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66 帰宅
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一瞬、振り返ったミランダはすぐに何事もなかったかのように顔を元に戻した。
ゾクリ、と身体を震わせる私にお兄様が「どうかしたのか?」と尋ねてくる。
ミランダの事を告げようかと思ったが、何の証拠もないのに、決めつけていいものか迷ってしまう。
「…いえ、何でもありません」
ミランダとは今後関わる事はないはずだから、特に言う必要もないわね。
埋葬も終わり皆がぞろぞろと礼拝堂に戻る中、ミランダだけは王妃様の墓前から動こうとしなかった。
誰も彼女に声をかける事もなく、通り過ぎて行く。
私も彼女にチラリと視線を向けたがお兄様に促されて礼拝堂へと戻った。
後片付けが行われている礼拝堂の中をを通り過ぎて馬車に向かい、そのまま王宮へと向かう。
「それにしても、フェリシアの言葉には驚かされたよ。母上の目が開いていたとか言い出すんだからね」
いきなりお兄様に暴露されて私は慌てた。
「ちょっと、お兄様…」
「何だ、それは? 聞き捨てならないな」
案の定、お父様はお兄様の言葉を聞き咎める。
「何があったんだ、フェリシア?」
私の見間違いかもしれないのに、そんな話をお父様の耳に入れたくはなかったわ。
お父様に顔を覗き込まれて私は仕方なく先程の事を話した。
「私が献花の際に王妃様のお顔を覗くと、王妃様の目が開いたように見えたんです。驚いて一歩下がったんですけれど、再びお顔を見た時には目は閉じていたので、私の見間違いだと思います」
「あの時、後ずさりしたのはそういう事か。だが、間違いなくソフィアは亡くなったんだ。医者もそう診断したし、一週間近く教会に安置していたからね。第一、生きているならミランダが黙ってはいないだろう」
お父様の言う通り、王妃様が生きているのならば、こんなふうに葬儀なんてしないわよね。
「すみません、お父様。こんな話をしてしまって…。お兄様も黙っててくださればいいのに…」
チラリと横に座るお兄様を睨みつけると、お兄様は何故かニコニコしている。
「フェリシアの睨んだ顔も可愛いな。だけどそんな顔を他の男には見せちゃ駄目だよ」
お兄様ったら、妹相手に口説き文句みたいな事を言わないでよ。
「ユージーンばかりずるいぞ。フェリシア、私にもそういう顔を見せておくれ」
お兄様ばかりかお父様までが変な事を言い出したわ。
私は両脇に座る二人を見ないように真っ直ぐ前を見つめた。
「あ、フェリシア。そんなに怒らないでこっちを向いてよ」
「いやいや、フェリシア。私の方を見てくれるよな?」
もう!
二人共煩いので目を瞑って寝たふりでもしてしまおう。
私は背もたれにもたれかかると目を瞑った。
それほど時間もかからずに馬車は王宮の中へと戻って行く。
今日は王妃様の葬儀があったため、王宮に勤める貴族達も皆お休みだ。
警備に当たる騎士と使用人だけが、王宮の中を行き来している。
お父様とお兄様も今日は休みになっている。
「フェリシア。今日はレッスンはお休みだからな。明日からはお前のお披露目の準備に入るからそのつもりでな」
私の部屋の前まで来ると、お父様はそう告げて自分の部屋へと向かった。
「フェリシア。僕も今日は一日喪に服すからね。部屋で母上との思い出に浸るよ。と言っても大した思い出はないけれどね」
お兄様もそう言い残して私の前から去って行った。
母親に邪険にされていたとは言っても、やはり実の親だものね。
私は二人の背中を見送ると、アガサが開けてくれた扉から自分の部屋の中に入った。
私の後から侍女達も入ってくると、ドレスを着替えさせてくれた。
部屋着に着替えてアガサが淹れてくれたお茶を飲むとようやくひと息つけた。
そこで思い浮かぶのはやはりあの時の王妃様の顔だった。
本当に見間違いだったのだろうか?
たが、いくら考えても答えは出なかった。
ゾクリ、と身体を震わせる私にお兄様が「どうかしたのか?」と尋ねてくる。
ミランダの事を告げようかと思ったが、何の証拠もないのに、決めつけていいものか迷ってしまう。
「…いえ、何でもありません」
ミランダとは今後関わる事はないはずだから、特に言う必要もないわね。
埋葬も終わり皆がぞろぞろと礼拝堂に戻る中、ミランダだけは王妃様の墓前から動こうとしなかった。
誰も彼女に声をかける事もなく、通り過ぎて行く。
私も彼女にチラリと視線を向けたがお兄様に促されて礼拝堂へと戻った。
後片付けが行われている礼拝堂の中をを通り過ぎて馬車に向かい、そのまま王宮へと向かう。
「それにしても、フェリシアの言葉には驚かされたよ。母上の目が開いていたとか言い出すんだからね」
いきなりお兄様に暴露されて私は慌てた。
「ちょっと、お兄様…」
「何だ、それは? 聞き捨てならないな」
案の定、お父様はお兄様の言葉を聞き咎める。
「何があったんだ、フェリシア?」
私の見間違いかもしれないのに、そんな話をお父様の耳に入れたくはなかったわ。
お父様に顔を覗き込まれて私は仕方なく先程の事を話した。
「私が献花の際に王妃様のお顔を覗くと、王妃様の目が開いたように見えたんです。驚いて一歩下がったんですけれど、再びお顔を見た時には目は閉じていたので、私の見間違いだと思います」
「あの時、後ずさりしたのはそういう事か。だが、間違いなくソフィアは亡くなったんだ。医者もそう診断したし、一週間近く教会に安置していたからね。第一、生きているならミランダが黙ってはいないだろう」
お父様の言う通り、王妃様が生きているのならば、こんなふうに葬儀なんてしないわよね。
「すみません、お父様。こんな話をしてしまって…。お兄様も黙っててくださればいいのに…」
チラリと横に座るお兄様を睨みつけると、お兄様は何故かニコニコしている。
「フェリシアの睨んだ顔も可愛いな。だけどそんな顔を他の男には見せちゃ駄目だよ」
お兄様ったら、妹相手に口説き文句みたいな事を言わないでよ。
「ユージーンばかりずるいぞ。フェリシア、私にもそういう顔を見せておくれ」
お兄様ばかりかお父様までが変な事を言い出したわ。
私は両脇に座る二人を見ないように真っ直ぐ前を見つめた。
「あ、フェリシア。そんなに怒らないでこっちを向いてよ」
「いやいや、フェリシア。私の方を見てくれるよな?」
もう!
二人共煩いので目を瞑って寝たふりでもしてしまおう。
私は背もたれにもたれかかると目を瞑った。
それほど時間もかからずに馬車は王宮の中へと戻って行く。
今日は王妃様の葬儀があったため、王宮に勤める貴族達も皆お休みだ。
警備に当たる騎士と使用人だけが、王宮の中を行き来している。
お父様とお兄様も今日は休みになっている。
「フェリシア。今日はレッスンはお休みだからな。明日からはお前のお披露目の準備に入るからそのつもりでな」
私の部屋の前まで来ると、お父様はそう告げて自分の部屋へと向かった。
「フェリシア。僕も今日は一日喪に服すからね。部屋で母上との思い出に浸るよ。と言っても大した思い出はないけれどね」
お兄様もそう言い残して私の前から去って行った。
母親に邪険にされていたとは言っても、やはり実の親だものね。
私は二人の背中を見送ると、アガサが開けてくれた扉から自分の部屋の中に入った。
私の後から侍女達も入ってくると、ドレスを着替えさせてくれた。
部屋着に着替えてアガサが淹れてくれたお茶を飲むとようやくひと息つけた。
そこで思い浮かぶのはやはりあの時の王妃様の顔だった。
本当に見間違いだったのだろうか?
たが、いくら考えても答えは出なかった。
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