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思い出
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「…公女様」
貴方には理解出来ないでしょうね。どうして私がこんな顔をしているのか…。
でもいずれ話すわ。そうね、貴方が秘密を打ち明けた時くらいに…話しましょうか。
「ねぇ、もっと良い思い出を聞かせて頂戴。貴方とアレクの思い出話。あるでしょう?」
アーグレンは予想外の言葉に驚き少し目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑ってみせる。
「はい。幼い頃の話でよろしいでしょうか?」
「それで良いわ。貴方の…好きな話をして頂戴。」
「分かりました。これは…私が騎士見習いになってから数年後の話です。」
アーグレンは懐かしい思い出を噛みしめるように…少しずつ語り始めた。
彼が突然平民から騎士見習いへと奇跡の変貌を遂げて数年が経った頃、当時騎士の実力が認められ、王族に対する忠誠の儀式というものが行われたらしい。
その様子を黙って見ていた幼い二人はその儀式の直後、こんな会話をしたという。
何故か不服そうな顔をしていたアレクシスを見て、アーグレンは一体どうしたのかと彼に尋ねてみる。
「なぁグレン…あの…剣を騎士の首元に向ける儀式ってさ…」
「あぁ、王族に対する忠誠の儀式ってやつか?」
「そうだよ。王室騎士になる全員にやる忠誠の儀式ってやつ…。」
「それがどうかしたのか?」
「なんかあれって王族に対する絶対的忠誠を誓わせてるように見えるというかなんというか…」
「見えるも何もその通りだからな。」
「なんか俺、凄く嫌だ。永遠に王族に従えって命令してるみたいで。相手は同じ…人間なのに。王族ってだけでそんなのって…許されるのかな」
アーグレンはずっと考えていたらしい。
王子である彼が、平民である自分を騎士見習いにした理由を。
一体どんな見返りを求めているのか…考えるのも恐ろしかったが、生きていく為にはその希望に縋るしかなかった。
しかしこの頃には既に気づき始めていたという。彼は他の王族とは違うのだと。
だからこの発言も素直に受け入れる事が出来た。その発言に深い意図などなく、彼はただ純粋に疑問を抱いているだけだと理解する事が出来たのだ。
「…許されるも何もそれは王族だけの特権だから私には何とも言えないけど…それがアレクは嫌なんだな」
「…あぁ。いつか俺が王になったら…お前にまでそんなことをしないといけなくなるだろ?俺はそんなのしたくない。友達っていうのはいつだって…対等なものなんだから」
この国でたった一人の王子様が望んでいたものは、宝石でも、高価な服でもなかった。
元々無欲だった彼が唯一本気で欲しがったもの…それが友達であった。
幼い自分に媚びへつらう貴族達、王子という身分を狙う令嬢達。その瞳が、言動が、怖かった。
そして彼はちゃんと理解していた。彼らは自分がもし王子でなければ見向きもしなかったであろうという事を。
城からなかなか出してもらえなかった彼が偶然町を訪れた時、町の人々を見て大層憧れを抱いた。
言葉の裏を探ろうとしない、ただ純粋に会話をする人々。自分よりずっと小さい子供達が手を繋いで走り回っている。
全てが新鮮で、彼の胸は高鳴った。
だが同時に王子である彼が永遠に経験することのない世界だということも理解し、彼は絶望した。
そんな時だった。アーグレンを見つけたのは。
彼はなんとしても彼と友達になりたかった。純粋に両親を失った彼が可哀想だという同情心も勿論あったが、一番はその理由であった。
アーグレンはこの話を聞いた時、何もかも手に入れられるはずの王子様が友達を求めるなんてと驚いたという。
そして何か裏があるのではと考えた自分を強く恥じた。
彼はやがて命の恩人であり、友人でもある王子を…護ろうと考えるようになったのだ。
「…私は忠誠の儀式をやろうがやるまいがアレクに一生仕えるつもりだけどな」
アーグレンにとって儀式の有無は関係のないことだった。既にアレクシスは彼にとってかけがえのない存在となっていたのだから。
「グレン!友達ってのは対等だからどっちがどっちに仕えるとかはないって言ってるだろ!?」
「悪い。あんまり聞いてなかったな」
「全く…俺は真剣に悩んでるってのに」
アレクシスは儀式とはいえどうしても自分に剣を向けるのが嫌なのだろう。口を膨らませ明らかに不機嫌になった彼を見てアーグレンは思わず笑みを零す。
「…そんなに嫌なら王になってアレクが変えればいいんだ。アレクのその優しい心さえあればなんだって変えられるよ」
「グレン…」
この優しい王子様ならばどんな事でも成し遂げられる事だろう。そして私はそんな彼をずっと側で応援し続けたい。
彼は強く願ったという。
アーグレンは何もなかった自分の目標を騎士になることに決めた。そして彼の友人として恥じないよう…誰よりも努力をし続けてきたのだ。
平民の彼が騎士団長になるにはいくらアレクシスの助けがあったとはいえ、簡単な道では決してない。
彼は努力する事で自分の立場を…彼の友人であるという立場を守り続けたのだ。
貴方には理解出来ないでしょうね。どうして私がこんな顔をしているのか…。
でもいずれ話すわ。そうね、貴方が秘密を打ち明けた時くらいに…話しましょうか。
「ねぇ、もっと良い思い出を聞かせて頂戴。貴方とアレクの思い出話。あるでしょう?」
アーグレンは予想外の言葉に驚き少し目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑ってみせる。
「はい。幼い頃の話でよろしいでしょうか?」
「それで良いわ。貴方の…好きな話をして頂戴。」
「分かりました。これは…私が騎士見習いになってから数年後の話です。」
アーグレンは懐かしい思い出を噛みしめるように…少しずつ語り始めた。
彼が突然平民から騎士見習いへと奇跡の変貌を遂げて数年が経った頃、当時騎士の実力が認められ、王族に対する忠誠の儀式というものが行われたらしい。
その様子を黙って見ていた幼い二人はその儀式の直後、こんな会話をしたという。
何故か不服そうな顔をしていたアレクシスを見て、アーグレンは一体どうしたのかと彼に尋ねてみる。
「なぁグレン…あの…剣を騎士の首元に向ける儀式ってさ…」
「あぁ、王族に対する忠誠の儀式ってやつか?」
「そうだよ。王室騎士になる全員にやる忠誠の儀式ってやつ…。」
「それがどうかしたのか?」
「なんかあれって王族に対する絶対的忠誠を誓わせてるように見えるというかなんというか…」
「見えるも何もその通りだからな。」
「なんか俺、凄く嫌だ。永遠に王族に従えって命令してるみたいで。相手は同じ…人間なのに。王族ってだけでそんなのって…許されるのかな」
アーグレンはずっと考えていたらしい。
王子である彼が、平民である自分を騎士見習いにした理由を。
一体どんな見返りを求めているのか…考えるのも恐ろしかったが、生きていく為にはその希望に縋るしかなかった。
しかしこの頃には既に気づき始めていたという。彼は他の王族とは違うのだと。
だからこの発言も素直に受け入れる事が出来た。その発言に深い意図などなく、彼はただ純粋に疑問を抱いているだけだと理解する事が出来たのだ。
「…許されるも何もそれは王族だけの特権だから私には何とも言えないけど…それがアレクは嫌なんだな」
「…あぁ。いつか俺が王になったら…お前にまでそんなことをしないといけなくなるだろ?俺はそんなのしたくない。友達っていうのはいつだって…対等なものなんだから」
この国でたった一人の王子様が望んでいたものは、宝石でも、高価な服でもなかった。
元々無欲だった彼が唯一本気で欲しがったもの…それが友達であった。
幼い自分に媚びへつらう貴族達、王子という身分を狙う令嬢達。その瞳が、言動が、怖かった。
そして彼はちゃんと理解していた。彼らは自分がもし王子でなければ見向きもしなかったであろうという事を。
城からなかなか出してもらえなかった彼が偶然町を訪れた時、町の人々を見て大層憧れを抱いた。
言葉の裏を探ろうとしない、ただ純粋に会話をする人々。自分よりずっと小さい子供達が手を繋いで走り回っている。
全てが新鮮で、彼の胸は高鳴った。
だが同時に王子である彼が永遠に経験することのない世界だということも理解し、彼は絶望した。
そんな時だった。アーグレンを見つけたのは。
彼はなんとしても彼と友達になりたかった。純粋に両親を失った彼が可哀想だという同情心も勿論あったが、一番はその理由であった。
アーグレンはこの話を聞いた時、何もかも手に入れられるはずの王子様が友達を求めるなんてと驚いたという。
そして何か裏があるのではと考えた自分を強く恥じた。
彼はやがて命の恩人であり、友人でもある王子を…護ろうと考えるようになったのだ。
「…私は忠誠の儀式をやろうがやるまいがアレクに一生仕えるつもりだけどな」
アーグレンにとって儀式の有無は関係のないことだった。既にアレクシスは彼にとってかけがえのない存在となっていたのだから。
「グレン!友達ってのは対等だからどっちがどっちに仕えるとかはないって言ってるだろ!?」
「悪い。あんまり聞いてなかったな」
「全く…俺は真剣に悩んでるってのに」
アレクシスは儀式とはいえどうしても自分に剣を向けるのが嫌なのだろう。口を膨らませ明らかに不機嫌になった彼を見てアーグレンは思わず笑みを零す。
「…そんなに嫌なら王になってアレクが変えればいいんだ。アレクのその優しい心さえあればなんだって変えられるよ」
「グレン…」
この優しい王子様ならばどんな事でも成し遂げられる事だろう。そして私はそんな彼をずっと側で応援し続けたい。
彼は強く願ったという。
アーグレンは何もなかった自分の目標を騎士になることに決めた。そして彼の友人として恥じないよう…誰よりも努力をし続けてきたのだ。
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彼は努力する事で自分の立場を…彼の友人であるという立場を守り続けたのだ。
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