【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
78 / 98

78 決着(ユージーン視点)

しおりを挟む
 まばゆい光に一瞬、目を瞑ったものの、すぐに自分の身に起きた異変に気が付いた。

 …身体が動くようになった?

 先ほどまで自分の思い通りにならなかった身体が自由を取り戻したようだ。

 それに僕達にはただの眩しいだけの光だったのに、ミランダにとっては違ったようだ。

 フェリシアから手を離すと両手で目を覆ったまま、「目が… 目が… 焼ける!」と喚いている。

(今だ!)

 僕はガラ空きになっているミランダの胸に向かって剣を思いっきり突き立てた。

「グッ!」

 剣に胸を貫かれたまま、ミランダはその場に倒れた。

 だが、まだ油断は出来ない。

 僕はフェリシアの前に身を移すと、ミランダから庇うように立ち塞がった。

 ミランダは恨みがましい目をこちらに向けていたが、既にその目に生気はなかった。

(何とか一撃で仕留められたか…) 

 安堵すると同時にフェリシアの事が気になった。

「フェリシア、傷は大丈夫か?」

 振り向いてフェリシアの姿を見ると首にミランダに付けられた傷から血が滲んだままになっている。

 フェリシアの身体に傷を付けるなんて、既に死んでいるとわかっていても、何度でも刺し殺してやりたい。

 そう思っていたがフェリシアの言葉で現実を思い出した。

「大丈夫、かすり傷です。私よりもお父様の方が…」

 フェリシアの視線が僕の後ろに向けられて僕は慌てて倒れている父上の元に駆け寄った。

 ミランダに操られていたとはいえ、父上を斬りつけたのはこの僕だ。

 うずくまっている父上の身体からは、血がとめどなく溢れている。

 出血のせいか父上の顔色も青ざめている。

 早く止血をしなければいけないのはわかっているが、僕も父上も回復魔法が得意ではない。

「早く、止血をしないとお父様が死んでしまうわ」 

 今にも泣き出しそうなフェリシアに、ヒールを使える魔術師がいないと告げると、かなりショックを受けていた。

「そ、そんな…」

 そうつぶやきながら、フェリシアはうずくまっている父上の傷を触っていた。

 すると、フェリシアの手がぼうっと光ったかと思うと、父上の傷が徐々に消えていった。

「フェリシア? まさかヒールが使えたのか?」

 僕も驚いたが、フェリシア自身も不可解な顔をしていた。

 フェリシアのヒールによって父上の傷が塞がり、父上の顔色も段々と良くなっていった。

 血塗れだった衣服もクリーン魔法で綺麗になったが、切り裂かれた部分は直せなかったようだ。

 座り込んでいる父上に手を貸すとふらつきながらも自分の足で立ち上がった。

「ありがとう、フェリシア。まさかお前がヒールを使えるなんて知らなかったよ」

「私も今日初めて知りました。…もっと早くわかっていたらジェシカも死なずにすんだのかしら…」

 自分の手を見つめながらポツリとつぶやくフェリシアが悲しそうな目をする。

 下手な慰めは不要かもしれないが言わずにはいられない。

「フェリシア。ジェシカだってわかってくれているよ。そんなに気に病むことはない」

 優しく頭を撫でてやれば、ほんの少しだけ笑みを返してくれた。

「それにしてもミランダが私の妹だったとは…」

「すみません、父上。生かしておいて色々と聞かなければいけない事もあったのでしょうが、手加減出来ませんでした」

 ミランダは魔法が使えたから、変に手加減するとこちらがやられてしまう可能性があった。

「いや、あの場合は仕方がない。それにたとえ生かしておいても結局は死刑になるのだからな」

 父上がミランダに憐れみの目を向けていると「…う…」という呻き声が聞こえた。

 一瞬、ミランダが息を吹き返したかと身構えたが、声が聞こえたのはフェリシアの後ろからだった。

 フェリシアが急いで倒れているアガサを助け起こしに行く。

「アガサ、大丈夫?」

「フェリシア様、大丈夫です。それよりミランダは?」

 起き上がったアガサは胸を貫かれて倒れているミランダを見て何があったのか察したようだ。

「まさかミランダがフェリシア様を襲ってくるなんて思いもしませんでした。こんな事になって残念です」

 そう言ったアガサは父上に目を向けると僕が一番聞きたくない言葉を放った。

「ところで陛下。どうしてそんなにお召し物が破れているのですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。 そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。 てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。 まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。 女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

拾った指輪で公爵様の妻になりました

奏多
恋愛
結婚の宣誓を行う直前、落ちていた指輪を拾ったエミリア。 とっさに取り替えたのは、家族ごと自分をも売り飛ばそうと計画している高利貸しとの結婚を回避できるからだ。 この指輪の本当の持ち主との結婚相手は怒るのではと思ったが、最悪殺されてもいいと思ったのに、予想外に受け入れてくれたけれど……? 「この試験を通過できれば、君との結婚を継続する。そうでなければ、死んだものとして他国へ行ってもらおうか」 公爵閣下の19回目の結婚相手になったエミリアのお話です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

異世界恋愛短編集 ~婚約破棄されても幸せになることはできます~

四季
恋愛
婚約破棄、ざまぁ、などの要素を含む短編をまとめた異世界恋愛短編集です。 ささっと書いたもののため深く考えるにはあまり適さないかもしれませんがご了承ください。 さくっと読めるかと思います。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

処理中です...