えようとしたのに、ハミルトンの発言で失敗した形になってしまっている。
それに気付いたロジャーがフッと軽く口元を緩める。
「会ったばかりのジェシカ嬢に変な話を聞かせてしまいましたね、申し訳ありません」
突然ロジャーに謝罪をされて、私は慌てて首を横に振る。
「とんでもありません。私の方こそ気を使っていただいて申し訳ございません」
すぐ近くに馬車があるのだから一声かけてそちらに走れば良かったのに、今更気付いても遅いよね。
そもそもハミルトンが「あっちへ行け」と言わないのに、勝手に離れていいのか迷ったのよ。
「それじゃ僕はこれで失礼するよ。ジェシカ嬢、またお会いしましょう」
「ああ、またな」
「失礼いたします」
ロジャーは軽く私達に手を振ると、今私達が出て来た宝飾店へと入って行った。
「ジェシカ、行くぞ」
ハミルトンが歩き出した後を追いかけて馬車に向かうと、私達に気付いた御者が馬車の扉を開けてくれた。
またもやハミルトンの手を借りて馬車に乗り込むと、向かいに座ったままハミルトンは窓の外を見つめたまま、じっと何かを考えているようだ。
…さっきのロジャーの話について考えているみたい。
公爵家にも関係があるって、一体どういう事なのかしら。
聞いても答えてくれるかどうかもわからないので、私はハミルトンとは反対側の窓の外に目をやった。
そうして出て来た時と同じく無言のまま、私達は公爵邸へと戻って行った。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
皇帝とおばちゃん姫の恋物語
ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。
そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。
てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。
まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。
女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
拾った指輪で公爵様の妻になりました
奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。
とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。
この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……?
「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」
公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
異世界恋愛短編集 ~婚約破棄されても幸せになることはできます~
四季
恋愛
婚約破棄、ざまぁ、などの要素を含む短編をまとめた異世界恋愛短編集です。
ささっと書いたもののため深く考えるにはあまり適さないかもしれませんがご了承ください。
さくっと読めるかと思います。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる