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エロい彼女はど天然
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まさか、美少女イラスト作家『ラプラン』氏のサイン会で、彼女に会うとは思っていなかった。
「ははははは」
「奇遇だねえ……」
俺、久谷保と、山田沙紀山田沙紀は、お互いに乾いた笑いを交わした。
山田は、俺の会社の同期で二十八才、化粧っけはあまりなくて、すごい美人というわけではないけれど、よく見ると瞳が凄く綺麗な女性だ。地味な服装のため、あまり目立たない。しかし、胸のデカさは、男性社員の間で、密やかに定評がある。会社では、同期であること以上には、縁のなく会話もあまりしたことがないので、こんな場所に来るタイプだとは想像もしていなかった。
「山田さん、まさか、ラプランさんのファンなの?」
ラプラン氏の絵は可愛い。可愛いが、男の欲望丸出し感があるほど、エロい。普通の女の子なら、顔をしかめそうな感じの絵なのである。
「そうだけど……変ですか?」
「いや、女の人が珍しいなあと思って」
正直にそう答えると、彼女は首を傾げ、周りをちょっと見まわした。男ばかり並んだ列で、明らかに彼女は浮いている。
「ラプランさんの女の子可愛いですから。それに、私、ラプランさんがキャラデザした『ふるえる乙女』が好きでして」
「ふるえる乙女って―― あ、ひょっとして、その格好、『マナ』だ!」
俺は、驚いた。胸の谷間がガッツリ見えるブラウス。豊満な胸。なめらかな白い肌。くびれたウエスト。プリンとした尻のかたちがわかるタイトスカートは超ミニで、むっちりとした太ももをさらしている。
――うわっ。
俺は、思わず生つばを飲み込んでしまった。いかん。やばい。
胸がでかいことは気が付いていたが、ここまでエロい身体をしているなんて、いままで俺は、どこを見ていたのだろう、と思った。
『マナ』というのは、ふるえる乙女というゲームの人気キャラで、ロリータ顔、ダイナマイトボディ。加えて、結構クールな仕事のできる女の子というキャラだ。普段は、地味で真面目なビジネススーツ。でもデートの時は、信じられないくらい、セクシー……。
――マナの実写版だ……。
俺は、意識して、彼女から視線を外した。彼女の格好は、目の保養を通り越している。
「山田さん、ギャルゲー、やるの?」
「え? 面白ければ誰でもやると思うけど」
当たり前のように、彼女は応える。めちゃくちゃエロい恰好をしているのに、サバサバしていて、さらに女性独特のねっとりしたものがない。エロいくせに、全然男に媚びていないのだ。なんなのだ、この生物は。俺は胸がドキドキしてきた。
それから。彼女は、『ラプラン』氏に、真上から胸の谷間をガッツリ覗かれても、会場中の男の視線に犯されていることも気が付かない。無自覚にフェロモンを撒き散らしている。会場に暗闇があったら、彼女は複数の男に襲われたとしても、不思議はないほど危険であった。
――どれだけ、鈍いんだろう。
俺は、男達の視線から彼女をできるだけ隠しながら会場を後にした。
やがて。
あの日から、山田と俺は親しくなった。何より、ゲームの趣味が合うし、あっけらかんとした彼女の性格はそばにいて心地よい。
女性と付き合ったことがないわけではないが、自分がこんなに自然体でいられる女性は初めてで、俺は、あっという間に恋に落ちた。
そして。意識して職場で彼女を視線で追うようになって気が付いたのは、石塚という三年上の彼女の元指導員が、事あるごとに彼女に構っているということだ。山田の方は何の意識もしていないようだが、石塚の方はそうじゃないことは、ピンときた。『オヤジ臭い』とかなんとか、軽口を叩いているけれど、機会あることに彼女の隣を確保している。
俺は、といえば。この半年、週一で彼女とファーストフードで話すだけだ。特別な関係といえば特別なのだろうが、色っぽさとは無縁だった。
確かに俺と彼女の会話は、会社でする内容ではないけれど、明らかに会社では俺は避けられていた。たぶん、ゲーマーであることを会社の人間に知られたくないのだろう。
でも、俺は、週一じゃ物足りない。本当は、レストランに食事に行ったり、休日はデートとかしてみたい。
二人で会う日の俺の鞄に、必ず大人の夜の家族計画なブツが常に入っているなんて、彼女は気が付いてもいないだろう。まあ、その件に関しては、完全に俺の先走りではあるが。
彼女がファーストフードをセレクトするのは、たぶん、支払いを俺にさせないためなのだろうなと思う。一度、おごろうとしたら、『友達だから無理しておごらなくていいよ』って断られた。
デートに誘おうとしても、彼女はたくみにゲームの話にすりかえてしまう。ここまで来ると、脈はないのかとは思うが、彼女は恋人はいないみたいだし、俺自身を嫌っているわけではなさそうだから……諦められない。
「でもさあ、高級車デートじゃなきゃダメって女の子って、実際にいたら面倒すぎないか?」
俺は、いつものようにゲームの話をしながら、彼女に探りを入れていく。本当は、彼女が物で釣れる女だったら、どんなに簡単なのだろうって思う。なんとかしてデートにこぎつけたい。
友達じゃなくて、彼女にとって特別な男になりたい。
「高級車じゃなきゃ嫌なんてことは、みんな言わないだろうけど。女の子はシチュエーションと、モノに弱いのよ。だから、手間暇かけて、金掛けて落とすものなのよ」
モノね……と、俺は思う。でも、宝石とかブランドバッグで、彼女は釣れるとは思えない。
彼女は、なんのためらいもなく目の前のハンバーガーをぱくついた。そして、口からはみ出たソースを舌でなめとる。
思わず、ぞくりとした。
瞬間、脳裏にエロい妄想が駆け巡る。彼女の舌の動きを思わず目で追ってしまう。ヤバイ。
「……手間暇かけて、金掛けて、ね」
俺は、深呼吸して、彼女から視線を外すと、ようやく理性が帰ってきた。
「山田さんも、そうなの?」
もしそうなら。俺にもっと手間暇かけるチャンスを与えてほしいと思う。
「ゲームの話だって。実際はそうじゃないと思う。私なんか、どの車が高級かもわからないもん」
少し戸惑った彼女の表情が、滅茶苦茶可愛くて、俺は見惚れた。
「久谷さん、なかなかハイスペックだもん。合コンとか行けば、手間なんてかけなくても、何人でも簡単に釣れる――」
「俺、別に、何人もの女の子と付き合いたいわけじゃない」
思わず、声が荒くなった。欲しいのも話を聞きたいのも君だけなのに、なんで、そんな話になるのだ。
「久谷さん、ひょっとして、好きな女の子、いるの?」
言い当てられて、俺は顔が真っ赤になるのを自覚した。バレたかな? と、思った。
「だったら……こんなところで、ゲーマー女と、ギャルゲーの話なんかしていちゃダメだよ」
「山田さん?」
彼女は突然、俺を突き放したようにそう言って、立ち上がった。
「今日は、『ふるえる乙女3』のアップデート配信があるから、私、帰るわ」
「ちょっと、待ってよ」
なぜ、彼女は帰ってしまうのだ。俺は焦った。
「早いとこ、コクっちゃえば? きっとうまくいくよ」
彼女は淡く微笑んで、足早に去っていった。
『君が好きだ』の一言を、言う機会すら与えてもらえなかった。
その週末。今日は会社の飲み会である。
居酒屋『のん兵衛』のお座敷だ。小さな会社だ。メンツはほぼ決まっているが、落としゲーさながらに、男女ともに、ギラギラ感があったりする。
「久谷さん、一杯どうぞ」
甘い猫なでごえで柳原玲子が、俺のコップにビールを注ぐ。
本当は、山田のそばに座りたかったのに、気が付くと、同じ部署の杉原里美に強引に横に座らされ、身動きが取れなくなった。香水の香りがきつくて、頭が痛くなりそうだ。
山田沙紀を視線で探すと、いつものようなビジネススーツではあるが、その下にⅤ字のタンクトップ を着ており胸の谷間がチラ見せ状態で、しかも豊満な胸のかたちを、これでもかというように見せつけていた。タイトスカートの丈はやや短く、正座した足は、太ももがちらりとみえている。
――誰に対するアピールだ?
特に男性社員に寄っていくでもないのに、無駄にセクシーな格好だ。
時折、その胸を、ちらりちらりと、男どもが眺めているのも、全く気が付いていない。
もちろん、ほかの女性もかなりキワドイ格好をしていたりするわけであるが、山田のダイナマイトボディは、ブランドスーツのきらびやかさより目を引くのである。
――あれじゃ、持ち帰って下さいって言っているようなものだ。
俺は、やたら話しかけてくる二人の女に適当に相槌を打ちながら、いらいらする。いい加減、話を打ち切って、彼女の傍に行きたかった。
気が付けば、石塚が、山田と乾杯をして親しげに談笑し始めた。石塚の目が、ちらりちらりと、山田の太ももに向けられている。冗談じゃない、と思う。
「よう、伊藤」
俺は、俺の隣の柳原目当てでやってきた二つ下の伊藤に声をかけた。
「まあ、飲めや」
俺は、伊藤を呼び、酒をつぐ。伊藤が飲んだところで、ビール瓶を持って、席を離脱した。
二人の女性が、不服そうに俺を見たが、そんなことはどうでも良かった。
酒を継ぐふりをして、席を離れて、適当なところで洗面所に行き、山田の座っていた場所に近い位置へと移動できたのは、もう、会が終わる直前だった。
「さて、そろそろお開きかな」
石塚がそう言っているのが聞こえた。
「山田は二次会、出るの?」
「そーゆーもんは若いものに任せて、帰ります」
のんきにそんなことを言って、山田は立ちあがる。ぐらりと身体が揺れて、俺の方に倒れてきた。
「ご、ごめんなさい」
俺は、彼女の身体の感触にドキッとしながら、抱くように身体を支える。
「大丈夫?」
彼女は支えている相手が俺だと気が付くと、びっくりしたような顔をした。その顔が可愛らしくて、無意識にそのまま身体を引き寄せてしまった。
しまった、と思ったが、彼女の顔に、拒絶のいろがないのを見て、俺はホッとした。
「あー、山田、飲みすぎだな。俺、送るわ」
石塚が腰を上げ、山田に手を伸ばす。
「必要ないです」
俺は、そう言って、石塚の手を払いのけた。石塚の目が驚いたように、俺と、山田を見比べる。
俺は、勝負を挑む気持ちで、石塚の目を睨みつけた。
「俺が、送ります。同期ですし」
「は?」
山田は、状況を理解できていないようで、きょとんとしている。
「いや、私、大丈夫ですから。お二人とも、二次会へどうぞ」
「大丈夫じゃない。そんなにフラフラしていたら、怪我をする」
俺は、かなり好戦的に石塚を睨みながら、彼女の肩を抱いた。
「えっと。歩けますけど」
「歩けてない」
山田は、酔っているせいか、俺に抱きすくめられたまま、固まっている。だが、嫌悪や、恐怖のような拒絶反応は全く感じられなくて……石塚は、俺の顔を見てフーっと息を吐いた。
「はーっ、山田、まあ、狼に気をつけて帰れや」
彼はそう言って、俺の耳元で『本気じゃねえなら殴るぞ』と、呟いた。
「えっと、私一人で帰れるけど」
店を出て。彼女は、そんなことを言った。
「俺より、石塚さんのほうがいいわけ?」
「は?」
山田はキョトン顔で首を傾げる。石塚の猛アピールに全く気が付いていなかったらしい。
ある意味で、彼のかけた手間暇は全く報われていない。俺には幸いだった。
「久谷さん、本当に二次会いかなくてよかったの?」
山田が行かない二次会など、行っても仕方がない。
「別に行きたくないし」
どうしてわかってくれないのだろう、と思う。
「俺、送らなかったら、石塚さんと帰るだろ?」
「帰らないけど」
彼女は当たり前のようにそう切り返すけど。
「飲み直しとか言われて、バーとかに連れて行かれて、最終的に絶対お持ち帰りコースだから」
俺の言葉に、彼女の口元に苦笑が浮かぶ。
「……ないと思うケド」
「その格好、どれだけ男の欲望を誘うか、きちんと理解している?」
俺はイラついた。
「……誰も、気にしてないって」
彼女は呆れたようにそう言うが……それこそ呆れる。どんだけ、男の視線を釘付けにしていたか気が付いてもいないらしい。
「俺は気になる……無茶苦茶、君が欲しい」
彼女のアパートが近づいて。俺は、我慢が出来なくなって、彼女の身体を抱き寄せた。
「好きだ」
答えも聞かぬまま、強引に唇を奪う。俺は、むさぼる様に彼女の唇を吸う。もう、ほぼ獣の欲望である。
柔らかい彼女の肌をひたすらに俺は愛撫した。
「……からかっているのよね?」
唇が離れると、彼女は、俺から離れようとした。
「からかってなんかいない。俺、本気だけど」
これほどまでに、我を忘れて欲しいと思った女性は、彼女が初めてだというのに、全く伝わっていないことに俺はイラつく。
「だって、私、可愛くない。色っぽくもないもん。久谷さんみたいにカッコイイ男性に好かれる要素ゼロだもの」
カッコイイって思ってくれていたことに、まず驚いた。それにしても、この自己評価の低さは何なんだ。フェロモン撒き散らしまくっているくせに。
「沙紀は可愛い。胸元とか、太ももとか超エロいんだって。今日、男性社員の視線に視姦されていたの、気が付いてないだろう。俺は気が気じゃなかった」
「そんなこと、あり得ないと思うけど」
潤んだ瞳。ふっくらした柔らかな唇。すべて欲しくてたまらないのに、なぜ、彼女はそれがわからないのだろう。
「俺のこと、好き?」
彼女は、俺の勢いに負けたのか、「うん」と頷いた。流されただけかもしれないが、やっと落ちてきた彼女をもう逃がす気はなくて。
「じゃあ、俺、送り狼になるわ」
「え?」
俺は彼女を抱きしめて。
そして激しいキスをした。
その後、俺の鞄の『夜の家族計画』なブツは、しっかりと活用されて。
俺は彼女のはじめてをしっかりいただいた。
半年前からブツを用意していたのは、しばらく内緒にしておこうと思っている。
「ははははは」
「奇遇だねえ……」
俺、久谷保と、山田沙紀山田沙紀は、お互いに乾いた笑いを交わした。
山田は、俺の会社の同期で二十八才、化粧っけはあまりなくて、すごい美人というわけではないけれど、よく見ると瞳が凄く綺麗な女性だ。地味な服装のため、あまり目立たない。しかし、胸のデカさは、男性社員の間で、密やかに定評がある。会社では、同期であること以上には、縁のなく会話もあまりしたことがないので、こんな場所に来るタイプだとは想像もしていなかった。
「山田さん、まさか、ラプランさんのファンなの?」
ラプラン氏の絵は可愛い。可愛いが、男の欲望丸出し感があるほど、エロい。普通の女の子なら、顔をしかめそうな感じの絵なのである。
「そうだけど……変ですか?」
「いや、女の人が珍しいなあと思って」
正直にそう答えると、彼女は首を傾げ、周りをちょっと見まわした。男ばかり並んだ列で、明らかに彼女は浮いている。
「ラプランさんの女の子可愛いですから。それに、私、ラプランさんがキャラデザした『ふるえる乙女』が好きでして」
「ふるえる乙女って―― あ、ひょっとして、その格好、『マナ』だ!」
俺は、驚いた。胸の谷間がガッツリ見えるブラウス。豊満な胸。なめらかな白い肌。くびれたウエスト。プリンとした尻のかたちがわかるタイトスカートは超ミニで、むっちりとした太ももをさらしている。
――うわっ。
俺は、思わず生つばを飲み込んでしまった。いかん。やばい。
胸がでかいことは気が付いていたが、ここまでエロい身体をしているなんて、いままで俺は、どこを見ていたのだろう、と思った。
『マナ』というのは、ふるえる乙女というゲームの人気キャラで、ロリータ顔、ダイナマイトボディ。加えて、結構クールな仕事のできる女の子というキャラだ。普段は、地味で真面目なビジネススーツ。でもデートの時は、信じられないくらい、セクシー……。
――マナの実写版だ……。
俺は、意識して、彼女から視線を外した。彼女の格好は、目の保養を通り越している。
「山田さん、ギャルゲー、やるの?」
「え? 面白ければ誰でもやると思うけど」
当たり前のように、彼女は応える。めちゃくちゃエロい恰好をしているのに、サバサバしていて、さらに女性独特のねっとりしたものがない。エロいくせに、全然男に媚びていないのだ。なんなのだ、この生物は。俺は胸がドキドキしてきた。
それから。彼女は、『ラプラン』氏に、真上から胸の谷間をガッツリ覗かれても、会場中の男の視線に犯されていることも気が付かない。無自覚にフェロモンを撒き散らしている。会場に暗闇があったら、彼女は複数の男に襲われたとしても、不思議はないほど危険であった。
――どれだけ、鈍いんだろう。
俺は、男達の視線から彼女をできるだけ隠しながら会場を後にした。
やがて。
あの日から、山田と俺は親しくなった。何より、ゲームの趣味が合うし、あっけらかんとした彼女の性格はそばにいて心地よい。
女性と付き合ったことがないわけではないが、自分がこんなに自然体でいられる女性は初めてで、俺は、あっという間に恋に落ちた。
そして。意識して職場で彼女を視線で追うようになって気が付いたのは、石塚という三年上の彼女の元指導員が、事あるごとに彼女に構っているということだ。山田の方は何の意識もしていないようだが、石塚の方はそうじゃないことは、ピンときた。『オヤジ臭い』とかなんとか、軽口を叩いているけれど、機会あることに彼女の隣を確保している。
俺は、といえば。この半年、週一で彼女とファーストフードで話すだけだ。特別な関係といえば特別なのだろうが、色っぽさとは無縁だった。
確かに俺と彼女の会話は、会社でする内容ではないけれど、明らかに会社では俺は避けられていた。たぶん、ゲーマーであることを会社の人間に知られたくないのだろう。
でも、俺は、週一じゃ物足りない。本当は、レストランに食事に行ったり、休日はデートとかしてみたい。
二人で会う日の俺の鞄に、必ず大人の夜の家族計画なブツが常に入っているなんて、彼女は気が付いてもいないだろう。まあ、その件に関しては、完全に俺の先走りではあるが。
彼女がファーストフードをセレクトするのは、たぶん、支払いを俺にさせないためなのだろうなと思う。一度、おごろうとしたら、『友達だから無理しておごらなくていいよ』って断られた。
デートに誘おうとしても、彼女はたくみにゲームの話にすりかえてしまう。ここまで来ると、脈はないのかとは思うが、彼女は恋人はいないみたいだし、俺自身を嫌っているわけではなさそうだから……諦められない。
「でもさあ、高級車デートじゃなきゃダメって女の子って、実際にいたら面倒すぎないか?」
俺は、いつものようにゲームの話をしながら、彼女に探りを入れていく。本当は、彼女が物で釣れる女だったら、どんなに簡単なのだろうって思う。なんとかしてデートにこぎつけたい。
友達じゃなくて、彼女にとって特別な男になりたい。
「高級車じゃなきゃ嫌なんてことは、みんな言わないだろうけど。女の子はシチュエーションと、モノに弱いのよ。だから、手間暇かけて、金掛けて落とすものなのよ」
モノね……と、俺は思う。でも、宝石とかブランドバッグで、彼女は釣れるとは思えない。
彼女は、なんのためらいもなく目の前のハンバーガーをぱくついた。そして、口からはみ出たソースを舌でなめとる。
思わず、ぞくりとした。
瞬間、脳裏にエロい妄想が駆け巡る。彼女の舌の動きを思わず目で追ってしまう。ヤバイ。
「……手間暇かけて、金掛けて、ね」
俺は、深呼吸して、彼女から視線を外すと、ようやく理性が帰ってきた。
「山田さんも、そうなの?」
もしそうなら。俺にもっと手間暇かけるチャンスを与えてほしいと思う。
「ゲームの話だって。実際はそうじゃないと思う。私なんか、どの車が高級かもわからないもん」
少し戸惑った彼女の表情が、滅茶苦茶可愛くて、俺は見惚れた。
「久谷さん、なかなかハイスペックだもん。合コンとか行けば、手間なんてかけなくても、何人でも簡単に釣れる――」
「俺、別に、何人もの女の子と付き合いたいわけじゃない」
思わず、声が荒くなった。欲しいのも話を聞きたいのも君だけなのに、なんで、そんな話になるのだ。
「久谷さん、ひょっとして、好きな女の子、いるの?」
言い当てられて、俺は顔が真っ赤になるのを自覚した。バレたかな? と、思った。
「だったら……こんなところで、ゲーマー女と、ギャルゲーの話なんかしていちゃダメだよ」
「山田さん?」
彼女は突然、俺を突き放したようにそう言って、立ち上がった。
「今日は、『ふるえる乙女3』のアップデート配信があるから、私、帰るわ」
「ちょっと、待ってよ」
なぜ、彼女は帰ってしまうのだ。俺は焦った。
「早いとこ、コクっちゃえば? きっとうまくいくよ」
彼女は淡く微笑んで、足早に去っていった。
『君が好きだ』の一言を、言う機会すら与えてもらえなかった。
その週末。今日は会社の飲み会である。
居酒屋『のん兵衛』のお座敷だ。小さな会社だ。メンツはほぼ決まっているが、落としゲーさながらに、男女ともに、ギラギラ感があったりする。
「久谷さん、一杯どうぞ」
甘い猫なでごえで柳原玲子が、俺のコップにビールを注ぐ。
本当は、山田のそばに座りたかったのに、気が付くと、同じ部署の杉原里美に強引に横に座らされ、身動きが取れなくなった。香水の香りがきつくて、頭が痛くなりそうだ。
山田沙紀を視線で探すと、いつものようなビジネススーツではあるが、その下にⅤ字のタンクトップ を着ており胸の谷間がチラ見せ状態で、しかも豊満な胸のかたちを、これでもかというように見せつけていた。タイトスカートの丈はやや短く、正座した足は、太ももがちらりとみえている。
――誰に対するアピールだ?
特に男性社員に寄っていくでもないのに、無駄にセクシーな格好だ。
時折、その胸を、ちらりちらりと、男どもが眺めているのも、全く気が付いていない。
もちろん、ほかの女性もかなりキワドイ格好をしていたりするわけであるが、山田のダイナマイトボディは、ブランドスーツのきらびやかさより目を引くのである。
――あれじゃ、持ち帰って下さいって言っているようなものだ。
俺は、やたら話しかけてくる二人の女に適当に相槌を打ちながら、いらいらする。いい加減、話を打ち切って、彼女の傍に行きたかった。
気が付けば、石塚が、山田と乾杯をして親しげに談笑し始めた。石塚の目が、ちらりちらりと、山田の太ももに向けられている。冗談じゃない、と思う。
「よう、伊藤」
俺は、俺の隣の柳原目当てでやってきた二つ下の伊藤に声をかけた。
「まあ、飲めや」
俺は、伊藤を呼び、酒をつぐ。伊藤が飲んだところで、ビール瓶を持って、席を離脱した。
二人の女性が、不服そうに俺を見たが、そんなことはどうでも良かった。
酒を継ぐふりをして、席を離れて、適当なところで洗面所に行き、山田の座っていた場所に近い位置へと移動できたのは、もう、会が終わる直前だった。
「さて、そろそろお開きかな」
石塚がそう言っているのが聞こえた。
「山田は二次会、出るの?」
「そーゆーもんは若いものに任せて、帰ります」
のんきにそんなことを言って、山田は立ちあがる。ぐらりと身体が揺れて、俺の方に倒れてきた。
「ご、ごめんなさい」
俺は、彼女の身体の感触にドキッとしながら、抱くように身体を支える。
「大丈夫?」
彼女は支えている相手が俺だと気が付くと、びっくりしたような顔をした。その顔が可愛らしくて、無意識にそのまま身体を引き寄せてしまった。
しまった、と思ったが、彼女の顔に、拒絶のいろがないのを見て、俺はホッとした。
「あー、山田、飲みすぎだな。俺、送るわ」
石塚が腰を上げ、山田に手を伸ばす。
「必要ないです」
俺は、そう言って、石塚の手を払いのけた。石塚の目が驚いたように、俺と、山田を見比べる。
俺は、勝負を挑む気持ちで、石塚の目を睨みつけた。
「俺が、送ります。同期ですし」
「は?」
山田は、状況を理解できていないようで、きょとんとしている。
「いや、私、大丈夫ですから。お二人とも、二次会へどうぞ」
「大丈夫じゃない。そんなにフラフラしていたら、怪我をする」
俺は、かなり好戦的に石塚を睨みながら、彼女の肩を抱いた。
「えっと。歩けますけど」
「歩けてない」
山田は、酔っているせいか、俺に抱きすくめられたまま、固まっている。だが、嫌悪や、恐怖のような拒絶反応は全く感じられなくて……石塚は、俺の顔を見てフーっと息を吐いた。
「はーっ、山田、まあ、狼に気をつけて帰れや」
彼はそう言って、俺の耳元で『本気じゃねえなら殴るぞ』と、呟いた。
「えっと、私一人で帰れるけど」
店を出て。彼女は、そんなことを言った。
「俺より、石塚さんのほうがいいわけ?」
「は?」
山田はキョトン顔で首を傾げる。石塚の猛アピールに全く気が付いていなかったらしい。
ある意味で、彼のかけた手間暇は全く報われていない。俺には幸いだった。
「久谷さん、本当に二次会いかなくてよかったの?」
山田が行かない二次会など、行っても仕方がない。
「別に行きたくないし」
どうしてわかってくれないのだろう、と思う。
「俺、送らなかったら、石塚さんと帰るだろ?」
「帰らないけど」
彼女は当たり前のようにそう切り返すけど。
「飲み直しとか言われて、バーとかに連れて行かれて、最終的に絶対お持ち帰りコースだから」
俺の言葉に、彼女の口元に苦笑が浮かぶ。
「……ないと思うケド」
「その格好、どれだけ男の欲望を誘うか、きちんと理解している?」
俺はイラついた。
「……誰も、気にしてないって」
彼女は呆れたようにそう言うが……それこそ呆れる。どんだけ、男の視線を釘付けにしていたか気が付いてもいないらしい。
「俺は気になる……無茶苦茶、君が欲しい」
彼女のアパートが近づいて。俺は、我慢が出来なくなって、彼女の身体を抱き寄せた。
「好きだ」
答えも聞かぬまま、強引に唇を奪う。俺は、むさぼる様に彼女の唇を吸う。もう、ほぼ獣の欲望である。
柔らかい彼女の肌をひたすらに俺は愛撫した。
「……からかっているのよね?」
唇が離れると、彼女は、俺から離れようとした。
「からかってなんかいない。俺、本気だけど」
これほどまでに、我を忘れて欲しいと思った女性は、彼女が初めてだというのに、全く伝わっていないことに俺はイラつく。
「だって、私、可愛くない。色っぽくもないもん。久谷さんみたいにカッコイイ男性に好かれる要素ゼロだもの」
カッコイイって思ってくれていたことに、まず驚いた。それにしても、この自己評価の低さは何なんだ。フェロモン撒き散らしまくっているくせに。
「沙紀は可愛い。胸元とか、太ももとか超エロいんだって。今日、男性社員の視線に視姦されていたの、気が付いてないだろう。俺は気が気じゃなかった」
「そんなこと、あり得ないと思うけど」
潤んだ瞳。ふっくらした柔らかな唇。すべて欲しくてたまらないのに、なぜ、彼女はそれがわからないのだろう。
「俺のこと、好き?」
彼女は、俺の勢いに負けたのか、「うん」と頷いた。流されただけかもしれないが、やっと落ちてきた彼女をもう逃がす気はなくて。
「じゃあ、俺、送り狼になるわ」
「え?」
俺は彼女を抱きしめて。
そして激しいキスをした。
その後、俺の鞄の『夜の家族計画』なブツは、しっかりと活用されて。
俺は彼女のはじめてをしっかりいただいた。
半年前からブツを用意していたのは、しばらく内緒にしておこうと思っている。
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