悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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救い

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 アレクシスはこちらの身体を支え、必死に声をかけてくるが、口が上手く動かず、反応が出来ない。


 そしてふわりと身体が浮かぶ感覚。


 勿論、私が空を飛んだわけではない。だが確かに浮かんでいる感覚がある。…彼の力強い両手によって。


 まさかこれは…お姫様抱っこ?


 いや私は姫なんかじゃないから悪役令嬢抱っこね…。ってこれはどうでもいいか。


 目眩くらいで大袈裟よ…まぁ身体に力をいれる事はおろか話す事も出来ないんだけど。


 それにしても、まさかここまでアレクが探しに来てくれるなんてね。助かったわ…。


「リティシア、何があったんだ…?まさか誰かに襲われて…」


 とんでもない勘違いをする彼に必死に否定しようとするが、何しろ身体が動かない為伝えようがない。


「いや、今はそんな事言ってる場合じゃないな。リティシア。俺に抱えられるのは嫌かもしれないけど…少しだけ我慢してくれ!」


 …馬鹿ね、貴方に抱えられて嫌がるような女がいるわけないじゃないの。


 もし意識がハッキリとしていて身体が動かせたならば、私は全力で冷たい発言をしただろう。そして瞬く間に真っ赤に染まっていく表情かおを必死に隠そうとしたはずだ。


 そう考えると、むしろ上手く動かせなくて助かった。…いやアレクシスに迷惑をかけているんだから、良くはないわね。


「あっ、あの花は…!そうか、それで…」


 彼の驚いた様な反応からすると、私が触った花の事を知っているらしい。


 彼はこちらへ来る時に乗ってきたであろう竜に私を抱えたまま上手に飛び乗るとゆっくりと空中に浮かび上がる。


「リティシア。心配するな、お前の事は絶対に助けるからな…!」


 あぁ…結局こうなるのね。


 こうなるのが嫌で…貴方に迷惑をかけたくなくて竜に乗るって言ったのに、まさかどっちも一気に経験するとはね。


 アレクシス…どうしてそんなに私に優しくするの。放っておけば…悪役令嬢わたしはそのまま死んだかもしれないのに。


 …さっきまで神様を凄く恨んでいたけど…これだけは感謝せざるを得ないわね。彼と話す機会、彼と関わる機会をくれた事。例え悪役令嬢という立場で、貴方と結ばれなくても私は幸せだわ…。


 駆けつけてきてくれた嬉しさと、私を全力で助けようとしてくれる優しい彼に私は心の中でそっと微笑む。


 ありがとう、貴方のそういう困っている人を放っておけないところ…私は狂おしいほどに…好きよ。


 彼がなるべくこちらに負担を与えないように暫く飛行を続けていくと、徐々にだが、時間経過と共に身体に力が戻ってきた。「あ…」と声を発してみるとアレクシスは必要以上に反応する。


「リティシア!良かった、声が出せる様になったんだな」


 ようやく動かせる様になった右手を彼の頬に当て…痛くない程度に叩いてやるつもりだったのだが、流石に回復したばかりでは到底無理な話だった。


 結果、ただ震える手で触るだけとなった謎の状況にアレクシスはきょとんと首を傾げている。…可愛いわね。


「ア…レクシス、もう…いいわ。私に触れないで」


 声だけは回復が早かったのでどうにか拒絶の言葉を口にする。私を抱えたまま竜をコントロールするなんてきっと大変だわ。早く降ろしてもらわないと…。


「リティシア」


 彼は真剣な顔でこちらを見つめてくる。その顔がとても…悲しそうに見えたので私は彼を黙って見つめ返す事しかできない。


 …どうして私を…そんなに寂しそうな顔で見つめるの?


 彼は暫くこちらを見つめた後、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「パーティの時も思ったけど…お前は全部自分でどうにかしようとする癖があるよな。それは凄く立派だと思う。だけど…俺はお前の婚約者なんだから、少しは頼ってほしい」


 普段優しく、こちらを受容してばかりの彼から本音が溢れた様に思えた。


 でもさ…そんなに辛そうな顔をする必要はないじゃない。私の決意が鈍る様な事…言わないでよ。


 こっちの気も…知らないで。


 何故か彼を皮肉る様な言葉も、冷たい言葉も、私の口からついて出る事はなかった。言葉が、出てこなかったのである。


 仕方ないわ。そんな顔されたら…何も言えないじゃない。


 よく聞いて。貴方を信用していないわけでもないし、頼れない相手だと思っているわけじゃないの。お願いだから…悲しまないでよ。


 こうやって素直に言えたら…どんなに楽かしらね。


 思わず視線を逸らしたが、私の心は晴れない。彼のあの表情が、頭から離れない。


「…ごめんなさい」


 気づいたら私はそんな言葉を口にしていた。


 すぐに謝るなんて悪役令嬢らしくない。慌てて訂正しようとして顔を上げたのだが、彼があまりにも寂しく微笑むものだから、また言葉に詰まってしまう。


「俺も…ごめん。謝らせたかった訳じゃないんだ」


 なんとも微妙な空気間が私達の間に流れる。だが不思議とそれは…とても心地良いものであった。


 私は訂正をしようとした口を閉じ、彼の頬を両手で軽くパチンと叩く。


 そして私は顔を彼の顔まで極限まで近づけると、驚く彼に意地悪く笑ってみせる。


「本当に…バカね」


 貴方は…どうしようもないくらいに優しい人。こんな私にまで優しくするなんて…本当に馬鹿だわ。
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