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部屋
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その異常な距離感にようやく気づき、急に正気に戻った私は「わぁっ!?」と素っ頓狂な声を上げ、焦った挙げ句思いっきり彼の頬を叩いてしまう。
「痛っ!?」
その声と同時に、彼の叩かれた頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
あっ、凄い勢いで叩いたからほっぺが赤くなっちゃった…。あぁ、ほんとごめんなさい…。
「ご、ごめんなさい…それから……さっきのはなかった事に…」
痛みはその部位に触れる事で和らげる事が出来るらしいが、私を抱えている為それも出来ない。彼は必死に痛みを堪らえようと私から顔を背け、小刻みに震えている。
「あぁ…分かっ…痛い…」
王子を思い切り引ひっ叩ぱたいた私を全く怒ろうとしないどころか、「痛い」と言って私に気を使わせないようにしている。…のだが、相当痛かったらしく、堪えきれずに声に出してしまっていた。
私が悪い。それは認める。だけど必死に痛みを堪えるその様子がなんとも…可愛く思えてしまったのだから、罪な話だ。
思わず私の口から笑い声が溢れ、彼が驚いてこちらを見つめてくる。
「ご、ごめんなさ…あまりにも…痛みを堪える姿がその…可愛くて。さっきのだってそんなに簡単になかった事になんか出来ないのに…貴方はすぐ受け入れるのね」
さっきの出来事…私が急に急接近したことは私自身も驚いたのだから、彼は相当衝撃を受けたはずだ。それを勝手にやっておいてなかった事にしてほしいなんてそれは到底無理な話だろう。
そして申し訳ないと思いながらもひとしきり笑った後に私は本日二度目の急に正気に戻る瞬間を体験する事になる。
あれ、私今なんて言った…?どうしよう、好きとかは言ってないわよね。変な事ばっかり言っちゃった、どう誤魔化そう…?
「リティシア…今…」
「なんの事?私は笑ってなんかいないわよ」
「いや俺はそんな事一言も…」
「何?私に文句でも言うつもり?良いわよ、言ってみなさい。燃やすわよ」
「えぇ、それは嫌だな…」
こちらを訝しげに見つめてくるアレクシスからあからさまに視線を逸らすと、すぐ近くにお城が見えた。
どうやらもう着いたようだ。さっきとは別の意味で助かった。これ以上誤魔化しきれないもの。
アレクシスは暫くこちらを見つめていたものの、そうもしていられず部屋の窓を外から開ける。そしてそこから慣れた様に侵入する姿は傍から見れば完全に泥棒そのものだ。
…まぁ、彼はそんな事、天地がひっくり返ってもするわけないんだけどね。ただそう見えるってだけよ。
ちなみに窓は鍵が元から開いていた訳ではなく、外側から彼が魔法で解除していた。便利な世の中ね。
ようやく降りられると思い、もうすっかり動ける様になった足を上下に揺さぶってみるが一向に降ろされる気配がない。
え、なんで…?私もう動けるのに。こんな場面、誰かに見られたら大変だから暴れてでも降りたいんだけど…。
…それにしても、さっき頬を引っ叩いた上に全力で抵抗されるなんてこれ以上の嫌いアピールはないわよね。
「ちょっと、降ろしなさいよ」
「リティシア…お前な、さっきまで倒れてたんだからな?また倒れたりしたらどうするつもりだ」
「その時はその時よ」
アレクシスは何も言わずにただじっと私の目を美しい瞳で見つめてきたので、また勢いよく視線を逸らす。またさっきの事を思い出したわ…。
そして彼は私を抱えたまま少し歩くと、柔らかくふかふかの何かに私を寝かせる。そして私が何かを発するより早く布団を被せてくる。…頭まで。
「ちょっと…!息が出来ないじゃないの!」
「あぁ、ごめん。つい勢い余っちゃって」
「全く…これだから貴方は…」
私はそこで言葉を止め、周囲を見渡す。部屋に置かれているものは一見質素に見える家具の数々だが、よく観察すればどれも綺麗に手入れされている高級品ばかりだ。
そして私が今寝ているふかふかすぎるこれ…。こんなに温かく包み込んでくれるようなベッドに、私は今まで一度も寝た事がない。私が首を預けているこの枕すらも、首を痛めないよう精巧に設計がなされている。
お城のベッドなのだから当然だという意見もあるだろう。だが流石にただの客人にまでここまでの質のものを提供するとは思えない。となるとつまり…。
「この部屋はまさか貴方の…」
「あぁ。俺の部屋だ。母さんや父さんの部屋を除いて一番寝心地の良いベッドがここにあるから…ここへお前を連れてきたんだ。…嫌だったか?」
いやいやおかしいでしょう、私は他の部屋だって…いや廊下でも十分よ…いや、やっぱりそれは嫌だわ。
「…嫌に決まってるでしょう?それに…客人や使用人達には普通の部屋を与えておいて、自分は高級なベッドで寝ているのね?全く…貴方の考えそうな事だわ」
王族の部屋に置かれている物の全てを足したら一体いくらになるのだろうか。それだけで公爵邸くらいは軽く買えてしまうのではないかと私は思う。
そう。客人や使用人に与える部屋まで一流の高級品を揃えてしまうと、莫大な費用がかかる。いくら王族とはいえそこまでお金を使う訳にはいかない。ある程度の質は保証しつつも、自分達が使う物より劣ってしまうのが普通であろう。
「そうだよな、それはなんか不公平だよなって思って全て同じ物で揃えた事があったんだ」
え、なんですって?使用人や客に王子と同じ部屋を与えようとしたって事?貴方…本当に自分の身分、分かってるの?
「痛っ!?」
その声と同時に、彼の叩かれた頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
あっ、凄い勢いで叩いたからほっぺが赤くなっちゃった…。あぁ、ほんとごめんなさい…。
「ご、ごめんなさい…それから……さっきのはなかった事に…」
痛みはその部位に触れる事で和らげる事が出来るらしいが、私を抱えている為それも出来ない。彼は必死に痛みを堪らえようと私から顔を背け、小刻みに震えている。
「あぁ…分かっ…痛い…」
王子を思い切り引ひっ叩ぱたいた私を全く怒ろうとしないどころか、「痛い」と言って私に気を使わせないようにしている。…のだが、相当痛かったらしく、堪えきれずに声に出してしまっていた。
私が悪い。それは認める。だけど必死に痛みを堪えるその様子がなんとも…可愛く思えてしまったのだから、罪な話だ。
思わず私の口から笑い声が溢れ、彼が驚いてこちらを見つめてくる。
「ご、ごめんなさ…あまりにも…痛みを堪える姿がその…可愛くて。さっきのだってそんなに簡単になかった事になんか出来ないのに…貴方はすぐ受け入れるのね」
さっきの出来事…私が急に急接近したことは私自身も驚いたのだから、彼は相当衝撃を受けたはずだ。それを勝手にやっておいてなかった事にしてほしいなんてそれは到底無理な話だろう。
そして申し訳ないと思いながらもひとしきり笑った後に私は本日二度目の急に正気に戻る瞬間を体験する事になる。
あれ、私今なんて言った…?どうしよう、好きとかは言ってないわよね。変な事ばっかり言っちゃった、どう誤魔化そう…?
「リティシア…今…」
「なんの事?私は笑ってなんかいないわよ」
「いや俺はそんな事一言も…」
「何?私に文句でも言うつもり?良いわよ、言ってみなさい。燃やすわよ」
「えぇ、それは嫌だな…」
こちらを訝しげに見つめてくるアレクシスからあからさまに視線を逸らすと、すぐ近くにお城が見えた。
どうやらもう着いたようだ。さっきとは別の意味で助かった。これ以上誤魔化しきれないもの。
アレクシスは暫くこちらを見つめていたものの、そうもしていられず部屋の窓を外から開ける。そしてそこから慣れた様に侵入する姿は傍から見れば完全に泥棒そのものだ。
…まぁ、彼はそんな事、天地がひっくり返ってもするわけないんだけどね。ただそう見えるってだけよ。
ちなみに窓は鍵が元から開いていた訳ではなく、外側から彼が魔法で解除していた。便利な世の中ね。
ようやく降りられると思い、もうすっかり動ける様になった足を上下に揺さぶってみるが一向に降ろされる気配がない。
え、なんで…?私もう動けるのに。こんな場面、誰かに見られたら大変だから暴れてでも降りたいんだけど…。
…それにしても、さっき頬を引っ叩いた上に全力で抵抗されるなんてこれ以上の嫌いアピールはないわよね。
「ちょっと、降ろしなさいよ」
「リティシア…お前な、さっきまで倒れてたんだからな?また倒れたりしたらどうするつもりだ」
「その時はその時よ」
アレクシスは何も言わずにただじっと私の目を美しい瞳で見つめてきたので、また勢いよく視線を逸らす。またさっきの事を思い出したわ…。
そして彼は私を抱えたまま少し歩くと、柔らかくふかふかの何かに私を寝かせる。そして私が何かを発するより早く布団を被せてくる。…頭まで。
「ちょっと…!息が出来ないじゃないの!」
「あぁ、ごめん。つい勢い余っちゃって」
「全く…これだから貴方は…」
私はそこで言葉を止め、周囲を見渡す。部屋に置かれているものは一見質素に見える家具の数々だが、よく観察すればどれも綺麗に手入れされている高級品ばかりだ。
そして私が今寝ているふかふかすぎるこれ…。こんなに温かく包み込んでくれるようなベッドに、私は今まで一度も寝た事がない。私が首を預けているこの枕すらも、首を痛めないよう精巧に設計がなされている。
お城のベッドなのだから当然だという意見もあるだろう。だが流石にただの客人にまでここまでの質のものを提供するとは思えない。となるとつまり…。
「この部屋はまさか貴方の…」
「あぁ。俺の部屋だ。母さんや父さんの部屋を除いて一番寝心地の良いベッドがここにあるから…ここへお前を連れてきたんだ。…嫌だったか?」
いやいやおかしいでしょう、私は他の部屋だって…いや廊下でも十分よ…いや、やっぱりそれは嫌だわ。
「…嫌に決まってるでしょう?それに…客人や使用人達には普通の部屋を与えておいて、自分は高級なベッドで寝ているのね?全く…貴方の考えそうな事だわ」
王族の部屋に置かれている物の全てを足したら一体いくらになるのだろうか。それだけで公爵邸くらいは軽く買えてしまうのではないかと私は思う。
そう。客人や使用人に与える部屋まで一流の高級品を揃えてしまうと、莫大な費用がかかる。いくら王族とはいえそこまでお金を使う訳にはいかない。ある程度の質は保証しつつも、自分達が使う物より劣ってしまうのが普通であろう。
「そうだよな、それはなんか不公平だよなって思って全て同じ物で揃えた事があったんだ」
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