主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
176 / 281
3学年 前期

第175話

しおりを挟む
「…………」

「「「…………」」」

 時間は遡り、魔人が潜んでいるといわれている島にある城の中では、重苦しい空気が流れていた。
 会議室の上座に座る少年、バルタサールが無言で不機嫌そうな表情をしているのが原因だ。
 部屋にいる魔人たちは、その重苦しさから何も発言することも出来ず、バルタサールが人差し指で机をトントンと叩いている音だけ響いている。

「……なぁ? テレンシオ、カサンドラ」

「「は、はい!」」

 しばらくの沈黙の時間が流れ、机を叩く指を止めたバルタサールは、下座に座っている2人の魔人に話しかける。
 突然声をかけられたからか、2人共言葉に詰まりつつ返事をした。

「オレガリオの報告だと、ナタニエルまで死んだそうだ」

「……そのようですね」

「……遺憾です」

 バルタサールは、伸たち大和皇国の人間と同じような見た目をした自身の側に立つ男、オレガリオを指差しつつ話す。
 ナタニエルが死んだことは、オレガリオによってこの場にいる全員に報告されていた。
 そのことによってバルタサールが不機嫌になっているのだが、あらためてそのことに触れて来た。
 それに対し、話しかけられたテレンシオとカサンドラは、バルタサールの機嫌を損なわないよう、当たり障りのない答えを返すしかなかった。

「エグリア共和国やスドイフ連合国では思い通り行くのに、何で大和皇国はそうならないんだ?」

「「も、申し訳ありません」」

 2人からすると、「そんなことを言われても……」と答えたいところだ。
 しかし、そんな事を言えばバルタサールの逆鱗に触れるかもしれない。
 テレンシオとカサンドラは他の国での破壊活動を命じられており、その指示通りに結果を出している。
 それがエグリア共和国とスドイフ連合国だ。
 結果を出しているのにこのような重苦しい空気なんて、はっきり言って迷惑そのものでしかない。
 そのため、2人はこのような状況を生みだしたナタニエルに対し、罵詈雑言を叫びたいところだが、その張本人は死んでいるため、自分たちが悪い訳でもないのに謝罪の言葉を返すしかできなかった。

「いや、謝ってないで理由を答えろよ!」

「「は、はい!」」

 当たり障りのない言葉ばかり返って来ることがバルタサールの勘に障ったらしく、若干語気が強まる。
 それと共にバルタサールから魔力が洩れ、それに当てられた2人は更に委縮することになった。

「…………」「…………」

 どのように答えようと、バルタサールの機嫌が直る訳ではないことは明白。
 そのため、テレンシオとカサンドラは視線を合わせ、バルタサールの言葉にどちらが答えるかの権利を譲り合う。

「恐らくですが……」

 視線による譲り合いも、時間が経てば更にバルタサールの機嫌を損なうこのになる。
 そのことが分かっているため、テレンシオは自分が返答することを決意した。

「ナタニエルは、まず鷹藤家のみを脅威の対象として動いていました。しかし、柊家というもう一つの脅威がいたことで、計算が狂い始めました」

 テレンシオは、これまでの経緯から自分の考えを述べ始めた。
 大和皇国の管轄であるナタニエルは、これまでの情報から鷹藤家のみを警戒・標的として行動していた。
 そして、大和皇国の実力者が集まる年末の対抗戦というイベントに目を付けたナタニエルは、配下であるコウモリ魔人のカルミネ、チーター魔人のティベリオを送り込み、返り討ちに遭うことになった。
 その時に、大和皇国には鷹藤家だけでなく、柊家という一族も脅威だと認識したのだろう。

「その柊家が、まさか鷹藤家以上の脅威だったとは思わず、ナタニエルの奴は返り討ちに遭ったのかと……」

 脅威と認めつつも、ナタニエルの中ではあくまでも鷹藤家に次ぐ存在というくらいの認識だったのかもしれない。
 鷹藤康義と組んだ柊俊夫により返り討ちに遭ったということは、俊夫が康義と同等の実力を有しているということ。
 その可能性を考慮していなかった浅慮が、ナタニエルが再度失敗する原因になったのだろう。

「……っで? どうする?」

 これまでを総合的に判断すると、バルタサールとしてもテレンシオの考えに概ね同意する。
 ならば、大和皇国に打撃を与えるにはどうするべきかを、バルタサールはテレンシオに問いかけた。

「お、俺が向かいます! 鷹藤康義と柊俊夫を必ず殺してきます!」

「い、いえ! 私が!!」

 この状況で康義と俊夫を撃つことができれば、バルタサールへの心証が良くなり、魔人軍に置いての地位でトップに立てる。
 そんな目論見を密かにしつつ、テレンシオとカサンドラは自分が康義と俊夫の殺害に名乗りを上げた。

「……2人だ。お前ら2人で行け」

「「……えっ!?」」

 立候補する2人を眺めたバルタサールは、少し間を空けた後呟く。
 予想外のその呟きに、テレンシオとカサンドラの2人は思わず声を漏らした。

「んっ? 何だその顔は?」

「いや……」「いくら何でも……」

 エグリア共和国とスドイフ連合国への侵攻のために、テレンシオとカサンドラは多くの魔人を配下にしている。
 ナタニエルと同等、いや、それ以上の戦力と言っても良い。
 いくら脅威だといっても、そんな自分たちが揃って赴くのは過剰戦力でしかない。
 そのことをバルタサールに指摘できる訳もなく、2人は言い淀んだ。

「……だから?」

「いえ!」「我々で当たらせていただきます!」

 有無は許さないと言わんばかりのバルタサールの言葉に、テレンシオとカサンドラはが反論することができる訳もなく、すぐさまその指示を了承した。

「オレガリオ! 2人を大和へ送れ」

「了解しました!」

 テレンシオとカサンドラの言葉を受けて、バルタサールはオレガリオに指示を出す。
 他の魔人軍の幹部たちよりも戦闘面において劣るオレガリオだが、彼がバルタサールに重宝されている理由は転移魔術が使用できるからだ。
 それを理解しているけオレガリオは、指示に従い魔力を練り始めた。

「「行ってまいります!」」

「あぁ……」

 オレガリオが転移魔術の準備が整った合図を送ると、テレンシオとカサンドラはすぐに側に寄り、オレガリオの左右の肩にそれぞれ手をかける。
 そして、2人がバルタサールに出発の声をかけると、オレガリオは転移の魔術を発動させた。

「…………」

 3人がいなくなった会議室で、バルタサールはひとり考え込む。
 いくらオレガリオが転移魔術を使用できるといっても、ナタニエルと鷹藤・柊の戦闘を間近で見ることはできない。
 つまり、戦闘の一部始終が分かっている状況ではないということだが、ずっと引っかかっていることがある。
 ナタニエルは、本当に康義と俊夫の2人の手によって倒されたのだろうかということだ。
 たしかに、康義と俊夫の実力はかなりのものだ。
 だからと言って、ナタニエルを倒せるほどだろうか。
 その僅かな違和感が、バルタサールの中でずっと残ったままだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...