復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸

文字の大きさ
6 / 179
第1章

第6話 聖女

しおりを挟む
む……か?」

 生体実験を行う研究所。
 1体の生物を運びながら係員は呟いた。
 わざわざ名前を出すほどの者でもないので、係員Aとしよう。

「おい、おい、この仕事が長いせいかお前も狂ったのか?」

 一緒に運んでいるもう一人の係員Bは、唐突に訳の分からないことを呟きだした仕事仲間に、呆れたような表情で問いかける。
 部屋番号94番の実験体を運んでいるから出た言葉だと分かるので、本心からの問いではない。

「……多少狂ってなきゃこんなところの仕事なんてやってられないだろ?」

「確かにそうだな……。まぁ、そういってられる間は大丈夫か……」

 先程呟いた係員Aのように、ここではまともな神経ではやっていけない。
 この仕事をしていると、精神を病む係員が多く、むしろそう言った人間の方がまともなのではないかと思えてくる。
 それだけ、研究員たちが行っている実験は酷い。
 たまたま目に入った実験では、検体から血が噴き出し、目玉が飛び出ようが研究員たちは何の反応も示さなかった時があった。
 それを見て、係員Bは背筋がゾッとし、その時分かった。
 ハッキリ言って、研究員の彼らの方がまともではないということを。

「こいつも元の形が分かんなくなるまで使い潰されるなんてな……」

 今の姿からは想像できないが、部屋番号の横には女性のマークが付いていたので、一応女性なのだろうこの94番は、見目麗しい女性だったという話だ。
 しかし、実験開始初日に薬物投与に耐えられず、全身の皮膚が炎症を起こし、とても女性には見れない姿になったという話だ。
 嘘か本当か、94番の容姿に嫉妬した女性研究員により、予定以上の薬物投与が行われたという噂だ。

「聞いたか? 何でも研究成果がいまいちなんだとよ……」

「ふ~ん」

 噂で思い出した係員Aは、最近の噂について話し出す。
 彼がここに勤める前からこの研究所はあり、様々な生体実験が行われて来た。
 しかし、係員の彼らにはここが何を研究しているのかは分からないが、最近研究員たちの係員たちへの当たりが強くなってきている。
 聞こえて来た幾つかの単語を並べると、どうやら研究結果が上手くいっていないようだ。
 そのせいか、最近は無理な実験をしてよくするようになり、それの失敗による廃棄の検体を運ぶ仕事が多くなっているように感じる。
 係員Bからすると、まともに働くよりも高額な給料のここの仕事によって、もうだいぶ資金の方は溜まっている。
 そのため、もういつここを辞めても構わないという思いがある。
 だからなのか、ここがどうなろうと興味が無いというのが本音なため、返事がおざなりだ。

「……そういえば、何年か前にこれよりも酷かったのがいたな?」

 廃棄場が見えてきた時、係員Bは昔のことを思いだした。
 この検体も酷い姿だが、それ以上に酷い姿をした係員の者たちの間では有名だった検体のことだ。

「あぁ、確か……42番だったか?」

 係員Aもその時にはここで働いていた。
 そのため、あの時の42番の姿を思いだし、気分が悪くなる。

「あれは本当に酷かったな……」「あぁ……」

 言い出した係員Bも、自分で言っておきながら眉をしかめる。
 あの検体のことを思えば、この94番はまだマシに思えてくるから不思議だ。

「行くぞ!?」

「おう!」

 廃棄場の扉を開けて声をかけ合い、94番の検体の足の方を係員Aが、上半身の方を係員Bが持ち上げる。

「「せーの!!」」

 そして、反動をつけるように揺さぶり、係員の2人は声を合わせてその開けた扉に94番の検体を放り投げたのだった。





 聖女。
 神に仕え、民を助ける存在で、回復魔法を使う。
 そう呼ばれるにはその威力と回数が重視され、最優秀な女性がそう呼ばれる地位にたどり着ける。
 研究所の廃棄施設に落とされた彼女も、多くの次世代聖女候補の中で1、2を争っていた。
 それがこんなことになるなんて思わなかった。
 彼女は、1位争いをしているもう1人の候補によって、謂れもない罪を着せられた。
 それは、この国の貴族が彼女のいる教会に訪れた時、その所持品を盗んだという罪だ。
 多少の金品ならまだ許された可能性があったが、盗んだ物がこの国の初代国王から授かった家宝の短剣だった。
 しかし、当然何のことだか分からない彼女が、自分が盗んだのではないと否定しても、誰も信じてくれなかった。
 その短剣が彼女の部屋から発見されたからだ。
 彼女じゃなくても、その部屋に短剣を隠すことはできるはず。
 だが、彼女以外の聖女候補たちにはアリバイが存在していた。
 今思えば、それも口裏を合わせていたのだろう。
 結局彼女が犯人にしたてられ、とうとう彼女は犯罪者として研究所送りになった。

『……結局、聖女なんてこの世にはいない。そして神も……』

 聖女の地位は、教会に勤める者にとって生涯厚遇されて生きることができる最高位。
 誰もがその地位に就きたいと思っている。
 彼女がいなくなり、聖女候補の者たちは、ライバルが1人減って喜んだことだろう。
 裏で足の引っ張り合いを平気でする者が聖女だなんて、今さらバカバカしく思えてきた。
 この施設に着き、地獄はこの世界、この研究所がそのものだということを知った。
 ここに比べれば、聖女になれないことなんて大したことではなかったのだ。
 死ぬ寸前になって、彼女はようやくこの世の理を知った気がした。

「……………………」

“ザッ!!”“ザッ!!”

 瞼も腫れあがり、僅かにしか開かない両目。
 開いたところで、周囲は完全な漆黒で何も見えない。
 しかし、耳は左の片方だけだが完全に機能している。
 その耳に、何かが近付いてくる音が聞こえる。

「……?」

 そちらに目を向けても漆黒で何も見えない。
 しかし、ドンドン自分のすぐそばに近付いて来ている。
 ここに入れられた者は、人間も動物も、更には魔物でも死を待つだけの存在。
 生きているのは、今放り込まれた自分だけのはずだ。

“ザッ!!”“ザッ!!”

「……………………っ!?」

 その音はドンドン近付き、とうとう自分のすぐ側まで来て止まった。
 明らかに何かの生物が存在していると彼女は理解した。

『何だか分からないけど、これで終われる……』

 何者かは分からないが、この生物に止めを刺されるのだろうと、彼女は判断した。
 自分はこのままここで死を待つだけの存在だ。
 ならば、どんな生物だろうと、殺してくれるならそれはそれで構わない。
 もうこの世界で生きることを諦めた彼女は、そのまま目を閉じて死を待つのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...