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尊敬
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町を通り抜け、馬車を降りると現れた豪奢な城に、一度来ているにも関わらず眠気などはどこかへ吹き飛ぶほどに、圧倒されてしまう。
こんなものが現実に存在していて、更にこの城に住む王子と私が婚約しているだなんて未だに信じ難いことよね。
でも残念な事に悪役令嬢に残された道は破滅のみ。私は王子の婚約者の公爵令嬢という状況にあぐらをかいて座る事はできない。常にこの先を考えるのよ。
殺されない程度の悪役令嬢になり、アレクとの関係はすっぱり終わらせる。それがお互いの為にも一番最適な道だからね。
彼と歩きながら城の中を改めて観察する。
壁や床に使われている一つ一つの素材が綺麗に磨かれいかにも王宮といった様子だ。安い給料でこき使われているであろう使用人達の努力が見て取れる。
王様もたまには自分で働きなさいよ。アレクは仕事の合間に自分で曇った窓を拭くほど働き者なのよ。…いや、アレクが異常なだけか。本当に彼は王族らしくないのよね。
自分の立場を利用して威張り散らす輩は大嫌いだけど…彼は違うと断言が出来る。私は貴族の中では最も高い公爵の娘だけど、彼を見習わなくちゃね。
「リティシア、少し短いドレスにしたんだな。よく似合ってるよ」
彼は歩きながらふとそんな事を口にする。私はその点に気づいてくれた事を密かに喜びながらも素っ気ない態度をとる。
「当たり前よ。私に似合わないドレスなんてないわ。」
でもこれは本心でもある。リティシアという圧倒的美貌の持ち主にドレスを着せれば、似合わないものなんてないように思える。
…余程変なドレスでなければね。
「確かに。リティシアはなんでも着こなしそうだよな。」
否定せずに納得してしまう王子に呆れながらも相変わらず優しいなと感心する。ここまで人を受容できるってなかなかないわよね。
身分に関わらず皆が彼のようになれば世界は平和なのにね。…そうもいかないのがこの世の中なんだけど。
そしてパーティの際は使用人達が忙しくこちらに構う暇がなかったらしいのだが、普段は余裕があるらしく、歩く度に不思議な事が起こった。
すれ違う全ての使用人がアレクに気づくとすぐさまお辞儀をし始めたのである。
彼はさも当然というようにその一つ一つに丁寧に対応していた。いちいち面倒くさいはずなのにそんな素振りは一切見せない。
彼に聞くと、そんなのはやらなくていいと使用人に伝えても殿下への感謝を伝える機会がないからどうしてもやらせてほしいと言って聞かないらしい。…本当に心から尊敬されているのね。この人はその自覚があるのかしら。
私がじっと見つめている事に気づき「どうした?」と声をかけてくるが、「別に。話しかけないで」と腕を組み答える。
本当に話しかけないでほしい。貴方への想いを…いつか口にしてしまいそうだから。
そして暫く歩くととある部屋の前でアレクシスが立ち止まる。
「そういえば、手紙に書いてあったけど俺に教えてもらいたい事ってなんだ?もしかしたら聞かれたくない事かもしれないと思って奥の方の部屋を用意したんだけど、ここでもいいか?」
なるほど。だから割と奥の部屋まで歩いていったのね。確かに聞かれてほしくない話だから彼の何気ない配慮は私にとっては最高であったと言える。
流石はアレク。何も言わなくても分かってるわね。
「えぇ。ここでいいわ。入るわよ」
私は彼を押しのけると扉を無造作に開く。高貴なお城の扉をこんな風に開いたのよ。さぁ、注意しなさい。嫌がりなさい。
「…なるほど。ここまで強く開けても壊れないんだな。俺もこれからこれくらいの勢いで開こうかな…」
感心した様に見つめる彼に思わず私はぎょっとする。
え、やめなさいよ。絶対に。悪役令嬢の悪影響を受けた王子様なんて絶対に駄目だわ。なんて言おうかしら…。
少し考えた後、部屋に入り、私は呟く。
「ダメよ。私にしかこれくらい強く扉を開く事は許されていないの。」
これは苦しすぎる言い訳だったかしら…。でもアレクなら納得してくれる…はず。
私が彼を見ると「なんだよそれ」と嬉しそうに笑みを浮かべていた。
やっぱりイケメンが笑うと心に来るものがあるわね。…これ以上見てはいけない。私と彼の間に一定の線を引かなければ。
「好きなだけ笑いなさい。私は帰るわよ」
「あぁ、ごめん。それで俺に教えてもらいたい事って…ん?」
彼はそこで言葉を止めると私の髪を凝視するので、「何よ」と彼の視線の先を追って自身の髪に触れる。硬い何かが私の手に当たった。…バレッタの事?
「さっきは気づかなかったけどそれってもしかして…俺があげたやつだよな?」
えっ、そうなの?私が適当に引き出しから持ってきたやつが?
…もしかしてリティシアの誕生日パーティーの時かしら?どうしよう、これではまるで彼のプレゼントを気に入ってるみたいじゃない。
「…覚えてないわ。ただ引き出しにあったからつけてきただけ」
婚約者から貰ったプレゼントを忘れて婚約者の前でつけているなんていくら貴方でもショックでしょう?こんな女とはすぐに婚約破棄した方がいいわよ。…まぁ今すぐは困るんだけど。
しかし彼はまたもや私の予想に反し「覚えてなくてもいいよ。リティシアによく似合ってるな。やっぱりあげてよかった」とずっと持っていた上着を側の棚に置き、眩しい笑みを向ける。
…アレク、そんなに人に優しくしちゃダメよ。その優しさにつけ込む輩もいるんだからね。
特に悪役令嬢にはその優しい笑顔を向けないで。…笑顔の無駄使いだわ。
こんなものが現実に存在していて、更にこの城に住む王子と私が婚約しているだなんて未だに信じ難いことよね。
でも残念な事に悪役令嬢に残された道は破滅のみ。私は王子の婚約者の公爵令嬢という状況にあぐらをかいて座る事はできない。常にこの先を考えるのよ。
殺されない程度の悪役令嬢になり、アレクとの関係はすっぱり終わらせる。それがお互いの為にも一番最適な道だからね。
彼と歩きながら城の中を改めて観察する。
壁や床に使われている一つ一つの素材が綺麗に磨かれいかにも王宮といった様子だ。安い給料でこき使われているであろう使用人達の努力が見て取れる。
王様もたまには自分で働きなさいよ。アレクは仕事の合間に自分で曇った窓を拭くほど働き者なのよ。…いや、アレクが異常なだけか。本当に彼は王族らしくないのよね。
自分の立場を利用して威張り散らす輩は大嫌いだけど…彼は違うと断言が出来る。私は貴族の中では最も高い公爵の娘だけど、彼を見習わなくちゃね。
「リティシア、少し短いドレスにしたんだな。よく似合ってるよ」
彼は歩きながらふとそんな事を口にする。私はその点に気づいてくれた事を密かに喜びながらも素っ気ない態度をとる。
「当たり前よ。私に似合わないドレスなんてないわ。」
でもこれは本心でもある。リティシアという圧倒的美貌の持ち主にドレスを着せれば、似合わないものなんてないように思える。
…余程変なドレスでなければね。
「確かに。リティシアはなんでも着こなしそうだよな。」
否定せずに納得してしまう王子に呆れながらも相変わらず優しいなと感心する。ここまで人を受容できるってなかなかないわよね。
身分に関わらず皆が彼のようになれば世界は平和なのにね。…そうもいかないのがこの世の中なんだけど。
そしてパーティの際は使用人達が忙しくこちらに構う暇がなかったらしいのだが、普段は余裕があるらしく、歩く度に不思議な事が起こった。
すれ違う全ての使用人がアレクに気づくとすぐさまお辞儀をし始めたのである。
彼はさも当然というようにその一つ一つに丁寧に対応していた。いちいち面倒くさいはずなのにそんな素振りは一切見せない。
彼に聞くと、そんなのはやらなくていいと使用人に伝えても殿下への感謝を伝える機会がないからどうしてもやらせてほしいと言って聞かないらしい。…本当に心から尊敬されているのね。この人はその自覚があるのかしら。
私がじっと見つめている事に気づき「どうした?」と声をかけてくるが、「別に。話しかけないで」と腕を組み答える。
本当に話しかけないでほしい。貴方への想いを…いつか口にしてしまいそうだから。
そして暫く歩くととある部屋の前でアレクシスが立ち止まる。
「そういえば、手紙に書いてあったけど俺に教えてもらいたい事ってなんだ?もしかしたら聞かれたくない事かもしれないと思って奥の方の部屋を用意したんだけど、ここでもいいか?」
なるほど。だから割と奥の部屋まで歩いていったのね。確かに聞かれてほしくない話だから彼の何気ない配慮は私にとっては最高であったと言える。
流石はアレク。何も言わなくても分かってるわね。
「えぇ。ここでいいわ。入るわよ」
私は彼を押しのけると扉を無造作に開く。高貴なお城の扉をこんな風に開いたのよ。さぁ、注意しなさい。嫌がりなさい。
「…なるほど。ここまで強く開けても壊れないんだな。俺もこれからこれくらいの勢いで開こうかな…」
感心した様に見つめる彼に思わず私はぎょっとする。
え、やめなさいよ。絶対に。悪役令嬢の悪影響を受けた王子様なんて絶対に駄目だわ。なんて言おうかしら…。
少し考えた後、部屋に入り、私は呟く。
「ダメよ。私にしかこれくらい強く扉を開く事は許されていないの。」
これは苦しすぎる言い訳だったかしら…。でもアレクなら納得してくれる…はず。
私が彼を見ると「なんだよそれ」と嬉しそうに笑みを浮かべていた。
やっぱりイケメンが笑うと心に来るものがあるわね。…これ以上見てはいけない。私と彼の間に一定の線を引かなければ。
「好きなだけ笑いなさい。私は帰るわよ」
「あぁ、ごめん。それで俺に教えてもらいたい事って…ん?」
彼はそこで言葉を止めると私の髪を凝視するので、「何よ」と彼の視線の先を追って自身の髪に触れる。硬い何かが私の手に当たった。…バレッタの事?
「さっきは気づかなかったけどそれってもしかして…俺があげたやつだよな?」
えっ、そうなの?私が適当に引き出しから持ってきたやつが?
…もしかしてリティシアの誕生日パーティーの時かしら?どうしよう、これではまるで彼のプレゼントを気に入ってるみたいじゃない。
「…覚えてないわ。ただ引き出しにあったからつけてきただけ」
婚約者から貰ったプレゼントを忘れて婚約者の前でつけているなんていくら貴方でもショックでしょう?こんな女とはすぐに婚約破棄した方がいいわよ。…まぁ今すぐは困るんだけど。
しかし彼はまたもや私の予想に反し「覚えてなくてもいいよ。リティシアによく似合ってるな。やっぱりあげてよかった」とずっと持っていた上着を側の棚に置き、眩しい笑みを向ける。
…アレク、そんなに人に優しくしちゃダメよ。その優しさにつけ込む輩もいるんだからね。
特に悪役令嬢にはその優しい笑顔を向けないで。…笑顔の無駄使いだわ。
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