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保証人様のご依頼 1
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その日。
男は約束もなく、訪れた。
長身で、端正な顔つき。こげ茶色の髪に、深い闇色の瞳。
ただでさえ、人目を引く容姿なのに、乗ってきた馬は栗毛の軍馬だ。
冒険者がたむろする、この賑やかな職人街にあっても、目立つ。
彼の名は、イシュタルト・リゼンベルグ。若くしてこの国の近衛隊の副長に就任したエリートだ。
しかも、帝国きっての侯爵家の長男である。
「やあ、アリサ」
ちょうど軒下に干してあったリドの実を取り込んでいると、親し気に声をかけてきた。
誰が見ても、さわやな微笑み。
つい手放しで、信じてしまいたくなりそうなまっすぐな瞳だ。
だが、私は、どうにも彼が苦手だった。
「……何か御用でございますか?」
作業を続けながら、私は問いかける。
「親父はいるか?」
馬を降り、その背をなでながら彼は所在無げに私を見る。
「あいにく、留守です」
父をあとで屋敷に出向かせるから、帰って欲しいと伝える。
私はただの店番でしかない。私はまだ、見習いで注文を取ることを父に許されてもいないのだ。
「馬を置かせてくれ、中で待たせてもらいたい」
どうにも急ぎの注文ということらしい。
私は馬を引き、店の裏側にある狭い住居区間のこれまた狭い猫の額ほどの庭に、馬をつなぐ。
お貴族さまだから仕方ないけれど、うちは馬や馬車で横づけされるような店ではない。
父は貴族とも取引しているが、基本、お屋敷に直接出向いている。
店の扉をくぐると、イシュタルトは勝手に椅子に座りこんでいた。
「茶が欲しい」
「……わかりました」
私は頭を下げ、火元に立った。
約束もなしに来ておいて、茶が欲しいとは図々しいけれど、 彼に逆らうことは許されない。
イシュタルト・リゼンベルグは、いささか常軌を逸した金銭感覚の我が父が積み上げた借金の保証人だ。
父は腕の良い仕立て職人だ。帝国でも指折りともいわれている。
が、手の付けられない『魔道具』コレクターなのだ。
こと仕立てに関する『魔道具』を見つけると、値段など全く気にすることなく、手に入れてしまう。しかも、父のそういう酔狂なところは取り扱う商人たちもよく知っていて、頼みもしないのに、新製品の情報を父の耳に入れてくれる。
母が生きていたころは、それでも父は我慢していたらしい。
しかし、五年前に母が他界すると、その寂しさもあってか、歯止めが利かなくなったようだ。
ようだ、というのは、私は当時まだ十五歳で、しかも、魔道学校の課題で頭がいっぱいの時期だった。
ゆえに『最近、父は変なものをよく買っている』くらいの認識しかなく、借金が膨らんでいったことに全く気付いていなかった。
今思えば、私も、私の双子の弟も、家に増えていく「変なもの」に対して、もっと興味を持つべきだったと思う。
そして、三年前のある日。
リゼンベルグ侯爵家の経営する『銀行』の偉い人が、たくさんゼロのついた借用証明書をもって、我が家に現れた。
彼らはとても紳士的だった。店や住むところを奪われても仕方のなかった状態だったのに、イシュタルトが保証人となり、借金の返済期限の無期限にすることを提案してくれた。
だから、恨むのは筋違いなのだけれど。
当時、魔道学校で首席だった私の双子の弟ロバートを、リゼンベルグ家の所有物とすることが条件だったのだ。
所有といっても、別段、慰み者にするとかそう言う意味ではなく、いわば「青田買い」である。
高等科に奨学生として進む予定だったロバートの将来は、宮廷魔導士や、魔道ギルドの研究員など、輝かしい未来が約束されていた。
しかし、あくまでも『未来』の話だ。借金は高額で、未来まで待ってはくれない。
結局。
父と私は、愛しのロバートの未来を売り渡した。
私の今の生活は、弟の犠牲によって成り立っている。
ロバートはリゼンベルグ家のお抱え魔導士となった。
リゼンベルグ家は名門中の名門。勤め先として悪くはないけれど、弟に選択の自由はなかった。
ただ。
借金を返しさえすれば、弟を自由にしてくれると約束してくれた。
だから、恩義ある相手なのだけれど、なぜか苦手だ。
それから。
私は学校をやめ、父の店を手伝うことにした。
うちは、帝都アレイドの片隅にある小さな仕立屋で、専門は防魔用の男性服の専門店だ。
楔帷子の下に着る肌着、プールポワンが主力商品である。
帝都の社交界のオシャレ男子は、普段着として着用したりもするらしいが、うちのは、戦闘用に特化したものである。どちらかと言えば、下着であるが、ひと針ひと針、魔力を付与してある代物だ。分厚いキルティングを魔道針でほどこして、魔力が縫い込んだうちのプールポワンは、ちょっとしたモンスターの攻撃を跳ね返すことが出来るのだ。
「お茶はまだか」
イシュタルトが沈黙に飽きたように口を開いた。
「お湯が沸くまでお待ちください」
私はかまどの火を調整する。
「なぜ、魔術を使わない?」
「――魔力がもったいないです」
昨今は、庶民でも魔道具を使ってお湯を沸かすのが普通だ。
だが、数ある魔道具を有する我が家だけれど。料理用の魔道具はひとつもない。
魔道具は、少なからず、魔力を消費する。
うちの仕事は、ちびちびと魔力を付与する仕事だ。
私も父も、そんじょそこらの魔導士より魔力保有量は大きいけれど、魔力には限りがある。仕事で必要だから、生活の為に無駄な魔力を消費したくないのだ。!
「そうか」
イシュタルトは納得したようだった。
私は、我が家の中では高級なほうのお茶を丁寧に入れる。
苦手ではあるものの、彼の機嫌が悪くなっては困るのである。
「お待たせしました。」
イシュタルトはカップから立ち上る芳醇なお茶の香りに目を細め、満足そうに口にした。
「親父殿は、いつ戻られる?」
「防具屋へ注文品を届けに行っただけですから、間もなく戻るとは、思います」
正直、父の腕は帝都でも指折りだ。貴族や、軍の客も多い。
名指しで注文してくれるテーラーメイドだけで店は通常なら、成り立つはずなのだ。
防具屋の注文に応じて作る、いわゆる「既製品」に、手を出さなければならないのは、うちが借金苦だからである。
お茶を淹れたので、先ほど入り口に置いたままのリドの実を取りに戻ろうとした。
「どこへ行く? せっかくだから、少し話をしよう、アリサ」
嫌だと言いたかったが、相手は保証人様である。
私は、イシュタルトの前の椅子に腰かけた。
「仕立屋の娘のくせに、地味な服を着ているな」
じろじろと人の服を見ながら、イシュタルトはため息をついた。
確かに、私の服は女性服の流行からは程遠いどころか、完璧な男装である。白いシャツに黒っぽいズボン。うちの父の服と大差ない。
「うちは、男性服の専門店ですから」
店に来るのは、ほぼ男。しかも戦闘服を求めるような輩である。男に媚を売るような恰好をしていたら、それこそ貞操の危機である。
「それに、派手な服を着る余裕は我が家にありません」
だから、借金を取り立てようとしても無駄だから待ってくださいと思う。ちなみに、現在月々の利息も一万Gほど滞っている。
が、イシュタルトは、まったく気にしていないようだった。
「文句があるなら、俺じゃなくて、お前の親父に言え」
「言われなくても、そうしています」
私は、ため息をつく。確かに悪いのは父だ。
腕だけは尊敬できるものの、あの浪費癖が治らない限り、私の未来はないかもしれない。
「双子だというのに、お前はロバートと違って、愛想がないな」
「……有望な弟の将来を売り渡した姉ですから」
「言っておくが、ロバートの労働条件は悪くないぞ」
「承知しております」
正論だけど、やっぱり、ちょっと苦手だ。早く父親が帰ってきてくれないかと、窓に目を向ける。
「よそ見をするな」
イシュタルトは、不機嫌そうに私の顎に手をやって、私の顔を正面に向けた。思いっきり力を入れられて、顔が痛い。
深い闇色の瞳が私を真正面から捉えている。
息がかかりそうな近距離で、見つめられ、胸がドキリとする。
気に入らない保証人様ではあるが、類まれなる美形なのだ。認めたくはないけど。
「気が変わった」
突然、イシュタルトはニヤリと口の端をあげた。
「親父に頼もうと思ったが、アリサ、お前にする」
「はい?」
突然のことに私は思わず、首を傾げる。
「俺用のプールポワンを一枚、三日以内に作れ」
「ご冗談を」
うちは魔力を付与した「プールポワン」の専門店だ。普通に仕立屋と違い、材料も特殊だし、時間もかかるのが当たり前で。
まして、私はまだ『ひよっこ』職人なのだ。リゼンベルグ家の御曹司の注文を承る立場ではない。
「できないなら、滞っている利息を払え」
「そんな」
横暴な、と言おうとしたら、唇を唇でふさがれた。
「利息を、身体で払ってくれてもいいぞ」
どこまで本気なのかわからない。でも、イシュタルトがそうすると言えば、どうしようもない。
私は、思わず睨み付けた。いくら保証人様とはいえ、身をささげる気は毛頭ないのだ。
「満足できる出来だったら、七千Gに、たまっている利息の免除をしてやってもいい」
利息を足せば、一万七千Gの計算だ。既製品の値段は四千G。日付が差し迫っているにしろ、好条件には違いない。
「お引き受けします」
どさくさに紛れて、キスをされたこともこの際、水に流そう。うまくいけば、父だけでなく私にも客がつくようになるし、そうなれば、借金を返す日も近くなるかもしれない。
私はメジャーを手に取った。
「それでは、採寸するので、上着を脱いでください」
「……もっと、色っぽい声で言えないものかね」
イシュタルトはブツブツ言いながら、上着を脱いだ。
下着用のシャツのうえからも、胸襟が鍛え上げられているのがわかる。
「お召しになるのは、いつですか?」
「出来たらすぐだな。近いうちに魔物の掃討を行う予定だ」
それならば、防魔だけでなく、防寒機能も必要だなと思った。
男は約束もなく、訪れた。
長身で、端正な顔つき。こげ茶色の髪に、深い闇色の瞳。
ただでさえ、人目を引く容姿なのに、乗ってきた馬は栗毛の軍馬だ。
冒険者がたむろする、この賑やかな職人街にあっても、目立つ。
彼の名は、イシュタルト・リゼンベルグ。若くしてこの国の近衛隊の副長に就任したエリートだ。
しかも、帝国きっての侯爵家の長男である。
「やあ、アリサ」
ちょうど軒下に干してあったリドの実を取り込んでいると、親し気に声をかけてきた。
誰が見ても、さわやな微笑み。
つい手放しで、信じてしまいたくなりそうなまっすぐな瞳だ。
だが、私は、どうにも彼が苦手だった。
「……何か御用でございますか?」
作業を続けながら、私は問いかける。
「親父はいるか?」
馬を降り、その背をなでながら彼は所在無げに私を見る。
「あいにく、留守です」
父をあとで屋敷に出向かせるから、帰って欲しいと伝える。
私はただの店番でしかない。私はまだ、見習いで注文を取ることを父に許されてもいないのだ。
「馬を置かせてくれ、中で待たせてもらいたい」
どうにも急ぎの注文ということらしい。
私は馬を引き、店の裏側にある狭い住居区間のこれまた狭い猫の額ほどの庭に、馬をつなぐ。
お貴族さまだから仕方ないけれど、うちは馬や馬車で横づけされるような店ではない。
父は貴族とも取引しているが、基本、お屋敷に直接出向いている。
店の扉をくぐると、イシュタルトは勝手に椅子に座りこんでいた。
「茶が欲しい」
「……わかりました」
私は頭を下げ、火元に立った。
約束もなしに来ておいて、茶が欲しいとは図々しいけれど、 彼に逆らうことは許されない。
イシュタルト・リゼンベルグは、いささか常軌を逸した金銭感覚の我が父が積み上げた借金の保証人だ。
父は腕の良い仕立て職人だ。帝国でも指折りともいわれている。
が、手の付けられない『魔道具』コレクターなのだ。
こと仕立てに関する『魔道具』を見つけると、値段など全く気にすることなく、手に入れてしまう。しかも、父のそういう酔狂なところは取り扱う商人たちもよく知っていて、頼みもしないのに、新製品の情報を父の耳に入れてくれる。
母が生きていたころは、それでも父は我慢していたらしい。
しかし、五年前に母が他界すると、その寂しさもあってか、歯止めが利かなくなったようだ。
ようだ、というのは、私は当時まだ十五歳で、しかも、魔道学校の課題で頭がいっぱいの時期だった。
ゆえに『最近、父は変なものをよく買っている』くらいの認識しかなく、借金が膨らんでいったことに全く気付いていなかった。
今思えば、私も、私の双子の弟も、家に増えていく「変なもの」に対して、もっと興味を持つべきだったと思う。
そして、三年前のある日。
リゼンベルグ侯爵家の経営する『銀行』の偉い人が、たくさんゼロのついた借用証明書をもって、我が家に現れた。
彼らはとても紳士的だった。店や住むところを奪われても仕方のなかった状態だったのに、イシュタルトが保証人となり、借金の返済期限の無期限にすることを提案してくれた。
だから、恨むのは筋違いなのだけれど。
当時、魔道学校で首席だった私の双子の弟ロバートを、リゼンベルグ家の所有物とすることが条件だったのだ。
所有といっても、別段、慰み者にするとかそう言う意味ではなく、いわば「青田買い」である。
高等科に奨学生として進む予定だったロバートの将来は、宮廷魔導士や、魔道ギルドの研究員など、輝かしい未来が約束されていた。
しかし、あくまでも『未来』の話だ。借金は高額で、未来まで待ってはくれない。
結局。
父と私は、愛しのロバートの未来を売り渡した。
私の今の生活は、弟の犠牲によって成り立っている。
ロバートはリゼンベルグ家のお抱え魔導士となった。
リゼンベルグ家は名門中の名門。勤め先として悪くはないけれど、弟に選択の自由はなかった。
ただ。
借金を返しさえすれば、弟を自由にしてくれると約束してくれた。
だから、恩義ある相手なのだけれど、なぜか苦手だ。
それから。
私は学校をやめ、父の店を手伝うことにした。
うちは、帝都アレイドの片隅にある小さな仕立屋で、専門は防魔用の男性服の専門店だ。
楔帷子の下に着る肌着、プールポワンが主力商品である。
帝都の社交界のオシャレ男子は、普段着として着用したりもするらしいが、うちのは、戦闘用に特化したものである。どちらかと言えば、下着であるが、ひと針ひと針、魔力を付与してある代物だ。分厚いキルティングを魔道針でほどこして、魔力が縫い込んだうちのプールポワンは、ちょっとしたモンスターの攻撃を跳ね返すことが出来るのだ。
「お茶はまだか」
イシュタルトが沈黙に飽きたように口を開いた。
「お湯が沸くまでお待ちください」
私はかまどの火を調整する。
「なぜ、魔術を使わない?」
「――魔力がもったいないです」
昨今は、庶民でも魔道具を使ってお湯を沸かすのが普通だ。
だが、数ある魔道具を有する我が家だけれど。料理用の魔道具はひとつもない。
魔道具は、少なからず、魔力を消費する。
うちの仕事は、ちびちびと魔力を付与する仕事だ。
私も父も、そんじょそこらの魔導士より魔力保有量は大きいけれど、魔力には限りがある。仕事で必要だから、生活の為に無駄な魔力を消費したくないのだ。!
「そうか」
イシュタルトは納得したようだった。
私は、我が家の中では高級なほうのお茶を丁寧に入れる。
苦手ではあるものの、彼の機嫌が悪くなっては困るのである。
「お待たせしました。」
イシュタルトはカップから立ち上る芳醇なお茶の香りに目を細め、満足そうに口にした。
「親父殿は、いつ戻られる?」
「防具屋へ注文品を届けに行っただけですから、間もなく戻るとは、思います」
正直、父の腕は帝都でも指折りだ。貴族や、軍の客も多い。
名指しで注文してくれるテーラーメイドだけで店は通常なら、成り立つはずなのだ。
防具屋の注文に応じて作る、いわゆる「既製品」に、手を出さなければならないのは、うちが借金苦だからである。
お茶を淹れたので、先ほど入り口に置いたままのリドの実を取りに戻ろうとした。
「どこへ行く? せっかくだから、少し話をしよう、アリサ」
嫌だと言いたかったが、相手は保証人様である。
私は、イシュタルトの前の椅子に腰かけた。
「仕立屋の娘のくせに、地味な服を着ているな」
じろじろと人の服を見ながら、イシュタルトはため息をついた。
確かに、私の服は女性服の流行からは程遠いどころか、完璧な男装である。白いシャツに黒っぽいズボン。うちの父の服と大差ない。
「うちは、男性服の専門店ですから」
店に来るのは、ほぼ男。しかも戦闘服を求めるような輩である。男に媚を売るような恰好をしていたら、それこそ貞操の危機である。
「それに、派手な服を着る余裕は我が家にありません」
だから、借金を取り立てようとしても無駄だから待ってくださいと思う。ちなみに、現在月々の利息も一万Gほど滞っている。
が、イシュタルトは、まったく気にしていないようだった。
「文句があるなら、俺じゃなくて、お前の親父に言え」
「言われなくても、そうしています」
私は、ため息をつく。確かに悪いのは父だ。
腕だけは尊敬できるものの、あの浪費癖が治らない限り、私の未来はないかもしれない。
「双子だというのに、お前はロバートと違って、愛想がないな」
「……有望な弟の将来を売り渡した姉ですから」
「言っておくが、ロバートの労働条件は悪くないぞ」
「承知しております」
正論だけど、やっぱり、ちょっと苦手だ。早く父親が帰ってきてくれないかと、窓に目を向ける。
「よそ見をするな」
イシュタルトは、不機嫌そうに私の顎に手をやって、私の顔を正面に向けた。思いっきり力を入れられて、顔が痛い。
深い闇色の瞳が私を真正面から捉えている。
息がかかりそうな近距離で、見つめられ、胸がドキリとする。
気に入らない保証人様ではあるが、類まれなる美形なのだ。認めたくはないけど。
「気が変わった」
突然、イシュタルトはニヤリと口の端をあげた。
「親父に頼もうと思ったが、アリサ、お前にする」
「はい?」
突然のことに私は思わず、首を傾げる。
「俺用のプールポワンを一枚、三日以内に作れ」
「ご冗談を」
うちは魔力を付与した「プールポワン」の専門店だ。普通に仕立屋と違い、材料も特殊だし、時間もかかるのが当たり前で。
まして、私はまだ『ひよっこ』職人なのだ。リゼンベルグ家の御曹司の注文を承る立場ではない。
「できないなら、滞っている利息を払え」
「そんな」
横暴な、と言おうとしたら、唇を唇でふさがれた。
「利息を、身体で払ってくれてもいいぞ」
どこまで本気なのかわからない。でも、イシュタルトがそうすると言えば、どうしようもない。
私は、思わず睨み付けた。いくら保証人様とはいえ、身をささげる気は毛頭ないのだ。
「満足できる出来だったら、七千Gに、たまっている利息の免除をしてやってもいい」
利息を足せば、一万七千Gの計算だ。既製品の値段は四千G。日付が差し迫っているにしろ、好条件には違いない。
「お引き受けします」
どさくさに紛れて、キスをされたこともこの際、水に流そう。うまくいけば、父だけでなく私にも客がつくようになるし、そうなれば、借金を返す日も近くなるかもしれない。
私はメジャーを手に取った。
「それでは、採寸するので、上着を脱いでください」
「……もっと、色っぽい声で言えないものかね」
イシュタルトはブツブツ言いながら、上着を脱いだ。
下着用のシャツのうえからも、胸襟が鍛え上げられているのがわかる。
「お召しになるのは、いつですか?」
「出来たらすぐだな。近いうちに魔物の掃討を行う予定だ」
それならば、防魔だけでなく、防寒機能も必要だなと思った。
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