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3学年 前期
第173話
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「え~と……」
4月。
無事に進級した伸は、残り1年の学園生活になる。
今年もクラス割が掲示板に張り出され、3年生たちがその周りに集まっている。
その人垣をすり抜け、伸は自分がどのクラスなのかを探す。
「……あった」
探し始めてから少しして、伸は3年C組の中に自分の名前を見つけた。
そして、同じクラスには他に誰がいるのかを目で確認をした。
「今年も同じクラスか……」
同じクラスの中に知っている名前があるのを発見し、伸は思わず呟いた。
「何だよ嫌そうな言い方して!」
「そうそう!」
「本当は嬉しいだろ?」
呟きが聞こえたのか、ある3人が伸に絡んで来た。
金井了・石塚聡・吉井健治の3人だ。
1年の時から同じクラスのこの3人は、3年も同じクラスに割り振られていた。
この3人のせいもあって、伸は教師たちからは問題児の1人に組み込まれている所がある。
しかし、問題を起こすのは3人で、自分は巻き込まれているだけだと、伸としては文句を言いたいところだ。
「……ったく」
問題児扱いは不愉快だが、この3人とは結構馬が合う。
学生生活が退屈せずに済んでいるのは、彼らがいるからという面もあるかもしれない。
そのため、彼らが言うようにあながち悪い気はしないと思った伸は、ため息交じりに小さく呟くしかなかった。
「っ?」
「ヤッホー!」
自分のクラスが分かり、了たち3人と掲示板から離れると、伸は肩を叩かれる。
誰かと思って振り返ると、そこには杉山奈津希が立っていて、伸に向かって軽い口調で挨拶をして来た。
「どうも……」
「よっ!」
振り返った先には柊綾愛も一緒におり、奈津希に続いて挨拶をして来た。
2人に答えるように、伸も軽く挨拶を返した。
「私たちも一緒だね?」
「よろしくね」
「そうだな。こっちもよろしく頼む」
奈津希が言うように、了たちだけでなく2人も同じクラスになった。
そのため、わざわざ挨拶に来てくれたようだ。
2人には、というより、柊家には仕事を回してもらっているため、伸は資金面での心配なく学生生活を送れている。
そのことをありがたく思っているため、「残り1年も」という意味を込めて、伸も言葉を返した。
「3馬鹿もよろしく」
「「「誰が3馬鹿だ!」」」
伸との挨拶を済ませた奈津希は、ついでと言わんばかりに了たちにも話しかける。
その口の悪い挨拶に、了たちは口をそろえてツッコミを入れた。
「相変わらず、口の悪いチビッ子だな……」
「チビッ子呼ばわりとは失礼な……」
高校の3年生ともなれば、ほぼ成人の肉体と言っても良い。
それなのに、奈津希は1年の時からそんなに成長していない様子に見える。
実際の所は、奈津希もちゃんと成長はしている。
しかし、他の者たちがそれ以上に成長しているため、差が縮まっていないため、チビッ子呼びになってしまうのだろう。
了のチビッ子呼びに、奈津希は立腹したように頬を膨らませた。
「…………」
了と奈津希のやり取りを、伸は密かに見つめる。
なんだかんだ言っても、了はちょこちょこ奈津希にちょっかいをかけている。
恐らく、毎年対抗戦の代表枠を争っているため、ライバルとして認識しているのだろう。
そう考えていたのだが、最近では何だか違う感情も入っているのではないかと思えてしまう。
それを了本人に言ったら、ややこしいことになりそうなので言わないが、どうにか上手くいって欲しい。
結局の所、成り行きを見守るしかないため、伸は2人のやり取りを黙って診ているしかなかった。
「それにしても、今年は1年に有名家の所縁のある子が入ってきたらしいね?」
「そうなのか?」
始業式が終わり、伸はいつものように綾愛たちと柊家が懇意にしている料亭で落ち合う。
そこで、週末におこなう魔物討伐のバイトの打ち合わせをした後、奈津希が雑談を始めた。
この大和皇国は八つの地域に分けられており、官林地区なら鷹藤家、八郷地区なら柊家と、それぞれの地域に有名な魔術師一族が存在している。
基本的に、どこの地域の魔術師学園でもカリキュラムは変わらない。
そのため、一番近い地域の魔術師学園に通うのが普通なのだが、去年の鷹藤家次男の道康同様、有名家の子息・子女が八郷学園に入ってきたということだ。
「森川家の次男と、上長家の三女だったかな?」
「台藤の森川はともかく、三矢野の上長が何で?」
森川家は台藤地区で有名な一族だ。
この八郷地区の北に位置する地区で、そこまで離れてはいない。
慣れ親しんだ環境を変えて学ばせるという考え方から、隣の地区の学園に通わせるという考え方も出来なくはないことから、森川家の人間が八郷学園に通うということは分からなくはない。
しかし、上長家は三矢野地区で有名な一族だ。
八郷地区からは一番離れた地域で有名な一族の子女が、どうして八郷学園に通うことを選んだのかよく分からないため、伸は疑問をそのまま口にした。
「たぶんだけど、綾愛ちゃんのお陰かもね」
「……あぁ、そうか……」
全国の魔術学園の対抗戦で2連覇中の綾愛。
当然、どこの有名魔術師一族も注目している存在だ。
少しでも近くで、その強さの秘訣を知ることができればと、同じ八郷学園に通わせたのではないかと、奈津希は考えたようだ。
伸も同じ考えに至ったのか、奈津希が全てを説明する前に納得するように頷いた。
「さすがに、鷹藤家のような考えではないと思うけど……」
奈津希の言う鷹藤家のようなとは、次男の道康が、綾愛と恋人関係になって、今人気急上昇中の柊家に入り込むという考えで八郷学園に入学した去年の出来事を示している。
しかし、綾愛は伸と婚約していると、綾愛の父で柊家当主の俊夫が大々的に発表している。
その間に割って入らせようなんて、いくら何でもそんな品の無いことをやるような家があるとは思えない。
そのため、綾愛を篭絡しようと考えて入学したのではないだろうと、奈津希は呟いた。
「森川家はともかく、上長家の方は女子だしね……」
鷹藤家のような考えで八郷学園に通わせたのだとしても、上長家の方は女子だ。
同性で篭絡しようなんて可能性として低い。
もしもそうだとしても、先程言ったように婚約者がいる人間に手を出そうなんて、性別の前に人としての品格が疑われるようなことはしないだろう。
「まさか!? 新田君狙いかも……」
「っ!?」
綾愛狙いでないとしたらと考えていた奈津希は、ふと思ったことを口にする。
その言葉を聞いて、綾愛が過敏に反応し、目を見開いた。
「…………」
「えっ?」
綾愛に手を出したら、柊家がただでは済まさないかもしれないが、伸だったらどうなるか。
同じように品格を疑われるかもしれないが、柊家の矛先は手を出した男側に目が行くかもしれない。
そうやって、柊家の評判を少しでも落とそうとしているのではないかとい考えだ。
そのことに気付いた綾愛は、見開いた目で伸を見た。
「な、なに?」
「……何でもない」
自分たちの婚約関係は、伸が他の家からちょっかいをかけられないようにするためだ。
綾愛自身はこのまま婚約状態でいたいところだが、伸に好きな人ができた場合、その隠れ蓑は必要なくなってしまう。
そうならないように、他の女に言い寄られてもなびかないように言いたいところだが、伸の気持ちを縛り付けるようなことになると思い、綾愛はその言葉を飲み込んだ。
「まぁ、普通の先輩後輩として関われば問題ないだろ?」
「そうね」
「……うん」
同じ学園に通うと言っても、3年と1年では部活以外ではあまり関わることはないため、伸は深く考えないように決めた。
他の地区の子息子女が入学してきたため、ちょっと考えすぎだったかもしれない。
そう考えた奈津希も、伸の考えに賛成した。
しかし、綾愛だけはどこかスッキリしていないのか、少しの間をおいて頷いたのだった。
4月。
無事に進級した伸は、残り1年の学園生活になる。
今年もクラス割が掲示板に張り出され、3年生たちがその周りに集まっている。
その人垣をすり抜け、伸は自分がどのクラスなのかを探す。
「……あった」
探し始めてから少しして、伸は3年C組の中に自分の名前を見つけた。
そして、同じクラスには他に誰がいるのかを目で確認をした。
「今年も同じクラスか……」
同じクラスの中に知っている名前があるのを発見し、伸は思わず呟いた。
「何だよ嫌そうな言い方して!」
「そうそう!」
「本当は嬉しいだろ?」
呟きが聞こえたのか、ある3人が伸に絡んで来た。
金井了・石塚聡・吉井健治の3人だ。
1年の時から同じクラスのこの3人は、3年も同じクラスに割り振られていた。
この3人のせいもあって、伸は教師たちからは問題児の1人に組み込まれている所がある。
しかし、問題を起こすのは3人で、自分は巻き込まれているだけだと、伸としては文句を言いたいところだ。
「……ったく」
問題児扱いは不愉快だが、この3人とは結構馬が合う。
学生生活が退屈せずに済んでいるのは、彼らがいるからという面もあるかもしれない。
そのため、彼らが言うようにあながち悪い気はしないと思った伸は、ため息交じりに小さく呟くしかなかった。
「っ?」
「ヤッホー!」
自分のクラスが分かり、了たち3人と掲示板から離れると、伸は肩を叩かれる。
誰かと思って振り返ると、そこには杉山奈津希が立っていて、伸に向かって軽い口調で挨拶をして来た。
「どうも……」
「よっ!」
振り返った先には柊綾愛も一緒におり、奈津希に続いて挨拶をして来た。
2人に答えるように、伸も軽く挨拶を返した。
「私たちも一緒だね?」
「よろしくね」
「そうだな。こっちもよろしく頼む」
奈津希が言うように、了たちだけでなく2人も同じクラスになった。
そのため、わざわざ挨拶に来てくれたようだ。
2人には、というより、柊家には仕事を回してもらっているため、伸は資金面での心配なく学生生活を送れている。
そのことをありがたく思っているため、「残り1年も」という意味を込めて、伸も言葉を返した。
「3馬鹿もよろしく」
「「「誰が3馬鹿だ!」」」
伸との挨拶を済ませた奈津希は、ついでと言わんばかりに了たちにも話しかける。
その口の悪い挨拶に、了たちは口をそろえてツッコミを入れた。
「相変わらず、口の悪いチビッ子だな……」
「チビッ子呼ばわりとは失礼な……」
高校の3年生ともなれば、ほぼ成人の肉体と言っても良い。
それなのに、奈津希は1年の時からそんなに成長していない様子に見える。
実際の所は、奈津希もちゃんと成長はしている。
しかし、他の者たちがそれ以上に成長しているため、差が縮まっていないため、チビッ子呼びになってしまうのだろう。
了のチビッ子呼びに、奈津希は立腹したように頬を膨らませた。
「…………」
了と奈津希のやり取りを、伸は密かに見つめる。
なんだかんだ言っても、了はちょこちょこ奈津希にちょっかいをかけている。
恐らく、毎年対抗戦の代表枠を争っているため、ライバルとして認識しているのだろう。
そう考えていたのだが、最近では何だか違う感情も入っているのではないかと思えてしまう。
それを了本人に言ったら、ややこしいことになりそうなので言わないが、どうにか上手くいって欲しい。
結局の所、成り行きを見守るしかないため、伸は2人のやり取りを黙って診ているしかなかった。
「それにしても、今年は1年に有名家の所縁のある子が入ってきたらしいね?」
「そうなのか?」
始業式が終わり、伸はいつものように綾愛たちと柊家が懇意にしている料亭で落ち合う。
そこで、週末におこなう魔物討伐のバイトの打ち合わせをした後、奈津希が雑談を始めた。
この大和皇国は八つの地域に分けられており、官林地区なら鷹藤家、八郷地区なら柊家と、それぞれの地域に有名な魔術師一族が存在している。
基本的に、どこの地域の魔術師学園でもカリキュラムは変わらない。
そのため、一番近い地域の魔術師学園に通うのが普通なのだが、去年の鷹藤家次男の道康同様、有名家の子息・子女が八郷学園に入ってきたということだ。
「森川家の次男と、上長家の三女だったかな?」
「台藤の森川はともかく、三矢野の上長が何で?」
森川家は台藤地区で有名な一族だ。
この八郷地区の北に位置する地区で、そこまで離れてはいない。
慣れ親しんだ環境を変えて学ばせるという考え方から、隣の地区の学園に通わせるという考え方も出来なくはないことから、森川家の人間が八郷学園に通うということは分からなくはない。
しかし、上長家は三矢野地区で有名な一族だ。
八郷地区からは一番離れた地域で有名な一族の子女が、どうして八郷学園に通うことを選んだのかよく分からないため、伸は疑問をそのまま口にした。
「たぶんだけど、綾愛ちゃんのお陰かもね」
「……あぁ、そうか……」
全国の魔術学園の対抗戦で2連覇中の綾愛。
当然、どこの有名魔術師一族も注目している存在だ。
少しでも近くで、その強さの秘訣を知ることができればと、同じ八郷学園に通わせたのではないかと、奈津希は考えたようだ。
伸も同じ考えに至ったのか、奈津希が全てを説明する前に納得するように頷いた。
「さすがに、鷹藤家のような考えではないと思うけど……」
奈津希の言う鷹藤家のようなとは、次男の道康が、綾愛と恋人関係になって、今人気急上昇中の柊家に入り込むという考えで八郷学園に入学した去年の出来事を示している。
しかし、綾愛は伸と婚約していると、綾愛の父で柊家当主の俊夫が大々的に発表している。
その間に割って入らせようなんて、いくら何でもそんな品の無いことをやるような家があるとは思えない。
そのため、綾愛を篭絡しようと考えて入学したのではないだろうと、奈津希は呟いた。
「森川家はともかく、上長家の方は女子だしね……」
鷹藤家のような考えで八郷学園に通わせたのだとしても、上長家の方は女子だ。
同性で篭絡しようなんて可能性として低い。
もしもそうだとしても、先程言ったように婚約者がいる人間に手を出そうなんて、性別の前に人としての品格が疑われるようなことはしないだろう。
「まさか!? 新田君狙いかも……」
「っ!?」
綾愛狙いでないとしたらと考えていた奈津希は、ふと思ったことを口にする。
その言葉を聞いて、綾愛が過敏に反応し、目を見開いた。
「…………」
「えっ?」
綾愛に手を出したら、柊家がただでは済まさないかもしれないが、伸だったらどうなるか。
同じように品格を疑われるかもしれないが、柊家の矛先は手を出した男側に目が行くかもしれない。
そうやって、柊家の評判を少しでも落とそうとしているのではないかとい考えだ。
そのことに気付いた綾愛は、見開いた目で伸を見た。
「な、なに?」
「……何でもない」
自分たちの婚約関係は、伸が他の家からちょっかいをかけられないようにするためだ。
綾愛自身はこのまま婚約状態でいたいところだが、伸に好きな人ができた場合、その隠れ蓑は必要なくなってしまう。
そうならないように、他の女に言い寄られてもなびかないように言いたいところだが、伸の気持ちを縛り付けるようなことになると思い、綾愛はその言葉を飲み込んだ。
「まぁ、普通の先輩後輩として関われば問題ないだろ?」
「そうね」
「……うん」
同じ学園に通うと言っても、3年と1年では部活以外ではあまり関わることはないため、伸は深く考えないように決めた。
他の地区の子息子女が入学してきたため、ちょっと考えすぎだったかもしれない。
そう考えた奈津希も、伸の考えに賛成した。
しかし、綾愛だけはどこかスッキリしていないのか、少しの間をおいて頷いたのだった。
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