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45 街歩き
朝食後のお茶を飲む頃になって、私は意を決してお父様に告げた。
「お父様、今日は王都の街を歩いてみたいのですが許可していただけますか?」
昨日のジェンクス侯爵のお屋敷に向かう道中、馬車の中から街並みを見ている時に、この世界に来てからまだ街中を歩いていない事に気付いたからだ。
ただ、私が街中を歩きたいと言ったら、あれだけ過保護なお父様とお兄様がどんな反応を見せるか、想像するだけでも恐ろしい。
だけど、そんな私の心配をよそにお父様から意外な返事が返ってきた。
「そう言えばまだアリスは街中を歩いた事はなかったな。目立たない様に平民の服を用意させよう。お付きの者はセアラでよかろう」
あまりにもあっけない答えに私はすぐには返事が出来なかった。
たとえ許可が下りたとしても、護衛として一個小隊を連れて行けと言われるかもと覚悟をしていたのよね。
「…あ、ありがとうございます」
お兄様がそれに異議を唱えて来るかと思い、チラリとお兄様の様子を窺うけれど、何も言わずに済ました顔でお茶を飲んてるわ。
珍しい事もあるものね、と思ったけれどきっと私には言わないだけで、こっそりと護衛が付いて来るんでしょうね。
お父様の気が変わらないうちにと、私は自室に戻るとセアラに告げた。
「お父様から王都の街を歩いていいと許可を頂いたわ。セアラが一緒ならば良いって言われたの」
セアラはいつから準備をしていたのか、私に平民が着るような服を持ってきてくれた。
「それではこちらにお着替えくださいませ」
他の侍女にも手伝って貰って服を着替えると、今度は頭にカツラを被せられた。
「流石にこの髪の色では目立ってしまいますからね」
確かに紫がかったシルバーブロンドでは街中では悪目立ちしてしまうものね。
茶色の髪のカツラを被ればそれだけでも今までとは印象が違う。
鏡の中の自分の姿を見ていると、前の世界での黒髪の頃を思い出して少し胸が痛む。
私を育ててくれた両親は、私がいなくなって悲しんでいるだろうか?
何も言わずに姿を消して恩知らずな娘だと罵っているだろうか?
赤の他人がいなくなったと清々しているだろうか?
考えても仕方がない、と私は頭を振って両親の事を頭の中から追いやった。
準備を終えるとお忍び用の目立たない馬車に乗り、王宮を出発した。
貴族の屋敷が立ち並ぶ通りを抜けると様々な店が並ぶ商業区域に町並みが変わる。
馬車留まりで馬車を下りてセアラと街を歩く。
この辺りは貴族との取引が多い店が立ち並んでいる。
「もうちょっと庶民的なお店がある通りはないの?」
この服装で入るにはちょっと敷居が高そうな店が並んでいる。
「もう少し歩けばそういうお店がある通りに着きます」
セアラの口調が微妙に砕けきれてない。
見た目は親子に見えなくもないのだから、もう少し砕けた物言いをしなければ周りの人達に変に思われるわよ。
「セアラ、そんなかしこまった言い方をしなくても大丈夫よ」
「わかりました、アリス様」
…駄目だ、こりゃ…
気を取り直して街を歩いて行くと、店の格も少し落ちてきて、所々に露店や屋台があったりする。
そして美味しそうな匂いが先程から私の鼻を刺激しているのだ。
「ねぇ、セアラ。あれを買って食べましょう」
「アリス様、いけません。あんな誰が作ったかわからないような物を…」
私はセアラの小言が終わるより先に屋台に向かい、店主に話しかけた。
「おじさん、これ何?」
「これはオーク肉の串焼きだよ。一本どうだい?」
私一人で食べるのは気が引けるのでセアラの分と合わせて二本、買う事にした。
「ほらよ、毎度ありー」
私は受け取った串焼きを一本セアラに差し出した。
「ア、アリス様…」
セアラは絶句していたけれど、私が美味しそうにオーク肉を頬張るのを見て、恐る恐るかじった。
「…美味しい…」
タレが効いてて美味しいわー。
食べ終わった串を露店の横にあるゴミ箱に捨てて、また通りを歩いて行くと、向こうから黒いローブのフードを目深に被った人物が近付いて来た。
脇に避けて歩いて行くとすれ違いざま
「…なんだ、こんな所にいたのか」
と、声をかけられた。
思わず立ち止まった私に向かってその人物が手のひらをかざす。
途端に私の視界が真っ白な光に覆われた。
「お父様、今日は王都の街を歩いてみたいのですが許可していただけますか?」
昨日のジェンクス侯爵のお屋敷に向かう道中、馬車の中から街並みを見ている時に、この世界に来てからまだ街中を歩いていない事に気付いたからだ。
ただ、私が街中を歩きたいと言ったら、あれだけ過保護なお父様とお兄様がどんな反応を見せるか、想像するだけでも恐ろしい。
だけど、そんな私の心配をよそにお父様から意外な返事が返ってきた。
「そう言えばまだアリスは街中を歩いた事はなかったな。目立たない様に平民の服を用意させよう。お付きの者はセアラでよかろう」
あまりにもあっけない答えに私はすぐには返事が出来なかった。
たとえ許可が下りたとしても、護衛として一個小隊を連れて行けと言われるかもと覚悟をしていたのよね。
「…あ、ありがとうございます」
お兄様がそれに異議を唱えて来るかと思い、チラリとお兄様の様子を窺うけれど、何も言わずに済ました顔でお茶を飲んてるわ。
珍しい事もあるものね、と思ったけれどきっと私には言わないだけで、こっそりと護衛が付いて来るんでしょうね。
お父様の気が変わらないうちにと、私は自室に戻るとセアラに告げた。
「お父様から王都の街を歩いていいと許可を頂いたわ。セアラが一緒ならば良いって言われたの」
セアラはいつから準備をしていたのか、私に平民が着るような服を持ってきてくれた。
「それではこちらにお着替えくださいませ」
他の侍女にも手伝って貰って服を着替えると、今度は頭にカツラを被せられた。
「流石にこの髪の色では目立ってしまいますからね」
確かに紫がかったシルバーブロンドでは街中では悪目立ちしてしまうものね。
茶色の髪のカツラを被ればそれだけでも今までとは印象が違う。
鏡の中の自分の姿を見ていると、前の世界での黒髪の頃を思い出して少し胸が痛む。
私を育ててくれた両親は、私がいなくなって悲しんでいるだろうか?
何も言わずに姿を消して恩知らずな娘だと罵っているだろうか?
赤の他人がいなくなったと清々しているだろうか?
考えても仕方がない、と私は頭を振って両親の事を頭の中から追いやった。
準備を終えるとお忍び用の目立たない馬車に乗り、王宮を出発した。
貴族の屋敷が立ち並ぶ通りを抜けると様々な店が並ぶ商業区域に町並みが変わる。
馬車留まりで馬車を下りてセアラと街を歩く。
この辺りは貴族との取引が多い店が立ち並んでいる。
「もうちょっと庶民的なお店がある通りはないの?」
この服装で入るにはちょっと敷居が高そうな店が並んでいる。
「もう少し歩けばそういうお店がある通りに着きます」
セアラの口調が微妙に砕けきれてない。
見た目は親子に見えなくもないのだから、もう少し砕けた物言いをしなければ周りの人達に変に思われるわよ。
「セアラ、そんなかしこまった言い方をしなくても大丈夫よ」
「わかりました、アリス様」
…駄目だ、こりゃ…
気を取り直して街を歩いて行くと、店の格も少し落ちてきて、所々に露店や屋台があったりする。
そして美味しそうな匂いが先程から私の鼻を刺激しているのだ。
「ねぇ、セアラ。あれを買って食べましょう」
「アリス様、いけません。あんな誰が作ったかわからないような物を…」
私はセアラの小言が終わるより先に屋台に向かい、店主に話しかけた。
「おじさん、これ何?」
「これはオーク肉の串焼きだよ。一本どうだい?」
私一人で食べるのは気が引けるのでセアラの分と合わせて二本、買う事にした。
「ほらよ、毎度ありー」
私は受け取った串焼きを一本セアラに差し出した。
「ア、アリス様…」
セアラは絶句していたけれど、私が美味しそうにオーク肉を頬張るのを見て、恐る恐るかじった。
「…美味しい…」
タレが効いてて美味しいわー。
食べ終わった串を露店の横にあるゴミ箱に捨てて、また通りを歩いて行くと、向こうから黒いローブのフードを目深に被った人物が近付いて来た。
脇に避けて歩いて行くとすれ違いざま
「…なんだ、こんな所にいたのか」
と、声をかけられた。
思わず立ち止まった私に向かってその人物が手のひらをかざす。
途端に私の視界が真っ白な光に覆われた。
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