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保証人様のご依頼 4
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魔道起動のアイロンを使って、最後の仕上げを終えると、すでに三日目の昼すぎになっていた。
父は、仕入れに出かけてしまったので、私ひとりだ。
私にとって、初めての依頼人だ。失礼があってはいけない。
ふらつく身体を無理やり動かし、姿見を見ながら身支度を整え始めた。
昨日、風呂に入って少し寝たので、目の下のクマはうすくなっているけれど。青い目は自分でわかるほど生気がない。
唇の色も、肌も疲労感満載である。
少しだけ化粧をして、肌色をごまかす。
服はいつもと同じ白いシャツと黒いズボンだが、プレスのきいたものに着替えた。色気はいらないが、清潔感ときちんと感は大事だ。
無造作に縛り上げていた金髪を梳っていると、馬蹄の音に気が付いた。
髪を下ろしたまま、慌てて表に出る。
「アリサ?」
私の顔を見て、イシュタルトは驚いたようだった。
「いらっしゃいませ。馬をお預かりいたします」
私は馬を預かる。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
イシュタルトは私の顔を覗き込んできた。
「魔力が切れ気味なのです」
「そう……なのか?」
その顔を見て気づいた。
彼は私への嫌がらせで依頼をしたにせよ、そこまでの無茶を言ったつもりはなかったのかもしれない。
プールポワンの仕立ては普通の洋服を作るのと訳が違う。魔力を付与するため、職人はずっと魔術を行使し続けるようなものなのだ。
どれだけの『力』を必要としているのか、わかっていなかったのかもしれない。
「すまない。無理をさせてしまったな」
椅子をすすめたのに、彼は座らずに、頭を下げた。
表情が暗い。
駄目だ。依頼人にこんな顔をさせてしまっては。
「お気になさらず。見習いの私に破格のお値段をお付けいただいたのですから」
父への注文品だとすれば、今回の製品は、一万G程度だ。
見習いの私の品が、通常なら、それより高いわけがない。
「こちらになります」
私は、仕上がったプールポワンをテーブルの上に載せた。
蘇芳色のそれは、ずいぶんと落ち着いた仕上がりだ。
「よろしければ、ご試着を」
「ああ。珍しい色だな」
イシュタルトは頷いて、上着を脱ぐ。
黒の入った赤色、どちらかと言えば紫に近い色の布は、かなり地味だ。ただ、滑らかに起毛したその布の肌触りがとてもよかったのが、決め手になった。
「地味すぎましたか?」
恐る恐る私は尋ねた。色の指定くらいしてもらえば良かったと、そう思う。
「いや、いい色だ。鎧の下で隠れてしまうのが惜しい。それにずいぶんと肌触りが良いな」
「父の腕には及びませんが、魔力付与そのものは、父にも保障してもらえましたので、ご安心いただいて構わないかと」
ゆっくりと袖を通すイシュタルトの表情を見ながら、胸がドキドキする。
初めてのお客さまだ。父には及第点をつけてはもらったが、その評価はとても気になる。
「動かしてみて、キツイ場所などございませんか?」
胸元のボタンを手伝いながらも、少し指が震えた。
「問題はなさそうだ」
あちこち手を上下させ、イシュタルトは答えた。
「着心地はいかがですか?」
「とてもいい」
暗めの赤の服は彼によく似あい、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ。心なしか胸がドキドキする。
最初のお客が彼でよかった。本当に服が映える。
「あの――」
私は、恐る恐る切り出した。
「どうでしょうか? お代はお約束通りいただけましょうか?」
「もちろん」
イシュタルトは上着のポケットから小切手を出した。
まごうことなき七千Gとかかれた金額のそれに、丁寧にサインをする。
「約束通り、未払い分の利息もなくすように銀行に話しておく」
「ありがとうございます!」
あまりのうれしさに、私はイシュタルトに抱き着いた。
そしてそのまま彼の頬にキスをする。
気分が高揚して、歌でも歌いたい気分だ。
「アリサ?」
イシュタルトは頬に手を当てたまま、少しだけまゆをひそめる。
「嬉しいのは分かるが、依頼人に誰彼かまわずキスするのは若い娘として問題だぞ」
よくみれば、イシュタルトの顔は真っ赤だ。
この前は、勝手にキスしたくせに、照れるとかよくわからない。
「すみませんでした」
私が頭を下げると。
「俺にだけなら構わん」
イシュタルトはちょっとだけ顔を背けて、そう呟いた。
父は、仕入れに出かけてしまったので、私ひとりだ。
私にとって、初めての依頼人だ。失礼があってはいけない。
ふらつく身体を無理やり動かし、姿見を見ながら身支度を整え始めた。
昨日、風呂に入って少し寝たので、目の下のクマはうすくなっているけれど。青い目は自分でわかるほど生気がない。
唇の色も、肌も疲労感満載である。
少しだけ化粧をして、肌色をごまかす。
服はいつもと同じ白いシャツと黒いズボンだが、プレスのきいたものに着替えた。色気はいらないが、清潔感ときちんと感は大事だ。
無造作に縛り上げていた金髪を梳っていると、馬蹄の音に気が付いた。
髪を下ろしたまま、慌てて表に出る。
「アリサ?」
私の顔を見て、イシュタルトは驚いたようだった。
「いらっしゃいませ。馬をお預かりいたします」
私は馬を預かる。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
イシュタルトは私の顔を覗き込んできた。
「魔力が切れ気味なのです」
「そう……なのか?」
その顔を見て気づいた。
彼は私への嫌がらせで依頼をしたにせよ、そこまでの無茶を言ったつもりはなかったのかもしれない。
プールポワンの仕立ては普通の洋服を作るのと訳が違う。魔力を付与するため、職人はずっと魔術を行使し続けるようなものなのだ。
どれだけの『力』を必要としているのか、わかっていなかったのかもしれない。
「すまない。無理をさせてしまったな」
椅子をすすめたのに、彼は座らずに、頭を下げた。
表情が暗い。
駄目だ。依頼人にこんな顔をさせてしまっては。
「お気になさらず。見習いの私に破格のお値段をお付けいただいたのですから」
父への注文品だとすれば、今回の製品は、一万G程度だ。
見習いの私の品が、通常なら、それより高いわけがない。
「こちらになります」
私は、仕上がったプールポワンをテーブルの上に載せた。
蘇芳色のそれは、ずいぶんと落ち着いた仕上がりだ。
「よろしければ、ご試着を」
「ああ。珍しい色だな」
イシュタルトは頷いて、上着を脱ぐ。
黒の入った赤色、どちらかと言えば紫に近い色の布は、かなり地味だ。ただ、滑らかに起毛したその布の肌触りがとてもよかったのが、決め手になった。
「地味すぎましたか?」
恐る恐る私は尋ねた。色の指定くらいしてもらえば良かったと、そう思う。
「いや、いい色だ。鎧の下で隠れてしまうのが惜しい。それにずいぶんと肌触りが良いな」
「父の腕には及びませんが、魔力付与そのものは、父にも保障してもらえましたので、ご安心いただいて構わないかと」
ゆっくりと袖を通すイシュタルトの表情を見ながら、胸がドキドキする。
初めてのお客さまだ。父には及第点をつけてはもらったが、その評価はとても気になる。
「動かしてみて、キツイ場所などございませんか?」
胸元のボタンを手伝いながらも、少し指が震えた。
「問題はなさそうだ」
あちこち手を上下させ、イシュタルトは答えた。
「着心地はいかがですか?」
「とてもいい」
暗めの赤の服は彼によく似あい、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ。心なしか胸がドキドキする。
最初のお客が彼でよかった。本当に服が映える。
「あの――」
私は、恐る恐る切り出した。
「どうでしょうか? お代はお約束通りいただけましょうか?」
「もちろん」
イシュタルトは上着のポケットから小切手を出した。
まごうことなき七千Gとかかれた金額のそれに、丁寧にサインをする。
「約束通り、未払い分の利息もなくすように銀行に話しておく」
「ありがとうございます!」
あまりのうれしさに、私はイシュタルトに抱き着いた。
そしてそのまま彼の頬にキスをする。
気分が高揚して、歌でも歌いたい気分だ。
「アリサ?」
イシュタルトは頬に手を当てたまま、少しだけまゆをひそめる。
「嬉しいのは分かるが、依頼人に誰彼かまわずキスするのは若い娘として問題だぞ」
よくみれば、イシュタルトの顔は真っ赤だ。
この前は、勝手にキスしたくせに、照れるとかよくわからない。
「すみませんでした」
私が頭を下げると。
「俺にだけなら構わん」
イシュタルトはちょっとだけ顔を背けて、そう呟いた。
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