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望まぬ手紙
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「…なるほどね。貴方は本当にアレクの事を慕っているのね」
彼が言葉を一つ発する度に表情が綻んだ。アレクの事を心から慕い、生涯仕えようという意思が…その言動の全てから感じられる。
アレクへの思いなら負けないと思っていたが、もしかしたら負けず劣らずといえるかもしれない。
「…はい」
彼はたった一言、それだけを呟いたが、私には全て理解できた。皆まで言わぬ事こそが彼のアレクに対する感情なのだろう。
彼が将来、アレクの忠臣になることは想像に難くなかった。
「…お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」
ふと扉の向こう側からノックと共に声が聞こえてくる。私をそう呼ぶ人間はこの屋敷にたった一人しかいない。
「良いわよ。入って、ルナ」
ルナは入ってくるなり私と隣に座るアーグレンを交互に見ると「もうベルハルト郷と仲良くなられたんですね。流石お嬢様です!」と嬉しそうに微笑んでくる。
「いいえ、まだまだよ。…そんな事を言いに入ってきたの?」
「いえ違いますよ。お嬢様、お隣のルトレット王国からお手紙が届いていますよ!」
ルナのその言葉に私の動きがピタリと止まる。嫌な予感しかしなかった。
…隣国との繋がりを持った覚えは全くないのだけど。宛先を間違えたのかしら。
差出人の予想は容易についたがそうでなければ良いのにと強く願った。できればもう関わりたくないと思っていたのに。
…やっぱり私に敵意をもってしまったのね。
彼女が嬉々として掲げる手紙を視界に入れたくなくて、わざとらしく顔を背け机の上のクッキーを手に取る。すっかり冷めてしまったクッキーはまるで味がしなかった。
その様子を見ていたアーグレンがこちらを心配そうに覗き込んでくる。
「…公女様?いかがなさいましたか?」
「…いえ、大丈夫。気にしないで。ねぇルナ、それ…間違いとかではない?もしかしたら私じゃなくてアレクシスとか…」
「いいえ!リティシア=ブロンド様としっかり書かれておりますよ」
私の一抹の期待は彼女の言葉によって儚く打ち砕かれた。
終わった…私宛だなんて…。
間違いだったらどんなに良かったかしら…。
「…ちなみにそれは誰から?」
好きでもない紅茶に手を伸ばし、一気に流し込むと普段以上に苦さを感じた。
…これは余談だが、紅茶はリティシアが好きだったらしく、私の意思に関わらず頻繁に出されるのである。今更嫌いになったとも言えずに流され続けて今に至るのだ。
「アルターニャ王女様からです。お嬢様は隣国の王女様にも人気なんですね!お変わりになられたお嬢様の魅力は私が言わずとも皆に伝わっているんですね」
それは…物凄い勘違いなんだけど可哀想だから言わないでおいてあげようかな。
横を見てみればアーグレンはその名に聞き覚えがあるのか、一人静かに考え込んでいる。それに気づいた私はルナには答えずに彼に問いかけてみる。
「アルターニャ王女の事、知ってるの?」
「…はい。数回ですが城で見かけた事があります。」
彼の強張った表情で全てを察した私は敢えて彼に質問を投げかける。
「…率直に聞くわよ?苦手?得意?」
「…得意ではありません」
「…奇遇ねアーグレン。私もよ」
そうよね、アーグレンが彼女を好きなわけないわよね。アルターニャがアレクシスを好きなことくらい見てれば分かるもの…。
婚約者がいるのを知っていながら隙あれば親友に付き纏う彼女をそれはそれは疎ましく思っていたはずだ。
…アレクシス自身はその好意に恐らく全く気づいていないんでしょうけど。
私とアーグレンは互いに彼女に関する嫌な思い出を思い出してしまい、同時にため息をつく。
何も知らないルナは、
「二人共ため息なんてついてどうしたんですか?隣国の王女様に気に入られたんですから喜ぶべきことじゃないですか!」
となんとも呑気なことを言い放った。
彼女の勘違い癖はどうにかならないかしらねホント…。
「喜ぶべきことだと良いんだけどね…。とりあえず中を見てみるわ。貸してくれる?」
「あ、はいもちろんです。どうぞ」
ルナから封筒を受け取ると周囲にふわりと薔薇の香りが漂う。
便箋は薄いピンク色を基調とし、様々な花の模様が不規則に散りばめられていた。よく見るとルトレット王国の紋章らしきものも刻まれている。
恋敵にこんな綺麗な封筒を寄越すとは…一体何を考えているの?
爆発する魔法でもかけられているのではないかと封筒を恐る恐る開いてみるが、幸いなことに特に何も起きなかった。
そして性格に似合わぬ可愛らしい文字を目で追っていく。
「親愛なるリティシア様へ」
最初から物凄い嘘をついていくのね。様ってつけて呼んだ事なんて一度もないじゃないの。
心の中で盛大にツッコミをいれながらも読み進めていく。
「たまたまそちらに向かう予定があるのですが、今夜お会い出来ますか?お会い出来るようでしたら、満月が登りきった頃に貴女のお屋敷の近くでお会いしましょう。 アルターニャ=ルトレット」
えっと…ロマンス小説でも読んだわけ?
それにしても凄いわ。
人間ってここまで猫を被れるのね。
彼が言葉を一つ発する度に表情が綻んだ。アレクの事を心から慕い、生涯仕えようという意思が…その言動の全てから感じられる。
アレクへの思いなら負けないと思っていたが、もしかしたら負けず劣らずといえるかもしれない。
「…はい」
彼はたった一言、それだけを呟いたが、私には全て理解できた。皆まで言わぬ事こそが彼のアレクに対する感情なのだろう。
彼が将来、アレクの忠臣になることは想像に難くなかった。
「…お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」
ふと扉の向こう側からノックと共に声が聞こえてくる。私をそう呼ぶ人間はこの屋敷にたった一人しかいない。
「良いわよ。入って、ルナ」
ルナは入ってくるなり私と隣に座るアーグレンを交互に見ると「もうベルハルト郷と仲良くなられたんですね。流石お嬢様です!」と嬉しそうに微笑んでくる。
「いいえ、まだまだよ。…そんな事を言いに入ってきたの?」
「いえ違いますよ。お嬢様、お隣のルトレット王国からお手紙が届いていますよ!」
ルナのその言葉に私の動きがピタリと止まる。嫌な予感しかしなかった。
…隣国との繋がりを持った覚えは全くないのだけど。宛先を間違えたのかしら。
差出人の予想は容易についたがそうでなければ良いのにと強く願った。できればもう関わりたくないと思っていたのに。
…やっぱり私に敵意をもってしまったのね。
彼女が嬉々として掲げる手紙を視界に入れたくなくて、わざとらしく顔を背け机の上のクッキーを手に取る。すっかり冷めてしまったクッキーはまるで味がしなかった。
その様子を見ていたアーグレンがこちらを心配そうに覗き込んでくる。
「…公女様?いかがなさいましたか?」
「…いえ、大丈夫。気にしないで。ねぇルナ、それ…間違いとかではない?もしかしたら私じゃなくてアレクシスとか…」
「いいえ!リティシア=ブロンド様としっかり書かれておりますよ」
私の一抹の期待は彼女の言葉によって儚く打ち砕かれた。
終わった…私宛だなんて…。
間違いだったらどんなに良かったかしら…。
「…ちなみにそれは誰から?」
好きでもない紅茶に手を伸ばし、一気に流し込むと普段以上に苦さを感じた。
…これは余談だが、紅茶はリティシアが好きだったらしく、私の意思に関わらず頻繁に出されるのである。今更嫌いになったとも言えずに流され続けて今に至るのだ。
「アルターニャ王女様からです。お嬢様は隣国の王女様にも人気なんですね!お変わりになられたお嬢様の魅力は私が言わずとも皆に伝わっているんですね」
それは…物凄い勘違いなんだけど可哀想だから言わないでおいてあげようかな。
横を見てみればアーグレンはその名に聞き覚えがあるのか、一人静かに考え込んでいる。それに気づいた私はルナには答えずに彼に問いかけてみる。
「アルターニャ王女の事、知ってるの?」
「…はい。数回ですが城で見かけた事があります。」
彼の強張った表情で全てを察した私は敢えて彼に質問を投げかける。
「…率直に聞くわよ?苦手?得意?」
「…得意ではありません」
「…奇遇ねアーグレン。私もよ」
そうよね、アーグレンが彼女を好きなわけないわよね。アルターニャがアレクシスを好きなことくらい見てれば分かるもの…。
婚約者がいるのを知っていながら隙あれば親友に付き纏う彼女をそれはそれは疎ましく思っていたはずだ。
…アレクシス自身はその好意に恐らく全く気づいていないんでしょうけど。
私とアーグレンは互いに彼女に関する嫌な思い出を思い出してしまい、同時にため息をつく。
何も知らないルナは、
「二人共ため息なんてついてどうしたんですか?隣国の王女様に気に入られたんですから喜ぶべきことじゃないですか!」
となんとも呑気なことを言い放った。
彼女の勘違い癖はどうにかならないかしらねホント…。
「喜ぶべきことだと良いんだけどね…。とりあえず中を見てみるわ。貸してくれる?」
「あ、はいもちろんです。どうぞ」
ルナから封筒を受け取ると周囲にふわりと薔薇の香りが漂う。
便箋は薄いピンク色を基調とし、様々な花の模様が不規則に散りばめられていた。よく見るとルトレット王国の紋章らしきものも刻まれている。
恋敵にこんな綺麗な封筒を寄越すとは…一体何を考えているの?
爆発する魔法でもかけられているのではないかと封筒を恐る恐る開いてみるが、幸いなことに特に何も起きなかった。
そして性格に似合わぬ可愛らしい文字を目で追っていく。
「親愛なるリティシア様へ」
最初から物凄い嘘をついていくのね。様ってつけて呼んだ事なんて一度もないじゃないの。
心の中で盛大にツッコミをいれながらも読み進めていく。
「たまたまそちらに向かう予定があるのですが、今夜お会い出来ますか?お会い出来るようでしたら、満月が登りきった頃に貴女のお屋敷の近くでお会いしましょう。 アルターニャ=ルトレット」
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それにしても凄いわ。
人間ってここまで猫を被れるのね。
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