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市場
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「飯でも食おう」
アパートメントを出ると、ディックはそう言った。
見上げた空の真上に、太陽がある。
食べられるときに、食べる。これは、大事なことだ。
警察の仕事は体力勝負。しかも、不規則な勤務形態である。
ふたりは、にぎやかな市場へと足を向けた。
石畳の敷き詰められた海の見える広場に、軒を連ねる市場は、とても開放的だ。
テイクアウト可能なサンドイッチや、パンケーキ、パイなどを売っている店もある。
あたりには香ばしい旨そうなにおいが漂い、歩く人に空腹を思い出させるのだ。
ふたりは、サンドイッチを買い、広場のすみのほうにあるベンチへと移動した。
市場の人通りから、すこしだけ離れていて、海が見える場所である。
周りには、同じようにテイクアウトのものをほおばる者たちが多い。
デートの途中だろうか。花束をうれしそうにわきにおいて、広いベンチなのにわざわざ肩をぎゅっと寄せ合っているカップルが目に入った。
ラスは、すこしだけ遠いディックの肩に気が付いて、苦笑する。
ディックは、いつもラスのそばにいる。でも、けっして近すぎはしない。
ラスには、その距離を変えることはできない。ラスが距離を詰めれば……そばに居ることもかなわなくなってしまうと思う。
花束を持つ女性は、女性らしくて可愛らしい。ラスとは違う世界の生き物だ。きっと、ディックの心に住む女性は、目の前にいるような可愛らしいひとに違いない。
「……花?」
ラスは、市場のほうに目をやった。
広い市場の片隅に、長い金髪で、かわいらしいエプロンドレスを着た女性が、花を売っているのが見えた。
「絵の女性だな」
ラスの視線の先を追ったのだろう。ディックが頷いた。
絵と同じ優しい笑みを浮かべ、歌うような声で花を売っている。優しい陽の光が似合う女性だ。
二人は、食べ終わると、ゆっくりと女性のほうへ向かった。
マックインのことは公にはできないし、警戒されては困るので、聞き込みは、警察ということを伏せたほうがいいだろう。
「すまないが、花を買いたいのだが」
近づいたディックが女性に話しかけると、女性は満面の笑みを浮かべた。
「どちらにいたしますか?」
彼女は手にしたかごいっぱいの花を前に差し出す。色鮮やかで、大小さまざまな種類の花が芳香を漂わせていた。
「ラス、どれがいい?」
「え?」
「好きなのを選べ」
恋人への甘い響きを感じさせる言葉に、ラスはどきりとした。
聞き込み相手から商品を買うのは、聞き込みテクニックのひとつだ、と、頭は理解しているのだが、ディックの視線とぶつかって、思わず頬が熱くなる。
――いけない。
ラスは、あわてて花に意識を集中した。
たいしたことではないのに、ドキドキしてしまい、どれを選んでよいのかわからない。
焦れば焦るほど、頬はますます熱くなる。悩めば、変に思われると思うのに、即答できない。
「お花は、男性が選んであげるのもいいものですよ」
迷っているラスを見て、くすくすと、女性がディックに笑いかけた。
「そうか」
ディックはそう言って、花かごの花を指さした。
「これを花束にしてくれないか」
青色の花弁を持つ小さな可憐な花だ。
女性は満足そうに何本かを束にしてディックに渡しながら、耳元で何事かささやく。
ディックの顔が、なぜか真っ赤に染まった。
「うまくいくといいですわね」
女性はお金を受け取りながら、ディックに笑いかけた。
「あ、ああ」
ラスは、いつになく目の泳いでいるディックからそれを受け取った。
「ありがとう」
ドキドキする胸をおさえながら、必死に、頭を仕事へと切り替える。
これは、仕事で、ディックも仕事でやっていることなのだ。
ラスは自分の服装に目を落とす。
男物の上下は、上等な仕立てではあるが、この青い可憐な花束が似合う格好とは言えない。
ラスの仕事は、どちらかといえば花を護る立場だ。花束を抱えながらも、自分に違和感を感じる。
そう。これは、仕事なのだ。
「あの……あなたはいつもここで、花を売っていらっしゃるのですか?」
「はい」
ラスの問いに、女性はにっこりと笑った。
本当に先ほどの絵から抜け出たような、優しい笑みである。
「ひょっとして、絵描きのレイノルド・マックインさんをご存知ですか?」
ラスの言葉に、女性は、びっくりしたように見返し、けげんそうな顔をした。
「いつもこの市場で、似顔絵をかいていらっしゃったマックインさん?」
「そうです」
ラスが頷くと、女性は、「少しだけ」と答えた。
「実は、彼の今書いている絵を見せてもらったら、あなたにそっくりの女性だったので、びっくりしてしまったのです」
ラスの言葉に、女性は「まあ」と赤くなった。
「あの……でも、お話するだけで、その……」
女性--マーガレットとマックインは、話を交わす以上の付き合いはない、と彼女は言った。。
「いつも花を買ってくれます」
マーガレットは、恥ずかしそうにうつむいた。
「いつか本物の絵描きになりたいっていうのが口癖だから、あなたはもう立派な絵描きさんよと言うと、本当に恥ずかしそうに笑うの」
マーガレットの言葉の端々に、幸せそうな好意が見える。
「でも、絵をご覧になられたってことは、彼はもうここへは来ないのかしら」
市場に絵描きの卵は来ることがあっても、成功した画家が来ることはない。
名が売れてしまえば、似顔絵などを描いて小銭を稼ぐ必要はないのだ。
マーガレットは寂しげに呟いた。
「いえ。私たち、絵かきの卵の絵を見て回っているのが仕事なのよ……だけど、しばらくは彼はここには来られないとは思うわ」
ラスは慌ててそう言った。
実際、マックインがここに来ることはしばらくない。意識が戻っても、彼には取り調べと裁きが待っている。
「そうですか」
マーガレットの表情が哀しそうに曇った。
「どこかの画廊に絵を置いてもらえることになるって、言っていたから、いつかそんな日が来る気がしてはいました」
「画廊に?」
ディックの問いに、マーガレットが頷く。
「おしゃれな画廊だって言ってました。画廊なんて、格調高そうなところ、私なんかじゃとてもいけないと思って、見に行ったことはないですけど」
「画廊の名前は?」
「さあ……覚えていません」
マーガレットはそう言って、視線を落とした。
その肩は寂しげだ。
しかし、本当のことを話したところで、何も救われない。
ラスの胸に、怒りがこみ上げる。このあたたかな女性から透けて見えるやさしい青年を、刺客に仕立て上げた人物はいったい誰なのか。
許せない、と思う。肩が震える。花束を抱えながら握る拳に、力がこもる。
「すまない。邪魔をしたね」
ディックはラスの肩を抱きながら、マーガレットに頭を下げた。
「ラス」
ディックは、ラスの肩を恋人のように抱き寄せ、港へと向かった。
身震いが出るほどの荒ぶる気持ちが、ディックの体温を感じて、ゆっくりと落ち着きをとりもどしていく。
「落ち着け、ラス。一人で走ろうとするな」
「……うん」
ディックの言葉に、ラスは素直にうなずいた。
「俺は、いつでもお前のそばにいる」
ラスの手に胸に抱きしめた青い花束から、甘い香りが漂う。
「一度、本部に戻ろう」
「そうね」
ラスは大きく息を吸った。冷静でなければ、謎は解けない。
もつれた謎の闇は、とても深いのだから。
アパートメントを出ると、ディックはそう言った。
見上げた空の真上に、太陽がある。
食べられるときに、食べる。これは、大事なことだ。
警察の仕事は体力勝負。しかも、不規則な勤務形態である。
ふたりは、にぎやかな市場へと足を向けた。
石畳の敷き詰められた海の見える広場に、軒を連ねる市場は、とても開放的だ。
テイクアウト可能なサンドイッチや、パンケーキ、パイなどを売っている店もある。
あたりには香ばしい旨そうなにおいが漂い、歩く人に空腹を思い出させるのだ。
ふたりは、サンドイッチを買い、広場のすみのほうにあるベンチへと移動した。
市場の人通りから、すこしだけ離れていて、海が見える場所である。
周りには、同じようにテイクアウトのものをほおばる者たちが多い。
デートの途中だろうか。花束をうれしそうにわきにおいて、広いベンチなのにわざわざ肩をぎゅっと寄せ合っているカップルが目に入った。
ラスは、すこしだけ遠いディックの肩に気が付いて、苦笑する。
ディックは、いつもラスのそばにいる。でも、けっして近すぎはしない。
ラスには、その距離を変えることはできない。ラスが距離を詰めれば……そばに居ることもかなわなくなってしまうと思う。
花束を持つ女性は、女性らしくて可愛らしい。ラスとは違う世界の生き物だ。きっと、ディックの心に住む女性は、目の前にいるような可愛らしいひとに違いない。
「……花?」
ラスは、市場のほうに目をやった。
広い市場の片隅に、長い金髪で、かわいらしいエプロンドレスを着た女性が、花を売っているのが見えた。
「絵の女性だな」
ラスの視線の先を追ったのだろう。ディックが頷いた。
絵と同じ優しい笑みを浮かべ、歌うような声で花を売っている。優しい陽の光が似合う女性だ。
二人は、食べ終わると、ゆっくりと女性のほうへ向かった。
マックインのことは公にはできないし、警戒されては困るので、聞き込みは、警察ということを伏せたほうがいいだろう。
「すまないが、花を買いたいのだが」
近づいたディックが女性に話しかけると、女性は満面の笑みを浮かべた。
「どちらにいたしますか?」
彼女は手にしたかごいっぱいの花を前に差し出す。色鮮やかで、大小さまざまな種類の花が芳香を漂わせていた。
「ラス、どれがいい?」
「え?」
「好きなのを選べ」
恋人への甘い響きを感じさせる言葉に、ラスはどきりとした。
聞き込み相手から商品を買うのは、聞き込みテクニックのひとつだ、と、頭は理解しているのだが、ディックの視線とぶつかって、思わず頬が熱くなる。
――いけない。
ラスは、あわてて花に意識を集中した。
たいしたことではないのに、ドキドキしてしまい、どれを選んでよいのかわからない。
焦れば焦るほど、頬はますます熱くなる。悩めば、変に思われると思うのに、即答できない。
「お花は、男性が選んであげるのもいいものですよ」
迷っているラスを見て、くすくすと、女性がディックに笑いかけた。
「そうか」
ディックはそう言って、花かごの花を指さした。
「これを花束にしてくれないか」
青色の花弁を持つ小さな可憐な花だ。
女性は満足そうに何本かを束にしてディックに渡しながら、耳元で何事かささやく。
ディックの顔が、なぜか真っ赤に染まった。
「うまくいくといいですわね」
女性はお金を受け取りながら、ディックに笑いかけた。
「あ、ああ」
ラスは、いつになく目の泳いでいるディックからそれを受け取った。
「ありがとう」
ドキドキする胸をおさえながら、必死に、頭を仕事へと切り替える。
これは、仕事で、ディックも仕事でやっていることなのだ。
ラスは自分の服装に目を落とす。
男物の上下は、上等な仕立てではあるが、この青い可憐な花束が似合う格好とは言えない。
ラスの仕事は、どちらかといえば花を護る立場だ。花束を抱えながらも、自分に違和感を感じる。
そう。これは、仕事なのだ。
「あの……あなたはいつもここで、花を売っていらっしゃるのですか?」
「はい」
ラスの問いに、女性はにっこりと笑った。
本当に先ほどの絵から抜け出たような、優しい笑みである。
「ひょっとして、絵描きのレイノルド・マックインさんをご存知ですか?」
ラスの言葉に、女性は、びっくりしたように見返し、けげんそうな顔をした。
「いつもこの市場で、似顔絵をかいていらっしゃったマックインさん?」
「そうです」
ラスが頷くと、女性は、「少しだけ」と答えた。
「実は、彼の今書いている絵を見せてもらったら、あなたにそっくりの女性だったので、びっくりしてしまったのです」
ラスの言葉に、女性は「まあ」と赤くなった。
「あの……でも、お話するだけで、その……」
女性--マーガレットとマックインは、話を交わす以上の付き合いはない、と彼女は言った。。
「いつも花を買ってくれます」
マーガレットは、恥ずかしそうにうつむいた。
「いつか本物の絵描きになりたいっていうのが口癖だから、あなたはもう立派な絵描きさんよと言うと、本当に恥ずかしそうに笑うの」
マーガレットの言葉の端々に、幸せそうな好意が見える。
「でも、絵をご覧になられたってことは、彼はもうここへは来ないのかしら」
市場に絵描きの卵は来ることがあっても、成功した画家が来ることはない。
名が売れてしまえば、似顔絵などを描いて小銭を稼ぐ必要はないのだ。
マーガレットは寂しげに呟いた。
「いえ。私たち、絵かきの卵の絵を見て回っているのが仕事なのよ……だけど、しばらくは彼はここには来られないとは思うわ」
ラスは慌ててそう言った。
実際、マックインがここに来ることはしばらくない。意識が戻っても、彼には取り調べと裁きが待っている。
「そうですか」
マーガレットの表情が哀しそうに曇った。
「どこかの画廊に絵を置いてもらえることになるって、言っていたから、いつかそんな日が来る気がしてはいました」
「画廊に?」
ディックの問いに、マーガレットが頷く。
「おしゃれな画廊だって言ってました。画廊なんて、格調高そうなところ、私なんかじゃとてもいけないと思って、見に行ったことはないですけど」
「画廊の名前は?」
「さあ……覚えていません」
マーガレットはそう言って、視線を落とした。
その肩は寂しげだ。
しかし、本当のことを話したところで、何も救われない。
ラスの胸に、怒りがこみ上げる。このあたたかな女性から透けて見えるやさしい青年を、刺客に仕立て上げた人物はいったい誰なのか。
許せない、と思う。肩が震える。花束を抱えながら握る拳に、力がこもる。
「すまない。邪魔をしたね」
ディックはラスの肩を抱きながら、マーガレットに頭を下げた。
「ラス」
ディックは、ラスの肩を恋人のように抱き寄せ、港へと向かった。
身震いが出るほどの荒ぶる気持ちが、ディックの体温を感じて、ゆっくりと落ち着きをとりもどしていく。
「落ち着け、ラス。一人で走ろうとするな」
「……うん」
ディックの言葉に、ラスは素直にうなずいた。
「俺は、いつでもお前のそばにいる」
ラスの手に胸に抱きしめた青い花束から、甘い香りが漂う。
「一度、本部に戻ろう」
「そうね」
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