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93 略奪
曲が終わるとお兄様とセシリアがこちらに戻って来た。
仲睦まじい二人の姿を見てむしゃくしゃするのは、お兄様を取られるという嫉妬心からか、それともハミルトンをアンジェリカに取られそうな焦燥感からなのか。
どちらにしても心穏やかでいられないのが腹立たしい。
次の曲はアンジェリカと父親が踊るようだ。
二人揃ってホールの中央へと進んでいく。
父親はアンジェリカと踊るのが嬉しいようで笑顔というよりはデレデレとした顔つきになっている。
普段のフォスター侯爵がどんな人物かは知らないけれど、きっと今は想像もつかないくらい、やに下がっているんだろう。
気がつけばアンジェリカが座っていた椅子の近くにいたハミルトンの姿が見えなくなっていた。
何処へ消えたのかしら、と辺りを見回すとこちらに近付いてくるハミルトンの姿が目に入った。
ハミルトンは私の前に来ると膝を折って私に手をさしだしてくる。
「フェリシア様。僕と踊っていただけますか?」
「喜んで…」
どれほどこの瞬間を待ちわびていただろうか。
お披露目の時にはミランダの騒動でダンスが出来なかったけれど、今日は邪魔は入らない。
お父様はいないし。お兄様もセシリアを放ったらかしにはしないだろう。
今日は好きなだけハミルトンと踊る事が出来るかもしれないわ。
ハミルトンにエスコートされてホールの方に歩きだすと、こちらを睨んでいるアンジェリカと目が合った。
アンジェリカの視線が私に突き刺さってくるようだ。
視線で人が刺せるのならば、間違いなく私はアンジェリカに滅多刺しにされているに違いない。
ゾクリと身を震わせると、ハミルトンが私の顔を覗き込んでくる。
「どうかしましたか?」
そう言って私の視線の先を探るが、既にアンジェリカは私の方を見てはいない。
先程の私への視線は嘘だったかのような笑顔で父親とダンスを踊っている。
先日のお披露目には彼女は招待されていないはずだから、私の事を知らなくても不思議ではない。
きっと仲の良いハミルトンの相手が誰なのか凝視していただけなのだろう。
そう受け止めて私はハミルトンとのダンスを楽しんでいた。
曲が終わり、ハミルトンと共にお兄様の所へ戻ると、後を追いかけてきたのかフォスター侯爵が近付いて来た。
「ユージーン様、フェリシア様。本日はお越しいただきありがとうございます。セシリア嬢もようこそ」
フォスター侯爵に挨拶をされて、私達も頭を下げる。
「こちらこそ、ご招待いただき感謝する。アンジェリカ嬢は可愛らしい女性だね。男性陣から引く手数多なんじゃないのかい?」
お兄様ったら…。
娘を溺愛しているフォスター侯爵にそんな話題は振らない方がいいんじゃないの?
聞いている私はハラハラしたけれど、フォスター侯爵はそんなに気にはしていないみたい。
「いやいや。社交デビューしたばかりですからね。おいおいお相手は吟味していきますよ」
フォスター侯爵はお兄様の話を笑顔でかわすと、ハミルトンの方に向き直った。
「ハミルトン君、申し訳ないんだが、少しアンジェリカの相手をしてやってくれないか? 君がフェリシア様とダンスを踊っていたのがショックだったらしくて、ふてくされているんだ。せっかくの社交デビューの日にそんな顔をするなと注意しているんだが、一向に聞き入れてくれなくてね」
困り顔で眉を下げるフォスター侯爵を見るに見かねたのか、ハミルトンは二つ返事で了承した。
ダンスの間に少し話を聞いたけれど、どうやらフォスター侯爵はハミルトンにとって父親代わりの存在だったようだ。
「いいですよ。僕もアンジェリカには笑顔でいて欲しいですからね。…すみませんが、フェリシア様。御前を失礼いたします」
まだ正式な婚約者でもないハミルトンを引き留めるわけにもいかず、私は軽く頷いてハミルトンを見送った。
後ろでお兄様とセシリアが、「やれやれ」と言わんばかりに軽くため息をついている。
けれどハミルトンはフォスター侯爵に連れられてアンジェリカの元へ行ったきり、パーティーがお開きになっても戻る事はなかった。
仲睦まじい二人の姿を見てむしゃくしゃするのは、お兄様を取られるという嫉妬心からか、それともハミルトンをアンジェリカに取られそうな焦燥感からなのか。
どちらにしても心穏やかでいられないのが腹立たしい。
次の曲はアンジェリカと父親が踊るようだ。
二人揃ってホールの中央へと進んでいく。
父親はアンジェリカと踊るのが嬉しいようで笑顔というよりはデレデレとした顔つきになっている。
普段のフォスター侯爵がどんな人物かは知らないけれど、きっと今は想像もつかないくらい、やに下がっているんだろう。
気がつけばアンジェリカが座っていた椅子の近くにいたハミルトンの姿が見えなくなっていた。
何処へ消えたのかしら、と辺りを見回すとこちらに近付いてくるハミルトンの姿が目に入った。
ハミルトンは私の前に来ると膝を折って私に手をさしだしてくる。
「フェリシア様。僕と踊っていただけますか?」
「喜んで…」
どれほどこの瞬間を待ちわびていただろうか。
お披露目の時にはミランダの騒動でダンスが出来なかったけれど、今日は邪魔は入らない。
お父様はいないし。お兄様もセシリアを放ったらかしにはしないだろう。
今日は好きなだけハミルトンと踊る事が出来るかもしれないわ。
ハミルトンにエスコートされてホールの方に歩きだすと、こちらを睨んでいるアンジェリカと目が合った。
アンジェリカの視線が私に突き刺さってくるようだ。
視線で人が刺せるのならば、間違いなく私はアンジェリカに滅多刺しにされているに違いない。
ゾクリと身を震わせると、ハミルトンが私の顔を覗き込んでくる。
「どうかしましたか?」
そう言って私の視線の先を探るが、既にアンジェリカは私の方を見てはいない。
先程の私への視線は嘘だったかのような笑顔で父親とダンスを踊っている。
先日のお披露目には彼女は招待されていないはずだから、私の事を知らなくても不思議ではない。
きっと仲の良いハミルトンの相手が誰なのか凝視していただけなのだろう。
そう受け止めて私はハミルトンとのダンスを楽しんでいた。
曲が終わり、ハミルトンと共にお兄様の所へ戻ると、後を追いかけてきたのかフォスター侯爵が近付いて来た。
「ユージーン様、フェリシア様。本日はお越しいただきありがとうございます。セシリア嬢もようこそ」
フォスター侯爵に挨拶をされて、私達も頭を下げる。
「こちらこそ、ご招待いただき感謝する。アンジェリカ嬢は可愛らしい女性だね。男性陣から引く手数多なんじゃないのかい?」
お兄様ったら…。
娘を溺愛しているフォスター侯爵にそんな話題は振らない方がいいんじゃないの?
聞いている私はハラハラしたけれど、フォスター侯爵はそんなに気にはしていないみたい。
「いやいや。社交デビューしたばかりですからね。おいおいお相手は吟味していきますよ」
フォスター侯爵はお兄様の話を笑顔でかわすと、ハミルトンの方に向き直った。
「ハミルトン君、申し訳ないんだが、少しアンジェリカの相手をしてやってくれないか? 君がフェリシア様とダンスを踊っていたのがショックだったらしくて、ふてくされているんだ。せっかくの社交デビューの日にそんな顔をするなと注意しているんだが、一向に聞き入れてくれなくてね」
困り顔で眉を下げるフォスター侯爵を見るに見かねたのか、ハミルトンは二つ返事で了承した。
ダンスの間に少し話を聞いたけれど、どうやらフォスター侯爵はハミルトンにとって父親代わりの存在だったようだ。
「いいですよ。僕もアンジェリカには笑顔でいて欲しいですからね。…すみませんが、フェリシア様。御前を失礼いたします」
まだ正式な婚約者でもないハミルトンを引き留めるわけにもいかず、私は軽く頷いてハミルトンを見送った。
後ろでお兄様とセシリアが、「やれやれ」と言わんばかりに軽くため息をついている。
けれどハミルトンはフォスター侯爵に連れられてアンジェリカの元へ行ったきり、パーティーがお開きになっても戻る事はなかった。
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