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パーティ編 その10
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彼の優しさに触れ、加えてダンスができるという夢のような時間は、瞬く間に過ぎ去った。
音楽が徐々に徐々に止んでいき、それに応じて私達の足も止まっていく。
目を瞑ればすぐに光景が蘇り、その余韻に浸る事が出来る。
断言しよう。
照明の光を受け眩しく輝く彼は、この場にいる誰よりも美しかった。
令嬢、平民問わず女性は決して手の届かぬ存在である王子様に、大層夢中になってしまった事だろう。
それは私とて例外ではない。
私も、彼女達も、好きになってしまえば、叶わぬ恋に溺れるだけだ。…何故ならば彼に相応しい人物は、既にこの世に存在しているのだから。
「…確かに殿下との踊りは素敵だったけど…これでさっきの出来事がなくなるとでも思ってるのかしら」
夢のような時間が終われば、待っているのは耳を塞ぎたくなる程の痛々しい現実だ。
リティシアがしてきた事を考えれば当然だが、ちょっとやそっとで彼女の悪いイメージが消えることはない事を改めて痛感する。
「…図々しい。あの女、まだ殿下の婚約者なのね」
また他の令嬢がポツリ、そして他の令嬢も釣られてリティシアへの不満を口にしていく。
私がアレクシスに恋をしているようだと呟いた令嬢は、皆から冷たい視線を受け、黙りこくっていた。
アレクシスを横目で見れば、彼は普段の姿からは到底考えられないほどの恐ろしい表情で令嬢達を見つめていた。
そして恐らく私を庇おうとしたのであろう彼は、怒りに任せて口を開く。その視界と言葉を、私が即座に遮る。
「いい?これ以上問題を広げないで。貴方が庇ったところで噂なんて消えないわ。彼らが言っている事は事実よ。適当に言わせておけばいいの」
「そんな…そのままで良い訳ないだろ?リティシア嬢の名誉に関わることなんだぞ」
「…私は誇り高きブロンド公爵の娘。家門を背負ってる私が、余計な問題を起こして更に評判を悪くする訳にはいかない。貴方一人でどうにかなる問題じゃないの」
お願い、納得して。
悪役令嬢を庇う王子として話題になり、アレクシスの評判を落とすわけにはいかないから。
そんな怖い顔で怒鳴ったりしたら、間違いなく彼が嫌われてしまう。
今何を言ってもきっと誰にも届かない。でもそれでいいの。
私はこの悪い評判を維持して、婚約破棄をするだけなのだから。…できれば、死なずに。
彼の心底悲しそうな表情を見ても、私の気持ちは揺るがない。
全ては貴方を、守る為。
私に未練を一切残さず、主人公と幸せになってほしい。
私が強く睨みつけると、アレクシスは表情を曇らせ、寂しげに項垂れる。
私はそんな彼の横をすり抜け、城へと繋がる扉を勢いよく開いた。
城の外へ出なかった理由は、先程休憩室に残した令嬢の様子が気になったからだ。
部屋を覗くも、誰もいない。近くの使用人に問えば、私が来た道とは違う通路からパーティ会場へと戻ったらしかった。
会場へ戻ったという事は、ある程度ドレスの染みが落ちたのだろう。良かった。悪役にも少しは良いところがなくっちゃね。
…でもこれからはなるべくあの子に話しかけないようにしなければ…。
私と仲良くしていたらあの子の社交界での立場が確実に悪くなるだろうからね。
私は誰もいない休憩室のソファに腰を下ろし、深く、深く息を吐き出す。よし、今の状況を改めて整理してみよう。
とりあえず、リティシアの評判は充分すぎる程に理解が出来た。
このまま放っておけば社交界での評判は最悪のままだろう。例えあの令嬢が私を庇ったとしても、たった一人だけで状況が変わるわけもない。結局リティシアは嫌われ者の悪役令嬢のままだ。
本来、王族はこれ程社交界で嫌われている女を皇后に迎えないのだが、アレクシスは例外である。
彼自身が頑固なのと、王が決めた事だから、など様々な理由を挙げてきたが、これは間違いないだろう。
そもそも婚約破棄をするつもりならばパーティになど誘わずにとっくに私にその話を持ちかけているはずだ。
となればやはり社交界を理由にするしかない。
無視できない程評判が悪くなり、王室の威厳に関わる程になれば、例えアレクシスが拒否をしても、王が破棄させる事だろう。
結局一番現実的なのはこれだが、一番難関とも言える。何故なら派手に悪役令嬢をやってしまうと、私が殺される可能性が高くなるからだ。
…ここまでは今まで何度も考えていた事だが、問題はアレクシスが私を庇ってしまう事である。
心優しい王子の事だ。リティシアの過去をなんとなく知っていても、婚約者を庇おうとしてしまうのだろう。
でもこれは非常に困る。私が悪役を演じれば演じる程彼は悪役を守る王子になってしまう。
彼の立場が、非常に危うくなってしまう。
かと言って今すぐに無理矢理婚約破棄をしてしまったら、王が他の誰かと婚約させかねない。
アレクシスの運命の相手は主人公のみだ。
私は絶対に…彼女にアレクシスを譲らなければならない。
それまではどうしてもアレクシスには私の婚約者でいてもらわなければいけないのだ。
…彼の立場が危うくなるかもしれないこの問題だけは早急に解決しなければならない。
そして最悪の場合も考えておかなければいけない。
私が史上最悪の悪役令嬢のレッテルを貼られ、処刑されそうになった時、自分を守る術…魔法を手に入れておくべきだ。
これに関しては、後で家に帰って調べてみよう。私が見た本に大したことは書いてなかったけれど、まだ見ていない本は山程あるしね。
「あの…リティシア様、バルコニーへ出られてはいかがですか?星がとても綺麗ですよ」
その言葉に顔をあげると、いつの間にか部屋の扉が開かれており、私の顔色を窺い引きつった笑みを浮かべる使用人の姿が目に入る。
そしてその背後からドレスが垣間見え、恐らく休憩室に来た令嬢であろうと推測をする。
…なるほど。
私は全てを理解し、立ち上がる。
「…分かったわ」
ここまで来ると悲しいわね。いくら悪役令嬢とは言え…王子の婚約者なのに城のどこにも居場所がないなんて。
「ありがとう。リティシア様が怖くて中に入れなかったの…」
「お礼は結構ですよ。さぁ、中へお入りください。」
そんな二人の会話が背後から鮮明に聞こえてきて、私は早くこの場を去りたい一心で足取りを早めた。
…リティシアの自業自得だと言うのに、どうしてこんなに胸が痛むの…。
音楽が徐々に徐々に止んでいき、それに応じて私達の足も止まっていく。
目を瞑ればすぐに光景が蘇り、その余韻に浸る事が出来る。
断言しよう。
照明の光を受け眩しく輝く彼は、この場にいる誰よりも美しかった。
令嬢、平民問わず女性は決して手の届かぬ存在である王子様に、大層夢中になってしまった事だろう。
それは私とて例外ではない。
私も、彼女達も、好きになってしまえば、叶わぬ恋に溺れるだけだ。…何故ならば彼に相応しい人物は、既にこの世に存在しているのだから。
「…確かに殿下との踊りは素敵だったけど…これでさっきの出来事がなくなるとでも思ってるのかしら」
夢のような時間が終われば、待っているのは耳を塞ぎたくなる程の痛々しい現実だ。
リティシアがしてきた事を考えれば当然だが、ちょっとやそっとで彼女の悪いイメージが消えることはない事を改めて痛感する。
「…図々しい。あの女、まだ殿下の婚約者なのね」
また他の令嬢がポツリ、そして他の令嬢も釣られてリティシアへの不満を口にしていく。
私がアレクシスに恋をしているようだと呟いた令嬢は、皆から冷たい視線を受け、黙りこくっていた。
アレクシスを横目で見れば、彼は普段の姿からは到底考えられないほどの恐ろしい表情で令嬢達を見つめていた。
そして恐らく私を庇おうとしたのであろう彼は、怒りに任せて口を開く。その視界と言葉を、私が即座に遮る。
「いい?これ以上問題を広げないで。貴方が庇ったところで噂なんて消えないわ。彼らが言っている事は事実よ。適当に言わせておけばいいの」
「そんな…そのままで良い訳ないだろ?リティシア嬢の名誉に関わることなんだぞ」
「…私は誇り高きブロンド公爵の娘。家門を背負ってる私が、余計な問題を起こして更に評判を悪くする訳にはいかない。貴方一人でどうにかなる問題じゃないの」
お願い、納得して。
悪役令嬢を庇う王子として話題になり、アレクシスの評判を落とすわけにはいかないから。
そんな怖い顔で怒鳴ったりしたら、間違いなく彼が嫌われてしまう。
今何を言ってもきっと誰にも届かない。でもそれでいいの。
私はこの悪い評判を維持して、婚約破棄をするだけなのだから。…できれば、死なずに。
彼の心底悲しそうな表情を見ても、私の気持ちは揺るがない。
全ては貴方を、守る為。
私に未練を一切残さず、主人公と幸せになってほしい。
私が強く睨みつけると、アレクシスは表情を曇らせ、寂しげに項垂れる。
私はそんな彼の横をすり抜け、城へと繋がる扉を勢いよく開いた。
城の外へ出なかった理由は、先程休憩室に残した令嬢の様子が気になったからだ。
部屋を覗くも、誰もいない。近くの使用人に問えば、私が来た道とは違う通路からパーティ会場へと戻ったらしかった。
会場へ戻ったという事は、ある程度ドレスの染みが落ちたのだろう。良かった。悪役にも少しは良いところがなくっちゃね。
…でもこれからはなるべくあの子に話しかけないようにしなければ…。
私と仲良くしていたらあの子の社交界での立場が確実に悪くなるだろうからね。
私は誰もいない休憩室のソファに腰を下ろし、深く、深く息を吐き出す。よし、今の状況を改めて整理してみよう。
とりあえず、リティシアの評判は充分すぎる程に理解が出来た。
このまま放っておけば社交界での評判は最悪のままだろう。例えあの令嬢が私を庇ったとしても、たった一人だけで状況が変わるわけもない。結局リティシアは嫌われ者の悪役令嬢のままだ。
本来、王族はこれ程社交界で嫌われている女を皇后に迎えないのだが、アレクシスは例外である。
彼自身が頑固なのと、王が決めた事だから、など様々な理由を挙げてきたが、これは間違いないだろう。
そもそも婚約破棄をするつもりならばパーティになど誘わずにとっくに私にその話を持ちかけているはずだ。
となればやはり社交界を理由にするしかない。
無視できない程評判が悪くなり、王室の威厳に関わる程になれば、例えアレクシスが拒否をしても、王が破棄させる事だろう。
結局一番現実的なのはこれだが、一番難関とも言える。何故なら派手に悪役令嬢をやってしまうと、私が殺される可能性が高くなるからだ。
…ここまでは今まで何度も考えていた事だが、問題はアレクシスが私を庇ってしまう事である。
心優しい王子の事だ。リティシアの過去をなんとなく知っていても、婚約者を庇おうとしてしまうのだろう。
でもこれは非常に困る。私が悪役を演じれば演じる程彼は悪役を守る王子になってしまう。
彼の立場が、非常に危うくなってしまう。
かと言って今すぐに無理矢理婚約破棄をしてしまったら、王が他の誰かと婚約させかねない。
アレクシスの運命の相手は主人公のみだ。
私は絶対に…彼女にアレクシスを譲らなければならない。
それまではどうしてもアレクシスには私の婚約者でいてもらわなければいけないのだ。
…彼の立場が危うくなるかもしれないこの問題だけは早急に解決しなければならない。
そして最悪の場合も考えておかなければいけない。
私が史上最悪の悪役令嬢のレッテルを貼られ、処刑されそうになった時、自分を守る術…魔法を手に入れておくべきだ。
これに関しては、後で家に帰って調べてみよう。私が見た本に大したことは書いてなかったけれど、まだ見ていない本は山程あるしね。
「あの…リティシア様、バルコニーへ出られてはいかがですか?星がとても綺麗ですよ」
その言葉に顔をあげると、いつの間にか部屋の扉が開かれており、私の顔色を窺い引きつった笑みを浮かべる使用人の姿が目に入る。
そしてその背後からドレスが垣間見え、恐らく休憩室に来た令嬢であろうと推測をする。
…なるほど。
私は全てを理解し、立ち上がる。
「…分かったわ」
ここまで来ると悲しいわね。いくら悪役令嬢とは言え…王子の婚約者なのに城のどこにも居場所がないなんて。
「ありがとう。リティシア様が怖くて中に入れなかったの…」
「お礼は結構ですよ。さぁ、中へお入りください。」
そんな二人の会話が背後から鮮明に聞こえてきて、私は早くこの場を去りたい一心で足取りを早めた。
…リティシアの自業自得だと言うのに、どうしてこんなに胸が痛むの…。
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