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4 晩餐会
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結婚式を終えた私とリュシアンは公爵家の敷地内に建てられた別邸を与えられていた。
リュシアンが王宮に向かうと私は本邸に向かい、義母であるジョゼット様に公爵家の仕事を教えられていた。
「ヴァネッサ、別邸での生活に問題はないかしら? 足りない物があればすぐに言ってちょうだいね」
「ありがとうございます、お義母様。特に問題はありませんわ」
ジョゼット様は私をいびったりする事もなく、普通に私を受け入れてくれていた。
リュシアンが一人っ子だから、息子べったりかと思ったが、そんな事もなかった。
「子供が出来るまでは別邸で暮らす事になっているのよ。焦らなくてもいいけれど、やはり早めに子供が出来るといいわね」
そんなふうに義母に微笑まれて、私は身の縮む思いがした。
私とリュシアンが未だに結ばれていないと知ったら。この人はどんな顔をするかしら…。
もちろん、バカ正直にそんな事を告げたりはしない。
「…ご期待に添えるように頑張りますわ」
そう言ってニコリと微笑み返しておく。
リュシアンは私に一切手を触れてこないけれど、跡継ぎの事はどうするつもりなのだろう?
そのうちに誰か他の女に産ませた子を私が産んだ事にさせるつもりなのだろうか?
その問題をリュシアンに問いただす事も出来ずに月日は過ぎていった。
数日後にアドリアンとアンジェリック樣の結婚式を控えた頃、朝食の席でリュシアンが私に告げた。
「今日の晩餐にアドリアンを招待している。そのつもりで準備をしてくれ」
アドリアンの名前を聞いた途端、胸が締め付けられるような思いに襲われた。
あと数日後にアドリアンはアンジェリック様と結婚してしまう。
リュシアンはアドリアンを家に呼ぶと言っていたが、なかなかそんな機会が訪れるはずもなく、未だに約束は叶っていない。
アドリアンが結婚してしまえば、更に難しくなるだろう。
だから、今日が独身のアドリアンと会える最後の日になるに違いない。
「わかりました。おまかせください」
そう返事をしたが、私が指示をするまでもなく、別邸にいる侍従や侍女達だけで準備は着々と進められていった。
そしてアドリアンを迎えるにあたって何故か私は湯浴みをさせられ着替えさせられた。
指示を出しているのはこの別邸を取り仕切っているリュシアンの侍女長のポーラだった。
彼女は元々はリュシアンの乳母で幼い頃からリュシアンの面倒を見てきた人らしい。
夕方、王宮から戻ったリュシアンと共に馬車から降りてきたのは紛れもなくこの国の王太子アドリアンだった。
「こんばんは、公爵夫人。今日はお招きありがとう」
アドリアンににこやかに微笑まれて私の心臓は早鐘を打つようにドキドキし始める。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
私は精一杯の優雅さでカーテシーをするとアドリアンを別邸の中へ招き入れた。
アドリアンとリュシアンが連れ立って歩き出す後ろをついて行く。
二人の後ろを歩きながら妙な違和感を覚えた。
リュシアンはともかく、アドリアンがまるで良く知っている場所のように屋敷の中を歩いているように見えたからだ。
…前にここに来た事があるのかしら?
お義母様の態度を見るとアドリアンにあまりいい感情を持っていないように思えるけれど、従兄弟同士なのだからここに来た事があってもおかしくはないだろう。
アドリアンを真ん中にして私とリュシアンは両脇に向かい合うように席に着いた。
「今日は堅苦しい事は抜きにして楽にしていいよ。リュシアン、ヴァネッサ。先ずは乾杯しようか」
いきなりアドリアンに名前で呼ばれて思わずリュシアンに目を向けると、リュシアンは私に向かって肩を竦めた。
「アドリアンがああ言っているんだからヴァネッサも今日は敬称を付けなくて大丈夫だよ。なぁ、アドリアン」
確かにこの場に控えているのはポーラだけで、他に私達に意見出来るような人物はいない。
いくら本人から許可が出たとはいえ、「アドリアン」と呼び捨てに出来るはずもなく時は過ぎて行く。
食事も終わり、食後のお茶を入れて貰う頃になってアドリアンが何かを思い出したように声を上げた。
「ああ、そうだ。お土産にお酒を持ってきていたんだった。ポーラ、用意してくれるかい?」
それを待っていたかのようにポーラはお酒の瓶をアドリアンの前に置くとそれぞれにグラスを配った。
アドリアンは瓶の蓋を開けると先ずは私のグラスにそれを注いだ。
グラスの中には薄いピンク色のお酒がキラキラと輝いている。
「さあ、ヴァネッサ。君にも飲み易いお酒だよ。飲んでご覧」
アドリアンに勧められてそのお酒を一口飲んでみた。
…甘い…
何のお酒かはわからないが、確かに甘くて飲みやすかった。
「美味しいだろう。さあ、一気に飲んでご覧よ」
アドリアンがなおも勧めてくるので、私はグラスのお酒を一気に流し込んだ。
そんな私の様子をアドリアンとリュシアンが意味ありげな視線を向けている事には気付かなかった。
リュシアンが王宮に向かうと私は本邸に向かい、義母であるジョゼット様に公爵家の仕事を教えられていた。
「ヴァネッサ、別邸での生活に問題はないかしら? 足りない物があればすぐに言ってちょうだいね」
「ありがとうございます、お義母様。特に問題はありませんわ」
ジョゼット様は私をいびったりする事もなく、普通に私を受け入れてくれていた。
リュシアンが一人っ子だから、息子べったりかと思ったが、そんな事もなかった。
「子供が出来るまでは別邸で暮らす事になっているのよ。焦らなくてもいいけれど、やはり早めに子供が出来るといいわね」
そんなふうに義母に微笑まれて、私は身の縮む思いがした。
私とリュシアンが未だに結ばれていないと知ったら。この人はどんな顔をするかしら…。
もちろん、バカ正直にそんな事を告げたりはしない。
「…ご期待に添えるように頑張りますわ」
そう言ってニコリと微笑み返しておく。
リュシアンは私に一切手を触れてこないけれど、跡継ぎの事はどうするつもりなのだろう?
そのうちに誰か他の女に産ませた子を私が産んだ事にさせるつもりなのだろうか?
その問題をリュシアンに問いただす事も出来ずに月日は過ぎていった。
数日後にアドリアンとアンジェリック樣の結婚式を控えた頃、朝食の席でリュシアンが私に告げた。
「今日の晩餐にアドリアンを招待している。そのつもりで準備をしてくれ」
アドリアンの名前を聞いた途端、胸が締め付けられるような思いに襲われた。
あと数日後にアドリアンはアンジェリック様と結婚してしまう。
リュシアンはアドリアンを家に呼ぶと言っていたが、なかなかそんな機会が訪れるはずもなく、未だに約束は叶っていない。
アドリアンが結婚してしまえば、更に難しくなるだろう。
だから、今日が独身のアドリアンと会える最後の日になるに違いない。
「わかりました。おまかせください」
そう返事をしたが、私が指示をするまでもなく、別邸にいる侍従や侍女達だけで準備は着々と進められていった。
そしてアドリアンを迎えるにあたって何故か私は湯浴みをさせられ着替えさせられた。
指示を出しているのはこの別邸を取り仕切っているリュシアンの侍女長のポーラだった。
彼女は元々はリュシアンの乳母で幼い頃からリュシアンの面倒を見てきた人らしい。
夕方、王宮から戻ったリュシアンと共に馬車から降りてきたのは紛れもなくこの国の王太子アドリアンだった。
「こんばんは、公爵夫人。今日はお招きありがとう」
アドリアンににこやかに微笑まれて私の心臓は早鐘を打つようにドキドキし始める。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
私は精一杯の優雅さでカーテシーをするとアドリアンを別邸の中へ招き入れた。
アドリアンとリュシアンが連れ立って歩き出す後ろをついて行く。
二人の後ろを歩きながら妙な違和感を覚えた。
リュシアンはともかく、アドリアンがまるで良く知っている場所のように屋敷の中を歩いているように見えたからだ。
…前にここに来た事があるのかしら?
お義母様の態度を見るとアドリアンにあまりいい感情を持っていないように思えるけれど、従兄弟同士なのだからここに来た事があってもおかしくはないだろう。
アドリアンを真ん中にして私とリュシアンは両脇に向かい合うように席に着いた。
「今日は堅苦しい事は抜きにして楽にしていいよ。リュシアン、ヴァネッサ。先ずは乾杯しようか」
いきなりアドリアンに名前で呼ばれて思わずリュシアンに目を向けると、リュシアンは私に向かって肩を竦めた。
「アドリアンがああ言っているんだからヴァネッサも今日は敬称を付けなくて大丈夫だよ。なぁ、アドリアン」
確かにこの場に控えているのはポーラだけで、他に私達に意見出来るような人物はいない。
いくら本人から許可が出たとはいえ、「アドリアン」と呼び捨てに出来るはずもなく時は過ぎて行く。
食事も終わり、食後のお茶を入れて貰う頃になってアドリアンが何かを思い出したように声を上げた。
「ああ、そうだ。お土産にお酒を持ってきていたんだった。ポーラ、用意してくれるかい?」
それを待っていたかのようにポーラはお酒の瓶をアドリアンの前に置くとそれぞれにグラスを配った。
アドリアンは瓶の蓋を開けると先ずは私のグラスにそれを注いだ。
グラスの中には薄いピンク色のお酒がキラキラと輝いている。
「さあ、ヴァネッサ。君にも飲み易いお酒だよ。飲んでご覧」
アドリアンに勧められてそのお酒を一口飲んでみた。
…甘い…
何のお酒かはわからないが、確かに甘くて飲みやすかった。
「美味しいだろう。さあ、一気に飲んでご覧よ」
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